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第156話

 半壊した市街地のなか、


「いたぞ! トワナガだ!」


 永遠長の接近に気づいた「ユグドラシル」が迎撃すべく総攻撃をかける。それに対して、


「リフレクトドライバー」


 永遠長は突き出した右手の先に円錐型の「反射」を形成すると、


「デストロイモード!」


 さらにドリル部分に無数の刃を増設して「ユグドラシル」へと突っ込んでいく。そして凶悪さを増した「リフレクトドライバー」の前に、


「ぶへあ!」


 ある者は突き刺され、


「ギャア!」


 ある者は切り裂かれ、


「うわあああ!」


 ユグドラシルメンバーは次々とリタイアしていく。その中にあって「ユグドラシル」のギルドマスターであるゴルツ・アルバートだけは、永遠長の「リフレクトドライバー」を食らってもなお、リタイアを免れていた。


 直撃を避けられたわけではない。凶刃が直撃する瞬間に、ヴォイド・ルーラーの特殊能力である「アストラル化」によって幽体化することで、ダメージを免れたのだった。

 そして、この状況はアルバートにとって、永遠長を仕留める千載一遇の好機となっていた。


 殺戮マシーンと化し、手当たり次第に敵を血祭りに上げていく永遠長は、まだアルバートがアストラル化したことに気づいていない。加えて、永遠長の「リフレクトドライバー」は、前方の敵に対しては無敵だが、背後は無防備に近い。


 前方の敵に気を取られ、なおかつ自分のことを倒したと思い込んでいる今の永遠長なら、背後を取れる!


 アルバートは永遠長の背後に猛迫すると、


『リタイアしろ!』


 絶対恭順を発動させた。


 実力で永遠長に勝つ必要などない。要は、どんな手段を使っても永遠長をリタイアさせさえすれば、それでいいのだった。

 絶対恭順はアストラル化した状態からでも使えるし、同じスキルを持つ相手に対しても効果を発揮する。


 勝った!


 アルバートは自分の勝利を確信した。しかし、永遠長がアルバートの命令に従う気配はなく、


 なに?


 逆にアルバートのほうが腰袋から異世界ナビを取り出すと、


 ま、待て!


 自分の意に反してリタイアボタンを押してしまった。

 永遠長の「リフレクトアーマー」の効果であり、功を焦ったアルバートは、その存在に気づかなかったのだった。そして「ユグドラシル」が「リフレクトドライバー」によって狩り尽くされたところで、


「!?」


 永遠長の背後にダイヤモンド化した巨人が出現した。


 現れたのは「ドミニオン」のギルドマスター、ガブリエル・ヒューズであり、彼は渾身の力で永遠長の体をホールドした。

 普通であれば、それだけで致命傷となる強襲攻撃。しかし永遠長には、かすり傷1つついていなかった。今回も「リフレクトアーマー」によるものだったが、ヒューズにとっては、それも折り込み済みだった。直後、動きの止まった永遠長の前に、同じ「ドミニオン」のハリー・ウェルズが瞬間移動で現れる。そしてヒューズは永遠長へと左手を突き出すと「拒絶」のクオリティにより「反射」を相殺。しかる後、右手に握る剣で永遠長の胸板を貫くと、


「カース・デストラクション!」


 必殺技を叩き込んだ。


「今だ!」


 奇襲に成功したウェルズたちは、素早く永遠長から飛び退き、それに合わせて周囲に潜んでいた「ドミニオン」が永遠長へと総攻撃をかける。

 攻撃魔法と攻撃スキルが、容赦なく永遠長に降り注ぎ、爆炎と爆煙が巻き起こる。

 

 持てる限りの力を出し尽くした後、


「うおおおおお!」

「やったぜ!」


 ドミニオンメンバーから歓喜の声が上がる。


「おまえのおかげだ、ヒューズ」


 ウェルズは、最大の功労者であるヒューズを称えた。


 ヒューズのクオリティは「拒絶」であり、その力で「反射」の力を拒絶することで、実質「反射」を無効化する。成功するかどうかは賭けだったが、ウェルズたちは見事その賭けに勝ったのだった。


