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第126話

 朝日が部屋に差し込むなか、七星は静かに目を開いた。


 あの最終戦から2度目となる目覚めだったが、やはりそこは4年前に引っ越したはずの自分の部屋だった。


 最初にこの部屋で目覚めたときは、すべてが夢だったのかとも思った。しかし夢にしては記憶が鮮明過ぎるし、何より夢を他人と共有するなどありえない話だった。


 だとすれば、考えられる可能性は唯ひとつ。常盤がなんらかの力で、自分たちを過去に戻したということだった。


 確かに過去に戻れば、十六夜の両親の事故死もなくなり、九十九のイジメ被害も未然に防ぐことができる。そして七星自身も「4年間のニート生活の延長」という特典を得ることになる。


 まさに、万々歳の結末だった。


「…………」


 七星は静かに目を閉じると、毛布を被り直した。外はすっかり明るくなっていたが、自分には関係のない話だった。いや、ないはずだった。


「七星君、起きて、七星君」


 自分を揺する手と声に、七星は面倒臭げに目を開けた。すると、やはり犯人は十六夜だった。その十六夜も当然ながら4年分若返り、髪も長髪に戻っていた。


「うるせーな」


 七星は再び眠りかけて、この状況の不可解さに気づいた。


「てか、なんでおまえが、ここにいるんだよ?」


 今、この家には自分しかいないし、玄関には鍵がかかっていたはずだった。


「どうしてって、七星君が起きないから」

「そーじゃなくて、どーやって、この家に入ったのかって聞いてんだよ」

「それは針金で」

「犯罪だろ、それ」

「だって、いくらインターホン鳴らしても、七星君開けてくれないんだもん」

「そーゆー問題じゃねーだろ。つーか、ピッキングなんて、どこで覚えたんだよ?」

「それは、わたくしが教えました」


 答えたのは、十六夜の後ろに控えていた静火だった。


「常盤家のメイドたるもの、いついかなる状況にも対処できるようになっておかねばなりませんので」

「ピッキングしなきゃなんねー状況って、どんな状況だよ。て、ドS女!? なんでテメーまで、ここにいんだよ!?」


 七星は布団から飛び起きた。


「旦那様の指示です。でなければ、誰も好き好んで、こんな豚小屋になど来ません」

「あーそー、て、キモオタだと!? この期に及んでキモオタが、オレになんの話があるってんだ?」


 七星は不快感を顕にした。


「むろん、十六夜さんに関することです」

「十六夜の? その件については、もう片がついたはずだろーが」

「確かに、太陽神とのケリはつきました。ですが、それで十六夜さんを取り巻く問題のすべてが解決したわけではない、ということです」

「どーゆーことだよ?」


 七星は眉をひそめた。


「以前説明した通り、人類の殲滅に反対した月の女神は、審判役として人間に転生することになりました。しかし、ここで神々から異論が出たのです。地球人の命運を月の女神に一任するのは不公平だ、と。加えて、月の女神が突然職務を放棄した場合、上を不審がらせることになる」


 そこで太陽神は、現地の実態調査の名目で、賛成派と反対派それぞれから10神ずつを、月の女神同様地球人として転生させたのだった。


「そして、その20の神それぞれに月の女神と同じ投票権を与え、全員の死後、より投票数の多い意見を是とすることとしたのです」

「要するに、改めて多数決で決めようとしたってわけか」

「そういうことです。それでもなお、太陽神が十六夜さんに執着したのは、あなたが推察した通りですが、あえて付け加えると、十六夜さん以外の反対派からは、すでに了承を得ていたからです。十六夜さんに行ったのと、同じやり口によって」

「やっぱ、あそこで殺しといたほうがよかったんじゃねーか、あいつ?」

「その意見には概ね賛成ですが、あそこで太陽神を葬っていたとしても、それですべてが解決とはならなかったでしょう。太陽神は、しょせん使い捨ての駒でしかありませんでしたから」

