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第142話

 それは土門と禿が降り積もる雪のなか、やっとのことでたどり着いた農村でのことだった。


 アイテム探しを終えた土門たちが道具屋から出てくると、


「土門陸君と禿水穂君だね」


 同年代の青年が声をかけてきた。


「そうですけど、あなたは?」


 土門は相手の容姿を観察した。見ると、青年はアーチャーらしく、背中に銀の弓を装備していた。


「失礼。僕の名前は明峰将あかみねしょう。「ダイバーシティ」というギルドでギルマスを任されているものだ。よろしく」


 明峰と名乗った青年は、爽やかな笑顔で自己紹介した。


「いや、モスを救った英雄である君たちのことは以前から耳にしていて、ぜひ会いたいと常々思ってたんだけどね。いかんせん、僕も多忙でね。ついつい先送りにしてしまっていたんだ。どうか許してほしい」


 長々と社交辞令を続ける明峰に、


「それで? その「ダイバーシティ」とやらのギルドマスターさんが、わざわざこんなところまで足を運んで、いったい私たちになんの用なんですか?」

 

 業を煮やした禿が口火を開いた。


 それでなくとも今の禿は、


 このクソ寒いときに、よくも無駄な手間を!


 と、尾瀬に対して並々ならぬ怒りが募っていた。この寒いなかを、ここまで活動して来れたのも、それを原動力としていると言っても過言ではなかった。

 そこに持ってきての無駄な足止めは、禿の怒りを爆発させるに十分過ぎる理由だった。


 ヤバい。


 土門は禿の状態を敏感に察知したが、それは明峰も同様だった。


「これは失礼した。確かに、この寒い中での長話は体に毒だったね。申し訳ない」


 明峰は素直に謝罪した。


「どうだろう。話の続きは、温かい物を食べながらというのは? むろん代金は、こちらで負担させてもらうよ」

「けっこうです。私たち急いでいるので」


 禿は、けんもほろろに突っぱねた。イライラしているということもあるが、この手の無駄に愛想の良い男が、禿は虫が好かないのだった。父親や皇帝と同じ匂いがプンプンして。


「そうか。それは残念」


 明峰は苦笑した後、


「では、要件だけ手短に話そう」


 真顔に戻った。


「土門君、禿君。僕たちのギルドに来ないかい?」


 明峰からの唐突な申し出に、


「はあ!?」


 禿の目と声が怒りをむき出す。


「あ、あの、どういう意味でしょうか?」


 土門は禿を背に隠し、話を引き継いた。


「そのままの意味だよ。君たちには今いるギルドを抜けて、僕たちのギルドに入ってもらいたいんだ」


 明峰の目は真剣だった。


「君たちの話は聞いているよ。時を戻す「回帰」と、あらゆる物を跳ね返す「反射」の使い手にして、邪悪な皇帝からモスを救った英雄とね」

「いや、あれは」

「謙遜は無用だよ。謙遜は、日本においてこそ美徳とされるが、外国では通用しないからね。いいものはいい。悪いものは悪い。功績は功績。ダメなものはダメ。そうやってハッキリと白黒をつけるのが西洋、いや日本以外のスタンスだからね」

「いや、だから、そうじゃなくて」

「そして優秀な人材は、どこのギルドも欲している。特に、我々のような「異世界ギルド」がなんのために存在しているのかを知っている者にとっては、なおさらだ」


 明峰の言葉に、土門たちの目が周囲に向く。


「おっと、失礼」


 明峰は右手を口に当てた。


「このことは公然の秘密なんだったね。失敬、失敬」


 明峰は苦笑した。


「もっとも、このことは政府関係者でなくても、ある程度社会的地位を有している者ならば、もう大方知っていることなんだけどね。今の世の中、情報が命だから」


 それは土門たちも、すでに承知していることではあった。


「そして、だからこそ各国政府はもとより、民間でも優秀な人材の奪い合いが始まってるんだよ。次世代を見据えた、経営戦略の一環としてね」

「経営戦略?」

「今のギルドが、まさにそれだ。君たちを含めた一般プレイヤーは、ギルドをクエストやイベントを攻略する上での便利なツール程度に考えてるようだけど、上位ギルドのいくつか、いや大半かな、それらは各国政府や企業からの指示により、優秀な人材を囲い込むために設立されたものなんだよ」

