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エリート×オタクの恋はいろいろ大変です!  作者: 香住なな
第二部 恋人編
41/93

お酒は楽しく飲みましょう①

 初おでかけデートのお土産に、シロさんと宝塚さんにおそろいのテディベアを買った。

 なるべく早く渡したかったけど、できれば二人が一緒にいる時がいい。

 せっかくのおそろいなんだから、バラバラに渡したら意味がない。

 二人とも友達になったから、気軽に誘える。

 でも、どうせなら、三人じゃなく四人で会いたいかも。

 そう思いついたから、早速電話で吹田(すいた)さんに相談してみた。

「シロさん達とダブルデートがしたいです」

〔…………それは、真白(ましろ)と宝塚と俺達で、という意味か〕

 なぜか確認されたから、しっかりうなずく。

「そうです。

 四人でどこかで食事して、お土産のテディベアを渡したいんです。

 せっかくのおそろいだから、二人に同時に渡したいんです」

 吹田さんと宝塚さんも友達になったんだから、もう大丈夫なはず。

「…………」

 と思ったけど、吹田さんは黙りこむ。

 うーん?

 まだ抵抗あるのかな?



「イヤですか?」

〔…………嫌なわけではない〕

 と言いつつ、オッケーはしてくれないんだ。

「吹田さんが都合つかないなら、三人で会いますけど……」

 できれば一緒がよかったけど、一番の目的はお土産を渡すことだし。

〔…………食事だけでいいんだな〕

「あ、はい、一緒にでかけるには目立ちますし、テディベアを抱えたままだと大変なので」

 私はともかく、他の三人は目立ちまくるの間違いなしだよね。

 特にシロさんと宝塚さんのカップルは、絶対目立つ。

 だから、個室があるお店で食事だけにするのが、一番無難なはず。

〔…………わかった。

 俺と真白でスケジュールを調整する〕  

「ありがとうございます!」

 やったー!

「えっと、シロさん達には、私からも連絡しといたほうがいいですか?」

〔……そうだな。

 二人ともに言っておいてくれ〕

「わかりましたー」



 念願の食事会は、それから約十日後の金曜日になった。

 ほんとはもっと早く渡したかったけど、吹田さんが、私とシロさんの休みの前日じゃないとダメって主張したから、遅くなってしまった。

 これは、たぶん私がちょっとだけお酒を飲みたいって言ったせい。

 吹田さんと宝塚さんはザルで、シロさんは普通ぐらいらしいから、弱い私達に合わせてくれるのはありがたいんだけど、心配性だよね。

 お店は、例の『個室がある小料理屋』。

 警視庁からそこそこ近くて、個室で、お酒の種類が豊富だから。

 開始時間は六時半。

 これは、私以外の三人は、ほぼ定時ではあがれないから、余裕を持たせた時間設定。

 最初は勢いでお願いしちゃったけど、意外と調整が大変だった。

 でも、シロさんも宝塚さんも楽しみだって言ってくれた。

 私も楽しみー。


-----------------


 当日、定時であがった後、近くのショッピングセンターで時間をつぶしてから店に向かう。

 六時二十分に着くと、店の前に宝塚さんがいた。

「あ、お疲れ様でーす。

 早かったですね」

「お疲れー、なんとか終わらせてきたよ」

 にこっと笑った宝塚さんは、私の手元を見る。

「それがお土産? 持とうか?」

「あ、だいじょぶです、軽いので」

 ぬいぐるみだからかさばっちゃって、袋は大きいけど、重さはたいしてない。

「先に入ってましょうか」

「そうだねー」

 ここに来るちょっと前に、今出たところだからちょうど六時半ぐらいに着くって、吹田さんからメッセージがきた。

 もちろんシロさんも一緒だから、先に入って待ってよう。


 