「テメーが天界で言ってた、黒幕が残ってっからか?」

「そうです。が、証拠はありませんし、戦ったとしても、あなたが勝てるという保証もありません。性根は腐り切っていますが、力は星務官のなかでも最上級クラスですから」

「て、ことは、やっぱ、あいつか」


 七星の脳裏に風花の容姿が浮かんだ。


「ですが、太陽神たちの計画が、すべてうまくいったわけでもありませんでした。先程申し上げたように、反対派の神々の大半は取り込めたのですが、竜神と幸運の女神だけは失敗してしまったのです。竜神は、大グループの令嬢に転生したために。そして幸運の女神は、その強運で太陽神の毒牙をことごとく回避することによって」

「それって!」


 十六夜が思わず声を上げ、


「はい。龍華さんと幸さんです」


 静火は十六夜の推察を肯定した。


「それで、大会に出場するよう仕向けたってわけか? これ以上あいつらに手出しさせねーために」

「そういうことです。そして彼女たちを除いても、この世界にはまだ18の神が存在し、その中には速やかに人類を殲滅すべきと考えている過激派がいるうえ、反対派から意趣替えした者の中にも、このような状況を生み出した月の女神を恨みに思っている者もいるのです。自分がこんな目に遭ったのは、月の女神が余計なことを言い出したからだ、と」

「…………」

「そのため、太陽神を排除したからといって、いえ、過激派の暴走を抑えていた太陽神を排除してしまったからこそ、彼らがこの先どんな暴挙に出るか予測がつかないのです」

「そいつらの居場所はわからねーのか?」

「聞いてどうするというのです? 皆殺しにでもしようとでも? 言っておきますが、たとえ元は神でも、今の彼らはれっきとした地球人です。それを殺害すれば、あなたはよくて懲役、最悪死」

「オレが、それをビビるとでも?」

「そして、あなたが投獄された後、十六夜さんは反対派の悪意に再びさらされることになるわけですね。しかも、今度はあなたという守り手のいない状況で」

「……そうさせねーために、全員ブッ殺すんだよ」

「十六夜さんの気持ちを無視して、ですか?」


 静火の指摘に、七星は絶句した。


「そんなことができるぐらいなら、あそこで太陽神を消せていたのではありませんか?」

「…………」

「そして、わたくしたちも彼らには手が出せません。基本神は、人類に危害を加えてはならないことになってますから」

「打つ手なしってことか」


 七星は苦々しく吐き捨てた。


「確かに、こちらから仕掛けることはできません。ですが、対策がないわけではありません」

「どーすんだよ?」

「これです」


 静火は鞄の中から取り出した書類を、七星と十六夜に手渡した。見ると、それは常盤学園のパンフレットだった。


「見ての通り、それは旦那様が経営する常盤学園の入学願書です。常盤学園は、世間的にはセレブの通うエリート校として認知されていますが、その裏では突発的に力に目覚めた人間たちを保護、管理するシェルターとしての役割も担っているのです。そこであれば、万全とは申せませんが、少なくとも他の場所にいるよりも、十六夜さんを悪意から守ることができるはずです」

