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第109話

 三回戦当日。

 常盤家では、再び外出時の服装について論争が起きていた。


 事の起こりは、私服で外出するつもりでいた龍華に、静火がメイド服の着用を強要したことだった。


「わ、わたくしに、こんな格好で表に出ろとおっしゃるんですの! 冗談じゃありませんの!」


 龍華は怒りに顔を紅潮させた。


「むろん冗談ではありません」


 静火は冷然と言った。


「我が家のメイドは、外出時でもメイド服を着用すると決まっているのです。その証拠に、あなたとの試合でも十六夜さんはメイド服姿だったはずです」


 静火の話は完全にこじつけだったが、くわしい事情を知らない龍華は反論できなかった。

 もちろん、これは静火の龍華への嫌がらせ以外の何物でもなかったが、おかげで十六夜は今回もメイド服で出場するハメになってしまったのだった。


 しかし、この静火の思惑は、当初想定したほどの効果を上げなかった。


 確かにメイドを3人連れた常盤家一行は、案の定、周囲から好奇の目で見られることになった。しかし覚悟を決めた龍華は変に恥じ入ることなく、威風堂々振る舞うことで、それらの目を跳ね除けた。加えて、電車が脱線事故を起こし、急遽タクシーでの移動に切り替えたことも幸いして、ほとんど人目に触れることなく会場入りできてしまったのだった。


 ともあれ息詰まる女の戦いが一段落し、一同がロビーで一息ついていると、今日の対戦相手である幸恵が近づいてきた。


 十六夜への宣戦布告か?


 一同はそう思ったが、幸が立ち止まったのは、十六夜ではなく七星の前だった。

 そして幸は、七星の顔をマジマジと眺めていたかと思うと、


「やっぱ、そうや!」


 会心の笑みを浮かべた。


「やっと会えた! あれから、ずっとあんたのこと捜しとってん!」


 幸は七星の手を取ると、喜びに目を潤ませた。しかし当の七星は、幸の顔に見覚えがなかった。


「えーと、どっかで会ったっけ?」

「会ったっけ? て、うちのこと、覚えてへんの?」

「覚えてない。自慢じゃないが、オレは人の顔と名前は、2日会わないと忘れる人間なんだ」

「ほら、2ヵ月前、正確には5月12日、アキバで会うたやん。うちがチンカスどもに因縁つけられとるとこに颯爽と登場して、チンカスどもボテクリまわして、うちのこと助けてくれたやん」

「5月12日、秋葉原……」


 七星は眉間を押さえ、脳をフル活動させた。確かに5月、秋葉原に行ったことは覚えている。パソコンが壊れたので、新しいのを買いに行ったのだ。そういえば、そのときチンピラどもが女の子を連れて、路地裏に行くのを目撃して……。


