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第138話

 世間がクリスマスで賑わう12月24日。

 秋代と木葉は、クリスマスなど存在しない世界で、アイテム探しに勤しんでいた。


 クラスアップするためには、タイムリミットである1月5日までに、石板と1000以上のアイテムをゲットしなければならない。しかし、これを個々人が自力で集めていたのでは、到底期限までに集めきれることはできない。

 そこで秋代たちは、まず全員の石板を探索した後、大陸を3等分してペアごとに担当区域を設定。その区域内で比較的容易に入手できるアイテムを、先に集められるだけ集めることにした。

 そして北西から北東の担当となった秋代、木葉ペアは、まず「深緑の国」ファーフから探すことにしたのだった。


「えーと、1000かける6で6000」


 ファイアードラゴンウォーリアーの力でファーフ王国へと飛翔しながら、木葉は指折り数えていた。


「で、それを3で割って2000。で、それを1月5日までに集めなきゃならんわけじゃから、1日にすると……」

「200個よ」


 秋代は淡々と答えた。木葉が能天気なのは、いつものこと。この程度のことで、


「なに能天気に分かりきった計算しくさってんのよ! このバカ政宗が!」


 と、イチイチ腹を立てていたのでは、木葉の幼馴染は務まらないのだった。


「つまり、1人100個見つければええわけか。楽勝じゃな」


 極楽トンボの話を聞き流しながら、秋代が先を急いでいると、


「ん?」


 

 行く手の街道で、隊商が盗賊の襲撃を受けているのが見えた。


「このクソ忙しいときに」


 秋代はボヤきながらも現場に直行すると、


「勇者、見参じゃ!」


 木葉とともに隊商と盗賊の只中に舞い降りた。


「バカなこと言ってないで、サッサと片付けるわよ!」


 盗賊は、ざっと30。油断さえしなければ、十分撃退可能な数だった。

 そして秋代たちが参戦して間もなく、


「義を見てせざるは勇無きなり! ぜよ!」


 さらなる助っ人が飛び入った。


 年の頃は秋代たちと同じぐらいだったが、鎧で身を固めた秋代たちと違い、助っ人は肩当てと胸当てだけの軽装だった。


「喰らやあ! 正義の鉄拳!」


 助っ人は地を蹴ると、


「スパイラルキィーック!」


 回転飛び蹴りで盗賊たちを蹴り倒していった。


「どこが鉄拳よ!」


 秋代は思わずツッコんだが、助っ人は気にした様子もなく、


「ええツッコミぜよ」


 笑顔で秋代に親指を立てて見せた。


 ともあれ、助っ人の協力もあり、秋代たちは盗賊の撃退に成功。盗賊の捕縛も済んだところで、


「おんしら、やるのう」


 助っ人が秋代たちに近づいてきた。


「素手ならともかく、剣で殺さず生け捕るんは、かなりの実力差がなかとできんことやぜ」


 助っ人は秋代たちの腕前を称賛したが、


「土佐弁? て、ことは、あんたも日本人?」


 秋代たちが注目したのは、助っ人の言葉遣いのほうだった。


 外国語が異世界ナビによって日本語に翻訳されることは、秋代たちも永遠長から聞いていた。しかし、独特の方言で話す人間とは出会ったことがなかったため、方言の聞こえ方までは知らなかったのだった。


「そうぜよ。ちゅうても、オイは残念ながら土佐もんではなかとがな」

「なのに土佐弁て、ああ、親が四国出身とか」

「うんにゃ、生粋の名古屋県民ぜよ」

「いや、名古屋は県じゃないから」

「またまた、ええツッコミじゃ。おまん、オイの嫁にならんか?」

「謹んで辞退させていただくわ」

「またまた、ええツッコミじゃ。ますます気に入ったぜよ」


 快活に笑う助っ人に、秋代は幼馴染と同じ臭いを嗅ぎ取った。生粋のバカの臭いを。


「じゃ、そういうことで」


 触らぬ神に祟り無し。

 秋代は未知の危険を回避すべく、助っ人に背を向けた。


「待っとおせ。別に無理強いする気はないきに。あ、名乗るのが遅れたっちゃの。オイは巫剣槍矢みつるぎそうや。見ての通りのファイターぜよ」


 助っ人は自己紹介した。


「あ、後、こん言い方は、オイが坂本龍馬先生んこつば、世界で2番目に尊敬しちょるからぜよ。先生の本ば何回も見とううちに、自然とこうなったがぜよ。あ、1番は、もちろんブルース・リー先生ぜよ」

