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エリート×オタクの恋はいろいろ大変です!  作者: 香住なな
第二部 恋人編
42/93

お酒は楽しく飲みましょう②

 二杯目のお湯割りを一口飲んで、ぐるっと見回す。

「じゃあそろそろ【お題】いってみましょーか」

「ミケちゃん、【お題】って何?」

 宝塚さんの問いかけに、にっこり笑って答える。

「テーマを決めて、それぞれが回答していくんです。

 その人の意外な面とか見れて、面白いですよ。

 ひとつめは、んー、【あなたの好きなところ】にしましょうか」

 オタ友とだったら、【推しの好きなところ】にするけどね。

「シロさんの、クール系美女なのにカワイイところが好きです」

「……ありがとうございます」

 シロさんは、照れたように微笑む。

「宝塚さんは、シロさんを溺愛してて、スパダリとしてがんばってるところが好きです」

「ありがとー」

 宝塚さんは、余裕の笑顔。

吹田(すいた)さんは、細かいとこまできっちりしてるけど、イレギュラーには柔軟に対応してくれるところが好きです」

「……そうか」

 吹田さんは、表情を変えずにうなずいた。



「はいじゃー次、シロさん、お願いしますー」

「え、あ、はい」

 とまどうようにうなずいたシロさんは、しばらく黙りこむ。

「……ミケさんの、前向きさが好きです」

「ありがとーございますー」

「……宝塚さんは、……その……、スパダリでいようとしてくださるところが、……好き、です」

「うん、ありがとう」

 わー、宝塚さんの笑顔、私の時の倍ぐらい輝いてる。

 照れてるシロさんもかわいいね。

「吹田さんは、……常にご自分を厳しく律していらっしゃるところが、……尊敬しています」

 んー、最後ちょっと違うけど、まあシロさんだしなあ。

「……ああ」

 吹田さんは、私の時よりちょっと優しいまなざしでうなずいた。



「じゃー次、宝塚さん、どうぞー」

「うん。

 シロは、存在全てが好きだよ」

 うわー、スパダリの本領発揮、甘さマシマシの笑顔つき。

 シロさんが真っ赤になっちゃった。

「…………ありがとう、ございます」

「ミケちゃんは、シロと同じになっちゃうけど、その前向きさが好きだよ」

「ありがとーございますー」

「吹田は、ミケちゃんへの過保護さが好きだよ。

 意外だったけど、いい変化だと思う」

 にっこり笑顔で言われて、吹田さんは渋いカオになった。



「じゃー最後、吹田さんお願いしますー」

「…………」

 しばらく黙ってた吹田さんは、ため息をついてお猪口を飲み干す。

「……美景(みひろ)は、独特の感性。

 真白(ましろ)は、生真面目なところ。

 宝塚は、使い勝手が良いところ、だな」

 そっけない言葉に、宝塚さんが苦笑する。

「俺だけ扱いが悪いなあ」

 確かに、言葉だけ聞くとヒドイけど、それだけ信頼してるってことだもんね。

 お湯割りの三杯目を飲みながら、くすくす笑う。

 吹田さんらしいツンデレっぷりだね。



 私以外の三人が頼んだおかわりが届いたから、またぐるっと見回す。

「じゃあお題ふたつめいきましょうか。

 ん~~、【お願いしたいこと】にしましょう。

 シロさんへは、そのうちパジャマパーティーしたいです」

「すみません、パジャマパーティーとは、なんですか?」

 シロさんが、おそるおそる聞いてくる。

「あー、お泊まりして、寝る前にパジャマでおしゃべりすることです。

 そのうち、泊まりにきてくださいね~」

「……はい」

「次ー、宝塚さんには、んー、ずっとシロさんのスパダリでいてくださいね!」

 にっこり笑って言うと、宝塚さんも笑顔でうなずく。

「もちろん、がんばるよ」

「で、吹田さんにはー、んー、好感度がもっと上がったら、おうちデートしてください」

「ミケちゃん、吹田の部屋にまだ行ったことないの?」

「ないんですよー、好感度足りてないみたいで~。

 もっとがんばります」

「へえー……」

 宝塚さんが何か言いたそうな感じで吹田さんを見たけど、吹田さんは黙ってお猪口を口元に運ぶ。



「じゃあ次、シロさんどうぞー」

「……はい。

 ミケさんには、これからも友達でいてくれると、嬉しいです」

「もちろんですよー」

 にっこり笑うと、シロさんも微笑んでくれる。

「宝塚さんには、……いつか、私より愛せる人に出会えたら、そう言ってください。

 いつでも身を引きますので」

「それは」

「はいダメー!」

 宝塚さんが何か言いかけたとこにわりこんで、シロさんに横からぎゅっと抱きつく。

「シロさん、そういう言い方しちゃダメです!

