表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/53

47 自由になるために

「ほんもの……ですか?」


 少女がギルバードに尋ねる。


「ああ、余の影武者としてではなく。

 自分自身の名を世間に知って欲しいと願っていた。

 だからその機会を与えてやったのだ。

 余の代わりに魔物を討伐せよと」

「それはちょっと、かわいそうじゃないですか?」

「かわいそう? ククク……確かにな。

 かわいそうかもしれぬ……ククク」


 少女の言葉を聞いて笑うギルバード。

 いったいなにがそんなに面白いのか。


「どうして死体のふりをしたんですか?」


 少女は続けて質問する。


「地上へ出るには死体のふりをするのが一番だった。

 ダンジョンの外では監視役が目を光らせていたからなぁ。

 余が影武者と入れ替わって外へ出れば欺くことも可能。

 入れ替わりを知っているのもそ奴だけだった」

「へぇ……じゃぁ、お付きの人たちって……」

「うむ、余の顔も知らぬ下級騎士たちだ。

 奴らも余計なことをしてくれた。

 影武者の亡骸に結界をはるなど……」


 影武者の遺体を結界で守ったのは下級騎士たちだった。

 彼らも彼らで最後まで忠義を尽くそうとしたのだろう。


 こんな人の命をなんとも思わないクズのために。


「じゃぁ、どうやって死体の“ふり”を?」

「仮死状態になる薬を飲んだのだ。

 簡単に手に入ったぞ」

「あっ、不眠症さんが言ってたやつだ。

 じゃぁ解毒の魔法が効かなかったのも……」

「仮死状態を解毒魔法で解くことはできぬ。

 貴様にもいらぬ苦労をかけてしまったな」


 先ほどから少女は遠慮なく質問を続けている。

 怖いもの知らずとは、まさにこのこと。


「それで……これからどうするつもりですか?

 隣国から迎えが来たらそのまま帰るつもりですか?」


 青年はギルバードを睨みつけて尋ねる。


 大勢の命を奪っておきながら、目の前の男は悠々と自国へ帰還するのだ。

 なんの責任も取らずに。


「ふむ、今回はそうする他あるまい。

 まぁ……帰ったところで、余の目的は変わらんが。

 今回は失敗したが、次はきっとうまくいく」

「そう確信できるのは、魔族から協力を得たからですね?」


 青年はアンデッド属性付与の効果がある二つのペンダントを差し出した。


「これは魔王の支配下にある領域で作られるものです。

 人間の世界で簡単に手に入る物じゃない。

 アナタはこれをハンスさんに渡して、

 死体が地上へ持ち帰られるのを阻止するように命じた。

 違いますか?」

「そうだ」

「ヒリムヒルさんはアナタから盗んだと言っていました。

 これも事実ですか?」

「誰が盗んだのか分からなかったが――

 まさか、あの吟遊詩人だったとはな。

 ……とことん余をこけにして!

 いつか必ず殺してやる!」


 ギルバードはそう言って歯を食いしばる。


 ずっと涼しい顔をしていたが、ようやく表情が変わった。

 感情を失ってしまったわけではないらしい。


「他にまだ聞きたいことはあるか?

 なんでも答えてやるぞ」

「王太子であるアナタが、魔族から協力を得て、

 いったい何を始めようとしているのですか?」


 青年が尋ねると、ギルバードは口端を釣り上げて答える。


「知れたこと、復讐だ」

「復讐?」

「余に苦痛を味あわせた王族諸侯ども。

 そして死ぬことを許さぬ父上。

 奴らを一人残らず殺しつくす。

 それが余の望みだ。

 魔王様も協力してくれると言って、

 死体かつぎを召喚してくださったのだ」

「やはり……」


 死体かつぎはギルバードの死を偽装するためだけに召喚されたのだ。

 ある程度予想していたが、まさか魔王が直接協力しているとまでは思っていなかった。


「どうして……魔王が……」

「それは余にも分からぬ。

 ある日、夢の中に現れて下さってな。

 余を救って下さると言うのだ。

 その手を取るのに迷いはなかった」


 ぼんやりとした表情で言葉を紡ぐギルバード。


 この男を放っておいたら、また新たな犠牲者がでる。

 魔王の元へ帰してはならない。


 青年は強くそう感じた。


「余の肉体は人間のままだが、

 いつか魔王様の血を分けてもらい眷属となる。

 そして自由になるのだ」

「お前の下らないお遊びに付き合わされて、

 いったい何人、死んだと思ってるんだ!」

「そう怒るな、死体運び。

 余も申し訳なく思っている。

 だが、仕方がなかったのだ。

 余が自由になるために」


 ギルバードは何のためらいもなく言ってのける。

 彼にとって他人の命など、道具でしかないのだろう。


 何度も、何度も、強制的に蘇生させられた彼にとって、命の価値は羽毛のように軽い。


「死体運びよ、貴様は何も知らぬのだ。

 この世界は欺瞞と謀略にまみれている。

 世界を正すにはいっそ全てを焼くしかない。

 なぁ……分かってくれよ、死体運び」

「黙れ……!

 僕が運んでいるのは死体なんかじゃない!」

「ふふっ」


 青年の言葉に失笑するギルバード。


「では問おう。

 貴様は死体ではなく、何を運んでいると?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ははん。遺体が偽者だった時点で、こいつが本物で生きてるな~とは思ったよ。(←今言っても、あんま信憑性ないけど笑) でも、なんという自分勝手な!だいたいさ、下級騎士が忠誠を誓ったのは、あん…
[良い点] 憎々しいやつめ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