「だから入学しろってか? オレに、あの糞キモオタがやってる学校に?」


 七星の声には、多大な拒絶成分が含まれていた。


「強制はいたしません。どうするも、あなたの自由です。神が人に行うことは、いつでも選択肢を用意することだけ。それを選ぶ選ばないは、人が決めることです」


 静火はそう話を締めくくりかけて、ひとつ言い忘れていたことを思い出した。


「もしかすれば、もうこれであなたがたと会うのは最後になるかもしれませんので、最後に1つだけヒントを与えておきましょう」

「ヒント?」


 七星と十六夜は顔を見合わせた。


「そうです。先程申し上げたように、この世界には、あなたがたの他に20の転生者がおりますが、それらの者には共通する特徴があるのです」

「なんだ、そりゃ?」

「名字です」

「名字?」

「旦那様の意向により、転生者の名字は、その神にあやかったものとなっているのです。たとえば、龍神の転生者である龍華さんや幸運の女神の転生者である幸さんのように」

「なるほど」

「じゃあ、もしかして陽さんも?」


 十六夜が尋ね、


「はい。察しの通り、彼女は太陽神の転生者です」


 静火の答えに、


「え!?」

「は!?」


 十六夜と七星の思考は一瞬停止した。


「て、ちょと待てい! 太陽神たら、オレがブッ飛ばした奴だろ? 陽が太陽神の転生者だってーなら、アレはなんだったんだよ?」

「あれも太陽神です。陽さんは、あの太陽神から切り離された魂の1部。言わば分身なのです」

「分身?」


 十六夜は困惑を隠せず、


「なるほど。要するに、神様が次の神になるために、大魔王を切り離したようなもんってことか」


 七星は概ね状況を理解した。


「太陽神は過激派のトップ。両陣営からしてみれば、太陽神が高みの見物を決め込んでいるのは納得がいかなかったし、太陽神自身、示しがつかないと思ったのでしょう」


 しかし、最高責任者である自分が天界を留守にするわけにはいかない。そこで魂を分離し、分身を地上に転生させた。


「名前は、あくまでも彼女の親御さんがつけたもので、旦那様は関与してはおりません。それに、これはあくまでも出生時のこと。出生後両親が離婚、もしくは死別により養子に出された場合などで、名字が変わっている者がいないとは言い切れません」

「だろーな」

「ですが、警戒するための1つの目安とはなるでしょう」

「なるほどな。だから、月の女神の転生体である十六夜は、十六夜ってわけだ」

「でも、じゃあ七星君は、どういう?」


 静火の話通りなら、七星は破壊神の転生者であるはずだったが、名字にそれらしい意味が含まれているとは思えなかった。


「わたくしはよく存じませんが、昔の漫画にあったのでしょう? 北斗七星が死を司る星どうこういう設定が」


 静火の説明に、


「ああ」


 十六夜は納得した。


「旦那様は、日本の創作文化を愛しておりますし、全宇宙にある言語の中で日本語が最も優れていると信じて疑っておりません。ですから、転生者も全員日本人として転生させましたし、ここでのご自身の名前も、そこからつけておられるのです」

「ご自身の名前?」

「わたくしはよく存じませんが、旦那様と同じ名前の賃貸物件があるのでしょう? 数多くの漫画家を排出したことで有名な」

「ああ」


 十六夜は再び納得し、


「よーするに、骨の髄までキモオタってことだな」


 七星は切り捨てた。そして、


「では、わたくしは失礼します」


 要件を済ませた静火は、今度こそ七星家を後にしたのだった。


「私、どうしたら……」


 静火が帰った後、十六夜は不安そうに言った。静火は、ああ言ってくれたが、七星が常盤の誘いに乗るとは十六夜には思えなかったのだった。


「どーするもこーするも、行くしかねーだろ」


 七星は不愉快そうに言い切った。


「でも七星君は、納得してないんでしょ? その、常盤さんの掌の上って感じになっちゃうから」


 キモオタが関わってる時点で、オレにイエスの選択肢はない!