「あー、そーいえば、そんなこともあったな。あのときのか」

「思い出してくれたんやね」

「まーな」

「なあ、名前、教えてーな。あ、うちは幸恵。恵でえーで」

「俺は七星終夜だ」

「七星君、今日これから時間ある? よかったら、これからうちと遊びにいかへん? この前の礼も兼ねて、うちがおごったるさかい」

「これからって……。おまえ、これから試合だろーが」

「あ、そやった。じゃあ、1時間ほど待っといて。うち、ちゃっちゃと試合して、パッパと勝ってくるから」

「たいした自信だな」

「当然や。なんせ、うちには幸運の女神がついとるんやから」

「幸運の女神ね。裏工作員の間違いじゃねーのか?」

「あー、その顔、信じとらんな。ええわ。わかった。じゃあ、うちの言うてることがホントやってこと、ここで証明したるわ」


 幸は10円玉を取り出した。


「コイントスは知っとるやろ? よう見とき。これから、うちが5回全部当てたるから。まず、裏な」


 幸は10円玉を投げ上げると、そのまま床に落とした。すると、本当に10円玉は裏側を向いていた。


 幸は、さらに4回コイントスを繰り返したが、結果はすべて当たりだった。


「な、これでわかったやろ。うちは幸運の女神に愛されたラッキーガールなんや」

「…………」

「まだ納得しとらんちゅう顔しとるな。せやったら、こうせん? 今日の試合、もしその娘にうちが勝ったら、うちとデートするってのは」


 幸は十六夜を指さした。


「は? どーしてそーなる?」


 七星は眉をしかめたが、


「よっしゃ、決まり。おーし、勝ったらデートや思うたら、うち、めっさやる気出てきたわ。ほな、また後でな」


 幸は勝手に自己完結すると、さっさと対戦室に入ってしまった。


「忙しい奴だ」


 七星には、とても真似できないハツラツさだった。


「十六夜も、あんな奴の言うことなんか気にする必要ねーからな。作戦通りやれば、こっちの勝ちは揺るぎねーんだ。逆に、こっちがソッコーで勝負決めて、勝てるとタカくくってる、あの女の鼻を明かしてやれ」

「う、うん」


 十六夜はぎこちなくうなずくと、重い足取りで対戦室へと向かった。


「本当に大丈夫か、あいつ?」


 七星は不安げに十六夜の背中を見送った。


「……なるほど。ラッキーガールというのは、嘘ではないようですね」


 静火が口を開いた。


「強運を、こういう形で発揮させてくるとは。この試合、ここに無事で来られた時点で、十六夜さんの勝ちは揺るがないと思っていましたが、これでどちらが勝つかわからなくなりました」

「どういう意味だよ?」

「バカには言うだけ無駄です」

「なんだと、コラ」

「とはいえ、この程度のことで負けるようなら、そこまでの話。最初から、優勝など無理だったということでしょう」

「だから、なんの話だよ?」

「だから、バカには言ってもわからない話です」


 静火は、すげなく言い捨てた。


 一方、対戦室に入った十六夜は、幸からさらなる追い討ちをかけられていた。


「なーなー、あんた、七星君と付き合うとるん?」

「え?」

「いや、なんかずいぶん仲良さげやったから」

「い、いえ、わ、わたしと七星君は、そういう関係じゃ……」

「あ、そうなん。それ聞いて安心したわ」


 幸は陽気に笑った。


「もっとも、たとえ付き合っとったとしても、関係ないけどな。うち、欲しいと思ったもんで、手に入れられんかったもんないから。ほな、お互いがんばろ。ま、あんたがなんぼがんばっても、うちの勝ちは確実なんやけどな。なんちゅうても、うちには幸運の女神がついとるから」


 幸は、そう勝利宣言すると対戦席へと戻っていった。


 そして、その幸のラッキーガールぶりは、さっそく序盤から発揮された。


 幸に散々煽られた十六夜が、いきなり総攻撃を仕掛けたのだ。その守りを度外視した強引な攻め方は、普段の十六夜からは考えられない戦術だった。


「何やってんだ、十六夜の奴は? いくら相手が格下だからって、強引に行き過ぎだろ」


 この試合、七星は十六夜の勝利を確信していたが、それはあくまでも十六夜が普段の力を発揮できての話。もし、こんな戦い方がセットゲームにまで及べば、苦戦どころか3回戦突破すら危うかった。


