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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第三章
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二人を止める方法

 明日香の鞭によって空中へと放り出されてしまった諌見は、空で回転して態勢を立て直す。そのまま地面に着地したが、捻挫した足首が諌見に痛みを提供した。一瞬だけ足首がもげたような感覚がして、諌見はうめき声を上げる。痛さのあまり、即座に足首に両手を当ててしまうほどだった。

 諌見の激痛を伴う声で未来は意識を取り戻した。今まで、自分が無力だという絶望に打ちひしがれて呆けていたが、諌見のピンチにハッと目覚めたのだ。


「諌見ちゃん……!」


 未来は若干よろめきながら立ち上がってすぐに諌見の元へと向かう。足首を抑えて悶え苦しんでいる諌見を心配そうに見つめ、諌見の手を振りほどいて怪我の具合を見た。内出血をしているのか、足首は赤く腫れ、そっと触れるとほのかに熱を持っている。


「その怪我……もしかして……」


「大丈夫だよ未来先輩。これは私がヘマをしただけ。奏先輩はまだ誰も傷つけてない」


 ――まだ。

 その言葉を聞いて、未来は諌見よりも奥の景色を見つめた。

 奏と明日香が戦っている。いつか見た戦いよりも、真剣な死闘だった。両者とも相手の息をどうやって止めようか。それだけに必死になっている。

 ダメだよ……せっかくみんな仲良くなったのに、どうして戦うの?


「明日香。ここで大人しく私に殺されたら? そうすれば余計な痛みも味わわなくて済むよ?」


「バカにしてるの? 言っておくけど、私は負ける気はさらさらないから」


「ふーん。じゃあ、剣道部の実力を見せてあげるわ!」


 明日香は地面に着けている足を少しだけジリっと擦った。いつ攻撃されても俊敏な動きが出来るように無意識に足が動くことを確認したのかもしれない。初めて使う鞭にもかかわらず、何故か親しみがある。何ヶ月も使っていたような『クセ』が分かる。

 明日香はその不思議な感覚に全てを掛けることにした。

 奏の方は剣を剣道のような両手持ちへと変えて、ゆっくりと深呼吸をした。

 刹那、奏は剣を明日香に突き立てた。常人ならばこの瞬間に人生を終了させていただろう。しかし、明日香は違った。能力者であることが功を奏したのか、明日香はとっさに回避できたのだ。とは言うものの完全ではなく、彼女の右肩が奏の真剣によって斬られてしまった。


「痛っ――!」


「へえ、私の剣を避けるなんて結構やるんだね。まあ、それくらいじゃないと張り合いがないってね!」


 奏は再び攻撃しようとしているが、明日香がこのまま黙ってやられるわけにはいかない。明日香は鞭を地面に叩き付けてから、奏の剣へと狙いを定めた。

 鞭は明日香の要望に応えるかのように奏の剣に巻きついた。

 チャンスだ!

 明日香は剣が絡まった鞭を思い切り引っ張った。奏もただで渡せない。必死に抵抗を続けるが、力勝負は明日香の方に軍配が上がった。


「よし! 武器ゲット!」


 鞭を捨てて剣を握る明日香。奏は小さく舌打ちをしてから、自分の手のひらに新たなる剣を生成させた。

 武器を奪い、無力化したと思っていた明日香は奏の能力に思わず苦笑してしまった。


「そう簡単に問屋は卸してくれないってことか」


「いくら武器を奪っても無駄よ。私には生成できる能力があるんだから」


 奏は容赦なく剣を振るう。明日香はギリギリのタイミングで彼女の剣を受け取める。剣道部に所属している奏の方に一日の長があるからか、剣を手にした明日香でも防戦一方だった。いつ死んでもおかしくない。


「止めてよ……ねえ……」


 二人の闘いを黙って見ていることしか、未来にはできない。ほぼ独り言のように呟いたが、それも聞こえるはずがない。剣の撃ちあう音の方が大きく、打ち消してしまう。

 一段と大きな金属音が鳴った。それは明日香が持っていた剣が弾かれて彼女の手から離れたことを意味する。

 バカなことをしてしまった。奏は自分が思っていた以上に手強い。

 鞭を捨てたことを明日香は今更、後悔してしまう。

 苦戦している明日香に、自分は何もできないのか。未来は無意識に二人の元へ走りだしていた。何が出来るかは分からない。説得しても意味が無いのかもしれない。しかし、それでも未来は自分に何かが出来ると信じていた。

 根拠のない自信だったが、今の未来には必要な慢心だった。


「隙あり! これで終わりよ明日香あああ!!」


「――っ!」


 奏が明日香に向かって剣を振り下ろす。明日香はこの瞬間、死を確信した。

 ……ごめんね真琴。私、あなたを守り抜けないや。……でも、ちゃんと一人でも行きていける、よね?

 明日香は目を閉じて、少しでも痛みが和らげるようにと祈った。


「ダメェェェェ!!」


 血が飛び散った。その血は明日香の肌にもかかる。明日香は最初、自分の血液だと思っていた。しかし、痛みはいつまで経っても感じないのが不思議だった。少しづつ目を開けて様子を伺うと、目の前に意外な人物がいた。


「嘘でしょ……? どうしてアンタが……」


「どうしてって……大切な友だち、だから……」


 背中を斜めに斬られた未来の体から血が流れ出る。止めどなく流れる血は未来の体を伝って地面に滴っていく。未来は明日香にそっと笑いかけると、地面に膝をついて倒れてしまった。


「み……未来……さん」


 奏は自分がしてしまった過ちに、自分自身で恐怖している。今の今まで最大だった戦意は全て消失してしまった。剣を手放して後ろへと引き下がる。引きつった顔に、強気だった頃の面影はない。

 すぐにここを離れたい。奏は未来が傷ついているにもかかわらず、後ろに駈け出して逃げていってしまった。


「あ……! 逃げるの!?」


 明日香は奏を追いかけようとしたが、それは諌見に呼び止められてしまった。


「待って! お願い、未来先輩を助けて……!」


「……でも、コイツは」


「未来先輩はあなたを助けたんだぞ! それでも放っておけるのかよ!!」


「ぐ……わ、分かったわよ」


 不本意ながらも、自分を助けてくれた手前無下にすることはできない。諌見に叱咤された明日香は心の中で舌打ちをつきながら、地面に倒れた未来を背負って保健室へと向かうのだった。

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