 七星は、以前そう断言していたのだった。


「しょーがねーだろーが。それしか、おまえを守る方法がねーってんならよ」


 七星は寝返りを打って、十六夜に背を向けた。


「つーか、話は済んだんだから、おまえももう帰れ」

「ダメだよ。ちゃんと学校行かないと」


 静火と会ったのは偶然で、十六夜が七星の家に来た当初の目的は、七星を学校に連れて行くためなのだった。


「おことわりだ。だいたい、中学は1度卒業してるんだ。何が悲しくて、もう1度あんなウゼーところにウゼー思いしに行かなきゃなんねーんだ。アホクセー」

「アホクセーって」

「それに、夏までは真面目に通ってたんだ。半年ぐらい通わなくても進級できるはずだから、サボってもなんの問題もない」

「あるよ、大ありだよ」

「うるさい。とにかくオレは寝る。おまえも、もうオレのことは放っとけ。以上、終わり」


 七星は毛布を頭から被った。


「そう、わかった。そういうことなら……」


 その十六夜の口振りに、七星は安堵した。


 これでようやく、口うるさい小姑から解放される。


 そう思った七星だったが、十六夜は帰るどころか、その場で服を脱ぎだしてしまったのだった。


「な、何やってんだ、おまえは?」


 十六夜の奇行に気づいた七星は、毛布から顔を出した。


「何って、七星君がどうしても寝るっていうなら、わたしも付き合おうと思って」

「は? どこをどーすりゃ、そーゆー結論になるんだよ?」

「七星君の理屈もおかしいんだから、おあいこだよ」


 十六夜は上着に続き、スカートも脱ぎにかかった。


「やめろ!」


 七星は起き上がると、十六夜の手を止めた。


「わかった! 行く! 行けばいいんだろ!」

「ホント?」


 十六夜の顔が華やいだ。


「本当だよ。おまえを道連れにするぐらいなら、学校で寝てたほーがマシだ」


 七星は渋々ベッドから起き出すと、十六夜が用意した朝食に手をつけた。


 なんだかなー。


 気がつくと、すっかり十六夜との暮らしに馴染んでしまっている自分がいた。


 それもこれも、すべてはあのキモオタどものせいだ。


 そう思うと、改めて常盤たちへの殺意が沸く七星だった。


「たく、死なばもろともみたいな玉砕戦法できやがって。おまえみたいな奴が、1番始末がワリーんだ。つーか、男の寝室で下着姿になるとか、いくらなんでも危機感なさ過ぎだろ。それこそ、押し倒されても文句言えねーところだぞ」

「わたしは、それでもよかったけど?」

「バ……」


 予期しなかった十六夜の切り返しに、七星はむせかえした。


「そんなに驚かなくてもいいのに」


 十六夜は苦笑した。


「七星君とは常盤さんのお屋敷で、夜もずっと2人っきりだったんだし、水着姿でお姫様抱っこもされちゃってるし」

「それとこれとは、全然話が違うだろ」

「そう? 同じようなものだと思うけど?」

「全然違う」

「それに七星君には、もう、1度体を許しちゃってるし」


 十六夜にそう言われ、七星は再びむせかえした。


「誤解を招く言い方するんじゃねーよ!」

「だって、本当のことだし」

「だーかーらー、違うっつってんだろ! おまえまで、オレを覗き魔みたいに言ってんじゃねーよ」

「別に覗き魔だなんて言ってないよ。ただトイレやお風呂で、見たんだよね? わたしの」

「だから見てねーし! だいたい、おまえあのときは、ずっとオレの死体の傍にいてフロなんか入ってねーだろーが!」

「そういえば」

「それに、オレはお前のなかに入ってる間、ほとんど月の女神の記憶を見てたから、その間おまえが何してたかなんて知らねーんだよ」

「そーなの?」

「そーだ」

「じゃあ、月の女神の裸は何度も見たんだね」

「だから!」


 ムキになる七星を見て、十六夜の口元には自然と笑みがこぼれていた。


「でも、今さらだけど、本当にわたしたち、月の女神と破壊神の生まれ変わりなのかな?」

「本当に今更だが、おまえはそーだ」

「じゃあ、わたしたち死んだら離れ離れになっちゃうのかな?」

「そりゃーそーだろ。つーか、そんなもん、誰でもそーだろ。元々、人間なんて死んだら終わり。だからこそ、生きてるうちに自分が生きた証を必死こいて残そーとするし、子供だって作ろーとするんじゃねーか」