「あんたがトワナガを抑えてくれたからだ。オレ1人では奴に触れることさえできなかったよ」


 謙遜ではなく、ヒューズの本音だった。


「オレたち全員の勝利だよ。だろ、みんな」


 サブリーダーであるオズボーン・メイフィールドが周囲に呼びかけ、メンバー全員がうなずく。


「とにかく、これで最大の障害は排除できた」


 これで、また一歩、オレたちの夢に近づけた。


 ウェルズが安堵のため息をついた直後、彼の視界が炎に覆われた。突然、体が燃え上がった事によるものであり、それは他のメンバーも同じだった。さらに、


「カオスブレイド!」


 爆煙から飛び出した漆黒の刃が、炎に身を焦がす仲間たちを容赦なく切り裂いていく。


「バカな……」


 さっきの総攻撃は、文字通り全員の総力を結集したものだった。それを食らって生きているどころか、


「無傷、だと?」


 爆煙から現れた永遠長の体には傷1つなかった。それこそ、ヒューズに貫かれたはずの胸の傷さえも。


 そして、この場にいた「ドミニオン」メンバーを炎と漆黒の刃で全滅させたところで、永遠長は最後に残ったウェルズをロックオンした。


「ば、化け物め」


 ウェルズも永遠長のカオスブレイドを受けたのだが、炎によるダメージを抑えようと全身を鋼鉄化していたために助かったのだった。


「こいつを倒せば、オレたちの夢に大きく近づくんだ。異世界に黒人の国を作るっていう、オレたちの夢に」


 ウェルズは自分に言い聞かせるように、何度も繰り返した。


「黒人の国を作る。別に、それ自体を否定する気は、さらさらない。だが」


 永遠長はウェルズを射すくめた。


「作りたければ地球で作れ。なぜ、おまえたちの自己満足のために、異世界人が領地を明け渡さなければならんのだ。そんな理由など、異世界人にはない」

「モスで自分の村を作った奴が、偉そうに言うな!」


 ウェルズは声を荒げた。


「あれは「王女の婚約者」という役に見合う肩書を持たせるために、モンスターの巣窟だった魔境を領地ということにしたに過ぎん」


 それが村と呼べるものにまで整地されたのは、ひとえに永遠長たちの努力の賜物なのだった。


「加えて、あそこに住んでいたのは、あくまでもモス人であって俺ではない。異世界の土地を掠め取り、私物化しようとしているおまえたちと一緒にするな」


 永遠長は言い捨てた。


「もし本当に、おまえたちが黒人の国を作りたければ、自分の国に住む白人を皆殺しにしろ。そうすれば、必然的に黒人の国となる」


 顔色1つ変えずに言い切る永遠長に、


「で、できるか、そんなこと!」


 ウェルズは鼻白んだ。


「異世界人は排除できても、白人は排除できないというわけか? 白人は、曲がりなりにも同じ地球人だから傷つけたくないが、異世界人は関わりのない赤の他人だから、どうなろうと知ったことじゃない。つまりは、そういうことだな」

「そんなことは言ってない!」

「それとも、ラノベの主人公にでもなった気でいたか? 地球で迫害されていた黒人が、異世界で自分たちの国を建国する。確かに、黒人にはウケるかもしれんな。だが、これは現実であってラノベじゃない。なぜ、おまえたちのクソ幼稚な夢物語のために、異世界人が迷惑を被らなければならんのだ。異世界は、地球で落ちこぼれた負け犬どもの、歪んだ願望を叶えるための掃き溜め場所ではない」