「聞いてないから」


 秋代は素っ気なく受け流した。が「坂本龍馬」というネーミングに敏感に反応した者がいた。


「おお! おんしも坂本龍馬のファンなんか!」


 同士の匂いを嗅ぎとり、木葉は目を輝かせた。


「おお! おんしも先生のファンか?」


 思いがけない同志の出現に、巫剣も目を輝かせる。


「おうよ! 坂本龍馬は最高じゃ! わしもいつか、坂本龍馬と同じぐらい大きな男になるんじゃ!」


 木葉は鼻息を荒らげた。


「そうぜよ! 坂本龍馬こそ、真の男の生き様ぜよ!」

「そうじゃ! 坂本龍馬こそ、男の中の男なんじゃ!」

 

 木葉と巫剣は力強く肩を組み合った。

 同じ男に憧れる者同士、男たちは意気投合したのだった。


「そう言えば、まだ名前を聞いちょらんかったぜよ」


 ひとしきり男の友情を育んだところで、巫剣が言った。


「わしは木葉正宗。こっちは秋代春夏じゃ」

「政宗に春夏か。どっちも、ええ名ぜよ」

「じゃ、自己紹介も済んだことだし、行くわよ。それでなくても時間がないんだから」


 秋代の目は冷え切っていた。ぶっちゃけ言って、バカの相手は木葉だけでお釣りが来る。それがもう1人増えるなど、秋代にとって悪夢以外の何物でもないのだった。


「おお、急ぎ旅じゃったか。そいつは悪いことしたのう」

「おう、ギルド戦に備えて、強くなるためのアイテム探しをしとるんじゃ」

「ギルド戦?」

「おうよ。異世界ギルドの運営権をかけての」

「ああ。おんしら、あれに出場するんか」

「そうじゃ。そんための勝負に備えて、わしらは今シークレットジョブに必要なアイテムを集めて回っとるんじゃ」

「シークレット?」

「おうよ! その名も「プラチナムドラゴンウォーリアー」じゃ!」

「また、あんたはペラペラと。それで沢渡のときも面倒なことになったってのに、まったく懲りてないわね」


 秋代は疲れた息を吐いた。


「ええじゃろ、別に。話して減るもんでもなし」


 木葉は、あくまで能天気だった。


「ちゅうか、ドラゴンのシークレットっちゅうことは、ドラゴン関係のアイテムを集めちょおとか?」

「よく知っとるの。その通りじゃ」

「ははあん。それで、ここへ来たんちゃな。レッドドラゴン狩ろう思て」

「レッドドラゴン!?」


 木葉の目が、一段と輝いた。


「この近くにドラゴンがおるんか!?」

「お、おう。オイが今日ここに来たんも、そいつをブッ倒すためぜよ。たまには思いっきり体を動かさんと、鈍っちまうからのう」

「どこじゃ!? どこにおるんじゃ!?」


 目の色を変えて詰め寄ってくる木葉に、


「あ、あそこぜよ」


 巫剣は北の山を指さした。


「うおっしゃああ!」


 さっそく向かおうとする木葉を、


「待てい」


 秋代が後ろ襟を掴んで引き止めた。


「なんで止めるんじゃ、春夏!?」

「当たり前でしょうが! あんた、ここへ来る前に話したこと忘れたの?」

「ん? なんか話したか?」


 木葉は綺麗サッパリ忘れ去っていた。


「全員で手分けして、とりあえず簡単にゲットできるものだけゲットして、ドラゴンみたいな難易度の高いのは、後で全員でゲットしようってことになったでしょうが」

「そうじゃったか?」

「そうよ」

「じゃが、すぐそこにドラゴンがおるんじゃぞ。見たいじゃろうが」


 木葉たちは、これまで様々なモンスターと戦ってきたが、ドラゴンと戦ったことはないのだった。


「あの山までなら、おまえならひとっ飛びじゃろうが。ちょこっと行って、ちょちょいとゲットしてくれば済む話じゃ」

「ドラゴンがチョチョイで済むか!」


 秋代は柳眉を吊り上げた。しかし1度火が点いた木葉のドラゴン熱は治まらず、


「これが最初で最後よ」


 最後は秋代が折れたのだった。


 そして巫剣を含めて北の山へと飛んだ秋代と木葉は、その山頂でレッドドラゴンを目にすることとなった。


 レッドドラゴンは、その名の通り全身赤のドラゴンであり、闇属性のドラゴンの中でも最強を誇るドラゴンとして、人々に長く恐れられていた。


 異世界ナビの情報によれば、この世界のドラゴンは善と悪の2属性に別れていて、同じ力を操るドラゴンでも、善属性は火であればファイアーという元素、悪属性の場合はレッドという色が名前の頭となっているということだった。

