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魔王ちゃん、看破する

 しばらく歩いていると、奥のほうから雫が水面を打つ音が聞こえてきた。

 一定のリズムで奏でられるその音に二人は顔を合わせる。


 地底湖だ。


 魔王ちゃんたちはここに来てから一切飲み食いをしていない。

 魔王ちゃんはともかくとして、人族のメチルにとっては水源の確保は至上の命題である。


 意識した途端に喉の渇きに気付き、メチルは足早に音のほうへと進んで行く。

 邪魔な鍾乳石を避けて、曲がり角を曲がると、そこには青々とした水面が広がっていた。


 メチルのかざす魔導松明の光を受けて、底まで透き通った濁りのない地下水。

 水面には鍾乳石から垂れてきた雫が波紋を描き、天井にその模様を反射している。


 二人は視界の中央に水面を捉え、加護による鑑定結果を表示する。


 水質は問題ない。

 飲み水として十分に使える代物だ。


 メチルは地底湖の水面に両手を差し込み、水を掬ってそれを口元へと運んだ。

 冷たい水で喉を潤し、それからローブの中でベルトに引っ掛けていた水筒を取り出し、その中身を満たしていく。


 人間、不足が満たされると心に余裕が出てくるものだ。

 メチルはその場でほっと一息つき地底湖を眺める。


 状況は依然として悪いままだが、ひとまずは水を飲むことが出来た。

 今はそれだけでも大きな一歩だ。


 人間が水なしで生きられる限界は三日間だと、どこかで聞いたことがある。

 この地底湖のお陰で、少なくともメチルはあと三日の猶予を得られたわけだ。


「大きな地底湖だね~」


「シアンの加護さえあれば、この水全部運べたんだが……まあ、無茶を言っても仕方がないか……」


 メチルの持つ加護は鑑定の一種のみ。

 対してシアンが持つ加護は鑑定・復活・格納の三種だ。


 女神に選ばれし、数千年に一度の奇跡。

 三種全ての加護を持った最強の勇者……。


 しかしそこまで考えて、ふと疑問に思った。


「お前、魔王ネメスなんだよな……? 今レベル18だけど……」


「うん? そうだけど、どうして……?」


 隣で地底湖の水を飲んでいた魔王ちゃんは首を傾げる。

 メチルは真剣な表情で彼女の瞳を見据える。


「……このダンジョンは魔法の術理を結ばせない特殊な結界だとお前は言ったな」


 メチルは女神の加護により目の前の少女を鑑定した。

 目の前にはHPを始めとする各種情報が表示されている。

 一部には秘匿情報もあり全てが開示されるわけではないが、間違いなく"それ"は見えている。


 魔王ネメス、レベル18――


「それなら、どうして僕たちは"鑑定"を使えるんだ……?」


 女神の加護の恩恵とは言え、この能力は自然の摂理から外れている。

 自然の摂理を自らの法によって上書きする。

 その術理こそ魔法である。


 術式を結ばせないこの結界内で、今、こうして、間違いなく魔法だと言い切れるこの能力が発動しているのだ。


「矛盾している……魔法が使えないというこのダンジョンの性質と、今の僕たちの状況は、矛盾している……!」


 メチルは杖を掲げ、初級魔法・ファイアボールの発動を試みた。

 しかし、術式は即座に解かれ不発に終わる。


 そのメチルの行動を見た魔王ちゃんは少し俯いて考え込む。


「このダンジョンの特性は魔法の発動を阻むものではない……? でも、現に"鑑定"以外の魔法は発動出来ていないし、術式が解かれる実感もある。そうなると考えられる唯一の可能性は……」


 魔王ちゃんその回答を確かめるために、右手を真っ直ぐに伸ばした。


「下位破戒式――術具解禁。我が呼びかけに応じよ――創風月牙」


 瞬間、魔王ちゃんは呻き声を漏らし、うずくまる。


「お、おい……どうしたんだよお前……」


 心配して声を掛けてくるメチルに、荒い息のネメスは二っと笑い、血だらけの一本のナイフを見せた。

 右手は肘の辺りから手首の辺りまで裂け、ぽたぽたと真っ赤な血を垂らしている。


「どうやら、体内で結ばれる術式は解かれないみたいだね……」


 ネメスのその笑みに、メチルは一瞬思考が凍りついた。


()()()()()()()()()()()()()のか……?」


 メチルは眩暈にも似た感覚に襲われた。


 魔王らしくない相手だと思っていた。

 一度はまるで子供のようだと侮った。


 ()()

 ()()()()()

 コイツは性根から狂っているのだ。


 メチルの呟きと現在の状況から即座に答えを導き出し、常人であれば躊躇するような推論を身を以て実行に移す。


 そういえばコイツはここに落ちてくる直前、仲間を庇うために魔導波を放っていた。

 仲間を弾き飛ばし、穴へと落ちるのを防ぐために。


 あれだって、反動で自分が落ちる可能性の高まる行為だ。

 現にコイツは穴に落ちて弾かれた仲間だけが助かった。

 あれを自分に使っていれば確実に助かっていたのに。


 この魔物は、はじめから自分自身を度外視している。


 目的のためであれば自らがどうなろうが関係ない。

 多少痛かろうが、死のうが、コイツには関係ないのだ。


 最終目標さえ達成出来れば――。

 それは、紛れもなく魔の王の考え方だ。


 魔王ネメスは自らの手を修復し、血だらけのナイフを地底湖の水で洗って、こちらへと振り返り、にこりと笑った。


「希望が見えてきたね!」


 コイツは、紛れもなく、本物の()()()

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『Mephisto-Walzer』

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