「き、貴様に、オレたちの気持ちをわかってもらおうとは思っちゃいない!」


 ウェルズは鋼鉄化したまま、永遠長めがけて突進した。


「切断」


 永遠長は向かい来るウェルズへと剣を振り下ろした。そして、その1撃によりウェルズはリタイアするはずだった。しかし、ウェルズの足が止まることはなく、彼の両腕は再び永遠長の体を締め上げることになった。

 永遠長の「切断」は、確かにウェルズの体を真っ二つに切り裂いた。しかし、ウェルズは空間が切り裂かれる寸前にメタル化することで、致命傷を免れたのだった。


「このまま締め殺す!」


 ウェルズは永遠長を締め上げる腕に、さらに力を入れた。

 永遠長の全身は、今も「リフレクトアーマー」で守られている。だが人である以上、永遠に力を使い続けていられるわけがない。


 自分のスタミナが尽きるのが先か。永遠長が「反射」に使っているエネルギーが尽きるのが先か。

 最後の勝負だった。


「脳筋とスタミナ勝負をする気はない」


 永遠長は右手のリフレクトアーマーを解除すると、


「石化付与」


 ウェルズに石化を付与した。


「な……」


 たとえリジッドマスターであろうと石化魔法をかけられれば石化するし、石から別の金属に変化することもできない。


「このまま石化するか、リタイアするか。好きなほうを選ぶがいい」


 永遠長の最終勧告を受けたウェルズは、


「くっそおおおおお!」


 結局最後までリタイアしなかった。

 永遠長は石化したウェルズの胴体を剣で両断すると、石化を解除した。直後、永遠長の背後で拍手が起きた。


 拍手したのは「グランドマスターズ」のギルドマスター、ケビン・ホワイトであり、


「エクセレント。見事な手際だ。実に無駄がない」


 ホワイトは笑顔で永遠長を称賛した。そして、そのホワイトの周りには「グランドマスターズ」のメンバーが勢揃いしていた。


「実は、私も無駄が大嫌いなんだ。そこで、君に1つ提案があるのだが」


 ホワイトは一瞬間を置いた後、


「このままリタイアしてくれないか?」


 軽い調子で続けた。


「君ほどの強さがあれば、わかるだろう? 我々と戦ったところで、君に勝ち目などないことが。ならば、君がここでリタイアしてくれたほうが、お互い無駄な労力を使わなくて済むというものだ。そうだろう?」


 ホワイトは笑顔で言った。


「むろん、ただでとは言わない。君が素直にリタイアしてくれるなら、我々が異世界ストアの運営権を得た後、然るべきポストを用意する。どうかな? ここで負けてすべてを失うより、よほど利口な選択だと思うが?」


 ホワイトにとっては、これ以上ない譲歩だった。しかし永遠長から返って来た答えは、


「そういうセリフは勝ってから言え」


 だった。


「……それは、私の申し出を断るということかな?」

「それ以外に聞こえたのなら病院に行け」

「やれやれ」


 ホワイトは肩をすくめた。


「日本人というのは、昔からそうだ。引き際というものをわきまえない。それで第二次世界大戦でも痛い目を見たというのに、まったく懲りていないようだな」


 ホワイトに言わせれば、第二次世界大戦中、ドイツが降伏した時点で日本も降伏していれば、核を落とされることはなかったのだった。


「仕方ねえよ。猿なんだから」


 アルフレッド・ビンセントが鼻で嘲った。


「それとも、君の中にいるという「マジックガール」の力を当てにしてるのかな? だとしたら愚かなことだ。前回のバトルでは不覚を取ったが、同じ手を食うほど我々はバカじゃない」


 ララとかいう魔法少女の登場シーンを見ていた者の話によると、永遠長が魔法少女に変身するには数秒の間があったという。ならば、その間を見逃さず、永遠長がララに変身する前に仕留めてしまえばいいことだった。もし仮に変身を許してしまったとしても、注意すべきなのは隕石落としのみ。つまり、最初から存在を認識してさえいれば、さしたる脅威ではないのだった。