 加えて巫剣の情報によれば、この世界のドラゴンは属性に関係なく、たとえ跡形残らず消し飛ばされたとしても、翌日には完全体として復活する不死身の存在として認知されているらしかった。


 そういうことしてるから、ゲームだと思われるのよ。


 秋代はそう思ったが、この世界の目的がプレイヤーのレベルアップである以上、ある程度のご都合主義はやむを得ないところでもあった。


 ともあれ、ここまで来た以上、レッドドラゴン関連のアイテムは手に入れておきたい。なんとか、ドラゴンに気づかれずに牙や爪をゲットする方法を……。


 考えを巡らせる秋代をよそに、


「のう、わしにおんしの爪、ちょっと分けてくれんか?」


 木葉は無造作にレッドドラゴンへと進み出た。


「ドアホオオオオ!」


 秋代は思わずツッコみ、


「ホンマに、ええツッコミぜよ」


 巫剣を再び感服させることになった。


 そして案の定、レッドドラゴンの返事は、


 ブオオオオ!


 木葉へのファイアーブレスだった。


「あーちゃちゃちゃ!」


 全身にドラゴンの洗礼を浴びた木葉は、地面を転げ回った。


「アホオオオオ!」


 秋代は、あわてて木葉に氷雪を付与した。すると一瞬の内に木葉の体が雪で覆われ、かろうじて焼死を免れたのだった。


「あー、ビックリした」


 秋代のお陰で一命を取り止めた木葉は、体に着いた雪を払い落とした。


「ビックリしたのは、こっちぜよ。ちゅうか、なんでアレ食らって平気なんじゃ?」


 巫剣は信じられないものを見るように、何度も目を瞬かせた。普通、ドラゴンのブレスを食らえば、即死確定なのだが。


「そのバカは大丈夫よ。頑丈だけが取り柄だから」


 驚いた素振りもなく、秋代はあっさり言った。


「頑丈とか、そういう次元の問題じゃないと思うんじゃが」

「そんなことより、こうなったら真っ正面からブッ飛ばすしかないわね。たく、バカが考えなしに動くから」


 そんなもん、ドラゴンに頼めばええことじゃろ。


 ドラゴンウォーリアーを選ぶとき、確かに木葉はそう言っていた。


 だが、まさか本当に実行するとは。


 木葉のバカさ加減を甘く見ていた、秋代の失敗だった。そして、この状況を引き起こした張本人はというと、


「なんじゃ。ケチ臭い奴じゃな。そういうことなら、もうええ。こうなったら、力づくでブン取るまでじゃ!」


 懲りずにドラゴンへと特攻をかけていた。


「あのバカ」


 秋代は引き止めようとしたが、間に合わなかった。そして懲りずに向かってくる木葉に、ドラゴンの口から再びブレスが放たれる。しかし今度は、木葉も黙ってやられはしなかった。