 宝塚さんがあんなに尽くしてくれてるのに、まだ信じられないんですか?」

 抱きついたまま聞くと、シロさんはうつむいて小さな声で言う。

「……今、私を愛してくださっているのは、信じていますが、どうして私を愛してくださるのかは、いまだにわからないんです。

 私は、私自身に、それだけの価値があるとは思えません。

 だから、……いつか、その気持ちが冷めてもしかたないと思うんです」

「もー、まだそんなこと言ってるんですか。

 んんー、じゃあね、シロさん、自分じゃなくて、吹田さんを信じてください」

「……吹田さんを、ですか?」

 とまどうように言うシロさんを見つめて、しっかりうなずく。



「そーです。

 自分にも他人にも厳しい吹田さんが、シロさんのこと、部下としても友人としても認めてるんですよ。

 それだけの価値が、シロさんにはあるんです。

 ねっ、吹田さん、そうですよね!」

 ぐりんと振り向いて言うと、吹田さんは小さくうなずく。

「ああ」

「ほらー、ね!

 だからー、吹田さんが認めてるシロさんを、シロさんも認めてあげてください」

「…………はい」

「じゃー言いなおしましょー」

 シロさんはためらいながら顔を上げて、宝塚さんを見る。

「……宝塚さん」

「うん」

「……私を愛してくださっている間だけでかまわないので」

「ダメー! もっとポジティブに! 前向きに!」

 私のダメ出しに、シロさんは視線をさまよわせる。

「……私を、……ずっと、…………愛していて、ください」

「もちろんだよ」

 宝塚さんが愛情があふれまくった甘い笑顔でうなずく。

「そーです、それでいいんですよー」

 私もうんうんうなずいた。

「吹田さん、……これからも、部下として、友人として、よろしくお願いします」

「ああ」



「はいじゃー次、宝塚さんどうぞー」

「うん、その前にちょっと聞いていいかな」

「なんですかー?」

「ミケちゃん、さっきからシロに抱きついたままだけど、自覚ある?」

「えー?」

 言われて見ると、確かにシロさんにべったり抱きついてた。

「あ、ほんとだー、うふー、なんでだろー」

「今三杯目だよね。

 酔っぱらうと寝ちゃうって言ってたけど、その前に抱きつく癖もあるのかな」

「えー、どうでしたっけ。

 吹田さん、私抱きついてますー?」

「……俺は、おまえが酒を飲んだところを見たのは、今日が初めてだ」

「あー、そーでしたー」

 前の時は、飲んでなくても抱きついたけどね!

「おまえのほうが、見たことがあるだろう」

 吹田さんの視線を受けて、宝塚さんがうなずく。

「班の飲み会で何度か一緒になったけど、酔っぱらうとこまでいってなかったのか、誰かに抱きついてるところは見てないな。

 ミケちゃん、お酒飲む時は、くれぐれも気をつけてね。

 知ってる男でも、吹田以外には抱きついちゃダメだよ」

「んー? 抱きつくのはお友達ですよ~?」

「そっか、じゃあお友達以外には抱きつかないようにね」

「はーい」

「吹田、たぶんおぼえてないと思うから、後でもう一度伝えてやって」

「……ああ」

 吹田さんは、ため息をつきながらうなずく。

 えー、私ちゃんとおぼえてるのにー。



「じゃあ、俺からのお願いね。

 シロには、これからも俺がそばにいることを許してほしい」

「……はい」

「ミケちゃんには、これからもシロの友達でいてほしい」

「もちろんですよー」

「吹田には、俺達のために、ミケちゃんとなかよしでいてくれ」

 あー、私も似たようなこと、前から言われてるなあ。

 吹田さんは渋いカオになったけど、小さくうなずいた。



「じゃあ吹田さん、どうぞー」

「……宝塚には、おまえが俺に言ったのと同じことを返しておく」

「うん」

「真白には、これからも美景(みひろ)のフォローを頼む」

「はい」

美景(みひろ)には、そろそろ眠れ」

 なだめるように言われて、首をかしげる。

「え~? まだ眠くないですよ~?」

「いいから、少し眠れ」

 伸びてきた手にそっと目元を撫でられて、目を閉じる。

「ん~、じゃあ、ちょっと、だけ……」


-----------------


 頬に、何かがさわる。

 つるっとした、やわらかい布。

 ん-……。

 目を開けると、黒い布が見えた。

 んー……?

 何度か瞬きして、それが誰かの脚だと気づく。

 というか、誰かに、膝枕されてる。

「誰……?」

「起きたのか」

 静かな声がして、さらっと髪を撫でられる。

 この声と、手は。

「吹田さん……?」

「ああ」

 あれー?

 シロさんに抱きついてたはずなのに、なんで吹田さんに膝枕されてるんだろ。

「シロさんが吹田さんに変身しちゃった……」

「……席を替わっただけだ」

「ごめんねミケちゃん、俺がシロと話したかったから、替わってもらったんだ」

 向かいからかかった声に、視線を動かす。

 吹田さんの席、だったところにシロさんがいて、隣の宝塚さんとしっかり手をつないでるのが見えた。

 頬にさわった布は、体にかけられてた吹田さんのジャケットだった。

「あ~、そーですよねー、ごめんなさい」

 肘をついて体を起こそうとすると、吹田さんが手伝ってくれる。

「頭痛やめまいはしないか」

「だいじょぶです~」

 まっすぐ座ろうとしたけど、なんだか体がふらついた。

 吹田さんが肩を抱いて支えてくれたから、そのままもたれかかる。

「水を飲んでおけ」

「はいー」

 口元に水が入った湯呑みを寄せられて、何口か飲む。



「そろそろ時間だ。出られるか」

「んー、たぶん~?

