勇者ちゃん、オーガの村でニート生活
オーガの村は砂漠にあるオアシスを起点とした小さな村だ。
家畜としてラクダやヤギ、羊の飼育をしており、ささやかながら農業も行われている。
シアンは家の縁側に座り、農作業を行う魔物たちを睨んでいる。
エルフ、オーガ、獣人、リザードマンにウェアウルフ……。
ここにいる魔物たちは単一種族ではない。
どんな経緯があるのか知らないが、複数の種族が寄り集まって暮らしている。
「気分はどうだ? まだ動けないか?」
縁側で魔物たちを睨んでいたシアンに、昨夜のオーガが話しかける。
運んでいた藁の束を下ろし、何も言わずにいるシアンの隣に座った。
「ふむ、見た感じでは大丈夫そうだな」
「ジロジロと見るな。穢らわしい魔族風情が……」
「お前なあ……。お前こそ、さっきからずっと俺たちのこと睨んでるじゃえか」
オーガの台詞にシアンは彼のほうへ視線を向けた。
明確な敵意の視線にオーガは溜め息を吐いた。
「まあ、お前を拾ったのが俺たちで良かったな。その調子じゃいつ誰に殺されても文句言えんだろ」
「……戯れ言を。この私が誰かを知らないからそんなことを言える……」
シアンがぶつくさ言うのを聞き、オーガは村のほうへ目を向けた。
エルフが刈り取った雑草をウェアウルフに渡しながら、なにやら楽しそうに雑談しているのが見える。
向こう側ではリザードマンの子供とコボルトがおままごとをして遊んでいる。
そんな景色を眺めながら、オーガは口を開いた。
「俺はお前が誰かを知らんし、何があったのかも分からん。しかしお前が誰なのか、何があったのか、そういうことを聞こうとは思わん。お前、人族だろ? 人族からすれば、ここにいる連中は皆怪物に見えるかもしれん。しかしまあ、安心しろ。この連中の中にアンタを傷付けるような奴はいないからよ」
「は、魔族風情がそんなこと……。敵の言うことを信じるとでも思うか? この勇者シアン様が? 冗談にも程がある」
刹那、剣閃が瞬く。
風の切れる音の残響、剣の軌跡の残滓。
黄金色の聖剣は宙を舞い、ストンと小気味のいい音を立てて床に刺さった。
「そんな剣じゃあ俺を斬るのは百年早いぜ」
「……クソ!」
ここに来て三回目のやり取り。
オーガは聖剣を拾いシアンに手渡してやる。
「本当の勇者シアンはもっと強いと思うぜ」
「だから! 私が!! 勇者シアンなんだ!!!」
「説得力ねーな。まあお前が勇者を名乗りたいなら勇者って呼んでやるよ。だがあまり暴れ回んなよ? 他の人の邪魔になるだろ?」
「他の人? 他の"魔族"の間違いだろ」
「めんどくせえなお前……。人だろうが魔族だろうがここでは関係ねえんだよ」
オーガはシアンの髪を押さえ、わしゃわしゃしながら無理やり座らせる。
シアンは嫌がり抵抗するが、今のレベル1の彼女ではまるで歯が立たず、オーガの成すままに再び縁側に座らせられた。
オーガは隣に立ち、村を見渡しながらシアンに語り聞かせる。
「俺たちの信条は、困ってる奴がいたら誰彼構わず助けることだ。この何もない一面の砂漠世界では互いに互いを助け合わなきゃ生きていけない。それは人族も魔族も一緒だ。なにせ、そもそも水も食い物もろくにねえんだからな。だから、俺たちは週に一回、白のテリトリーの奴らと交易をしている」
その言葉にシアンは目を見開き、勢いよくオーガのことを見上げた。
「白のテリトリーと交易だと!? ネヴィリオの市民とか……!?」
「そうだ。お前がどこから来たか知らんが、ここはそういう場所だ。戦ってる暇なんてねんだよ。人族も魔族も、今日の暮らしだけで手一杯だ。限られた資源を上手く回すにはそれしかねえからな」
「ここも、なのか……」
人族と魔族の融和……。
ここ最近、こんな話ばかりだ。
俯くシアンの様子を見て、オーガは肩を竦める。
「ま、お前も落ち着くまではここにいろよ。今のレベルで出歩くのは危険過ぎる」
シアンは顔を上げ、再度村の魔物たちを睨み付けた。
魔族に囲まれて暮らすなんて冗談じゃない。
機を見計らってこいつらをレベルの数字に変えてやる……。
幸か不幸かオーガはシアンのことを本物の勇者だと思っていない。
(こうして暮らしていられるのも今のうちだ。そのうちお前ら全員殺してやる……)
そんなことを考えている勇者シアンの頭を撫で、オーガは仕事に戻って行った。




