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第63話

 朝霞の力が「透過」になった原因は、彼女の育った環境にあった。


 朝霞の父親は、ずっと男の子を熱望していた。そして産まれて来たのが娘と知った父親は、朝霞を息子として育てることで、自分の望みを叶えようとした。


 朝霞の父親は、娘にりきと名付け、彼女を息子として扱った。

 男言葉を覚えさせ、スカ-トなど女物の服も一切与えなかった。


 だが5年後、息子が生まれたことで事情が変わった。

 それまで優しかった父親の愛情は、すべて弟に注がれることになり、朝霞は見向きもされなくなってしまったのだった。


 それでも朝霞は、なんとか父親の気を引こうと、それまで以上に男らしく振舞うようになっていった。しかし父親の気持ちが朝霞に向くことはなく、それどころか同級生の反感を買うきっかけになってしまったのだった。


 そして、その反感がイジメへと発展するのに、さして時間はかからなかった。

 以前、小鳥遊が言っていた、永遠長が助けた同級生というのは、実のところ朝霞自身のことなのだった。


 そして永遠長の力でイジメがなくなった直後、父親が亡くなった。

 父親の死とともに男でいる理由を失った朝霞は、それまでの男口調を改めた。

 誰よりも女の子らしく振舞い、周囲に溶け込むことを最優先に考えるように心がけた。 

 2度と、自分が標的にされないために。


 そうして、うまく周囲に溶け込むことで、穏やかな日々を取り戻した朝霞だったが、母親が再婚したことで再び歯車が狂い出した。


 母親の再婚相手は、最初こそ優しかったものの、すぐにその凶暴な本性を現した。すぐに暴力を振るい、母親は生傷が耐えなかった。それでも生活能力が乏しかった母親は、その暴力に耐え続けた。


 そしてその毒牙は、やがて朝霞にも向けられるようになった。


 中学2年の秋、朝霞は義父に処女を奪われた。そして、その後も義父は朝霞の体を何度も求めてきたのだった。

 母親も、そのことに早くから気づいていた。気づいていながら、見てみぬふりを続けていた。


 結局のところ、母親が義父の暴力に耐えていたのは、生活能力のない自分を養ってもらうために過ぎなかった。そのときの母親の様子から、朝霞はそのことを思い知らされることになったのだった。


 それでも朝霞は耐え続けた。まだ生活能力のない自分と、幼い弟を守るために。


 自分を失い続けながら……。




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