 和風美人の仲居さんに案内されて、個室に入る。

 二回目だから、写真は省略。

上座(かみざ)って奥側でしたよね。

 吹田さん達が奥のほうがいいですか?」

 私の問いかけに、宝塚さんは軽く首をかしげる。

「それはこだわらなくていいと思うけど、なんで?」

「私、酔っぱらうと寝ちゃうんで、いつも奥の壁際で、女性の隣の席にしてるんですよ。

 でもここの場合、どうしたらいいのかなって」

「ああ、そういう理由なら、ミケちゃんが望む場所をまず選べばいいと思うよ。

 吹田はそんなことで文句言う奴じゃないし」

「そうですかねえ」

 でも、奥の壁際って、お手洗いに行きにくいっていう難点があるんだよね。

 どうしよっかなー。



 悩んでると、吹田さんとシロさんが案内されてきた。

「あ、お疲れ様です」

「ああ。……どうした」

 吹田さんは立ったままの私達をちらっと見てから、私の隣に立つ。

「あ、えっと、どういう配置で座ればいいかなって、相談してました」

 宝塚さんに話したのと同じことを言うと、吹田さんは部屋を見回す。

「俺と宝塚が奥で、俺の向かいに美景(みひろ)と真白、にすればいい。

 普段の飲み会ならともかく、このメンバーならそれで問題ないだろう」

「あー、そうですね」

 眠ってる時に知らない人に寄ってこられると困るから、隅っこにいようとしてたけど、今日は四人だけで、知らない人の心配はしなくていいんだった。

 こっち側なら、お手洗いも行きやすいし。

「シロさん達も、それでかまいませんか?」

「はい」

「かまわないよ」

 二人が笑顔でうなずいてくれたから、吹田さんの提案通りに座ることになった。



 それぞれ座ってから、ぐるっと見回す。

「えーと、私は食事中は飲みませんけど、みなさんはどうしますか?」

「俺はいい」

「俺もいらないかな」

「私も、やめておきます」

「じゃあ、とりあえず食べましょうか」

 仲居さんに頼んで、料理を全部並べてもらう。

 こういう本格的なお店って、一品ずつ来るのが普通だと思ってたけど、個室で密談したいような人は邪魔されたくないことが多いから、お願いしたらまとめて持ってきてくれる。

 そういう融通が利くところがいいお店の条件だって、前回の食事の時に吹田さんが教えてくれた。



 仲居さんが出ていった後、姿勢を正して頭を下げる。

「えーと、今日は私のお願いで集まってもらって、ありがとうございます。

 まずは食べながら、のんびりおしゃべりしましょう」

 幹事ってわけじゃないけど、私のお願いを聞いてもらったんだから、ちゃんとお礼を言っておかないとね。

「ああ」

「うん」

「はい」

 それぞれうなずいてくれたから、にっこり笑う。

「じゃあ、いただきます」

 手を合わせてから、お箸を持つ。

「わー、美味しそう。

 どれから食べようかなー」

 前回と同じコースみたいだから、まずは前菜の重箱を見てみる。

 あれ、この白和えっぽいの、混ぜこまれてるのは春菊みたいだけど、もしかして前回と同じく酒粕入りかな。

 真っ先にその小鉢を食べてた吹田さんを見ると、私を見てうなずく。

「これは止めておけ」

 やっぱり。

「わかりました」

 手をさしだされたから、小鉢を渡すと、中身を自分のに移して戻してくれる。

「ありがとうございます」

「ああ」



「ミケちゃん、それ苦手なの?」

 宝塚さんに不思議そうに言われて、苦笑しながらうなずく。

「そうなんです。

 酒粕が多めなんで、お酒に弱い私だと、ぎりぎり食べられるけど美味しくは思えないって感じで。

 お酒好きな人だと、逆に美味しく感じるんじゃないでしょうか」

「へえ」

 白和えの小鉢を取った宝塚さんは、一口食べてうなずく。

「確かに、酒飲みには喜ばれそうな味だね」

「ですよねえ」

「でも、なんで吹田に渡したの?」

「あー、前回ここで吹田さんと食事した時に、同じようなのが出たんですよ。

 食べるのは微妙だけど残すのはもったいないんで、がんばって食べようとしたら、吹田さんがかわりに食べてくれたんです」

「なるほどねー」

 宝塚さんはなぜかにっこり笑って吹田さんを見たけど、吹田さんは無視して黙々と食べる。

「シロさんは、どうですか?」

 横を見ると、シロさんが味を確かめるようにゆっくり白和えを食べてた。

「酒粕が気にはなりますが、食べられないほどではないですね」

「なるほどー。

 じゃあやっぱり、どれぐらいお酒飲めるかで、感じ方が違うみたいですね」

「そうですね」

 


