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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
111/156

ライバルという名の親友、親友という名のライバル

 放課後になって、奏と未来は二人以外に誰もいない教室で佇んでいた。二人ともげっそりとした疲れ顔を見せて、何かを憂いている表情をしている。窓から夕日が差し込む中、未来は窓の前に行って夕日を浴びる。

 その逆光によって、未来の表情は奏には見えなかった。


「……真琴ちゃんは?」


「今は明日香ちゃんが相手をしている。とりあえず大丈夫だと思う」


「そっか……ハァ……何で真琴ちゃんがあんな変な性格になってるんだろう……」


「それはこっちだって聞きたいよ」


 二人合わせたため息が聞こえてくる。今まで好意を持っていただけあって、今日の真琴の変化に二人はショックを隠し切れない。だが、それには何かしらの意味があるはず。

 そう思った二人は何故真琴がおかしくなったのかを考えるために集まったのだった。

 奏は真面目に真琴の様子を思い出して、一つの考えをまとめた。


「真琴くんが催眠術に掛かって女の子らしくなっちゃったのが原因なのかも……」


「どういうこと?」


「真琴くん自身が一度女の子になったことでどうやったら女の子に好かれるか、その結論が出たのかも」


「……いやー、それはないんじゃないかな?」


「う……。じゃ、じゃあ私の何でも生成できる能力でさ『真琴くんが元に戻る剣』みたいなのを作ったらどうかな?」


「それはダメ! お願い、出来るだけその能力は使わないで」


 未来の胸の中には一つの考えがあった。変身せずとも使用できる能力。それは未来の考えでは危険すぎる能力なのだ。


「むー、だったら未来も考えてよ」


「私は……」


 未来に向かってしかめっ面をしたお茶目な奏だったが、未来の様子に気づいてその表情をすぐに覚ました。

 未来は真琴の様子が変になったのを、自分の責任かもしれないと思っていた。それは、真琴の能力に関係があった。

 真琴は能力を使い、一度死んだ未来を生き返らせた。それは、もしかすると禁忌の力とされているのかもしれない。

 生死をコントロールする程の力だ。何もリスクがないわけがない。それが、未来が自分の責任だと思っている原因だった。

 奏の持つ何でも生成できる能力だって、真琴の能力と同じで禁忌だ。そう考えると、先ほどの奏の提案は飲み込むことができなかった。

 未来は少しだけ顔を俯いて奏に話しかけた。


「真琴ちゃんが私を生き返らせたから、あんな反動が来ちゃったんじゃないかって思う」


「能力の……反動」


「うん。事象を自由に反転させる力なんて、正直言って手軽に使える力じゃないよ。もしそれが当たってたとしたら、私のせいで――」


「未来、そこから先は言わないで」


「奏ちゃん……」


 奏は未来に近づいて、彼女の表情を見つめる。未来は顔を合わせないようにしたが奏は未来の顔を掴んで自分と目を合わせる。

 未来の目は潤んでおり、雫がこぼれ落ちていた。


「ハハッ、奏ちゃんにだけは見られたくなかった……かな」


「私のわがままかもしれないけど、未来が生き返って良かったと思う」


「……どうして?」


「大切な友達だから。そして、絶対に勝負を付けなきゃいけないライバルだから。勝負が付く前に未来が死んだら反則でしょう? だから、真琴くんがそうであったように、これからは私も未来を命を掛けて守るよ」


「いいの? ある意味、敵同士じゃん、私たちって」


「私ね、負けても……未来になら取られてもいいかなって最近思うんだ」


 奏は窓の前についている乗り出し禁止の鉄パイプに肘をついて笑った。自分の本心をさらけ出したことで、奏は吹っ切れたようだ。解放感に溢れた表情が未来の心を強く打った。

 自分も本心を言わなければフェアではないだろう。そう思って、未来は口を開いた。


「えへへ……奏ちゃん、私もおんなじだよ」


「ん?」


「奏ちゃんに負けてもすっきりする。そりゃちょっと悔しいけど、奏ちゃんになら仕方ないかなって思う」


「未来……」


 ふと、この状況が面白くなって奏は吹き出して笑ってしまった。

 未来はびっくりしてオドオドし始める。自分が何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。しかし、奏は手を横に振って未来を安心させた。


「未来は何も悪くないよ。ただね……二人とも同じこと考えてたんだなってことが面白かったってだけ!」


「それって面白いこと? 傷つくところだったんだけどぉ……」


「あーあ、何を考えてたんだろう。もっと早く言えば良かった!! 未来、これからもよろしくね!」


 笑いも落ち着いてきた奏は涙を拭って未来に手を差し伸べた。それに応えるべく、未来も同じく手を差し出して、彼女の手を握った。


「うん。親友件ライバルとしてよろしくされるよ」


 両者の手がしっかりと握り合う。ガッシリと固く誓った二人の本心は友達から親友へと昇華していったのだ。


「負けてもいいって言ったけど、勝負はあくまで真剣勝負だからね。負けないよ、未来」


「ほーん、この私は一回死んだ女の子だよ? それを真琴ちゃんに生き返らせてもらったっていうアドバンテージがあるんだから」


「でも、まずは真琴くんを元に戻さないと、だね」


 未来は奏の言葉に頷いて、夕日が差し込む窓から離れた。もう、彼女は奏に表情を隠す必要はないから。

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