魔王ちゃん、ダンジョンを探索する
魔族は暗がりに溶け込む生き物だ。
当然光のない場所でも鮮明にものを見ることが出来る。
松明など持たず、魔王ちゃんとサキュバスちゃんは真っ暗闇の中を進んでいく。
「魔王ちゃん、このダンジョン何か変だねー。三階層もあるのに、出てくる魔物はみんな低級魔族ばかり……。それに、この子たち物凄く怯えてるよー?」
サキュバスの言うとおり、このダンジョンにはスライムと毒サソリくらいしか魔物がいない。
森の中を歩いていた時から違和感を覚えてはいたのだが、この島は魔物の数があまりに少なすぎる。
視界に入ったスライムは怯えた様子で岩の影に隠れてしまう。
この島に住んでいる知能の低い魔族たちには言葉が通じない。
理性もなく、あるのは食欲と防衛本能くらいのものだ。
その純粋な本能に支配された低級魔族たちが、異様に怯えて暮らしているのだ。
「ちょっと嫌な予感がするね。ゴーストちゃん、あなたはこのダンジョンから外に出て待ってて。何かあったら一番危ないのはゴーストちゃんだから」
ネメスの言葉にゴーストは体を横に振った。
ゴーストは低級の魔族の中では優秀な知能を持っており、その学習能力は犬やイルカに匹敵する。会話こそ出来ないものの、単純な指示くらいであればなんとか通用するレベルだ。
魔王ちゃんが最初にゴーストを召喚したのも、最低限の魔力で使役出来る、最低限の知能の持ち主という条件を満たしていたからだ。
しかしゴーストは今のネメスの指示が気に入らないらしい。
「ありがとう、私たちを心配してくれてるんだよね。でも大丈夫! 私たち、こう見えても最強の魔物だから!!」
「そうだよー。ゴーストちゃんには私たちがちゃんと戻れるように、この洞穴の見張りをしていてほしいんだー」
二人の言葉にゴーストは頷き、今まで来た道に石を並べながら戻っていく。
出口が分かりやすいように工夫してくれているのだろう。
「いい配下を持ったねー、魔王ちゃん」
「ゴーストちゃんを心配させないためにも、気を抜かずに行くよーっ!」
「おー」
二人はさらに下の第四階層へと進んでいく。
ネメスはサキュバスと共に進みながら、ふと足元の白骨に気が付いた。
全長三メートルほどだろうか。
レベル15相当のオーガの白骨だ。
そしてそのすぐ傍らには狼型の魔物の死骸が転がっている。
乾燥した暗所という条件のせいか、ミイラ化したその死体は背中に大きなひっかき傷を受けている。
「うーむ、片方は白骨死体でもう片方はミイラ……。どう考えても普通じゃないですなー」
「オーガの死骸が腐敗して白骨化したならオオカミがミイラ化しているのはおかしい。逆もまた然りだね」
オオカミの外傷からして相手は五メートル級の魔物。かつ、オーガの白骨死体からしてレベル15は余裕で越えているものと考えられる。
使用魔法は炎か冷気、もしくはドレイン系という可能性もありうる。
もしも相手の魔法が炎か冷気であった場合、相手の攻撃手段に範囲攻撃が含まれる可能性が格段に高い。
ネメスとサキュバスがやられることはまずありえないだろうが、弱体化している現状油断は大敵だ。
ネメスは空間に魔法陣を放った。
紫色に発光するそれはネメスの呼びかけに輪転する。
「下位破戒式――術具解禁。我が呼びかけに応じよ――紫電乱式・創風月牙」
魔法陣から現れたのは二振りの鉄の得物。
一振りは線の細いレイピア"紫電乱式"
もう一振りは深緑のダガー"創風月牙"
サキュバスは二振りの得物を受け取り、くるくると曲芸染みた剣技を見せる。
「スパーク・レイピアと辻斬りナイフじゃーん。久々に見たー」
「紫電乱式と創風月牙!! 勝手に変な名前付けないでよ!!」
「だってその名前じゃ意味分からないし。魔王ちゃんのセンスのほうが変だよー!」
サキュバスのもっともらしい意見に魔王ちゃんは頬を膨らませる。
「アトランティックネメス号に文句言ったじゃん! だから格好いい名前にしたのに!!」
「魔王ちゃん極端すぎるよー」
サキュバスはスパーク・レイピアと辻斬りナイフを鞘に納め腰に佩いた。
スパーク・レイピアは打ち付けた対象に高圧電流を流す電気属性のレイピア、辻斬りナイフは十メートルほど先まで斬撃を飛ばすことが出来る風属性のナイフだ。
死骸の爪痕からして相手は近接戦も得意とみて間違いない。
スパーク・レイピアで近接戦に対応し、範囲攻撃に対しては辻斬りナイフで応戦する。
攻撃系の魔法を持たないサキュバスへの保険というわけだ。
「どうせならあれ出してくれればいいのにー。アンブレランス。あれ強いじゃーん」
「白亜零式のこと? あれは危ないからダメだよっ! 相手が怪我しちゃうよぉ!」
白亜零式――もといアンブレランスはその名の通り、突き刺したと同時に内部構造が傘のように展開、全二百四十八個からなる返しの付いた小型の杭が射出され、全身の肉に食い込むという無属性のランスだ。
「自分で作っといてよく言うよねー。明らかに殺すことしか考えてない機構じゃーん」
ハッキリ言って製作者のイカレ具合を疑いたくなるような残酷過ぎる道具だ。
当の製作者は涙目の上目遣いで必死に言い訳を始める。
「違うよ!! わたしそんな残酷なこと考えてないよ!! ただ作ってたら楽しくなってきちゃっただけで!!」
「魔王ちゃん、そのほうが狂気染みてて怖いよ……」
「うっ……。わ、私の趣味の話はもういいでしょ! 早くこの先まで確認しようよ!」
サキュバスの言及から逃げるように、魔王ちゃんはダンジョンの奥のほうへと歩みを進めた。




