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第15話

 翌日の昼休み、小鳥遊たちは例によって屋上に集まり、昨日のことについて話していた。


「そういえば、昨日の奴ら、なんか言ってなかった? ワ-ルドなんとかって? ちょっとムカついてたから、よく覚えてないんだけど」


 秋代は頬をかいた。


 ちょっと? 


 小鳥遊は心のなかで小首を傾げた。


「そういえば言うとったな。なんじゃったかのう?」


 木葉は腕を組んで考え込んだが、


「元々、あんたの記憶力には期待してないわよ」


 秋代に一刀両断されてしまった。


 そして切り捨てられた木葉に代わり、小鳥遊が記憶を頼りに答えた。


「……確か「ワ-ルドナイツ」って言ってたと思う」

「ワ-ルドナイツ。つまり世界の騎士団ってこと。またデカく出たもんね。永遠長、知ってた、あいつらのこと? なんか、自分たちを超有名人みたいに言ってたけど」

「いくつかある、地球人が創ったギルドの1つだ」


 永遠長は憮然と答えた。


「ナビにある、ギルドの項目を見てみろ。現在登録しているギルドの中にある」

「どれどれ……。あ、ホントだ。こんなの、あったんだ」


 秋代がナビを調べると、確かにギルドのリストに「ワ-ルドナイツ」の名前があった。


「ええのう。そのギルド名、わしらも考えようや。わしらが異世界で魔王を倒したとき、ギルド名があるほうがかっこええからのう」


 木葉は顔をほころばせた。


「ま-、バカの妄想はゴミ箱に捨てとくとして、ギルド名というかパ-ティ-名は付けといてもいいかもね。あって損するもんでもないし」

「そうじゃ。で、ギルド名が有名になったら、そのうち通り名とかもつけられるかもしれんしのう」


 木葉は楽しそうに言った。自分の夢がゴミ箱に捨てられたことには、気づいてもいない様子だった。


「通り名ねえ。そういえば、あんたもなんか通り名があるみたいなこと、あの魔女が言ってたような。なんだっけ?」


 秋代は永遠長に尋ねた。


「背徳のボッチートのことか」

「そうそう、それ」

「これは別に通り名じゃない。俺がチートと呼ばれるのが嫌いだと知って、ある女が嫌がらせで広めた。ただ、それだけの話だ」

「ある女?」

「「ノブレス・オブリージュ」というギルドのマスターだ。昔、そいつのギルドに誘われたことがあってな。それを断られたことを、根に持って広めたんだ。他にも「凶悪ソロード」とかな」


 正確には、そのときに「足りないのは背丈だけにしておけ」と言われたことが原因なのだが。


「あんた、本当にあっちこっちで敵作りまくってんのね」


 秋代は呆れた。


「じゃあ、その悪口以外では、通り名はないわけ?」

「一応あることはある」

「どんな?」

「どんなじゃ?」


 秋代も木葉も興味津々だった。


「昔だと「ワンマンアーミー」や「沈黙の騎士」。最近だと「白銀の解放者」とかだな」

「他はともかく「白銀の解放者」は、イメージわかないわね。なんで、そう呼ばれるようになったわけ?」

「俺の装備を狙ってきた奴隷商人どもを返り討ちにして、そいつらの財産を没収していたら、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。ただ、それだけの話だ」