 そしてこの七星の心配は、1ゲーム目で早くも現実のものとなってしまった。初戦の連珠戦で、勝ちをあせった十六夜は判断ミスを連発し、幸に敗れてしまったのだった。


「何ムキになってんだ、あいつは?」


 いぶかしむ七星に、静火たち3人の冷たい視線が集中する。


「……なんだよ?」


 七星が見返すと、


「いや、なんでも」

「なんでもありません」

「なんでもありませんの」


 3人は目を逸らした。


「なんだってんだ?」


 七星は憮然としつつも、それ以上の追求はしなかった。


 その後、十六夜は続くハサミ将棋戦も落としてしまい、序盤早々ポーン2駒を失う事態となってしまった。

 そして続く第3戦は、防御の布陣を整えた幸が攻撃に転じ、バカラでの勝負となった。

 バカラとは、簡略するとゲーム内でカード勝負をしている「胴元」と「客」の、どちらが勝つかを当てるだけのゲームであるが、それだけに勝つには運が必要になる。


 バカラ……。


 そのゲーム名を目にした瞬間、十六夜の脳裏に七星の言葉が蘇った。それは「もしバカラで勝負することになったら「胴元」を選べ」というものだった。

 七星からは「本当にただの勘だから、使いたくなきゃ使わなくていい」と言われていたが、十六夜の答えは決まっていた。

 同時に、十六夜はもう1つ大事なことを思い出していた。それは、なぜ自分が今ここにいるのか、ということだった。


 十六夜は胴元と客の選択画面で、迷わず胴元のボタンを押した。結果、勝ったのは本当に胴元だった。


 十六夜は、続く2回目の勝負で敗れ、結果的に3連敗となってしまったものの、この1敗は前の2戦とは中身が違っていた。

 事実、その後の十六夜は自分のスタイルを取り戻し、ギャンブルゲームでは負けても戦略ゲ-ムでは確実に勝ち星を上げていった。しかし、それは言い換えれば、2人は純粋なチェス勝負をしているということであり、そうなれば先に3つの駒を奪っている分、幸が優位ということだった。


 幸はルークで十六夜のビショップを奪いにいった。ルークのセットゲームは純粋な運勝負のルーレットであり、この1勝が駄目押しになるはずだった。しかし、


「え?」


 結果は十六夜の勝利に終わった。幸が赤と黒の2倍賭けを当てたのに対し、十六夜は12倍の3目賭け(横一列の数字3つに賭ける)を的中させたからだった。


 ま、まあ、長い人生、たまにはそういうこともあるわな。まだ、うちが駒ふたつ勝っとるんやし、次勝てばええこっちゃ。問題ない、問題ない。


 幸は気を取り直して、クイーンを動かした。クイーンのセットゲームはジャンケンであり、幸がもっとも得意とする勝負だった。


 幸は必勝を確信して、クイーンで十六夜のルークを奪いにいった。


 頼むで、神様。ここでビシッと勝って、一気に勝負決めさせてや。


 幸は3つの選択肢のなかから、いつものように直感でパーを選んだ。


 そして表示された勝負手は、幸のパーに対して、十六夜はチョキだった。


「んなアホな!」


 幸は思わず声を上げた。しかし、どんなに声を張り上げようと結果が変わるわけはなく、幸にできることは目の前の現実を受け入れることだけだった。


「やれやれ、なんとか勝ったか」


 ジャンケン勝負が十六夜の勝ちで終わり、七星は安堵の息をついた。要のクイーンを失った以上、ここから幸が巻き返せる可能性は限りなくゼロに近かった。


「これで負けてたら、十六夜に一生恨まれてたところだからな」

「……もしかして、今のジャンケンも、あなたの差し金ですの?」


 龍華は七星に不審の目を向けた。


「差し金って……アドバイスならしたけどな。まー、そんなもんなくても、あいつは勝ったろーけど」

「それは当然ですの。なにしろ彼女は、このわたくしに勝った人間なのですもの。他の庶民に後れを取るなどありえませんの」

「まー、そーゆーこったな」


 七星も素直にうなずいた。


「な、なんですの、気持ち悪い。ことわっておきますけれど、いくらわたくしのご機嫌を取ったところで、あなたをペットにする気などありませんの」

「いらねーし。つーか、テメーの機嫌なんか取ってねーし。オレは本当のことを言ったまでだ」

「なるほど。あなたにも、ようやくわたくしの偉大さがわかったというわけですの」

「わかってねーし。ただオレは、自分が気に入った人間にだけ肩入れするような奴を、神だなんて思えなかったってだけだ。そんなもんのどこが神だ? そんなもん、面白半分で他人の人生を弄んでるだけの、ただの化物だろ」


