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第二十一話・作戦会議

 会議室に入ってきた人物のうち、一人はギルドの受付のお姉さん、後の二人は見たことがないけど、どちらも四十代か五十代くらいの男性だ。

 周りの冒険者たちは三人の姿を確認すると、私語をやめて、立っていた者も席に着き始める。

 ルナとソルも、俺とミミの隣に座り、会議室内に沈黙が訪れる。


「あー、諸君、本日はブリガン盗賊団の討伐依頼に良くぞ集まってくれた。殆どの人間は知っていると思うが、私は冒険者ギルドデパール支部の支部長ダレスだ。よろしく頼む。それとこちらにいらっしゃるのが、今回の依頼主である商業ギルドデパール支部の支部長エイリッヒ殿だ。」


「ご紹介に預かりましたエイリッヒです。この度は皆さまにお集まり頂き感謝いたします」


 厳ついスキンヘッドの方が冒険者ギルドの支部長で、上品な髭を蓄えた小太りの方が商業者ギルドの支部長か。

 二人とも小奇麗な格好をしているのは、それなりの地位にいるからなのだろうけど、ダレスさんの方は荒くれ者という雰囲気を隠しきれていない。

 お姉さんは依頼に関する資料のようなものを、冒険者に配り歩いている。


「えー、資料が行きわたるまでに新ためて今回の依頼について説明させていただきます。この度、デパール周辺で活動を続けているブリガン盗賊団の討伐依頼を出させていただきました。ご存知かとは思いますが、近年商業活動が活発化しているデパールは、年々訪れる商人の数が増加しております。つまり、それだけ人や物、そして多くの金貨が動いているという訳です」


 それについては、ミミに聞いたから知っている。

 この街の領主が相当なやり手らしく、商業ギルドを通さなくても商売が出来るようにした事で、商売人達が集まってきているという話だ。

 ミミの両親も、その噂を聞いて八年前にこの街にやってきたのだから。


「商業ギルドの許可なく……という政策には正直あまり良い気持ちはしませんが、まあこの場では関係ないので割愛しましょう。結果として私たちも新たな商売を行ったりもしておりますが、ここで問題となるのが、集まってきた商人を狙う盗賊の存在です」


 基本的にはどの街も、商業ギルドが領主から委託を受ける形で商売の管理している。

 街を治める領主は経済の専門家ではないので、そういった分野をギルドに委任して管理をし易くしているらしい。

 法的には別に領主自身で管理しても良いのだが、長い歴史の中での通例となり、この街の様に商業ギルドを通さないで領主の名の下に商売の自由化を推奨しているのはかなり珍しいはずだ。

 王城での授業でも、商業ギルドとの関係の悪化から治める街の経済が滞る事が多いため、リスクを取る領主は殆どいないと聞いた覚えがある。

 餅は餅屋、その前提を覆した上成功しているのがこの街の領主という訳だ。


「ブリガン盗賊団、冒険者の方々は聞き覚えのある名前かと思います。かつてCランクの冒険者であるブリガンを頭領に据える、想定三十名ほどの集団です。商人たちも護衛をつけておりますが、相当な腕前らしく度々被害にあっております。つい先日も我々商業ギルドの馬車が襲われ、その損害は金貨数百枚に上ります。過去の被害や我々以外も含めれば、合計で金貨数千枚になるでしょう」


 金貨数千枚の部分で、冒険者たちがどよめきだす。

 それだけのお金があれば、一生遊んで暮らせるほどだから無理もない。


「故に、今回は盗賊団を完全に壊滅すべく商業ギルドから賞金もかけさせてもらいます。頭領であるブリガンの首に金貨五十枚、幹部と目されるヴォーラルとバンディーにそれぞれ金貨二十五枚、それ以外の下っ端は一人金貨一枚になります。勿論生死は問いません」


 幹部の二人の名前や一味の賞金は初めて聞いたが、概ねお姉さんに聞いていた通りだ。

 総額で金貨百三十枚ほどになるのか……まあこれだけ大勢の冒険者がいるんだし、下っ端二十人よりは幹部狙いの方が現実的だな。


「そして、盗賊団の根城にある金品の二割を皆様に謝礼としてお配りする事を約束致します。仮に金貨が千枚残っているとしたら……この人数ですと大体一人当たり金貨二枚ほどになるかと思います。これはランク問わずお配りします。そして依頼料は一律で金貨一枚です。今回はランクに応じてサポート中心に回ってもらう方も出てきますので、不平が出ない様に依頼料も高く設定しております。その分、皆さまには協力して事にあたって頂けるようお願い申し上げます」


