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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」

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第4話「嘘と真実」

「なんだよお前ら!嘘ばっかりつきやがって!!」



 ワルトナに夢と希望を魅せられたシルストーク達は、大人達に大爆笑され、現実に戻ってきた。

 その目には薄らと涙すら浮かび、まるで迷子の子犬のようにションボリしている。


 それでもリーダーとしての自覚があるシルストークだけは、必死になってワルトナに抗議。

 そして、それを待ち構えていたワルトナは可愛らしく微笑んで、「負け犬だねぇ、遠吠えだねぇ」と呟いた。



「僕の言った事のどこら辺が嘘だって言うんだい?」

「全部だよ!!連鎖猪なんてここら辺にはいないし!いたとしても倒せない化物だって言うし!肉だって、高級品だから誰も食べた事が無いんだぞ!!」


「そうかい。じゃ答えてあげよう。第一に、僕は天国に連鎖猪がいるって言っただけで、ここら辺にいるとは一言も言っていない」

「天国って、それじゃ捕まえられないだろ!」


「次にお肉の品質については、リリンが言った通りにジューシーで美味しいよ。ただ、ステーキ1枚で2万エドロくらいするけど」

「そんなもん食えるかッ!!お金を稼ぎたいって言ってるだろ!!」



 シルストークの渾身の抗議の後ろから、「そうよそうよ!」と熱い声援が飛ぶ。

 その声の主は勿論、エメリーフとブルート。

 快活なエメリーフは勿論の事、あまり喋らないブルートまでもが顔を赤く染めて声を上げている。


 シルストーク達はキョウガに大爆笑された後、他の冒険者にも話を聞いて回った。

 そして、その全てから大爆笑を貰ったシルストーク達は、あまりの屈辱にプルプルと震え、必死に言い訳をしながら逃げ帰ってきたのだ。


 だからこそ、その怒りから発せられる声は、部屋を揺らす程に響いている。

 その怒声を聞いた冒険者達が、子供同士の喧嘩を見て更に笑っていようとも、興奮してしまっているシルストーク達は気が付かない。


 やがて、冷静なワルトナは、熱い声に冷や水を浴びせる為に、冷たく言い放った。



「そもそも、キミらみたいな新人冒険者じゃ連鎖猪は倒せない。というか、戦闘開始5秒で肉塊にされるよ」

「にっ!?た、倒せるって言ったじゃん!倒したことあるって言ったじゃん!!」


「僕らは倒せるよー。なにせ大型新人だからね」

「嘘つくな!キョウガさんでも難しいって言ってたぞ!!」


「レベル2万じゃねー」

「お前ら1万しかないだろ!」


「僕らはほら、装備品がそこらの冒険者とはまるで違うしさ」

「う!確かにカッコイイ服を着てるけどさ!でも服じゃん!というか、武器持って無いじゃん!!」


「やる気になったら素手でも別に……おっと」


「やぁ、シル。何を騒いでいるんだい?」



 幼い子供達の声を遮って登場したのは、金髪の青年だった。

 それは、整った顔立ちの優男。

 身長も170cm程とリリンサやワルトナと比べれば随分と高いが、成人男性としてみれば平均値といった所だ。

 左右の腰にはミドルソードが一本ずつ下げられ、磨き抜かれた鎧は金属の光沢を発している。


 彼の名前は『ソクト・コントラースト』。

 ワルトナとリリンサが狙う、今回の獲物その人である。



「聞いてくれよソクト兄ちゃん!アイツらが嘘ばっかり言うんだ、……です!!」

「おっと、喧嘩は良くないぞ。それにしても見たこと無い子たちだね。もしかして孤児院の新しい仲間かい?」


「違うよ!こんな奴ら仲間じゃないですよ!敵だ、敵!!」



 まるで使い慣れていない、シルストークの歪な敬語が舞う。


 シルストーク達は冒険者の仲間入りをした時に『先輩冒険者には敬意を持って接する事』と、ソクトと約束している。

 それが、シルストーク達の後見人になる時に出した唯一の条件であり、子供だからといって、乱雑な言葉を使う事を禁じているのだ。


 それは、年功序列ならぬ、レベル序列を最重要視する冒険者としては当然の義務であり、当たり前の常識だ。



「ふむ?レベルが1万もあるんだね、すごいじゃないか。ダメだぞ、シル。先輩は敬うって約束だろう?」

「だってコイツらは嘘付きなんですよ!キョウガさんでも倒せない化け物を倒せるって言うんです!」


「『陣雷ジンライ強牙キョウガ』が倒せない?そんな生物なんて限られているんだが……。一体なんの生物の話をしていたんだい?」

「連鎖猪っていう、化物イノシシです!」


「はっはっは!それはあり得ない話だな!はっーーはっは!」



 シルストークの告げ口を聞いたソクトは、盛大に笑い始めた。

 まるで幼い子供に「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」とでも言われたかのような、余裕のある大人の笑み。


