23 ひとやすみ
一同は更に奥深くへ進み、30階層まで降りた。
これより先は深層。
モンスターの強さも一段階上がり、構造も変化しやすい。
比較的大きな部屋を見つけたので休息をとることにした。
出入り口にそれぞれ結界を張り、モンスターが入れないようにして安全地帯を作る。
この方法だとモンスターに出待ちされる危険性があるのだが、死体かつぎが狩りつくした今の状況であれば気にしなくても大丈夫だろう。
「はぁ……。
こんなにあっさり30階層まで降りられたのは、
今回が初めてですよ」
腰を下ろした葬儀屋が言う。
「葬儀屋、お前まだまだ。
ここまでノーエンカ余裕」
「え? 鎌鼬さん、それほんとですか?」
「コツがある、コツ」
「教えて下さい! 是非!」
ダンジョン攻略談義で盛り上がる葬儀屋と鎌鼬。
少女は退屈そうに二人が話す様子を眺める。
「なんだい、お嬢さん。退屈なのかい?」
「ええっと……葬儀屋さんとお話したいなって思って。
でも鎌鼬さんとのお喋りに夢中みたいで」
「なるほど、アイツともっと仲良しになりたいのか。
そう言うことなら良いものがあるよ」
「え? いいもの?」
不眠症はごそごそとカバンの中から何かを取り出す。
「これは人間を仮死状態にして動けなくする薬さ」
「え? なにそれ怖い!
そんなアブナイお薬を何に使うんですか?!」
「動けなくしてお持ち帰りすればいいのさ。
割と簡単に手に入るから安く譲ってあげるよ。
もちろん、目を覚ます薬も一緒にね。
セットで金貨十枚だけど買う?」
「たかっ! てゆーか発想が怖い!
お持ち帰りしてどうするんですか?!」
あまりに恐ろしい発想に、少女は戦慄する。
そんなものに金貨10枚も支払う人の気が知れない。
「お嬢さんも大げさだなぁ。
ちょっと持ち帰って、ちょめちょめして、
既成事実を作っちゃえばいいだけの話じゃん」
「え? 既成事実?」
「そう、既成事実」
「ええっと……」
なんのことだか分からず首をかしげる少女。
不眠症はやれやれと肩をすくめて頭を横に振る。
「お嬢さんにはまだ早かったみたいだね」
「え? 早いってなにがですか?」
「おい不眠症。変なこと教えるんじゃねぇよ」
「へいへい、すみませんでした」
ギルド長のハンスに怒られてへこへこと頭を下げる不眠症。
「あの、一つ聞きたいんですけど。
お二人はどうしてこのお仕事に?」
「気づいたら……なってたよ」
少女が尋ねると、ハンスが答えた。
「俺ぁ、元逃亡奴隷でな。
色々あって飼い主を殺してお尋ね者になった。
んで、捕まって死罪になるはずだったんだが、
処刑される前に何度かダンジョンに送られたんだ」
「え? どうしてですか?」
聞きづらいことを遠慮なく質問する少女だが、ハンスは嫌がらずに話を続ける。
「利用してから死なせようとしたんだろ。
だが悪運が強かったのか生き残っちまってなぁ。
実績が認められて解放されたんだ。
人生どうなるか分からねぇもんだよな」
何かを思い出すかのように右上の方へ視線を向けて、かつての記憶をたどりながら話すハンス。
彼の苦労話に、少女は思わず聞き入ってしまった。
「大変だったんですねぇ」
「苦労も多かったけど、今思うと幸せな方だと思うぜ。
何せ、一度は人生が詰んだ身だからなぁ。
そう言う嬢ちゃんはどうして冒険者に?」
「私も色々あったんですよぉ。
小さいころに冒険者の人に拾ってもらって。
一緒に魔王城を目指して旅をしていたんです。
でも、その手前で敵の罠にかかって。
パーティーが全滅しちゃって……」
「待て待て待て……魔王城だと⁉」
驚きの声を上げるハンス。
その隣で不眠症がニヤニヤと笑っている。
「本気にしなさんなよ、旦那。
どうせ嘘をついて驚かそうとしてるんでしょ」
「いや……まぁ、そうか」
「嘘じゃないですよ!
なんで信じてくれないんですかぁ!」
ほほを膨らませて怒りをあらわにする少女だが、二人ともまともに取り合ってくれない。
「もういいです!
信じてくれないなら何も話しま……あれ?
どこからか人の声が聞こえてきませんか?」
「え? あっ……確かに」
耳を澄ませる不眠症。
部屋の入口の方へと移動して、声のする方角を探る。
「近い……生き残り。生きた人間」
地面に耳を付けた鎌鼬が言う。
足音で生存者か、それ以外かを聞き分けているらしい。
こんな状況で生存者がいるとは驚きだ。
一同は話し合いの結果、声の主を確かめることにした。




