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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
112/156

二人の転校生

 朝の教室。始業時間までに全員が揃い、朝の会が始まる。そのクラスメートほとんどが眠気を訴え、重いまぶたをこすりながら授業の準備をしていく。その中に奏もいた。

 普段ならば完全に目覚めているはずの奏だったが、今日の彼女は違った。昨日の夜に真琴をどうしたら元に戻せるのかを考え、夜更かししてしまったのだ。

 いつもとは違う眠気という感情が支配していくが、奏は必死に抵抗して夢の中へ堕ちないようにする。

 そんな彼女の目を覚ますかもしれない出来事が一つあった。奏の隣の席が空いているのだ。確かに、昨日までクラスの誰かが座っていた。その座っていた者は別の場所へと席を変えている。


「ふあぁ……どーでもいいや……」


 考える時間も惜しい。とにかく今は寝たい。奏はそう思って肘を机に立てて手を枕にうつらうつらとし始めた。周りの景色が次第に暗くなっていく。だが、奏は抵抗する。明と暗の比率が、奏の頑張りによって変化していく。見ている景色も、だんだんと訳の分からない景色へと変貌していく。今、自分が見ている景色は机なのだろうか。それすらも『認識』できなくなっていく。

 奏の頭が重力に倣って机に向かって頭突きした瞬間、教室の扉が開かれる音が教室中に鳴り響いた。


「さー、朝のホームルーム始めるぞー」


「――ハッ!?」


 一種のショックで奏の意識は覚醒し、夢の世界から逃げることができた。思わず、自分の席の隣を見てしまう。

 隣に座っていたクラスメートは笑っていた。


「今、寝る瞬間だったよ。相田さん」


「あ……うう……」


「昨日は夜更かししてたのー? この時期の夜更かしは肌に悪いんだぞ?」


 私としたことが迂闊だった。……もう、真琴くんのせいだよ。

 とりあえず人のせいにして、奏はホームルームに集中するために先生の方へ顔を向けた。先生はいつもどおりのやる気のなさを見せながら、クラスメートへ朝の連絡を伝える。


「あー、気づいている者もいるかもしれないが、転校生がやって来る」


「転校生……」


 あ、私の隣が空いてたのはそういうことか。

 何となく分かった奏。先生の「入ってきなさい」の言葉と共に扉が開かれ、そこから一人の少女が教室へと入ってきた。


「諌見ちゃんと同じ年……なわけないか」


 一瞬、奏は小学生が来たのかと思った。そう錯覚してしまうほど、その少女の背は低い。また、髪型も背丈相応とでも言うべきか、短めのサイドテールをしていた。

 少女はおずおずと教壇へと上がり、これから仲間となるクラスメートの方々に丁寧なお辞儀をした。


(めぐり) 凛音(りんね)って言いますです。宜しくお願い致しますです」


 クラスメートからの歓迎の拍手を受けて、凛音は顔を上げた。


「あー廻の席はだな……あそこだ」


 奏の隣を指さした先生に従って、凛音は奏へと向かってくる。カバンを自分の机に置きながら、凛音は奏に向けて笑顔を見せた。

 奏も小さくお辞儀して、それから簡単な自己紹介を行った。


「私、相田 奏って名前。よろしくね、凛音ちゃん」


「うん、まだこの学校に慣れてないから、色々教えて貰えると助かるです」


 可愛い。この子とは上手くやっていけそうな気がする……。奏は第一印象でそう思うことができた。

 その一方で、未来のクラスでも転校生がやって来ていた。未来の方は奏と違い、完全に目が覚めている。それもそのはず、未来は昨日は何も考えないで寝たのだった。真琴のことはいずれ時間が解決するはず。そんな安易な考えを未来は持っている。そもそも、自分のせいで真琴がおかしくなっているのか、はたまた別の事象でおかしくなっているのか。それすらも分からない今は、寝る前に色々考えを巡らせても意味がないと未来は思っていたのだった。

 それなら放課後に集まり、みんなと考えた方がいいに決まっている。未来は一番仲間を信頼しているのかもしれない。

 そんな未来は転校生には興味がなかった。一応側だけを取り繕って興味のありそうなていを見せている。

 その転校生は大和撫子を彷彿とさせるようなきらびやかな黒髪で、清純そうな雰囲気を醸し出していた。


「八戸都と言います。みなさん、宜しくお願い致します」


 ふーん。

 未来はあくびをして、教科書を開いている。今のうちに授業の予習をしておくのも悪くない。未来はボヤーッと教科書を眺めていた。

 八戸都と名乗った少女の席は未来とは離れていた。一時間目の授業が始まるまで、その転校生の話題で教室はもちきりだった。廃墟探索が好きな少女が八戸都の席へと行き、一眼レフで彼女の写真を撮っている。その他にもクラスメートから、八戸都は質問攻めを受けていた。

 あの子とは仲良くなれないかも……。

 未来は心の底で何となくそんなことを思っていた。ジト目で話題の中心を見ていた未来は一瞬だけ八戸都と目が合ったような気がした。


「――えっ!?」


 その際に、彼女の冷たい眼差しを感じてビクッと体を震わせた。目を凝らしてもう一度八戸都の方を見るが、彼女はすでに別の人物へ視線を送っていた。自分が嫌な気持ちで見ていたのが分かっていたのだろうか。それともただの錯覚……。

 一瞬だけ見せた八戸都の視線が気になって、未来は彼女を注意深く観察することにした。もしかすると、この間の催眠術師の刺客かもしれない。仇討ちってこともあり得る。

 未来は仲間以外を信用できなくなっていた。全員が何かしらの敵意を持っているかもしれない。そう思っておかないと、いつまた催眠術師のような敵が現れても対処できない。

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