 それを受けて再び赤くなりかけたシルストークは、今回笑われているのは自分達ではないと気が付き、逆にニヤリと頬笑みながらリリンサとワルトナを見た。

 そんな物を気にも留めずに、リリンサの平均的なジト目と、ワルトナの悪い笑顔はソクトに向いている。



「こういった危険動物図鑑を持っていないキミ達に、私が教えてあげよう!」

「……。そんなもの普通に持――もふふ!」

「はーい。リリンちゃん、おやつの時間ですよー」


「連鎖猪という化物は危険度ランクBであり、群れの大きさによってはランクAに達する事もある特定危険害獣なんだ」

「もぐもぐもぐ……」


「もし目撃情報があったのだとしたら、その高い戦闘力と討伐の難しさから、僕ら最上級冒険者だけで行う緊急依頼となる程だよ。それで、誰が連鎖猪を倒せるって?」

「もぐもぐ、もふふ!」


「はーはっはっは。冗談が上手だなキミ達は!はーっはっはっは」



 その笑い声に、割と動じない性格のリリンサですら、ちょっとイラっときている。

 視線だけで、「ワルトナ、爆裂させていい?」と訴えたリリンサは、「ダメに決まってるだろ、このお馬鹿!」という視線を返され沈黙。


 それでも納得がいかずに、気分転換にクッキーを消費してゆく。



「こんなに可愛らしいお嬢さん達が連鎖猪を狩るってのは、ちょっと無理があるぞ。あと10年くらい頑張らないとな!はーはっはっは!!」

「……むぅ。ブチ転がしもふふ!」


「嘘はダメだぞ。そんなの信じる大人はいないし、もっとこう、例えばそうだな、ウマミタヌキくらいなら信じたかもしれないな!」

「……タヌキにすら負けそうな人に言わもふふ!」


「さて、キミらは孤児院の子じゃないと言ったね?なら、どこから来たのかな?」



 ソクトがリリンやワルトナに向けているのは、誠実で優しげな笑顔だ。

 だがそれは、強者が弱者に向ける、絶対的優位性からくる嘲笑を多分に含んだもの。


 ソクトは、この恐ろしき少女達を無意識の内に見下しているのだ。

 どうあがいても勝ち目がまるで無い、レベル5万を超える化物へそんな顔を向ける。

 ……それは、許されざる暴挙。


 じっとりとしたジト目で出迎えているリリンサは、ぼそり。と魔法を唱えた。

 この場の誰もが理解できない、ランク7の魔法『第九識天使ケルヴィム』。

 それをワルトナと自分を対象に発動し、秘められた効果を適用したのだ。


 認識を共有するこの魔法は、本来、仲間同士で視野を共有し戦略を優位に進める為に使う。

 そして副次効果として、声を出さずに心で念じるだけで、会話が可能となるのだ。



『ねぇ、ワルトナ』

『なんだい、リリン』


『レベルが3万しかない』

『うーん。どうみても3万だねぇ』


『ちょっと低過ぎると思う。こんなの英雄じゃない。雑魚!』

『雑魚は流石に失礼さ。稚魚くらいはあると思うよ』


『稚魚なんだ。じゃあ縄で縛って、境界を越えた奥の森にリリースした方がいいと思う。育つかも?』

『育つねぇ。美味しいごはんを食べた野生動物がすくすく育つねぇ』


『……。じゃあどうするの?こんなのドラゴン退治につれてっても食べられるだけだと思う!』

『取りあえず話を聞こうかな。餌にするかどうかは、それから決めよう』



 心の中でボコボコにブチ転がした二人は、若干すっきりした表情でソクトのレベルを改めて見た。



 ―レベル31249―



 そこには、周囲の人と比べても抜きんでたレベルが浮かんでいる。

 リリンサ達が隠しているレベルを除いた最高値なそのレベルを見て、リリンサは再び小さくため息を吐く。


 そしてワルトナは、年相応の可愛らしい笑顔を咲かせ、ソクトに話しかけた。



「こんにちは、英雄ソクト・コントラースト様。僕の名前はワルトナって言います!」

「おや?しっかり挨拶ができるんだね。偉いぞ!」


「それで、あの、お願いがあって……その、僕らを一緒に冒険に連れて行って欲しいんです!お願いします!!」

「はっはっは!急にどうしたんだい?」


「僕らはソクト様の凄い噂を聞いて、その実力を見てみたいなって、遠くの街から頑張って来たんです!」

「一緒に冒険に?それは……メリットが見当たらないな」



 その否定的な声を聞いて、ワルトナの鋭い視線が光る。


 おや?断られそうだね?