「それでも答えは変わらないかな?」

「ない」

「そうか。では仕方ない。実力で示すとしよう」


 ホワイトの言葉を受け、仲間たちが戦闘態勢に入る。


「たく、使えねえ奴らだぜ。せっかくオレたちが知恵を授けてやったってーのによ」


 ビンセントは舌打ちした。


 永遠長が「反射」を多用していることを知った「グランドマスターズ」は「ドミニオン」と接触。転移によるホールドから「拒絶」を使った戦法を授けたのだった。

 「グランドマスターズ」にとっては、誰が永遠長を倒そうが最終戦で勝てばいいことだし、それは「ドミニオン」も同じこと。加えて、もし「グランドマスターズ」が最終戦で勝てば「ドミニオン」の目的をサポートすることを約束したことも後押しとなったのだが。


「でも、まあ、失敗しちまった以上、あの話は反故だよな、ケビン」

「そう言うな。あれはあれで役には立ったのだからな。最低限のサポートぐらいはしてやるさ」

「さすが未来の大統領候補様。お優しいこって」


 ビンセントは笑い飛ばすと、


「そのお優しいケビン様の提案を蹴ったこと、後悔させてやるぜ、ジャップ!」


 永遠長へと切り込んだ。

 これまでビンセントは「ダイヤモンドソルジャー」の力を継承した「ハリケーンソルジャー」の力と「弾圧」のクオリティによって、数え切れない敵を打ち負かしてきていた。加えて、今はケビンの策というオマケもついている。負ける理由は皆無だった。


「くたばれ、ジャップ!」


 ビンセントは必勝パターンである「弾圧」のクオリティとジョブスキルを、同時に発動しようとした。そのとき、


「封印」


 永遠長が「封印」のクオリティを発動した。とたん、


「は?」


 ビンセントの動きが止まり、


「な!?」


 ホワイトの目と口が驚愕によって見開かれた。


 永遠長が他人の力を使えることは、当然ホワイトも知っていた。しかし今現在、永遠長は他人の力を使える源泉である「連結」のクオリティが使えないはずなのだった。

 フィリップス・バトラーによる「阻害」のクオリティによって。


 口では大言を吐きながらも、ホワイトも永遠長の力が脅威であることは重々承知していた。そこでホワイトが考えたのが、バトラーの「阻害」により永遠長のクオリティを無力化することだった。

 そして、その作戦は成功した。それなのに、


「なぜだ? なぜクオリティが使える?」


 動揺するホワイトたちに構わず、


「火炎」


 火炎付与を発動しようとする永遠長を、


「ま、待て! 早まるな! 君は、まだ自分の置かれた状況が理解できていないんだ!」


 ホワイトはあわてて制止した。


「いいか、君の持つ運営権は、今や世界中の権力者たちから狙われているんだ。ここでもし我々に勝つことができたとしても、それは、より大きな困難を呼び込むことになるだけなんだぞ」


 ホワイトは必死に頭を巡らせていた。永遠長が自分の説得に耳を傾ければよし。でなくとも、時間さえ稼げば、仲間が何か打開策を考えつくかもしれないし、味方のギルドが救援に駆けつけるかもしれない。そのためにも、永遠長の注意を引き続ける必要があるのだった。


「そ、そして、た、たとえばアメリカがその気になれば、日本政府を通じて圧力をかけることもできるし、き、君のことをテロリストとして逮捕することだって、造作もないことなんだ」


 動きを止めた永遠長を見て、


「そうなれば、君は一生監獄生活だ? それでもいいのか?」


 ホワイトの舌が滑らかさを増す。


「それだけじゃない。君の自分勝手な行動によって、下手をすれば日米同盟が破棄される恐れもある。そうなれば日本は孤立無援。いつ隣国に襲われるかわからない状況になるんだぞ。君も国連の敵国条項は知ってるだろう? 第二次世界大戦の敗戦国である日本に、他国は宣戦布告なしで戦争を仕掛けることができるんだ。君1人のワガママのために、家族や友人、同胞が命を落とすことになってもいいというのか!?」


