魔王ちゃん、サキュバスちゃんへのプレゼントを選ぶ
「えっへへ~自分の作った料理でみんなが喜んでくれるって気分がいいなぁ~! お金も貰えるし、すっごく楽しい!」
魔王ちゃんはテトの街の中央通りをるんるんと歩いている。
背の低い魔王ちゃんは人混みの中を掻い潜り、ひとつの雑貨屋さんの前で足を止めた。
宝石や貝殻を用いたアクセサリーの並ぶこのお店は、サキュバスの夢の中で訪れた時からずっと気になっていた雑貨屋だ。
色とりどりの宝石はひとつひとつ綺麗に磨かれており、タカラガイのイヤリングは水を纏ったようにきらきらと艶めいている。
「綺麗……」
「それ、お嬢さんにお似合いですよ」
魔王ちゃんが商品に見惚れていると、奥から店員のお姉さんが語り掛けてきた。
黒のテリトリーでサバイバル中の魔王ちゃんでも一目でおしゃれだと分かる、小奇麗な格好の女性だ。
「え、えへへ……そんなことないですよぉ……。それに、私が付けようと思って買うわけじゃないんです」
女性店員は手を合わせてにこりと微笑む。
「それでは、お友達へのプレゼントですね」
「はい……」
魔王ちゃんはサキュバスちゃんのことを思い出し、少しだけ俯いた。
このプレゼントで、果たしてサキュバスちゃんは許してくれるだろうか……?
魔王ちゃんは何がそんなにサキュバスちゃんの気に障ったのか分からない。
いつまで経っても領域戦争が解決しないこと
自分がしたくないからという理由だけで、魔族なのに人を殺さないこと
いつもサキュバスちゃんに迷惑をかけてしまっていること
魔王としての威厳がないこと
泣き虫なところ
考えれば考えるほど、思い当たる節がありすぎる。
「……喧嘩しちゃったんです」
魔王ちゃんの言葉に、店員は静かに頷いた。
「仲直りのプレゼント……ということですか」
「はい。だから一番いいものを選びたくて……。だけど私、どれがいいとか全然分からないから……」
目の前に並ぶたくさんのアクセサリーたち。
値段も材料も、色もデザインもそれぞれで、とてもどれを選べばいいのかなんて分からない。
サキュバスちゃんが怒っている理由も分からないのに、どれをプレゼントすれば喜んでくれるのかなんて……分かるわけがない。
「私、相手の気持ちが分からないんです。それでいつも友達に怒られたり、傷付けちゃったり……。だから、どれがいいのか……。どれが一番いいですか? どのアクセサリーを渡せばいいんでしょう……」
魔王ちゃんの問いに、店員は少し考え込む。
しばらくして、その女性は少し微笑んで答えてくれた。
「あなたが一番相手に似合うと思うもの。それを選べばいいと思いますよ? アクセサリーに順位はありませんから」
店員の笑顔に、魔王ちゃんは自信なさげに黙っている。
少し間を開けて、女性は続ける。
「アクセサリーは、その人の心を表現する道具なんです。毎朝鏡の前で、その日の自分に似合うものがどれだか悩む。雨の日だから青いラピスラズリのイヤリング、晴れの日だから太陽燦燦のヒマワリの髪飾り……その一つ一つの選択を、今日会う相手のために……自分が可愛く見られるために、毎日選べる幸せ。それって女の子の特権だと思いませんか?」
店員はひとつアクセサリーを取って、それをネメスの髪に結いつけた。
真っ白な真珠と、透明なガラス細工の美しい髪飾り。
店員の持ってきた鏡を覗き込むと、そこにはいつもとは少し違う自分がいた。
黒い髪とのコントラストが映える、純白の真珠。
モノトーンの中に輝く透明なガラス細工がシックな印象を強く惹き出し、魔王ちゃんを普段より大人っぽく演出している。
「アクセサリーは女の子の毎日を彩る、とっておきの武器なんです。その選択肢のひとつに貴方がくれたものが選べる。それって最高だと思いませんか? 友達からプレゼントされたアクセサリーは、どんなものでも最強なんです!」
とっておきの武器……。
どんなものでも最強……。
それを聞いて魔王ちゃんはハッとする。
魔法や武器も状況に合わせて使うことでその真価を発揮する。
槍に対して不利な小刀でも、屋内での戦闘においては槍に対して大きなアドバンテージを持つ。
魔物にしても、下位魔族の雷トカゲを防衛に配置し、本命の攻撃を潜ませる罠にすることで、より大きな敵を打ち破ることが出来る。
「だから……正解なんてないんだ」
「ふふっ、そうなんです!アクセサリーに絶対的な一番はありません。どれも一番になりうるポテンシャルを持っているんです。だから、あなたが思う、その子に一番似合うものをあげてください。そうしたらその子はきっと、そのアクセサリーをおしゃれに使ってくれますから! あなたがくれたという想い出の籠った、最高のアクセサリーで!」
魔王ちゃんは商品の中から、ひとつの髪飾りを選んだ。
二枚の若葉を模したガラス細工の髪飾り。
艶やかなガラスの表面が、太陽の光を受けて、朝露のように輝いているのが印象的だ。
魔王ちゃんはそれを店員に差し出した。
「これにします」
「喜んでくれるといいですね。あとそれ、オマケしてあげますね。あまりに似合ってるからあげたくなっちゃった」
魔王ちゃんの髪に結いつけた真珠の髪飾りを指し、女性店員はにこりと微笑む。
魔王ちゃんは彼女にお礼をして、髪飾りの入った紙袋を小脇に抱え、大通りに戻っていった。
桜色の髪のサキュバスちゃんに、朝露の輝く若葉色の髪飾り。
その色彩が脳裏に過った瞬間、魔王ちゃんはこれしかないと思った。
「サキュバスちゃん、喜んでくれるかな……!」
大通りを行く魔王ちゃんの足取りは、心なしかいつもより軽やかに見える。