「ブーストオン!」


 木葉は大地を蹴ってブレスを飛び越えると、そのままドラゴンの額に剣を突き刺した。

 しかし、その程度で殺られるほどドラゴンもヤワではない。うるさいハエを振り払うべく、翼を羽ばたかせる。


 さては逃げる気じゃな。


 とっさにそう思った木葉は、


「そうはさせんぞ!」


 ドラゴンの尻尾まで駆け降りると、


「ふぬりゃあああ!」


 ドラゴンの逃亡を阻止すべく尻尾を掴んだ。そして、


「リミテッドパワー!」


 尻尾を思い切り振り回すと、


「ぬおりゃあ!」


 ドラゴンを岩壁に叩きつけたのだった。そこへ、


「冷凍付与!」


 秋代がドラゴンの頭を凍らせにかかる。その光景を、


 「…………」


 巫剣は呆然と眺めていた。


 20メートル以上あるドラゴンの巨体を、生身の体で投げ飛ばす。


 そんな常識外れな魔法戦士を、これまで巫剣は見たことがなかったのだった。


 そして最後は、


「おりゃああああ!」


 木葉がドラゴンの首を切り裂くことで戦闘は終了した。


「たく、あんたがバカなことするから、無駄に時間食っちゃったじゃない」


 戦闘後、秋代の小言が炸裂したが、


「戦わずに済んだら、それに越したことはないじゃろうが」


 やはり木葉に反省はなかった。


「ちゅうか、凄いの、おんしら」


 巫剣は心底感心していた。結局、秋代たちは最強のレッドドラゴンを、たった2人で倒してしまったのだった。


「そう? あれぐらい普通じゃない? ねえ?」


 秋代に言わせれば、あのドラゴンが弱すぎただけだった。


「そうじゃな。あれぐらい、誰でも普通にやれるじゃろ」


 木葉も軽い調子で同意した。


「そうそう。だいたい、もしここに永遠長の奴がいたら、それこそカオスブレイド1発で真っ二つにしてただろうし」


 それは秋代にとって、憶測ではなく確信だった。


「永遠長?」


 意外なところで出た意外な固有名詞に、巫剣は眉をひそめた。


「永遠長って、あの「背徳のボッチート」のことかいの?」

「なんじゃ? おんしも永遠の知り合いか?」

「いや、名前はよう聞くがのう」

「どうせ悪名でしょ。あいつ、あっちこっちで好き放題してるみたいだから」


 秋代は、もう永遠長のどんな話を聞いても驚かない自信があった。


「ちゅうか、おんしら、もしかして「背徳のボッチート」の仲間なんか?」


 今さらの巫剣の質問に、


「そうじゃ」

「同僚よ」 


 2人から異口同音の答えが返ってきた。


「ちゅうことは、さっき言うとったギルド戦も、連合からの参加じゃなかったんか?」


 異世界ギルドと連合チームのギルド戦は、今やプレイヤーたちの注目の的となっているが、その大半は連合チームの勝利を予想していた。

 実際、連合チームには「大和」「ダイバーシティ」という2大ギルドの他「百獣戦士団」「ヘブンズゲート」など強豪ギルドも名乗りを上げ、噂ではアメリカやヨーロッパのギルドも参加の意向を示しているという。


 そんな大連合が相手では、いかに「背徳のボッチート」といえども、今回ばかりは分が悪い。

 だから勝ち馬に乗って連合チームから参加する者はいても、異世界ギルド側から参加する物好きなどいるわけがない。


 巫剣は、そう思い込んでいたのだった。


「そんで、あわててシークレットば集めちょったっちゅうわけか。ちゅうか、言うて悪いが、今さらシークレット集めたところで、どうなるもんとも思えんがのう」

「そんなもん、やってみんとわからんじゃろうが」


 木葉は、あっけらかんと言った。


「いや、どう考えても勝ち目ないじゃろ。噂じゃ連合チームの総数は、ゆうに千を超えちょるうえ、強豪ギルドの幹部クラスは、軒並みシークレットなんじゃぞ」

「つまり、そんだけ強い奴らと戦えるっちゅうことじゃな。今からワクワクするのう」


 木葉は武者震いした。


「まあ、あたしもそう思うけど、今回ばかりは特別なのよ」


 秋代の目は怒りに燃えていた。


 あの糞チビだけは絶対殺す!