 味の感想を言いあいながら、のんびり食べる。

 好みの違いや育った環境の違いもあって、全員が美味しいと思うものとか、一人だけが美味しいと思うものとか、バラバラで面白かった。

 吹田さんは、宝塚さんに話しかけられると、やけにそっけない感じで答えてた。

 ちょっとハラハラしたけど、宝塚さんとシロさんの態度を見てると、それが通常運転っぽい。

 私と一緒の時とはちょっと違う様子が見れて、なんだかお得な気分。

 ダブルデートをお願いしてよかった。


-----------------


 食器を片付けてもらう間に、シロさんと一緒にお手洗いにいく。

「シロさん、楽しんでくれてますか?」

 リップを塗りなおしながら聞いてみると、シロさんは微笑んでうなずいた。

「はい。

 ……大学生の頃に戻ったようで、嬉しいです」

「あー、じゃあ、私がお邪魔かもしれませんね」

 三人だけだと、また雰囲気が違うのかな。

 うーん、壁になって見てみたい。

「いえ、そういう意味ではありません」

 シロさんはあわてたように言う。

「ミケさんが呼びかけてくださったからこそ、吹田さんは応じてくださったのだと思います。

 ……以前、私から吹田さんに、宝塚さんに会ってほしいとお願いしたことがありますが、必要ないと断られました」

「え、そうなんですか」

「はい。

 お二人が友達に戻られたのも、今日こうして共に食事をしてくださるのも、ミケさんのおかげなんです。

 ありがとうございます」

 まじめな口調で言われて、思わず笑う。

「お役に立てたなら、よかったです」

「……はい」

 シロさんもはにかんだように微笑む。

 あー、やっぱりこの笑顔だ。

 うん、私がんばった。



 二人で部屋に戻ると、吹田さんと宝塚さんがお酒のメニュー表を座卓に置いて見てた。

「お待たせしました」

「お帰りー。

 二人は何を頼む?」

 にこっと笑った宝塚さんが、メニュー表を私達に向けて置いてくれる。

「んー、お二人はもう決めたんですか?」

「うん、俺達は日本酒の熱燗にしたよ」

「そうですか。

 うーん、どうしよっかな……」

 あんまり強いのだと、寝ちゃうんだよね。

 でも、さすが和食の一流どころだけあって、レモンサワーとかがないから、悩んじゃう。    

「おまえは、梅酒にしておけ。

 濃かったら、湯割りにすればいい」

 吹田さんの提案に、小さくうなずく。

「そうですね、そうします。

 シロさんは、どうしますか?」

「私も、梅酒にします」

「じゃあそれで頼むよ。

 つまみも適当に頼んでいいかな」

「あ、お願いします」

 宝塚さんが仲居さんを呼んで、手早く注文してくれる。

 すぐお酒とおつまみが運ばれてきた。

 枝豆以外は、私が知らない感じの、なんか上品そうなもの。

 さすが、チェーンの居酒屋店とは格が違うね。



「あ、お酌したほうがいいですか?」

 吹田さんと宝塚さんのお酒は徳利で届いてたから、聞いてみる。

 お酌してほしい人と、手酌で自分のペースで飲みたい人がいるみたいだから、いつも先に聞くようにしてる。

「いや、いい」

「俺もいいよ」

「わかりましたー。

 んー、乾杯もなしでいいですか?」

「そうだね、コレだと乾杯しにくいしね」

 宝塚さんが笑いながら、からのお猪口を軽く掲げる。

 だよねー。

「じゃあ、それぞれのペースで飲むってことで。

 追加ほしくなったら、自分で頼んでくださいね」

 お酒の強さが違うから、誰かにペース合わせると他の人がめんどくさくなる。

 気を遣わないでいい相手なら、それぞれのペースが一番いい。

「それでいいよ」

「ああ」

「わかりました」

   