 ホワイトの弁舌は、さらに熱を帯びる。


「今なら、まだ間に合う。運営権を我々に渡すんだ。その力は、我々アメリカ人が持っていてこそ世界の秩序は守られるのだ。これまでがそうだったように」


 力説するホワイトを、


「寝言を言うな」


 永遠長は一蹴した。


「アメリカ人は、古くはインディアンへの虐殺に始まり、20世紀初頭にはカリブ海諸島に20回以上の軍事介入を行った」


 永遠長は、その後もアメリカによる他国への介入の歴史をあげつらった。


 第二次世界大戦の5年後に起きた朝鮮戦争。

 同時期インドネシアで戦っていたフランスへの軍事援助。さらに、その後の東南アジアへの直接介入。

 アメリカの嘘を発端とするメキシコ戦争。

 ベトナム、カンボジア、ラオスへの空爆。

 ベトナムへの直接介入とドミニカ共和国への派兵。

 パナマへの宣戦布告。

 湾岸戦争。

 パレスチナ問題。


「そのどれもが、正義とは名ばかり。自分たちの都合により引き起こされたものに過ぎなかった」


 永遠の容赦ない糾弾は、時間を稼ぎたいホワイトにとって好都合だった。しかし、いくら待っても救援は現れず、引き出せたのは永遠長のアメリカに対する強烈な不信感のみ。そしてそのことが、事態好転に役立たないことは、火を見るより明らかだった。


「自分たちが他国の人間をいくら殺そうが、それは戦争であり正義の執行。だが、他国の人間が自分たちを害する行為はテロという犯罪であり、実行者はテロリストという犯罪者。そんな厚かましくも虫のいい考えを押し通し、のうのうとのさばり続けて来れたから、たかが飛行機を落とされた程度のことで、悲劇の主人公面をすることができる」


 自分たちは、その何十何百倍もの命を奪っておきながら。


「ゴチャゴチャ、うるせえんだよ! おまえらはオレたちに負けたんだ! 黙ってオレたちの言うことを聞いてりゃいいんだよ!」


 ビンセントは怒鳴り散らした。日本人ごときが、アメリカ人である自分たちに説教がましいことを言うこと自体が、ビンセントには我慢ならないのだった。


「ほう。つまり、おまえはこう言いたいわけだな。自分たちに物が言いたければ、もう1度アメリカと戦争をして勝ってからにしろと」

「そういうことだ。できるわけがねえけどな」


 ビンセントは哀れみを込めて嘲った。


「なるほど。それに」


 永遠長はホワイトを見た。


「確か、おまえも言っていたな。このままだと、俺は犯罪者に仕立て上げられて、一生監獄の中だと」

「い、いや、それは」

「つまり、俺がこの先も平穏な生活を送るためには、アメリカ人を皆殺しにしなければならない。そういうことだな」

「できるもんなら、やってみやがれ!」


 ビンセントは声を荒げた。


「アメリカの庇護がなけりゃ、満足に自分の国も守れねえゴミクズのくせしやがって! 身の程を知りやがれってんだ! この猿が!」

「……それは、事実をもって証明しろということか? いいだろう。ならば望み通りにしてやろう」


 永遠長は近くの民家に手を触れると「改変」でチェーンソーに変化させた。


「おまえたちは知らないようだから教えてやるが、異世界に来ると痛覚が地球の半分以下になっている。おそらくは、モンスターとの戦いで傷つくことを考慮してのことだろうが」