 今、秋代を動かしているのは、その思いだけなのだった。


「だいたい、勝負はシークレットだけで決まるわけじゃないじゃろ。実際、永遠の奴はカオスロードで魔神に勝ったんじゃし」


 木葉があっけらかんと言い、


「まあ、アレは例外だけど、確かにそうよね」


 秋代も軽く同意する。


 こいつら、永遠長基準ちゅうか「背徳」と一緒におり過ぎて、強さの基準がおかしゅうなっとるんじゃ……。


 巫剣の推測は、ある意味正鵠を射ていた。


「それに、そもそも論になるけど、そもそも永遠長にはギルド戦を受ける義理なんてなかったわけじゃない」


 秋代に言わせれば、それこそ「あの場から、さっさとトンズラこいた糞が、何偉そうに言ってやがる! 死ね! 糞チビが!」と、追い返せば良かっただけの話なのだった。


「なのに、わざわざ受けたってことは、何か勝つ算段があるってことでしょ」


 その秋代の推測に、


「ほう?」


 巫剣の口元が興味深げに曲がった。


「そういうこと言うとるから、天国に他力本願言われるんじゃぞ、春夏」


 木葉の冷静なツッコミに、


「う、うっさいわね! わかってるわよ、そんなこと!」


 秋代はムキになって言い返した。秋代にとって天国は、尾瀬とは違う意味で「こいつには負けたくない」と思わせる何かがあるのだった。


「状況から、そう読み取れるってだけの話よ。実際、あいつも言ってたでしょうが。勝つだけなら簡単だ。試合までに、敵のメンバーを地球で皆殺しにすれば済む話だって」


 確実に勝てる方法があるのにやらないということは、試合で勝てる算段がついているということだった。


「負けたときは負けたときと、思うとるだけかもしれんぞ」

「まあね。負けても本当に死ぬわけじゃないし。あいつの場合、いざとなったら地球ごと全人類消し飛ばせばいいとか思ってても不思議じゃないし」

「そうじゃ。前も言うとったじゃろ。地球の半分を反なんとかにしたら、なんとかって」

「反物質よ。地球の半分を「改変」で反物質にしたら、実際のところ、地球は消滅するのか吹っ飛ぶのか? 機会があれば試してみるのも一興って言ってたのよ。真顔でね」


 恐ろしい話を平然とする秋代たちを見て、


 こいつら、やっぱり永遠長に毒されとる。


 その確信を深めた巫剣は、自分も毒されないうちに話題を変えることにした。


「そ、それはそうと、さっきの「ブーストオン」ちゅうのは、なんぜよ? なんかの魔法かなんかか?」

「ああ、アレか。アレは小鳥遊が言うには、電源みたいなもんなんじゃそうじゃ」


 木葉は、あっけらかんと答えた。


「電源?」

「そうじゃ。小鳥遊が言うには、ちょっと前まで、わしは「増幅」をいつも全力で使っとったそうなんじゃ。じゃが、今は「ブーストオン」ちゅうたときだけ「増幅」の力が使えるようになっとるらしいんじゃ。なんでかは、わしにもようわからんがの」


 なぜかはわからないが「ブーストオン」と言えば、増幅の力がうまく使える気がした。だから言ってみたら本当に使えた。


 木葉には、それで十分なのだった。

 他方、秋代や小鳥遊には、その理由におおよその見当がついていたが、木葉には教えていなかった。教えても、ロクなことにならないのが目に見えていたから。


「面白いの。その力、いっちょオイにも試させてくれんか」


 巫剣は木葉に両手を差し出した。


「おう、力比べじゃな」


 この誘いに木葉も応じて、巫剣と四つに組んだ。そして、


「ブーストオン! じゃ!」


 木葉は「増幅」のクオリティを発動させ、


「うぬぬぬぬ! おりゃああ!」


 結果は木葉の圧勝に終わったのだった。


「いやあ、強いの、おんし」

「おんしものう」


 巫剣と木葉は、互いの健闘を称え合った。


「気が済んだ? じゃあ、ドラゴンのアイテムも手に入れたことだし、行くわよ」


 木葉の後ろ襟を鷲掴む秋代を、


「ちょお待っとおせ」


 巫剣が手で制した。


「何?」

「木葉、おんし、さっき「プラチナムドラゴンウォーリアー」ちゅうとったが」

「おう。なんか知らんが、核兵器に匹敵する破壊力と隕石落としができるっちゅう、凄いジョブなんじゃそうじゃ」

「じゃあ、もしそのプラチナムよりも、もっと凄かジョブがあるっちゅうたら、どうすっとね?」

「なんじゃと!? そんなジョブがあるんか!?」

「おうよ。その名も「トゥルードラゴンウォーリアー」。日本語に訳せば「真竜の魔法戦士」ぜよ」

「おお! なんか知らんが凄そうな名前じゃ!」


 木葉は目を輝かせた。


「実際凄かとよ。なんせ、善のドラゴンの親玉であるプラチナムドラゴンと、悪のドラゴンの親玉であるティアマト両方の力を兼ね備えた、ドラゴンの中のドラゴンの力を宿した魔法戦士らしいからのう」