 あ、お手洗いいってきます~」

「ああ」

「ミケさん、私も一緒にいきます」

「はぁい~」

 シロさんと一緒にお手洗いに行って、冷たい水で手を洗うとちょっとすっきりした。

「私、どれぐらい寝てましたー?」

「三十分ぐらいだと思います」

「そんなに……。

 飲みすぎないように気をつけたつもりだったのに、すみませんー」

 おかしいなー、あの薄さなら三杯でも大丈夫だと思ったのになー。

「はしゃいでらっしゃったので、回るのが早かったのかもしれません」

「あー、そーですねー」

 部屋に戻って身支度して、靴を履く。

「ぁれ」

 立ちあがったとたん、ふらっと体が揺れた。

 隣にいた吹田さんが、素早く支えてくれる。

「もう少しゆっくり動け」

「はい……」

 肩を抱かれたままゆっくり歩いて、仲居さんに見送られて店を出た。



 店の外で、吹田さんに支えられたまま、シロさんと宝塚さんに軽く頭を下げる。

「今日はありがとうございましたー。

 最後寝ちゃって、ごめんなさい」

「いえ、楽しかったです」

「俺も楽しかったよ」

 二人が笑ってくれて、ほっとした。

「よかったですー。

 じゃあまた~お疲れ様でした~」

「お疲れ様でした」

「お疲れ~」

 二人が並んで歩いていくのを、吹田さんに肩を抱かれたまま見送る。

「えーっと、もう大丈夫ですよ」

 一応言ってみたけど、吹田さんはちらっと私を見て、ゆっくり歩きだす。



「家まで送る」

 ん~?

「駅じゃなくて、家、ですか?」

「そうだ」

 肩を抱いて連れていかれたところに、前に送ってもらったハイヤーが停まってた。

「あの、でも」

「その状態で電車に乗って、起きていられるのか」

 静かに言われて、言葉に詰まる。

 そういえば、前に飲み会の帰りに電車で寝ちゃって、スマホのアラームセットしてたのに起きられなくて、終点までいっちゃったって、話したことあったっけ。

 まだふらつくし、眠いし、断ったらかえって心配かけそうだし。

「…………すみません、お世話になります」

「ああ」

 ハイヤーのドアが開いたから、諦めて一緒に乗りこんだ。

 やっぱりふかふかだなあ。

 うちの車とは全然違う。

 ぼんやり堪能してると、いったん奥に座った吹田さんがすぐ隣に体を寄せてきて、シートベルトを締めてくれた。

「よりかかっていいぞ。

 着くまで眠っていろ」

 優しい声で言われると、とたんに瞼が重くなる。

「んー……」

 眠いけど、でも。

「もー少し、おしゃべりしてたいです」

 吹田さんの腕をぎゅっと胸に抱きこんで、肩にもたれた。

「そうか」

 優しい声が嬉しくて、肩におでこをすりすりする。



「吹田さん、明日お仕事なのに、すみません……」

「いや、俺も休みにしたから、かまわない」

「あれー? そうなんですかー」

「ああ。

 真白と休む日を分けると、後で仕事のすり合わせが面倒だからな」

「あー、なるほどー」

 そういえば、前にシロさんもそんなようなこと、言ってた気がする。

「……美景(みひろ)

「なんですか~?」

「好感度が足りてないというのは、どういう意味だ」

「んんー……?」

 ぼんやり見上げると、吹田さんはゆっくり言う。

「俺への【お願い】で、そう言っていただろう。

 どういう意味だ」

「あー、そのまんまですよ。

 好感度足りてないから~、お部屋に入れてもらえないんですよねー?」

「……そういうわけではない」

「じゃあ、どーしてですかー?」

「…………」

 黙りこんだ吹田さんを見て、くすくす笑う。



「いーんですよー、今の好感度がこのへんでー、お部屋に入れてもらえるのがこのへんなんですよね~?

 いつかそこまでたどりつけるようにー、がんばりまーす」

 手を動かしながら言って、また抱きつきなおす。

 まじめキャラだと、好感度がなかなか上がらないし、イベントもなかなか発生しないんだよねー。

 あせらずに、根気よく好感度を上げていくのがコツだって、わかってるから、だいじょーぶ。

「だいじょぶですからね~」

「……そうか」

「そ~ですよ~」

「……ああ」

 吹田さんは、あいてるほうの手で私の髪をさらっと撫でた。

 指の背で目元を撫でられて、目を閉じる。

「眠れ」

 優しい声で囁かれると、もうダメだった。

「ん~~おやすみなさーぃ……」

「おやすみ」



 家につくまでに見た夢は、起きたとたん忘れちゃったけど、すごく楽しかったことだけはおぼえてた。

 吹田さん枕のおかげですねって言うと、吹田さんは呆れたみたいに、だけど優しく笑ってくれた。

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