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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第三章
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未来の死

 和島は未来を守ろうとしている奏と明日香をバカにするように笑い捨てた。それから頭を左右に振って呆れた表情を見せる。


「何がおかしいっていうの?」


「おいおい……お前たちはまだ学習していないのか? オレの能力を。この地域一帯を支配しているオレの能力を。……お子様にも分かりやすく言ってやる。つまりだ、お前たちは神野未来を除いて再びオレによって催眠をうけることになるんだよ!」


 和島は未来を狙っていた鉄球を奏に向ける。そして大きく空中に掲げて振り回し、奏たちの方向へ投げつけた。

 奏は戦いを始め、未来は弱気になっている真琴を守るように彼を抱きしめた。真琴は今、目の前で起こっていることを夢であってほしいと思っていた。この不可思議な現実を否定しなければ、ずぶずぶと飲み込まれていきそうだと確信していたのだ。


「見て真琴ちゃん。奏ちゃんと明日香ちゃんが、私たちのために戦ってくれてる。それを見ても何も感じない?」


「そんなこと言われても……怖いよ……」


「……ダメか」


 未来は真琴を安心させるために、まるで小さな子どもをあやすように頭を優しく撫でた。

 真琴ちゃん……。本当に私たちを捨てるの? 自分の殻にこもって暮らしていくの?

 今まで静かだった諌見が突然立ち上がった。足の痛みは引いたのだろうか。そう思った未来は彼女に声をかけようとしたが、諌見の表情は生気を失っていた。

 和島の攻撃で弾かれた奏の剣を操って、諌見は未来の喉筋に剣先を押し当て始めた。


「い、諌見ちゃん!? これはどういうこと? ちょっと冗談は止めてほしいなーって……」


「冗談じゃないわ。……奏、明日香! それ以上動いたら、未来の命はないよ」


「何ですって――!?」


 諌見が話した内容に驚き、後ろをとっさに振り返ってしまったのが、奏の油断だった。

 和島はすかさず鉄球を奏に投げつける。その風の切る音に気づいてすぐに前を見た奏だったが回避することができず、腹部に鉄球を受けてしまい壁へと吹き飛ばされてしまった。

 壁に激突した奏は、うめき声を上げてがっくりとうなだれる。


「ほら、すでに諌見はオレの手の内だ。そして、お前もすぐにオレの催眠に掛かる」


「かな姉はさせないよ!」


 明日香は鞭を振り回して和島に攻撃をする。しかし、鞭は突然自分の意思を持ったように動かなくなった。それは諌見の憑依の能力のせいだった。鞭は明日香の手から離れて、諌見の命令に従う。