 そのことが異世界をゲームと勘違いする大きな要因となっているし、自分が傷つくことへの恐怖が半減する元凶となっている。しかし、


「運営である俺は、それを解除することができる」


 永遠長はチェーンソーを起動させると、もっとも近くにいたビンセントに狙いを定めた。そして、身動きできないビンセントの右足へとチェーンソーの刃先が落ちた瞬間、


「ぎゃあああああ!」


 ビンセントだけでなく、その場にいた「グランドマスターズ」全員の口から絶叫が上がった。

 永遠長が「共有」で全員の神経を繋げたことによるものだったが、理由はそれだけではなかった。永遠は「共有」に加えて「増幅」も発動することで、全員の痛覚を100倍まで引き上げていたのだった。


 永遠長は、激痛に悶絶する「グランドマスターズ」の様子を観察した後、今度は左足の甲へとチェーンソーを落とした。直後、ビンセントの左足が半分に切り裂かれ、


「ひぎゃあああ!」


 再びビンセントを始めとする「グランドマスターズ」の口から絶叫が上がった。


「やはり「共有」を使えば、痛みも共有させることができるようだな」


 これを集団戦で使えば、1人の受けたダメージを全員に与えることができる。結果として、敵の行動を鈍らせ、有利に戦いを運ぶことが期待できるのだった。


 永遠長は、続けてビンセントの足を、つま先から腰まで真っ二つに切り裂いていった。


「ぎゃああああ!」


 その激痛は凄まじく、ショック死する者が現れるほどだった。それでも永遠長の手が止まることはなく、ビンセントの両足を切り裂くと、さらに4本に増えたビンセントの足を寸刻みにしていく。


「やめてくれえ!」

「オレたちが何したってんだよ!」

「この悪魔!」


 アメリカ人たちの口から、永遠長への非難の言葉が飛ぶ。


「どの口でほざいている。それとも本気で思っていたのか? どれだけ他人の物を奪おうと、自分たちは何も失わない。奪われることも傷つけられることもないと」


 永遠長の問いかけに「グランドマスターズ」が絶句する。


「お、落ち着け、ミスタートワナガ。わ、我々は、別に君と敵対しようと思っているわけじゃない。共に、よりよい未来を模索」


 ホワイトはなんとか取り繕おうとしたが、


「おまえたちにとって都合のいい未来を、だろう」


 永遠長は聞く耳を持たなかった。そこに、


「いた! 永遠長だ!」


 ついにホワイトが待ち望んだ救援が現れたのだった。


「た、助けてくれえ!」

 

 「グランドマスターズ」は口々に助けを求め、


「よ、よし。皆でいっせいにかかるぞ」


 駆けつけた連合チームも永遠長に総攻撃を仕掛けようとした。しかし、


「やってみるがいい。だが、その瞬間おまえたちも、こいつらと同じ苦痛を受けることになる」


 その永遠長の1言で、全員の足が止まってしまった。そして、その間にビンセントの四肢を完全に切り刻んだ永遠長は、続けて彼の股間から胸へとチェーンソーを切り上げていった。

 ビンセントの体から鮮血がほとばしり、


「ぎえええええ!」


 その口から断末魔の悲鳴が上がる。その凄惨な光景に、駆けつけた連合メンバーは完全に気圧され、中には怖気づいてリタイアする者まで現れる始末だった。そしてビンセントの声と体がフィールドから消失したところで、


「残りも全員、切り刻むつもりだったが」

 

 永遠長は残る「グランドマスターズ」に視線を走らせた。


「実験に使ったほうが有効か」


 永遠長は1人納得すると、ホワイトに歩み寄った。


「おまえには、事の顛末を見届けさせてやろう。自分たちが、これからどういう末路をたどることになるのか。特等席から見物するがいい」


 永遠長はホワイトの右腕を掴むと、そのまま空へと飛び上がった。そして50メートルほどの高さまで来たところで「境界」を発動。フィールド全体を「境界」で包み込むと、さらに別の力を発動させた。


 永遠長曰く、アメリカ人を全滅させられる力。


 人間をモンスターに変える能力を。





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