 ふむ、依頼で金貨一枚、謝礼で仮に二枚だとしても参加するだけで金貨三枚、ミミと二人で金貨六枚か。

 平民の家族が半年は暮らせるだけの金額になる、これなら金に目がくらんでチームワークを乱す輩も減るだろう。

 問題はランクに応じてサポートに回される場合だ。

 幹部を狙うなら、俺はなるべく最前線で戦った方が良さそうだ。

 振り分けを聞いてから、希望を伝えた方がいいかもしれないな。

 そう考え込んでいると、お姉さんが資料を手渡してきて、そのままギルド長たちの下へ戻る。


「どうやら皆さんに資料が行きわたったようですね。見ての通り、先程説明しました今回の依頼内容についての文章と、盗賊たちが根城にしている砦の周辺地図、それと今回参加している皆さんの名前とランクのリストになります」


 参加しているリストを見ると、Cランクが二人、Dランクが十二人、そしてEランクが三十三人となっている。

 Cランクはルナとソルの二人だけか……これは上手く行けばなんとかなるかもしれないな。


「リストを見て頂けばわかる通り、Cランク冒険者は二名です。今回の討伐ではこのお二人にブリガンを、Dランクの方々に幹部二人を討伐して頂こうと考えております。そのほかEランクの皆様には手下の盗賊のお相手とサポートを主に担当してもらいます。勿論、状況に応じて臨機応変にして頂きたいのですが……」


「あー、ちょっといいですか、可能なら俺も幹部討伐に加えてほしいです。こう見えて戦いには自信があるので、役に立ちますよ」


 エイリッヒさんの言葉を遮り、俺は手を上げて発言する。

 少々どころかかなり失礼だが、多少強引にでも自分を売り込んでいかないと、ミミの借金が返せない。

 多少の反感や恥はかき捨てだ。


「君は……Eランクのようですが、盗賊の幹部もブリガンほどではないにしろ、元Cランクの冒険者ですよ。足を引っ張られてしまうと困るのですが」


 エイリッヒは俺の首に下がっているプレートを見て、心底嫌そうな顔をしている。

 相手からしたら、思い上がった若造にでも見えているのだろう。


「実力なら、ハイオーガを倒せる程度にはありますよ。先程、ギルドに魔石と素材を納品しましたし……それにCランクの二人が証人になってくれます」


 俺がそう発言すると、会議室内でざわめきが起きる。


「アイツ……歴代最速じゃねーか、だからといってEランクでハイオーガだなんて冗談だろ?」


「いや、あのシアンにも勝てるくらいだから実力は相当高いと思うぞ。少なくともD以上はあるだろうし、ハイオーガを倒せるなら昇格の速さも納得だろう」


「確かにそうかもしれないが、実際はどうなんだ?」


 冒険者たちとエイリッヒの眼が、俺とルナとソルに向けられる。

 ルナは面白くなったと言わんばかりの顔をしている。


「確かに、ボク達はそこにいるユート君がハイオーガを倒したのを確認しているよ。実力は問題ないだろうね」


「間違いなく強い」


 二人が肯定したことにより、エイリッヒが暫し思案をする。


「エイリッヒさんよ、盗賊の討伐ってのは命がけだ。相手も鉱山送りになりたくないから死に物狂いでくるだろうよ。Eランクといっても折角強いやつがいるなら、安全策を取った方が俺はありがたいね。状況次第では、俺たちがブリガンとやり合うかもしれないからな」


 シルバープレートを下げた、Dランクの冒険者の一人がそう発言すると、周囲の冒険者たちも同じように賛同する。

 彼らからすれば、いくら金額が高いとはいえ格上を相手にしなくてはならない。

人数の差で埋められるとは思うが、実際に盗賊のアジトに行ってみない事にはどういう状況に持ち込めるかわからないのだ。

 最悪、まかり間違ってブリガンと対峙して殺されてしまう危険性だってある。

 冒険者は冒険をしてはいけない、これはランクが上がるほどに死と隣り合わせになるので、安全マージンを取る様に心がける為の言葉だ。

 金に目がくらんで危険を冒す者は長生きできないのを、彼らは身を持って知っているのだろう。


「ふむ……まあ皆さんがそういうのであれば構いません。私はあくまでも依頼者であり、実際に危険を冒すのは皆さんですからね。では、そこの……眼帯の彼には幹部討伐組に加わってもらいましょうか。では続きになりますが……」


 少々強引だったけど、なんとか幹部討伐組に加わる事ができた。

 シアンとの決闘や、歴代最速での昇格、そしてルナやソルの後押しもあったおかげか、他の冒険者から反対意見もあがらなくて助かった。

 それから、地図を使って侵入経路の確認や、当日の作戦、チーム編成などが行われ、滞りなく会議は進んでいった。


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