「はあ? 異世界は異世界。地球は地球でしょ。異世界でギルドに入ったからって、向こうでまで同じ組織に、なんて思うわけないじゃない」

 

 ゲームだと思っている一般プレイヤーなら、なおさらだった。


「そこはそれ。話の持っていきよう1つさ。人は生きていく限りは働かねばならず、働くからには好条件で働きたいと思うのは、古今東西変わらない、人の偽らざる本音だからね」

「…………」

「加えて、それが自分の身を守ることに繋がるとなれば、なおさらだ。力を有する者が集まれば集まるほど、いざというとき、それだけ生存確率が高まるからね」


 国民の命と安全を守るのは、国の仕事ではある。が、未だに地球の現状すら公表できずにいる各国政府に、防衛面を任せきりにするのはリスクが高すぎる。そう上場企業や富裕層は考えているのだった。特に、平和ボケした日本では。


「そして、その点でも君たちは稀に見る逸材だ。どうだろう? 君たちにとっても、決して悪い話ではないと思うんだけどね」


 明峰が土門たちに右手を差し出したところで、


「待てい!」


 横から声が飛び入った。

 見ると、そこには黒の甲冑を着込んだ同年代の青年が立っていた。


「抜け駆けは許さんぞ、明峰!」


 若侍は明峰を睨みつけた。


「その者たちには、それがしも以前から目をつけていたのだ」

「やあ、南武なんぶ君。相変わらず、元気そうで何よりだ」


 明峰は、若侍の威圧を笑顔で受け流した。


「けど、抜け駆けとは人聞きが悪いな。最新の情報をもとに最適の行動を最速で行うのは、トップリーダーとして至極当然のことじゃないかい?」

「ええい! 貴様の屁理屈は聞き飽きたわ!」


 若侍は明峰を怒鳴りつけると、土門たちに向き直った。


「突然の無礼、どうかご容赦願いたい。それがし、性は南武、名は秀和ひでかずと申し、ギルド「大和」の総大将でござる」


 またまた現れた奇怪な人物に、


「はあ」


 土門たちは困惑の色を深めることになった。


「さて、こうして罷り越したるは他でもない。貴殿らに、我が「大和」に入団いただきたいと考えてのことなのでござる」


 南武は明峰を一瞥した。


「そこにいる男に何を吹き込まれたかは知らぬが、惑わされてはならぬ。グローバル化と言えば聞こえはいいが、それすなわち日本の領地を他国に売り渡すに等しい売国行為! 少子化が叫ばれて久しい日本に、外国人を大量に招き入れれば、いずれ日本人の純血は失われ、日本は中国の属国! 最悪、統治下に置かれることになりかねぬ! それだけは断じて避けねばならんのだ!」


 南武の燃え上がるような愛国主義を、


「相変わらず古臭い考えだね」


 明峰は一蹴した。


「何を言うか! 現に今も、日本の土地は外国資本によって買われ続けているではないか! このままでは遠からず、日本の全土は中国の物となり、日本人は中国人に隷属する日が来かねん! ウイグルのようになってからでは遅いのだ!」


 南武の声に、一層の熱がこもる。


「そうならないためにも、もっと広い視野を持つべきじゃないのかい?」


 明峰は穏やかに反論した。


「NATOに加盟するなりしてね。なんにせよ、今まで通りのアメリカ迎合主義では、先は知れていると思うけどね」

「そんなことは言っておらん! そもそも、たった1度の戦に負けただけで、いつまでもアメリカの言いなりになっておること自体が間違っておるのだ!」


 南武は、いまいましげに吐き捨てた。


「あまつさえ! 自国の武器を、アメリカから購入することを強いられるなど言語道断! 武器は武士の命綱! それを他国に委ねるなど愚の骨頂!」


 南武は、雪の降り積もった地面を踏み蹴った。


「のみならず! 他国の武器を買うと言うことは、その分の金をみすみす外国にくれてやるということではないか! 国内での生産が可能となれば、その分だけ日本国民が潤うことになるにもかかわらずだ! その程度のことが、なぜ政府のバカ共にはわからんのだ!」

