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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」

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第53話「ワルトナちゃんの総仕上げ⑥」

「なら、この領地は僕の物って事で良いよね?」

「…………はい?」



 まったく悪びれた様子もなく、ワルトナはヤミィールに向かって言い放った。

 これは、様々な理不尽を積み重ねてきた末に行う最後の仕上げ。

 ここが正念場だと気合いの入った瞳を向けたワルトナは、ニヤリと笑って優位な立場からヤミィールを威嚇している。



「……仰っている事が良く分かりませんね?この街がなぜ、あなたの物になると……?」

「いやいや、現実が見えていないようだねぇ。ここまで事件が大きくなってしまった以上、次の問題は『どうやって収拾を付けるか』ではなく、『支配者の席に誰が座るのか?』になっているんだよ」


「……そこが良く分からないのですよ。自己評価になってしまいますが、わたしはこの街を上手に管理しております。確かに一部の利益を得るように立ち回りましたが、それは領地運営に莫大な資金が必要となる為です……」

「だからさー、上手に管理されていようが財制破綻寸前だろうが関係ないんだよ。そういう前提条件は、付け入られる隙を無くす為のもの。今となっては何の役にもたちゃしないよ」



 ヤミィールが言うように、エルダーリヴァーの経済は安定している。

 領地というものを発展させる場合、可能な限り外部からの資源を流入させ、自領の資源を消費させないのが手堅い方法だ。


 だが、それを嫌うヤミィールは自領内で、衣・食・住のサイクルを回転させ、停滞している人の流れを促す事で住民の技術レベルを向上。

 計算された人手不足状態を演出する事で、孤児であっても仕事を得られるようにしている。

 そして、様々なジャンルで特産品を生み出す事に成功し、必要最低限の輸出入で経済活動を活性化させているのだ。


 だが、ワルトナが提示しているのは、もっと系統の違う話だった。



 まったく、本当に盲目的になってるねぇ。

 このシスター・ヤミィールって、実戦経験がほとんどないんだろうなー。

 胸に矢が刺さってから防御魔法を使っても遅いように、指導聖母に狙われた後じゃ、残っている選択肢なんて限られているのにね。

 しょうがないから、教えてあげるとするかねぇ。



 やれやれと肩をすくめたワルトナは可愛らしく指を振り、シスター・ヤミィールに教えを突きつけた。



「シスター・ヤミィール、この事件はまだ終わっていないって事に気が付いているかな?」

「……終わっていない?結界は塞がったとソクトから窺いましたが……?」



 ビヨンビアドが騒いでいた後ろで、ソクトはヤミィールに事のあらましを話している。

 ヤミィール自身もある程度は想像していた事もあり、その理解はスムーズだった。


 しかし、病み上がりのヤミィールに心配をかけまいとソクトが格好を付けた結果、全ての問題は大体が解決しているとヤミィールは思ってしまっているのだ。



「終わって無いさ。ソクト達には話してあるんだけど、この事件はキミがこの地を離れるまで終わらない。その『離れる』が『死別』か、『更迭』か、『隠居』になるかは不明だけどね」

「……私から権力を奪い取るまで、何かしらの攻撃が続くと言うのですね。そしてそれは……」


「だんだんと巧妙化し悪質になってゆく。ヨミサソリに刺されるという『不幸な事故』で処理されるはずの事件から、明確な殺人事件になるか、はたまた、冤罪を着せられて処刑されるか。どちらにせよ、次はもっと対抗するのが難しくなるだろうね」

「……そんな、私が何をしたというのですか……」


「あはは、『何をしてても、してなくても、どーでもいい。このエルダーリヴァーが欲しいだけ』。キミの主人たる悪逆以外の指導聖母はそう思ってるし、正直な所、キミという存在に価値を見出しちゃいないんだよ。邪魔だから消すってだけさ」

「……横暴すぎます。あぁ、なんという……」



 ヤミィールは、決して頭の悪い女ではない。

 むしろ、この場に居る中では上位の知能を持っており、ワルトナが言っている理屈もしっかりと理解している。


 だが、理性では納得がいかず、未練がましく今の地位に縋っているだけ。

 そんな感情論に流された存在など、ワルトナの敵ではない。



「だが、キミがこの地に残る方法が一つだけある」

「……そうなのですか?……」


「キミという存在を認め、この地に残る事を後押ししてくれる存在に地位を譲る事だ」

「……それが、あなただと……?」


「そうさ。僕がこの地の支配権を得た暁には、キミを副官として任命し実質的な支配権を再譲渡しよう。そうすると、どうなると思う?」

「……もし仮に、私を取り除いたとしても、あなたが次の副官を指名するだけ。逆説的に考えて、わたしを攻撃しても意味が無いという事に……?」


「正解!そして、この大事件を起こした敵側はかなりの出費を支払っているんだよね。連鎖猪の角の買い占めから始まり、モンゼが所属していた教会の懐柔、隣街の領主への根回し、鏡銀騎士団の乗っ取り、などなど」

「……なるほど。こういった大掛かりな事件は、わたし一人を狙うからこそ起こせるという訳ですね……?」


「そういうこと。それに、キミの主人たる指導聖母・悪逆には、代わりの人材を当てがえない理由があるんだろうねぇ。キミを取り除けば確実に奪える確証があるからこそ、敵はこの地を狙ってきたんだろうし」