 まぁ、こんな幼女な二人組を連れて森に入るなんて、常識的では無いし。

 というか、ここで良い反応をされても困るっちゃ、困る。

 それだと、馬鹿かロリコンのどっちかだし。


 レベルはさておき、案外まともに冒険者をしてるようだ。

 うーんこれは、すっごくやりやすいねぇ。

 ……簡単だねぇ、チョロいねぇ!



「荷物運びでも何でもします!僕らは超有名でカッコ良くて、凄腕の英雄って噂のソクト様と冒険がしたいんです!」

「ふむ?その細い腕で荷物を運べるとは思えないが……。そう言えば、キミらの荷物は随分と簡素だね?リュックサックが無い以前に、武器になる様なものすら持っていないようだが?」


「あ、それは大丈夫です!呼び出せるんで!!」

「えっ。呼び出せる?まさか……」


「あ、リリンは召喚魔法の使い手なんです!!へへ、すごいでしょ!」

「しょ、召喚魔法だとッ!?それは本当なのか!?」


「はい。リリン、剣を召喚できるよね?」

「もふふ!」


「出来るって言ってます!」



 リリンサは口にクッキーが詰め込まれている為にくぐもった返事しかできなかった。

 が、それでも手を上げて『出来る!』と意思表示をしている。

 なお、ワルトナは、どんな反応をリリンがしても「出来るって言ってます」と言うつもりでいた。


 そして、その声を聞いて目を見開いた者がいる。

 その筆頭はソクト。だが、彼だけではない。

 シルストーク達新人冒険者を除く、リリンサとワルトナの会話を盗み聞きしていた冒険者全員が、「な、なんだとッ!?」と絶句してるのだ。



「そ、それは本当の事なのかね!?」

「え、ソクト兄ちゃん、どうしたんだですか?」


「シル。召喚魔法というものは、僕ら冒険者が喉から手が出る程に欲しがるものなんだよ」

「えっ、そうなの!?」


「そうだ。召喚魔法や転送魔法というものは、五大魔法の外側にある『虚無魔法』というものに属している」

「なにそれ、リーフの使える水や光魔法と何が違うの?」


「まず違うのは、その利便性。召喚魔法の使い手がいるだけで、そのパーティーの実力が倍になると言われている」

「倍だって!?」


「そして最も違うのが、魔法を覚える為の難易度が高いんだ。魔法というものは極論、原典呪文さえ唱えてしまえば誰でも使う事が出来る。だが、『虚無魔法』と『星魔法』と呼ばれる二つは、ありえないほど長い呪文が要求されるんだ。だから、それを実用レベルで使える人物は、優れた魔法技術を持つという事になる」



 魔法には、『火』『水』『地』『風』『光』の五大攻撃魔法と、『身体強化バッファ』『防御魔法』『回復魔法』のサポート魔法に分けられる。

 だが厳密には、これらの他に特別な魔法が存在するのだ。


虚無きょむ魔法』……時間、空間、闇を支配する魔法であり、武器の召喚や空間に物を収納しておく魔法などが属している。そして高位のものとなれば、敵の攻撃をエネルギーにして奪い取り、逆に放出する大規模戦略魔法などもある。


ほし魔法』……この星が持つ力を擬似的に再現し代行する魔法であり、他の魔法で行えることは星魔法でも模倣できる。だが星魔法の真価はその特殊性にあり、敵から魔法の使用権限を奪い取り使用不可にする等、極めれば他者の追随を許さない。