「ああ、そこは同感だね」

「そして、そんな腑抜けた輩を駆逐し、正しい日の本の国を取り戻すためにも、優れた人材が1人でも多く必要なのだ!」


 南武は土門たちに向き直った。


「そのために貴殿らの力を、ぜひ我らにお貸し願いたいのだ」

「おっと、それとこれとは話が別だ。先に交渉していたのは僕なんだ。横入りは、ご遠慮願いたいね」


 明峰は、南部と土門たちの間を左手で遮った。


「抜け駆けした卑怯者が何を言うか!」

「交渉とは、そういうものだろう? それとも君は、あっちでも契約の席に乱入してきて、強引に契約を横取りするとでもいうのかい? それが許されると?」

「何が契約の席だ。ただ立ち話をしていただけだろうが!」

「交渉は交渉さ。それに、立ち話や雑談が重要な意味を持つ場合も多分にある。国際会議の場などが、そのいい例だろ」

「ええい! 貴様の詭弁は聞き飽きたと言っておろうが!」


 いがみ合いを続ける明峰と南部に、


「あのー」


 土門が遠慮がちに声をかけた。


「なんだ!?」


 南武は語気を強めてから、


「いや、これは失礼した、つい興奮して」


 バツが悪そうに口を手で覆った。


「見たろ。これが彼の本性なんだ。彼のギルドに行ったら、それこそ毎日パワハラで気が休まらないよ」

「な、何を言うか! それがしが、いつパワハラをしたと」


 気色ばむ南武を、


「あの」


 土門は右手を上げて制した。


「お2人の話は、よくわかりました。そしてお誘いいだいた事自体は光栄なのですが、その、どちらのお誘いも、お受けすることはできません」


 土門は遠慮がちに謝辞し、禿もうなずいた。それに対して、


「なにい!?」


 南武は気色ばみ、


「なぜだい?」


 明峰は鼻白んだ。


「なぜって、今ボクたちは別のギルドに入ってて、そのギルドから移るつもりはないからですけど?」


 土門にしてみれば、当たり前の答えだった。


「何を言ってるんだ、君は?」


 明峰には、土門の考えが理解できなかった。


「君は、今の状況がわかってないのかい? 今度のギルド戦で負けたら、君たちのギルドは運営権を失うんだよ?」

「そうなれば、今のギルドに留まる理由などないだろうが」


 明峰と南武は、揃って土門に詰め寄った。


「なに勝手に決めつけてんのよ?」


 禿は吐き捨ててから、


「じゃなかった。何を勝手に決めつけてるんですか?」


 あわてて言い直した。バカ2人のいがみ合いを傍で見ているうちに、熱が冷めたのだっだ。


「ミッちゃんの言う通りです。そのために、ボクたちは今ここにいるんですから」


 土門は毅然と言った。


「やはり何もわかっていないようだね」


 明峰はこめかみを押さえて、首を左右に振った。


「君たち、仮にも運営だろう? なのに、まったく情報が入っていないのかい?」

「本部には入っているかもしれませんけど、ボクたちはアイテム集めで手一杯なんで」


 それすら予定より遅れている始末だった。


「だったら教えてあげるけど、現時点での連合チームの総数は五千を超えているうえに、その数は今も増え続けている。このままいけば、開戦時には1万を超えるだろう」

「凄いですね」


 土門は素直に驚き、


 ホント、暇人ばっかりね。


 禿は内心で毒づいた。


「この状況で、君たちに勝ち目があると本気で思っているのかい?」

「勝てるかどうか、正直なところはわかりません」


 それは土門の偽らざる本音だったが、


 どうして、そこで絶対勝つって言わないの!


 という圧のこもった目で、禿に睨まれてしまった。


「け、けど、たとえ負けたとしても、それが今のギルドを離れる理由にはなりません。だってボクたちは、別に永遠長さんが異世界ギルドの運営権を持ってるから、今のギルドに入ったわけじゃありませんから」


 土門は「ロード・リベリオン」に入った経緯を思い返していた。


「そして、あの人たちもボクたちが特別な力を持ってたから、ギルドに誘ってくれたわけじゃない」


 そんな秋代たちを裏切る選択肢など、土門の頭には最初からないのだった。

 実際、天国は土門と禿も、小鳥遊たち同様「共感」の力で異世界ギルドを辞めるように仕向けていた。だが普段流されやすい土門が、この件に関してだけは微動だにしなかったのだった。