 自分の鞭と格闘している明日香を笑い、和島は奏と向き合った。


「またこの前と同じだ。催眠にかかれ」


「……この前は私の気合が足りなかった。今は違う……! 私は……未来を守らなきゃいけないのよ!!」


 意識をかき乱す和島の催眠術に、奏は更なる強い意思を持って対抗する。目がうつろになりながらも、必死に抵抗を続ける奏を和島は感心した。


「やるじゃないか相田奏。いい目で、とても感動的だが……無意味だ」


 和島が手に力を込めると、奏は一層苦しみだした。


「うう……ああああ!!」


「早く楽になれよ。いくら抵抗しても無駄なんだよ。神野未来だけがイレギュラーなんだ」


「未来……くっ! 私は……負けたく……な……」


「奏ちゃん!!」


 自分の目の前で、記憶を取り戻させて助けだした仲間が再び堕ちていく。和島の涼しげな顔が、今の未来の心を抉り出していた。

 抵抗も虚しく、とうとう奏も和島の催眠術に操られてしまい、ゆらっと立ち上がって剣を両手で持った。狙いはもちろん明日香だった。

 援護がきたと思った明日香は奏を見て微笑んだが、奏は無視して剣を明日香に振るった。


「かな姉……なんで!」


 明日香の問いかけに、奏は何も答えない。代わりに和島が答えた。


「それはな……相田奏が催眠に掛かったからだよ」


「そんな……!」


「明日香、お前もオレの下僕になるんだ」


「い……いや! みら姉を……傷つけたく……な――」


 目から光を失いながら、明日香は必死に言葉で抵抗したがムダだった。明日香も和島の手に堕ち、未来が説得してきた三人はまた振り出しに戻ってしまった。

 諌見は未来から離れて、和島の元へと行く。未来と真琴の目の前には敵が四人いた。


「さてと、神野未来。これで分かってくれたかな? お前の行動は全て無駄だったということに」


「私は諦めない。何度だって説得してみせる! そうすれば、いつか私みたいに耐性も出来るでしょ!!」


「そう言うと思った。だからオレは決めた。今、ここで、神野未来を殺す」


「なっ……!」


「ついでにそこの催眠術の失敗作も殺そう。三人は戦闘狂になっているのに、ソイツは弱気になって使い物にならんからな」


 和島は私と真琴ちゃんを殺す気だ……。本気になってる。もう、逃げられない……。

 真琴は四人の冷たい目つきに怯え、一層未来の体を抱きしめた。そんな怯えている目をした真琴を見た未来は、一つの決意をした。真琴から離れて、一人で立ち尽くす未来。


「……私を殺せば満足なんでしょう? だったら殺しなさいよ。命乞いはしない。だから……真琴ちゃんだけは見逃してあげて」


「え……?」


「フッ、面白いな神野未来。……分かった。今日、この場は見逃してあげよう」


「……あなたにお礼を言う時がくるなんてね」


「勘違いするなよ? 『お前だけ』はかつての仲間に殺されるんだ」


「…………」


 覚悟をしてこの場に立っている未来だが、死を意識しすぎて手足が震えてくる。恐怖なんてない。そう言い聞かせても、体は正直に今の心情を訴えていた。


「やれ。奏、明日香、諌見」


「はい……」


 三人は一斉に未来に向かってきた。まず、明日香の鞭が未来の喉に絡みつく。力強く引っ張ることで未来の喉が締め付けられていく。


「ゔ……ぐぅぅ……!!」


「いい表情だ。神野未来。もっとオレを喜ばせてくれ」


「が……カハッ!」


 意識が無くなる一歩手前で鞭が未来の喉から離れた。ガクッと地面に膝をついた未来を襲ったのは、空中で飛んでいる剣だった。剣は未来のふとももに狙いを向けると、迷いなく突き刺してきた。


「――っ!?」


 本当に痛い時は声が出ないものなのかもしれない。未来はふとももに突き刺さった剣を凝視して、痛みに苦しんだ。剣は突き刺しただけで終わらず、傷を抉るために回転し始める。更なる刺激に耐えられない未来は、顎を震わせて声にならない声を出した。

 涙目になって、痛みのやり場を痙攣することで何とか繋ぎ止めている未来に、奏の剣が襲う。

 奏が両手持ちしている剣によって、未来の肩から腹部にかけて斬られる。熱いと思ったら、すぐに体から血が流れ出る未来の体。


「ぁ……ぁ……!!」


「いいぞ神野未来! イレギュラーなお前は元々気に入らなかったんだ。だが、そんな顔をしてくれるとはオレも我慢したかいがあったというものだ。どうだ? 今なら一生オレの奴隷になると誓えば命だけは助けてやろう」


「……ダ……ダレガ……アンタ……ナンカニ……」


 未来自身、痛みで何を喋っているのか分からない。ただ『命乞いはしない』という心情で喋っているだけだった。


「フッ……合格だよ神野未来。この状況でまだ約束を守るとはな。よく出来ました賞をあげよう。賞品はオレ自らのトドメだ」


 和島は鉄球を出して、未来の細い腕に向かって投げつけた。バキッという音すらせずに粉々に砕け散った未来の片腕。ダランと力なく地面に向かって垂れた未来の腕だけが、和島の催眠に掛かったような印象を受けた。

 和島はさらにもう片方の腕にも鉄球を投げて骨を粉砕させる。すでに未来の痛みは頂点に達していた。


「さよならだ、イレギュラーよ。これで、オレの計画を邪魔するものはいなくなった」


 和島は奏から剣を奪い取り、未来の心臓目掛けて突き刺した。背中を突き抜けて体に刺さった剣。未来は次第に意識が無くなっていくのを感じた。

 未来自身ではどうすることもできない気だるい感覚と共に、自然と後ろに体が倒れていく。そのボヤーッとした気持ちの中、未来は真琴の顔を見つめた。

 呆然としている真琴が無事に助かるように。それだけを願って、未来は真琴に微笑んだ。

 地面に未来の体がついた頃に、未来の生命は活動を停止させた。

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