 虚無魔法と星魔法を扱える者は、魔導師としての極地であり、絶対。

 だが、この力を使うには、類稀なる才能が必要とされる。


 魔法には原典呪文という、確実に魔法を発動させるための原文がある。

 その原文を間違えずに読み、必要な魔力さえ用意できれば、魔法は誰でも使えるのだ。


 それなのにランクの高い魔法が普及しないのは、原典呪文が長すぎるからだ。

 呪文はランクが上がるにつれて長くなり、大規模戦略級魔法(ランク9)ともなれば、100ページを超える魔導書となる。

 魔導師はその原典呪文から言葉を選び出し、戦闘で使える短さの呪文を作って初めて、その魔法を習得した事になるのだ。


 そして、虚無魔法と星魔法は原典呪文が入手しづらく、その長さは膨大。

 同じランクの攻撃魔法と比べ2倍以上も長い呪文だからこそ、自分用の呪文を創り出すのは容易ではなく、現実的な使用が出来なくなってしまう。


 そんな魔法を、リリンサは使えると言った。

 その驚きたるや、歴戦の冒険者人生が揺らぐほどの特大のニュースなのだ。



「もう一度聞くが、本当に召喚魔法が使えるのかね!?」

「使えますよー。召喚契約履行サモンウエポンでいいんですよね?」


「その魔法名が出たと言う事は、本物なのか……?」



 ソクトは、様々な感情の中で揺らいでいる。

 そして、一番大きい感情は、疑心。



 この少女達は連鎖猪を倒せると嘘をついた。

 だから嘘だと判断するべきなんだろうが、なんだこの、自信に満ち溢れた表情は?

 ……確かめなければ。

 もし仮に、召喚契約履行が使えるのであれば、なんとしてでもこの子を手に入れなければならないのだから。



 そんな複雑な感情を宿したソクトの瞳は、リリンサへと向けられている。

 それは、周囲の冒険者たちも同じ事だ。

 数え切れないほどの視線を受けながら、リリンサとワルトナは沈黙している。


 いや、心の中で密談していた。



『リリン、ここからは本当に新人冒険者を演じるよ』

『なんでなの?あんなの英雄じゃないし、放っておけばいいと思う!』


『その方が面白いからだねぇ。それと、しっかり実力を見極めて英雄の子孫かどうかを判断しないとね』

『……面白いんだ。なら良いと思う!……で、杖じゃなくて剣の方なの?』


『そうそう。魔導師二人だと後衛が二人って事になっちゃうだろ?それだと一般常識から離れちゃうしさ』

『それは一理あるね。分かった。今から私は剣士になる!連鎖猪も一刀両断!!』


『それがいいねぇ、確実だねぇ。キミが杖を持つと色んなもんが爆裂するし、うっかりすると僕の策略も木端微塵さ!ということで、キミは今から前衛職。新人剣士・リリンだ!』

『ん。頑張る。そういう縛りプレイは面白い!』



 やがてその沈黙に耐えられなくなったソクトは、優しげな笑みのままリリンサへ語り掛けた。



「それが本当なら凄い事なんだが……。申し訳ないが、実際に召喚して見せてくれないか?」

「《サモンウエポン=殲刀一閃せんとういっせん桜華おうか!》


「早っ!なんだ今のッッッ!?!?」



 ソクトは、二通りのパターンを予想していた。


 一つは、『やっぱりできません』という嘘だったパターン。

 もう一つは、どこからか原典呪文書を取り出しての朗読劇。

 どちらにせよ実践で使える物ではないはずだと、8年の冒険者歴が語っていたのだ。


 だが、リリンサは無慈悲に召喚した。

 想像を絶する方法。

 呪文が短いどころか、まったく無いという、無詠唱な(理不尽すぎる)方法で。


 起こってしまった緊急事態に着いて行けず、冒険者一同は目玉が飛び出してる。

 それでも、最高レベルのソクトだけは素早く立ち直り、引きつった笑みを浮かべた



「は……ははは。詠唱破棄で、武器召喚……だと……」

「出してって言われたから出しただけ。こんなの当たり前にできもふふ!」

「リリンご褒美だよー。食べてなー」


「す、すごいじゃないか……」

「もふふ!もふふふふ!」

「ということで、リリンは召喚魔法が使えるんです。特技なんだよねー?リリン」


「特技で済まして良いもんじゃない、よな……?」

「もふふ!もふふふふ!!」

「リリンも、「そうだ。すごいでしょ?」って言ってます!」



 ワルトナは勝利を確信した。

 そして、年相応の可愛らしい満面の笑顔で、歴戦の悪徳商人以上に嬉々としながら、躊躇なくトドメを刺しに行く。



「あの、それで、荷物持ちでも何でもしますから、僕達を冒険に連れて行ってくれませんか!?」


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