 七星は言い捨てた。


「そして、そんな化物頼みの奴に、勝つために必死で努力してきた十六夜が負けるわけがねー。そう思っただけだ」


 この七星の言葉通り、その後試合は十六夜の勝利で幕を下ろした。頼みの綱のクイ-ンを失った幸に、もはや十六夜の棋力に打ち勝つ力は残っていなかったのだった。


「なんでや! なんで、うちが負けなあかんのやああ!」


 幸は頭を抱えた。


「他のもんはええ! けど、ジャンケンで負けたんだけはムカつく! うち、ジャンケンだけは生まれてから1度も負けたことなかったのにい!」


 幸は、握り締めた右手を悔しそうに見つめた。


「それを、よりによって、こんなときに! なんでツキがのうならなあかんねん! せっかく、もうちょいで100万円ゲットできたのに!」

「100万円?」


 十六夜が聞きとがめた。


「そうや。うちを誘ってくれた人がな、この大会で予選突破したら100万円。優勝したら1000万くれるっちゅうたんや。せやのに、まさか3回戦程度で負けてまうとは。それも、よりによってジャンケンで」

「それは七星君が」


 十六夜はそこまで言って、あわてて口をつぐんだ。しかし、すでに手遅れだった。


「七星君?」


 幸は耳ざとく食いつくと、十六夜に詰め寄った。


「それって、七星君があんたをジャンケンで勝たしてくれたってことか? どうやって?」

「え、えーと、最初にチョキを出せば勝てるって」

「マジかいな?」


 幸はカッと目を見開いた。そんな幸の百面相に困惑しつつ、十六夜はうなずいた。


「そうかー。そういうことやったんかー。そうか、そうか」


 幸は泣きっ面から一転、嬉しそうに何度もうなずいた。


「さすが、うちが生涯の伴侶と見込んだ男や」


 幸は瞳を輝かせた。とたん、十六夜の顔から表情が消えた。そして無言のまま踵を返すと、足早に対戦室を後にしたのだった。


「ちょお待ちいな! なんで黙って出て行くねん?」

「どうしてって、試合が終わったからです」


 十六夜は無機質に答えた。


「冷たいこと言いなや。どうせ駅まで一本道なんやし、一緒に帰ろうや。うちも七星君に用あるし」


 幸は脳天気な顔で十六夜に並んだ。そんな幸を横目に十六夜は憮然としつつも拒絶せず、しかし少しだけ歩を早めたのだった。


 そしてロビーに戻った十六夜は、常盤家の面々から祝福を受けることになった。


「よくやったね。凄いぞ、十六夜君。私も師匠として鼻が高いよ」

「お疲れ様でした、十六夜さん。この調子で次もがんばってください」

「一応お祝い申し上げますけれど、わたくしなら、もっと楽に勝ってましたの」


 常盤、静火、龍華は、三者三様の賛辞を十六夜に送った。そのなかに七星の賛辞が含まれなかったのは、彼がそれを述べる前に、幸に捕まってしまったからだった。


「なーなー、七星君、うち負けて、ごっつショックやねん。せやから、これからうちとデートして慰めてえな」

「どーゆー脈絡だよ? つーか、おまえとのデートは、もしおまえが十六夜に勝ったらって話だったろーが」

「ええやんか。七星君の愛で、傷ついたうちのハートを癒してーな」

「ことわる。約束は約束だ。でなきゃ約束の意味がねー。もっとも、そんな約束、そもそもした覚えはねーけどな」

「せやったら問題ないやん。もとから約束してへんなら、破ることにもならへんのやから」

「ふざけるな。だいたい、オレはこれから帰ってトレーニングなんだ。下手にサボると、誰かさんに明日の練習メニューを倍、いや3倍くらいにされかねねーんでな」


 七星は静火を横目に見やった。


「せやったら、せめてメアド交換しようや。で、今度暇なときにデートしよ。な、それやったらええやろ」