 小さな身体でオーバーアクションを繰り返し、ワルトナは誇大広告を謳う。

 語っている内容を、結末が決まっている物語だと思わせるような一切揺るぎがない態度で説明し、安心感を植え付けているのだ。


 やがて、ヤミィールの心境に変化が訪れる。

 死という物を間近に垣間見たことにより、以前のような強気な行動を起こせなくなっているのだ。



「……確かに、あなたのお話は正しいのでしょう。ですがそれは、モンゼさんを騙した指導聖母・悪典様の軍門に下るのでも同じことではありませんか……?」

「全然違うよ。まず、悪典にその気が無いという事。それをするんだったら最初っから話を持って来るからね」


「……なら、他の指導聖母様に助けていただくというのは?この地を狙っている方は他にもいらっしゃるのでしょう……?」

「つまり全面降伏して助けて貰うってことでしょ?それって、キミの裁量権は無いに等しいよねぇ」


「……そうですが……。では聞かせていただきたいのですが、あなたに従って他の指導聖母様の追及を逃れられる保証はあるのですか……?」



 ヤミィールの目線では、ワルトナとリリンサは正体不明の高位冒険者でしかない。

 ワルトナは暗劇部員だと名乗ってはいるものの、その後ろに誰がいるのかまでは伝えていないのだ。


 当然それは意図的なものであり、決定的な切り札として用意していたものだ。

 そんな取って置きのジョーカーをワルトナは不敵な笑みで切った。



「あぁ、良い忘れていたけど、僕らは普通の冒険者でも一般の暗劇部員でもないよ」

「……?そうなのですか……?」


「そもそも、暗劇部員には12歳じゃなれないんだけど、そんな無理を押し通せる強力な後ろ盾がいるからこそ、僕は暗劇部員を名乗っている訳だ」

「……たしかに、冒険者経歴は詐称のしようがありません。それを押し通せる御方がいらっしゃる……?」


「そうだとも。僕の後見人はね、大教主・ディストロイメアー様。冒険者のまとめ役であり、組織図の上では指導聖母の上位者でもある御方だ」

「……。マジかよ、やっべー……」



 えっ。いきなり口調が変わったんだけどッ!?

 ここの住民は、錯乱すると壊れる特性でもあるのか!?


 ヤミィールに釣られて錯乱しそうになったワルトナは、こっそり太ももをつねって意識を覚醒。

 これは敵の攻撃だと思え!と平常心を取り繕う。



「ちなみに、この食べキャラなリリンサちゃん12歳は、鏡銀騎士団の一番隊副団長にして、剣皇シーラインの直弟子。さらに、伝説級の魔導師『黒魔導主義(ブラッククロニクル)・エアリフェード』様と、人類最強の肉体『幽玄なる筋肉(ボディファントム)・アストロズ』様の直弟子でもある!」

「……うっわ。聞いたことあるー。おほん、確か、レベル99999の至高なる御三方ですね……」


「そういうこと。そういった裏事情を含めていいのなら、指導聖母の一人や二人どうとでも出来るんだよね!」



 そして、ワルトナは最後の仕上げとして他力本願に頼った。


 どれだけ実力を見せようとも、あれだけ巨大なドラゴンを倒そうとも、ワルトナは12歳であり愛くるしい見た目なのは変えようがない事実だ。

 理不尽すぎる悪辣な手段を用いて策謀しようとも、最終的には舐められる事が多く、だからこそ他人の名前を使わざるを得ない。


 なお、ワルトナは出来るだけ早く身長が伸びるように牛乳を好んで飲んでいるが、まだ成長期は来ていない。



「……そのような強力な後ろ盾があるのですか。羨ましい限りですね……」

「で、僕の部下になるというのなら、この後ろ盾がまるっと手に入っちゃうんだよねぇ!」


「……偉大なるお方が、わたしを守ってくださる……?」

「そういうことです!そして、本日は、なななーんと!医療支援として連鎖猪の角100本に加え、支度金5億エドロもプレゼント!!」


「……し、支度金までもらえるのですか……?」

「さらにさらにぃ!領地を守護する人員の、ナキ、シルストーク、エメリーフ、ブルートに譲渡した装備もタダでお付けしちゃいます!実はこの装備、通常価格でどれも10億エドロを超える商品となっております!」


「……そ、それはお得ですね……」

「そうです!これは本日限りのビックチャンス!お一人様限定でのご提供となりますので、契約はお早めにどうぞ!」


「……ど、どうすればいいのですか?……」

「簡単ですよ!この契約書に自筆でお名前を書いていただき、捺印を押して頂くだけ!後の面倒なお手続き等は、僕が負担いたします!」


「……あわわわわ、ペン!ペンがどこかにあったはず……」

「はい、どーぞ。ここに出来るだけ大きく名前を書いてくださいねー。ハンコはここに」



 そうして、ワルトナが何食わぬ顔で取り出した契約書にヤミィールはサインをした。

 その書面は、不安英機構を統べる三人の権力者の内、大聖母・ノウィンと大教主・ディストロイメアーの名が入った正式なものだ。


 自分の命の保障と安らかな生活を、権力と引き換えに売り飛ばしたヤミィール。

 そのついでに、10億エドロの資産価値をもつ武器を手に入れた、ナキ、シルストーク、エメリーフ、ブルート。

 この5名は、訪れるであろう明るい未来を察して朗らかに笑いあった。


 ……なお、その横では「……私達の借金は帳消しにされないのか?」「結局、拙僧の罪は許されたのでしょうか?」と、複雑な表情でソクトとモンゼが唸っている。


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