紹介、凛音ちゃん!
未来と奏は、放課後になってお互い同じ気持ちを抱いていた。それは、今日の転校生をみんなに紹介するということ。二人は廊下でバッタリと出会って、そして同じ笑みを浮かべた。
「奏ちゃん、今日空いてる?」
「未来こそ、今日は暇なの?」
「もちろん! 話したいことがあるからね」
「私も偶然部活がないのよ」
未来は奏に今日の出来事を話せることで嬉しくなったが、ふと奏の後ろにいる人物が気になってしまった。未来も奏が最初見た時と同じ感想――小学生――を持った。
後ろを覗きこもうとしている未来に、奏は待ったをかける。イベントは全員が集まってからの方がいいに決まっている。
「待って。みんな集まってから話したいの」
「うん。分かったよ。じゃあ、庭に集まろうか。私が明日香ちゃんたちを呼んでくるよ」
「ありがとう。未来」
珍しくも未来が率先して行動を開始する。それは、自分の話もみんなに伝えたいと思ったからだった。
数十分経って、全員が集まった。明日香は未来と奏のニコニコ顔にワクワクしている。
真琴の方は相変わらずの清涼感溢れる笑みに満ちていた。
未来に目配せして、自分から話してもいいか問う。もちろん未来は頷いて許可した。
「今日ね、私のクラスに転校生が来たの」
「転校生!? みら姉のクラスに?」
「うん。それがこの子なんだけど……」
奏がそう言うと、彼女の後ろに隠れていた女の子が前に出てきて挨拶を始めた。その女の子は丁寧にお辞儀をしていた。
「廻 凛音です。奏のお友達ですか。宜しくお願い致しますです!」
「あ、いやこちらこそ……」
未来はつられて凛音に対してお辞儀をする。
挨拶が終わると、凛音はお辞儀を止めて未来たちを見つめる。その際に、トレードマークであるサイドテールがぴょこんと動いた。
奏は凛音のその行動にすでに目を細めて喜んでいた。
「可愛いでしょー? 是非みんなに紹介したいって思ったんだ」
「ま、まあ可愛いと言えば可愛いけど……」
「ねえかな姉。どうして小学生がここにいるの?」
純粋な疑問を明日香は奏にぶつけた。未来も気になっていたが、さすがに小学生ではないだろうと思っていた。内心、疑問点を明日香がツッコんでくれたので未来は感謝している。
明日香の言葉に、凛音は少しだけ顔をむくれて不満を示していた。
「凛音は小学生じゃないです。みんなと同じ高校生ですっ!」
「ねえー? 必死になってる所がまたいいよねー?」
まるで小動物を眺めているかのように、奏の顔はとろけていた。自然と、奏は凛音の頭を撫でてしまっている。凛音は少し嫌そうな顔をしていたが、決して無下にはしなかった。
「俺は全ての愛を愛する男、真琴って言うんだ。これからはよろしく頼むよ。凛音ちゃん」
「……? よろしくお願いしますです……」
「あー、今、真琴くんは少し……いや、凄くおかしいから。あとちょっとで元に戻るはずなんだけど……」
真琴の異様な様子に疑問を持った凛音をフォローするように奏が解説を加える。
「フッ、おかしいとは酷いな奏。俺はいつもどおりじゃないか」
「まこ兄……カッコつけすぎだよ……」
「はっはっはっ。明日香、君は本当に面白い女の子だね。まあ、そこが大好きなんだけどね」
奏は心の中で泣き、ため息をついた。いつになったら、彼は元の姿に戻ってくれるのだろう。自分が大好きだったあの人に戻ってくれるのだろう。
それは待つしかない。時間を経るしかない。
凛音は奏の言葉に納得したのか、真琴に対して同情のような表情をしていた。
「凛音……か」
未来は凛音の登場を素直には喜べなかった。仲間ではない人物の参入。それは新たなトラブルの元なのかもしれないと思っているからだ。もしかすると、新たな能力者なのではないか……? 更に、何故か未来にとって彼女は好きになれなかった。確かに凛音は可愛く、とても人懐っこそうだ。だが、未来の胸の中はモヤモヤしている。
そんな未来の疑り深い視線を感じたのか、凛音は未来に向けて無垢な瞳を向けた。
「ん? どうしたです? 凛音の顔に何かついてるです?」
「――え!?」
マズイ。表面上は親しくしておかないと怪しまれる。
未来は側だけを取り繕って事を終息させようとする。冷や汗をかきながら、未来は必死に否定をした。
「あ……アハハ! 何でもないんだよ!」
「そうなんです……?」
「未来、こんな可愛い凛音ちゃんが敵なわけないよ」
「う、うーん……でもさ奏ちゃん、何度もそう言って敵だったことがあったから……」
敵。未来は自分の話題を何一つ言ってないことに気がついた。そうだ。自分も転校生が来たことを言わなければならないんだった。今は凛音よりも、彼女の方が怪しい。
未来はすぐに表情を変えて自分のことを話し始めた。
「それはそうとみんな。私のクラスにも転校生がやって来たんだよ」
「みら姉のクラスにも?」
「うん。確か八戸都って苗字だったと思うんだけど、その人が……」
その時、未来の背中に悪寒が走った。それは朝のホームルームで感じた冷徹な視線と同じだった。
ま、まさか……。
未来が恐る恐る後ろを振り返ると、今未来は話そうとしていた人物が自分たちのグループへと近づいてくるではないか。
八戸都は未来たち全員を見下すかのような視線を送っていた。