「おおおおお! カッコえええ!」


 木葉の興奮は最高潮に達していた。


「で? で? そのなんとかドラゴンには、どこに行けばなれるんじゃ?」

「ちょお待っとうせ。妹と連絡とるけえ」


 巫剣はそう言うと、異世界ナビで妹にメールを送った。

 そして、待つこと5分。

 秋代たちの前に、2人の少女が転移してきた。

 1人は巫剣と同年代の少女で、もう1人は12、3。そして装備品から推測するに、同年代の少女は巫剣と同じファイターで、もう1人は魔術師のようだった。


「お、由佳ゆかも来てくれたんか。すまんの」


 巫剣が同年代の少女に声をかけた直後、


「しゃしね!」


 同年代の少女の掌底が巫剣の胸に叩き込まれた。


「どへべ!」


 いきなり殴り飛ばされた巫剣は、


「いきなり何をしよんじゃ!?」


 たいしたダメージを受けた様子もなく、即座に立ち上がった。


「しゃしね! あんだ、今日はあだしの買い物に付き合う約束だったべ」


 激怒する少女に、


「べ、別に忘れとったわけじゃないぜよ。ただ、その前に、ちいと体を動かそうと思っただけで」


 巫剣はあわてて言い訳したが、実のところスッカリ忘れていたのだった。


「あの」


 遠慮がちに声をかける秋代に、


「お、忘れとった。紹介するぜよ。この2人はオイの妹と幼馴染で、こっちが妹のじゅんで、こっちが志門由佳しもんゆかぜよ。ちなみに盾はアルカナキャスターで、由佳はシークレットのバトルプリーストぜよ」

「アルカナキャスター?」


 聞き慣れない名前に、木葉は小首を傾げた。


「符術師よ。あの呪符を使うヤツ。式神とか、漫画で見たことあんでしょ」


 秋代に説明され、


「おお、あれか」


 ようやく木葉も納得した。

 そして秋代たちの紹介も済んだところで、


「お兄、あたしをパシリに使うなんて、いい度胸じゃん」


 巫剣盾は兄を睨みつけた。


「まあ、そうむくれんなて。今度、なんか奢っちゃるけ。で、頼んだもんは持ってきてくれちょうと?」

「持ってきたけど」


 妹は持ってきた地図を、兄に差し出した。


「おお、感謝感謝じゃ。我が最愛の妹よ」


 巫剣は妹から地図を受け取った。


「なんじゃ、それは?」


 木葉は地図を覗き込んだ。


「これか? これは前に入ったダンジョンの地図ぜよ」

「ダンジョン?」

「そうじゃ。そこで、この前たまたま見つけたんじゃ。トゥルードラゴンウォーリアーの石板をのう。ダンジョン自体、見つけんのが難しい場所じゃし、あったんは隠し部屋の中じゃったから、運がよければまだ残っとるかもしれん。どうじゃ? 骨折り損になるかもしれんし、無理には進めんが」

「行くに決まっとる!」


 木葉は即答した。


「それでこそ男ぜよ」


 巫剣は楽しそうに笑った。


「そんじゃ行くぜよ」

「え? あんたも一緒に来るわけ?」


 秋代は、てっきり地図をくれるだけだと思っていたのだった。


「稽古台にしようと思っちょったドラゴンを、おんしらに取られてしもうたからのう。このダンジョンなら、代わりにちょうどええ。おんしらの戦いを見てたら、オイも無性に戦いとうなったしのう」


 巫剣の武闘家としての血が、戦いを求めて騒いでいるのだった。


「手伝ってくれるんか? ええ奴じゃのう、おんし!」

「当然ぜよ。坂本龍馬を好きな人間に、悪人はおらんぜよ」

「その通りじゃ!」

「同志よ!」


 木葉と巫剣は固く握手を交わした。そして互いの坂本龍馬への思いを再確認した後、


「ちゅうわけで盾、悪いがわしらを、あそこまで運んでくれんね」


 巫剣は妹に頼んだ。


「何が「ちゅうわけ」よ。あたしはタクシーじゃないってーの」


 妹にそっぽを向かれてしまった。


「そこをなんとか頼むぜよ。今度、なんか買ってやるけえ。これ、この通りぜよ」


 巫剣は両手を合わせて、妹を拝み倒した。


「たく、しょうがないわね」


 妹は懐から呪符を取り出すと、


「んじゃ、行くわよ」


 トゥルードラゴンウォーリアーの石板が眠るダンジョンへと一同を転移させたのだった。





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