「そもそも負けてもいないうちから、負け前提で話を持ちかけて来ること自体が非常識なのよ。そう言われた相手が、どう思うかも考えられない残念頭の分際で、なーにがトップリーダーよ。笑わせんじゃないわよ」


 禿が吐き捨て、明峰と南武は絶句した。


「確かに君の言う通りだね」


 明峰は肩をすくめた。


「どうやら他のギルドに出し抜かれまいと、先走り過ぎたようだ」


 僕も、まだまだだな。


 明峰は内心で苦笑した。


「けれど、僕の気持ちに変わりはないから、次に会うときまで、よく考えておいてくれ」

「それがしも出直してくるでござる。そのときは、よき返答を期待しているでござる」


 明峰と南武はそう言うと、土門たちの前から姿を消したのだった。


 そして土門たちに少し遅れ、小鳥遊と加山にも別のギルドが接触を図っていた。しかし、その用向きは前の2組とは少し異なっていた。


「はじめまして。わたくしは「ピース・メーカー」のギルドマスターを務めさせていただいている者で、美水紗佳よしみずさやかと申します」


 白いローブで身を包み、右手に金の錫杖を持った少女は、小鳥遊たちにそう名乗った。


「ピース・メーカー?」


 突然のことに困惑する小鳥遊に、


「簡単に言うと、この世界で赤十字みたいなことやってるギルドだよ」


 加山がささやいた。


「そんなギルドの人たちが、私たちに何か?」


 赤十字活動に人手が必要なら、自分たちではなく「回帰」の力を持つ土門に声をかけるはず。


 小鳥遊には美水の意図が読めなかった。


「はい。本日、伺ったのは他でもありません。地球の結界に関わることで、お2人にご相談があるからなのです」

「地球の結界?」


 小鳥遊と加山は顔を見合わせた。


「はい。お2人はすでにご存知のことと思いますが、このままいけば遠からぬ日、地球にある結界は解け、魔物が復活すると言われています。そして、それが不可避だと。しかしわたくしどもは、できればその事態を回避したいと考えているのです。そしてそのために、お2人に力をお貸し願いたいのです」

「オレたちの」

「力?」

「はい。小鳥遊様の「封印」加山様の「改変」そのどちらもが、地球を救える可能性を秘めた素晴らしい力であると、わたくしどもは思っているのです」


 美水に正面から褒められて、


「素晴らしい……」


 加山の鼻の下が伸びる。


「はい。小鳥遊様の「封印」は、文字通り再封印を可能とする力でございますし、加山様の「改変」は、弱った封印を元通りか、それ以上に改変できる可能性を秘めているうえ、歴史の改変という言葉もある通り、地球を「元より魔物の存在しない世界」に改変できる可能性すら秘めていると考えているのです」


 美水の話に、


「オレたちに、そんな力が?」


 小鳥遊と加山は再び顔を見合わせた。


「ですが、それはあくまでも可能性の話。無礼を承知で申し上げますと、現在のあなたがたの力では、魔物の再封印や世界の改変など、夢のまた夢です」


 美水にハッキリ言い切られ、加山は鼻白んだ。


「ですが、魂の力であるクオリティは、無限の伸びしろがあると聞き及んでおります。そして手前みそになりますが、わたくしどもには、その伸びしろを伸ばすための研究機関と訓練設備が整ってございます。ですから、あなたがたにはそこで御自身の力を高めていただきたいのです」

「…………」

「むろん、今現在、あなた方が多忙であることは重々承知しております。ですから、お返事はギルド戦の後でかまいませんし、人民の命を盾にとって、無理強いしようとも思っておりません」


 美水の目と声に、駆け引きの色は微塵もなかった。


「仮に、あなた方の協力が得られないとしても「封印」や「変化」の力を持った人は他にもいますし、もしそれらの封印や改変が間に合わなかった場合として、別の方法も用意していますから」

「別の方法?」

「はい。わたくしどもが運営権を手に入れた暁には、全人類に異世界ナビを配布しようと考えているのです」

「え?」

「そして魔物復活の際には、全人類を一時的に異世界へと避難させ、しかる後に戦闘可能な者により魔物を討伐する。そうすれば魔物が復活したとしても、被害は最小限で済むはずですから」