「つまり、あの奴隷商人にやったことを、すでに他の世界で何度もやってたってわけね。どうりで手慣れてたわけだわ」


 秋代には、その光景が目に見えるようだった。


「でも、凄いのう。すでに他人の噂話に出るほど有名なんじゃな、永遠は。わしも、がんばらんと」


 新たな目標もでき、ますます闘志を燃やす木葉だった。


「てか、がんばるなら勉強がんばりなさいよ、あんたは」


 秋代は冷静にツッコんでから考え込んだ。


「……ギルド名ねえ。どうせ付けるなら、こうオリジナリティ-にあふれてて、スマ-トで華麗で、それでいて覚えやすい名前がいいけど、みんな何かアイディアある?」

「なら「海援隊」これしかないじゃろ!」


 木葉は嬉々として言った。


「そりゃ、あんたは坂本竜馬命だから、それにしたいだろうけど、ファンタジ-世界に、日本の組織の名前はスマ-トじゃないわよ。誰でも思いつきそうで、安直だし」

「安直でも、ええもんはええじゃろうが!」

「というか、その名前、もう他の人が使ってるみたいだよ」


 小鳥遊が異世界ナビを操作しながら言った。


「なんじゃと!?」


 見ると、本当に登録されたギルドのリストに「海援隊」の名前があった。


「このシステムだと、誰かがつけた名前はもう使えないみたいだから、いいとか悪いとか以前に「海援隊」にするのは無理なんじゃないかな」

「そうなんか」


 木葉はガックリと肩を落とした。


「だから言ったでしょうが。海援隊なんて安直な名前、誰でも考えつくって」


 秋代は得意げに言った。


「じゃあ、おまえは、いい名前の候補でもあるんか?」

「え? あたし? え-と、それじゃ、異世界の冒険者ってことで「ストレンジ・アドベンチャ-ズ」とか?」

「それだって安直じゃろうが」

「ま、まあね。う-ん。こうして考えると難しいわね。小鳥遊さんは、どう? 何か、いいアイディアある?」

「え? わ、私は……。そうだ、永遠長君なら、いい名前を思いつくんじゃないかな。異世界生活も長いし」


 困った小鳥遊は、永遠長に丸投げした。


「確かにそうね。あんた中2病だし、うまい名前考えられるんじゃない」


 秋代は永遠長を見た。


「……誰が中2病だと?」

「あんたよ、あんた。あんたが中2病じゃないなら、この世に中2病の人間なんて存在しないわよ。てか、そんなことより、何かないの? こうオリジナリティにあふれてて、それでいて覚えやすい名前。あ、俺には関係ない話だ、はなしよ。あんたも、れっきとしたパ-ティ-の一員なんだから」


 秋代に機先を制され、永遠長は嫌そうに眉をしかめた。


「前にゲ-ムで使ったのでよければ、いくつかある」

「どんな名前よ?」

「ひとつは「カオス・リベリオン」もうひとつは「ロ-ド・オブ・スピリット」だ」

「やっぱ中2病じゃない」


 秋代は一刀両断した。


「他はわかるけど、リベリオンて、どういう意味なわけ?」

「リベリオンは反逆者という意味だ」

「つまり「カオス・リベリオン」は混沌の反逆者。「ロ-ド・オブ・スピリット」は精神の王ってこと?」

「違う。ロ-ドは「最高位」という意味で、スピリットと合わせて「気高き魂」という意味だ。本当の英語だとノ-ベルとソウルだが、どうせゲ-ムだからゴロ合わせで、そうしたんだ」

「やっぱ中2」

「だから違うと言っている。中2病患者は、ありもしない力を、さも持っているかのごとく振舞う奴らのことを言うんだろうが。俺は、本当に異能力が使えるから使っているんだ。一緒にするんじゃない」

「あたしからしたら、目くそ鼻くそなんだけど」

「違うと言っている。が、もういい。おまえが俺をどう思おうが、俺には関係ない話だ」

「永遠の、いつもの捨て台詞が出たのはいいとして、名前的には後1歩ってところね。悪くはないんだけど、どれも中2病臭さが出すぎてるっていうか……」


 秋代は考え込んだ。


「じゃあ、永遠長君の案を2つ合わせて「ロ-ド・リベリオン」にしたら、いいんじゃないかな?」


 小鳥遊が提案した。


「ロ-ド・リベリオン?」


「うん。リベリオンの反逆者っていうのも、異世界の人たちからしたら、私たちは部外者、つまり異物なわけだし。ロ-ドには道っていう意味もあるし、アウトロ-って感じで冒険者のイメ-ジにも合ってるし」

「確かに、そうね。異世界人からしたら、あたしたちはヨソ者だもんね。それに、この2人はまんま反逆者って感じだし、ピッタリかも」


 秋代は木葉と永遠長を交互に見やった。


「ええんじゃないか? わしは気に入ったぞ」


 木葉の賛成を得た秋代は、永遠長を見た。


「おまえたちがそれでいいなら、そうすればいい。俺には、なんの関係もない話だ」

「決まりね」


 全員の賛同を得た秋代は、異世界ナビにある登録ギルド名に「ロ-ド・リベリオン」と打ち込んだ。


 こうして、小鳥遊たちはギルド「ロ-ド・リベリオン」として、異世界で本格始動することになったのだった。



 

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