「そうだけど……」

「むしろ、死んでも魂があるとわかっただけ、他の奴よりマシだろ。おーかたの人間は、死んだらそこで終わりっていう、消滅の恐怖を抱えたまま生きてんだからよ」

「そうだけど……」

「そーだけど、なんだよ? 自分が神様だとわかったとたん、特別扱いでもされたくなったか?」

「そんなこと……」

「だったら、そんなこと考えるだけ無駄だろーが。それと、ついでだから言っとくが、確かに太陽神みたいに、気に入らねーから人類皆殺しにしよーとすんのは間違いだが、月の女神みてーに助けよーとすんのも、それはそれで間違ってるからな」

「え?」

「たとえ、それが助けるためであろーが、そいつの人生に介入するってことは、そいつの人生を自分の思い通りに誘導するってことだろ。人にとって、何が幸せで何が不幸せかなんて、それこそ神にだってわかりゃしねーんだ。それを、自分が正しいと思ったからって助けの手を差し伸べてたら、それこそ際限がなくなって、気が付いたら太陽神と同じになってる、なんてことになりかねねーんだ」

「…………」

「だからこそ、神のやるべきことは問答無用で助けることじゃなく、たとえ絶望的な状況のなかでも、そいつが助かる道を用意しとくことなんだよ。ドS女も言ってただろーが。その道を、そいつが選べばよし。仮に選ばなかったとしても、それはそれでそいつの勝手。神様のやることなんて、それでいーんだよ。おまえ、神様に戻ったら、また無駄に悩みそーだから、よく覚えとけ」

「う、うん。だけど……」

「だけど、なんだよ?」

「七星君が言うと、ニートの自分を正当化するために言ってるようにしか聞こえないから」

「ちげーし。いや、ニートでいーと思ってんのはそのとーりだが、オレはあくまでも神の在り方を言ってるだけだ」


 七星は不本意そうに言うと、テレビをつけた。すると、ニュースで今日の株価の動向を話していた。


「ねえ、七星君。今度、常盤さんに会いに行こうと思うんだけど、七星君も一緒に」

「行かねーし」


 七星は即答した。それでなくても、常盤学園に入学したら、嫌でも見る可能性が高いのだから。


「なんでオレが、またわざわざ、あいつの顔見に行かなきゃなんねーんだ」

「でも、お世話になったし」

「オレはなってねーし。迷惑かけられただけだし」


 七星が常盤に言うことがあるとすれば、


「死ね」


 それだけだった。


 確かに十六夜が助けられたことには、多少感謝の気持ちがないでもない。

 だが七星の推察するところ、あの2人ならば、もっとスマートに十六夜を助けることができたはずなのだ。それを、あえてこんな手の込んだ方法を取ったのは、絶対に「そのほうが面白いから」に違いないのだった。


 要するに、自分たちはキモオタの暇つぶしの道楽に利用されたわけで、そう思うと感謝の気持ちなど跡形残らず消し飛ぶのだった。


「他の皆も、あれからどうなったかわからないし」

「オレたちが、こーして生きてんだ。あいつらだって元気にしてんだろ。殺しても死ぬよーな奴らじゃねーし」


 食事を終えた七星は、十六夜とともに家を出た。


「じゃ、行こ」


 十六夜は七星の手を取った。


「……おまえ、なに普通に手-繋いでんだ。こんなところクラスメイトに見られたら、下手すりゃまたクラスで浮くことになるんだぞ。わかってんのか?」


 そう言いつつ、七星も十六夜の手を振り解こうとはしなかった。


「いーよ、別に。七星君とクラスメイトの、どっちを選ぶかって言われたら、わたしは迷わず七星君を選ぶから」


 十六夜は笑顔で言い切った。


「それに、七星君が言ったんでしょ。他人の顔色を気にして、自分にとって大事なものを手放すなって」

「……おまえがそれでいーなら、オレは別にいーけどな」


 十六夜の言っていることが事実なだけに、七星としては彼女の選択を尊重するしかなかった。


「と言うわけで、これからもよろしくね、七星君」


 十六夜は無邪気に微笑んだ。


 それは七星が望んだ、完全無欠のハッピーエンドに相応しい、最高の笑顔だった。


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