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ミステリーリレー小説2021『名探偵ミナミ・セイヨウの誕生』  作者: ミステリーリレー小説2021「学園ドラマ×ミステリー」参加者一同
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第17話 知る方法 (葵紀ノ未)

 正陽は、東夜鈴に会う方法を、礼拝堂へ赴く以外に知らない。

 しかし、かの礼拝堂は放火の疑いのため立ち入りが禁じられている。彼女のクラスがわかれば教室へ会いに行くこともできるが、あいにく、ひとつ学年が下であることしか知らなかった。


 東夜鈴について、知らないことが多すぎる。


 身に降りかかった不幸や事件に関することに限らず、単純に、ただこの事実が非常に面白くない。

 口にしてはならない事柄がいくつかある、この青博館高校。

 触らぬ神に祟りなし。無暗にわからないことを聞きまわるのは、祟りのように不幸な目に遭ってばかりいる身からすると、避けるべきなのは考える必要もなかった。聞ける相手は、限られているのだ。

 ノロノロ運転でぼんやり考え事をしていたが、見慣れた背中を見つけた。彼の名前を呼び、ペダルに体重を乗せた。


「涼介ーっ!」


 正陽の声に気がついたらしく、彼は振り向いて足を止めてくれた。

朝から必死に自転車を走らせたおかげで、普段の運動不足がたたり軽く息を整える羽目になった。


「はよー、朝からどうした?」


「ん、おはよう。ちょっと頼みがあって。東夜さんの家、知ってるでしょ?」


「ま、まさか……絶対にダメだと思う」


「しないよ!? 健全な高校生に何を勧めてるのさ?」


「別に何も勧めてはいないんだけどね。それで、何?」


(こいつ……)

 何か言ってやろうと思ったが、〝何を〟と明確にしなかったところに涼介の良心を見た。不満を飲み込んで、代わりに話題を戻した。


「少し聞きたいことがあるだけ」


「好きな人いますかー、って?」


「そういうのじゃない! とにかく、小さいころから知ってるなら家も近いだろ?」


「んー。まあ、近いっちゃあ近いけどさ。昨日、何かあったのか?」


「何かって?」


「礼拝堂が放火されたのって、時系列を考えるまでもなく、お前が散々なことになったその日の夜だったろ?」


「まさか、涼介も僕を疑ってるのか?」


「いや、別に。純粋な疑問だよ。鈴の家の場所を聞くタイミングなんか何度もあったろ? なんで今なのかなって。それだけだよ」


「聞きたいことができたから。恋愛系のことじゃなくて、ちょっと、あの……」


「例えば?」


「……涼介に聞けば教えてくれんの?」


「さあね、どうだろ」


 隣を歩く友人の顔を伺う。のんきな欠伸からは、何かを企んでいるようにも隠そうとしているようにも見えなかった。

 恋敵(仮)としては納得いかないところだが、彼に聞くのも悪くないかもしれない。

 聞きたいことはいくつもある。が、ナツの正体や鈴に対する気持ちは誤魔化されると察して、答えが得られそうな問いを選んだ。


「ベルって、知ってる?」


「ディズニーの?」


「いや、違うけど。でも、人ではある」


「ベルって人……? ああ、華ちゃんのことか」


「え? 鈴ではなくて?」


「ニックネームにしてはひねり無さすぎるっしょ、それ」


「別にいいだろ。それで、華さんって誰?」


「吹部の卒業生でパートリーダーだった人だよ。今でも集合を知らせるときにベルを使うんだけど、そのベルが少し古いやつで鳴らすのにコツが必要だったんだってさ。

んで、一番うまく鳴らせたのが華ちゃんだった。

だから、ニックネームがベルになったんだよ。フルートにはベルが無いのにね」


 曖昧に聞いたにもかかわらず、最初から人であると断定した涼介の答えを信じることにした。

 明言しないが、華こそ、涼介の兄と同級生だった東夜鈴の姉に該当するのだろう。正陽はそう考えた。


「で」


「ん?」


「鈴に他に聞きたいことは? この調子だと、悪いけど東夜邸を教えるのはやだなー」


「いや、もういい。それよりもさ、その華さん? す……東夜さんのお姉さんと、涼介のお兄さんって同級生って言ってたよね? 卒業アルバム、見せてもらうことってできる?」


 想定外の質問だったのだろう。一瞬だけ目を見開くと、涼介は曖昧に頷いた。


「兄貴の卒アルなら、まあ、たぶん捨ててないと思うけど……お? 鈴の次は華ちゃん?」


「そういうのじゃなくて、こう……知的好奇心?」


「は?」

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