「…………」

「しかし残念ながら、運営権があなた方にある限り、これは実現不可能でしょう。小耳に挟んだ程度でしかございませんが、あなた方のギルドマスターは、地球人が異世界に干渉することを快く思っていないようですので」


 美水の言う通りだった。仮に、この美水の案を永遠長が聞いたところで一顧だにせず、


 それで死ぬなら死ねばいい。


 そう言い捨てるのがオチだった。


「ですから、わたくしども「ピース・メーカー」も、今度のギルド戦に参加いたします。それが人類にとって、最善の道であると信じておりますので。では先程の件、ご検討のほど、よろしくお願いいたします」


 美水は、最後に「では、ごきげんよう」と一礼して、小鳥遊たちの前から去っていった。


 そして、連合チームにとっては「諸悪の根源」であり、倒すべき「恐怖政治を断行する独裁者」である「魔王」永遠長にも、別の参加ギルドが接触していた。

 もっとも、この場合は接触してきたというよりも、偶然出くわした、というほうが正しい表現ではあったが。


 それは、永遠長がモスにあるサイアス国の王都に立ち寄ったときのことだった。


「こんなところで会うとは奇遇だな。「背徳のボッチート」殿。いや、異世界ギルドの運営様とお呼びしたほうがいいのかな?」


 そう言って永遠長に近づいてきたのは、白銀正人しろがねまさとという、自称異世界の法と秩序の番人「ゲートキーパーズ」のギルドマスターだった。


「もっとも、そう呼ばれるのも後少しの間に過ぎないだろうがね。まさに三日天下、いやこの場合は3ヵ月天下かな?」


 白銀は鼻で笑い、周囲にいる仲間たちの失笑を誘った。


「貴様の傍若無人な振る舞いには、我々「ゲートキーパーズ」も散々苦汁を飲まされてきたが、それもここまでだ。今度という今度こそ、貴様の悪行に終止符を打ってやる。そして世界は正しき秩序を取り戻すのだ! 大義は我らにあり!」


 白銀が言い放つと、


「大義は我らにあり!」


 仲間たちも連呼した。


「だが、我々「ゲートキーパーズ」は公平にして寛大だ。もし、今すぐ貴様が己の過ちを悔い改め、不当に奪った「運営権」を我らに差し出すというのであれば、過去の一切を不問に伏してやるばかりでなく、貴様には今後も異世界ストアの運営に参加する権利を残してやろうじゃないか。ただし、運営に参画する1ギルドとしての参加となるから、発言力は大幅に減ることになるし、発言したところで誰も貴様の意見になど耳を貸さないだろうがな」


 白銀は笑い飛ばし、周囲から再び失笑が漏れる。


「どうした? なんとか言ったらどうだ?」


 勝ち誇り、勝利者の余裕を見せる白銀に対し、永遠長はここで初めて口を開いた。


「おまえたちも参加するというなら、ちょうどいい。尾瀬の奴に伝えておけ」

「降伏するとか?」

「1対1の体裁を整えるために、わざわざ1度他のギルドを解体させてから「ノブレス・オブリージュ」に加入させているようだが、そんな面倒な真似をしなくとも、反則負けになどしないから安心しろ、とな」

「ふ、殊勝な心がけじゃないか。負けが確定している今、少しでもご機嫌を取ろうという腹か?」


 白銀は嘲った。


「そのほうが、こちらも面倒な手間が省ける。ただ、それだけの話だ」


 永遠長は言い捨てた。


「それに、参加するギルドが明確なほうが、見ているほうもわかりやすいだろう。こんな強豪ギルドも参加するのかと思えば、興味を持ってギルド戦を観戦しに来る人間も増えるだろうし、そうなれば必然的にチケットの売上も伸びることになる。異世界ギルドの運営としては当然の判断だ」


 永遠長の考えに、白銀たちは鼻白んだ。


「こ、この守銭奴め! そうやって好き放題していられるのも今のうちだ! 我々の温情を無下にしたことを、すぐに後悔させてやる! 覚えていろ!」

「やってみろ。できるものならな」


 永遠長はそう言い捨てると、白銀たちの前から歩き去った。


 白銀たちが、自分に向ける罵倒を背に受けながら。





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