 

 おちついたところで、自分のぶんの確認。

 ホットで頼んだから、耐熱ガラスの丸いコップに入ってる。

 まずはそっと匂いをかいでみる。

 あー、この時点でダメっぽい気がする。

 舐めるように味を確認すると、やっぱりけっこうきつかった。

 うん、無理。

 お茶セットから湯呑みを取って、梅酒をちょっとだけ入れて、ポットからお湯を半分ぐらいそそぐ。

 そっと一口飲んでみる。

 んー、これぐらいならいけそう。

美景(みひろ)、そっちを一口くれ」

「え? あ、はい、どうぞ」

 梅酒のコップを渡すと、一口飲んだ吹田さんは考えるカオになる。

「おまえの感覚では、これをそのまま飲んだとしたら、どれぐらいが限度だ」

「んー、半分超えたら、たぶん寝ちゃいますね」

「……そうか」

 なんだろ。

「シロ、一口もらっていい?」

「はい、どうぞ」

「ありがと」

 私と同じのを頼んでたシロさんが、宝塚さんにコップを渡す。

 一口飲んだ宝塚さんは、やっぱり考えるカオになる。

「これの半分が限度か……。

 聞いてはいたけど、ほんとに弱いんだね」

 あー、そういう意味。



「そうですね、飲める人からしたら、たぶん飲んだうちにも入らないぐらいだと思います。

 そういえば、吹田さんと宝塚さんは、昔っからお酒強かったんですか?

 それとも、飲んでるうちに強くなったんですか?」

「俺は、最初からある程度飲めたな」

「俺もそうだね。

 たぶん体質だと思うよ」

「そうみたいですね。

 うちは、両親ともお酒弱いですし。

 私、お酒の味自体はそんなに好きじゃないんですけど、飲んでる時の雰囲気は好きなんです。

 だから、うすーいのをちょっとずつ飲むようにしてます」

「うん、それがいいね。

 自分でだいたい限度わかってるみたいだから、大丈夫だとは思うけど、同じ名前でも店によってアルコール濃度が違う場合もあるから、気をつけてね」

「はいー」

 宝塚さんも、けっこう心配性だね。


-----------------


 さて、本日のメインイベント。

「じゃあ、遅くなりましたけど、これお土産です」

 大きい袋から、それぞれの袋を出して、隙間から中身を確認。

 茶色いコをシロさんに、白いコを宝塚さんに渡す。

「ありがとうございます」

「ありがとう、開けていいかな」

「はいー、ぜひ見てください」

 袋から出して、二人ともじっとテディベアを見つめる。

「おそろいのコなんですけど、茶色いコの毛並みが宝塚さんの髪に似てるでしょう?」

 こげ茶色で、ちょっと癖毛な感じがそっくりって、見た瞬間に思ったんだよね。

「……確かに、似てますね」

 茶色いコをそっと撫でたシロさんが、はにかむように微笑む。

「ですよね!

 で、白いコの、ちょっとはにかんでる感じの微笑みが、シロさんにそっくりって思ったんです」

 いっぱいいたコを順に見比べて、一番似てそうなコを選んだ。

 さっきお手洗いで見た笑顔がそっくりって思えたから、がんばって選んだ甲斐があった。

「うん、似てるね」

 宝塚さんも嬉しそうに言って、白いコの頭をそっと撫でる。

「今はスマホで写真撮れるし、ビデオ通話もできますけど、やっぱり画像だけだとさみしい時があるから、撫でたり抱きしめたりできるコがいるといいですよね」

 だからオタクは、抱き枕とかコラボぬいとかをつい買っちゃうんだけどね。

「ありがとう。

 シロだと思って大切にするよ」

「私も、大切にします」

 二人が笑顔で言ってくれて、私も笑顔になる。

 うん、やっぱり同時に渡せてよかった。

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