「あいにく、それも無理だ。なにしろ、オレは携帯持ってねーんでな」

「え? 持っとらんの? 嘘やろ?」

「ニートのオレには、必要ねーもんだったからな。ま、それ以前から、必要なかったと言えば必要なかったわけだが」

「ニート? ニートなんか、七星君?」

「おうよ。天下無職のクソニート様よ!」


 七星は大威張りで胸を張った。


「ちなみに、この大会で十六夜が優勝するか負けたら、またニートに戻る予定だ」

「…………」

「ま、そーゆーわけだから、彼氏捜しは他でやってくれ」

「わかった。そういうことならしゃーない」


 幸は嘆息した。それを見て、七星は内心で安堵した。


「なら、あんたの住所教えて。うち直接訪ねて行くから」

「は? どうして、そうなる?」


 幸から漂うストーカー臭に、七星のなかで警戒音が鳴り響いた。


「ふむ、では、こうしてはどうだね」


 常盤が歩み出た。


「幸君と言ったね。君、うちで働いてみないかね?」

「え?」

「そうすれば、わざわざ会いに来るまでもなく、ずっと七星君といられるだろ」

「ホンマ? ホンマに、うちをおっちゃんとこで働かしてくれるんか?」

「もちろん本当だとも。かわいい女の子は、いつでも大歓迎さ」


 常盤は目を細めた。


「ありがとう、おっちゃん!」


 幸は常盤に抱きついた。


「これこれ」


 と言いつつ、鼻の下を伸ばす常盤の背中に、不意に冷たいものが走った。

 常盤が恐る恐る振り返ると、


「うお!」


 十六夜が無表情で強烈な怒気を放ち、その隣では静火の目が絶対零度で凍てついていた。


 よし、見なかったことにしよう。


 常盤は幸に視線を戻すと、何食わぬ顔で話を続けた。


「では、君にも準備があるだろうから、今日のところは帰りたまえ。あと、うちの住所と電話番号を渡しておくから、何かあったら電話してきなさい」


 常盤は、自宅の住所と電話番号を書いた名刺を幸に差し出した。


「わかった。そういうことなら、とりあえず今日は帰るわ。ほな、明日からよろしゅう」


 幸は名刺を受け取ると、荷造りのために大急ぎで帰っていった。


「おい、どーゆーつもりだ、キモオタ?」


 七星は常盤に詰め寄った。


「どういうも何も、聞いての通り、彼女をうちで雇うことにしたのだよ。あれだけ君に熱烈アプローチしている彼女を、あのまま帰すのは忍びなかったのでね。私は恋する乙女には寛大なのだよ」


 十六夜が勝ったうえ、新しいメイドまで雇えた常盤は上機嫌だった。


「こ、の、野郎」


 常盤への怒りを噴き出す七星を見つめながら、十六夜は自分を戒めていた。


 この大会で優勝して、九十九の病気を治す。


 それが今の十六夜のすべてであり、それ以外のことに心を捕われている暇など、今の自分にはないはずだった。それが七星と再会して以降、彼の存在が十六夜のなかで大きさを増し続け、いつの間にか九十九の存在を覆い隠すまでになってしまっていた。


 そのことに、十六夜は今日の試合で気づかされたのだった。同時に、その思いがこれから試合を続けていくうえで、マイナスにしかならないことも。


 十六夜は、自分が弟と七星、その両方への気持ちを両立できるほど器用でないことを、他の誰よりもわかっていた。

 そして、そのどちらかを選ばなければならないのであれば、どちらを選ぶかということも。

 たとえ、その結果、七星の心が他の誰かのものになってしまったとしても。


 この十六夜の決意は本物だった。しかし、その後病院からもたらされた知らせが、十六夜の心を再び揺り動かすことになった。


 弟のドナーが見つかったのである。





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