第33話
「はい?」
この永遠長の奥の手は、寺林にとって想定外過ぎるものだった。そして理解したときには、もう遅かった。
永遠長の体に打ち込まれていた杭が消し飛び、切り放されていた両手足が胴体へと再結合されていく。
永遠長の体内には創造主の力が漲り、内からほとばしり出る神格は、寺林をはるかに上回っていた。
「どうやら、うまくいったようだな」
永遠長は立ち上がると、手足の感覚を確かめた。
この奥の手は永遠長にとっても賭けだった。
今の自分では寺林に勝てない。ならば「今の」自分でなくなればいい。
そして、その最善の方法として、永遠長が考えたのが「創造主の力を付与すること」だった。
「おまえが俺より強いから勝てないなら、そのおまえより強い存在になればいい。ただ、それだけの話だ」
永遠長は右手を上げると、
「来い! アルカミナ!」
モスから魔剣を呼び寄せた。そして、
「再現! 召喚武装!」
5体の召喚獣を再装着すると、
「顕現! 疾風迅雷!」
魔剣の力を発動。全身に雷光を帯びた。
「行くぞ」
戦闘態勢を整えた永遠長は、まさに光の速さで寺林に切りかかった。
「く……」
寺林も剣を召喚し、2人の剣は両者の狭間で激突した。結果、寺林は剣もろとも胴を切り裂かれてしまった。
「この!」
寺林は、切断された下半身を再結合しつつ「切断」の力を最大出力で発動。空間をも切り裂く、無数の斬撃が永遠長へと放たれた。
これに対し、永遠長は魔剣を一閃。すべての次元刀を切り払ってしまった。
「顕現! 雷轟電撃!」
永遠長は魔剣を振り上げた。すると、無数の稲妻が寺林へと降り注いだ。
「……ホント、デタラメチ-トだね、君」
圧倒的劣勢に立たされながらも、寺林の目はまだ死んでいなかった。
「俺はチ-トじゃないと言っている」
永遠長は不本意そうに言い返した。
「でも、まだ勝ち誇るのは早いんじゃないかな」
寺林はそう言うと、リャンの元へと瞬間移動した。そしてリャンの石化を一瞬で解くと、彼女の頬に優しく触れた。
「リャン、君の力を私に貸しておくれ」
「はい、魔神様」
二つ返事で応じたリャンを、
「いい子だ、リャン」
寺林は抱き寄せた。
「リャン、君はこれから私と1つになるんだ。嬉しいだろう?」
「はい、嬉しいです、魔神様」
リャンは満面の笑みを浮かべると、自ら寺林に身を委ねた。そしてリャンを体内に取り込んだ寺林は、
「創造主化、承認」
リャンの「承認」の力で創造主の力を得たのだった。
全身を巡る創造主の力を感じながら、寺林は再び永遠長と対峙した。
「これで条件は五分、いや、神の私が創造主様の御力を得たのだから、もはや君に勝ち目はない。しかも」
寺林は永遠長を指さした。
「人間の君の体は創造主様の力を無理矢理受け入れたことで、オ-バ-ヒ-トを起こしている。激痛も相当なものだろうに、よくすました顔で立っていられるものだ。まったくもって、君の不屈の精神には感心するよ」
寺林の言う通り、永遠長の体は絶えずどこかの血管が千切れ、裂けた筋肉から血が流れ出ていた。
「だが、今の君は膨らみきった風船と同じだ。いくらやせ我慢しようと、限界がくれば爆発する。私は、ただそのときを待っていればいいというわけだ」
「……そう思うなら逃げ回ればいい。できるものならな」
永遠長は魔剣を構えた。
「そんなわけないだろ」
寺林は神界から己の武具を呼び寄せると、その身にまとった。
「同じ創造主様の御力を得ておきながら、神が人間に背中を見せたとあっては、それこそ神々の笑い物になってしまうよ」
寺林は永遠長へと切り込んだ。
これを永遠長も迎え撃ち、2人の剣が再び両者の間で激突した。結果、力負けしたのは、
「なにい!」
またしても寺林のほうだった。
「バカな!」
寺林は再び切りかかった。しかし、今度も弾き飛ばされたのは寺林だった。
「な、なぜだ?」
付与と承認の違いはあるが、条件は自分も永遠長も同じはず。いや、神の肉体を持っている分だけ、自分に部があるはずだった。
「これなら、どうだ!」
寺林は最大限の「切断」力を込め、永遠長へと剣を振り下ろした。それは大地はおろか、星さえも切り裂く力を持った、寺林最強の一撃だった。しかし、
「カオスブレイド!」
永遠長の剣は、その一撃すら粉砕してしまった。
「な……」
唖然とする寺林の胸に、永遠長は右手を叩きつけた。そして、
「回帰!」
回帰の力で寺林とリャンを分離させたのだった。そして、
「嬉しいだろ、リャン」
リャンとの融合直前まで時間を巻き戻された寺林は「地上にいたはずの自分とリャンが空にいる」「永遠長が目の前にいる」以上の2点から、自分たちが永遠長に「回帰」をかけられたことを瞬時に悟った。そして同時に、なぜ神である自分が人間でしかない永遠長に遅れを取ってしまったのかを。
「増幅か」
永遠長は創造主様の力を、おそらく木葉の「増幅」で倍増させていたのだ。創造主様から得た力が同じであれば「増幅」でパワ-アップした分だけ、永遠長が自分を上回るのは当然のことだった。
「私としたことが」
すべては、創造主様の力を得ただけで全能になったと思い上がった、自分の慢心が招いた結果だった。
「冥府開門!」
永遠長の声に呼応して、地面に闇が広がっていく。そして、
「神力封印!」
永遠長は寺林に右手を突き出すと、
「地獄葬送!」
光の洗礼を浴びせたのだった。
「……神の力を封印したうえ、地獄に落とすとか。ホント容赦ないね、君」
苦笑する寺林に、
「魔神様!」
リャンが飛びついてきた。
「リャン、君は逃げなさい」
寺林はリャンの頭を優しく撫でた。誰からも認められることのなかった、可哀想な子。
だが生きていさえすれば、いつかこの子も自分のことを理解してくれる存在と出会えるかもしれない。その日を迎えさせるためにも、この子を道連れにするわけにはいかなかった。
それが寺林にできる、リャンへの最後のはなむけだった。しかし、
「嫌です」
リャンは迷わず拒絶した。それは、これまでの彼女からは考えられないことだった。
「わたしの居場所は、魔神様のお側だけです。どこにも行きません」
「リャン、いい子だから」
「嫌!」
リャンは寺林にしがみついた。
震えながらも決して離れようとしないリャンを見て、寺林はあきらめのタメ息を吐いた。
「……本当に君はいい子、いや、いい女だ」
寺林はリャンに優しく微笑むと、彼女を抱きしめて口付けた。
そして2人は互いの存在を確かめ合いながら、奈落の底へと落ちていったのだった。




