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エリート×オタクの恋はいろいろ大変です!  作者: 香住なな
第二部 恋人編
40/93

楽しいことが重なるとパラダイス②

 その後、ティールームでお茶にする。

 お昼時だったせいか、けっこう混んでたけど、ちょうど団体さんが出たところで、五分ほど待たされただけで座れた。

 私はシフォンケーキ、吹田(すいた)さんはブラウニーをそれぞれ頼む。

 それと、クマの顔つきカフェラテ。

 ラテアートって、簡単そうに見えてすごいよね。

 かわいいし、美味しいし、大満足。



 お茶の後は、ショップに移動。

 またおおはしゃぎしながら、お土産を選ぶ。

 自分用と吹田さんには、ミュージアム限定のテディベアのカップル。

 春だからか、新一年生風の衣装で、テディボーイは半ズボンのスーツ、テディガールはフリフリのワンピース。

 めちゃくちゃカワイイ。

 他にも、おそろいの衣装着てるのもあって、すごく悩んだけど、一番吹田さんの反応が良かったやつを選んだ。

 月イチの買い物で、吹田さんの好みを把握できててよかった。

 シロさんと宝塚さんには、おそろいの色違いのコ。

 最初はシロさんに白いコ、宝塚さんに茶色いコにしようと思ったけど、茶色いコの色が宝塚さんの髪の色とよく似てたから、逆のほうがいいかもって思いついた。

 宝塚さん似の茶色いコをシロさんに、白いコを宝塚さんに。

 お互いを思いだせて、いいよね。

 喜んでもらえるといいなあ。

 友達やお母さんには、クッキーを大量に。

 お土産のお菓子って微妙な味のが多いけど、いくつか味見させてもらって、ちゃんと美味しいやつを選んだ。



 ようやく選び終わると、吹田さんが手をさしだす。

「支払いをしてくるから、おまえはあっちで待っていろ」

「あ、いえ、こっちは私が配るお土産なんで、自分で払います」

 おそろいで選んだテディベアは別として、他は全部私の個人的なお土産だし。

「支払いは全て俺がすると、この間言っただろう」

「それはおぼえてますよ。

 でも、これは私が誰かにプレゼントしたいものだから、自分で払います」

 きっぱり言うと、吹田さんはじっと私を見つめる。

 なんだろ。

 内心びくつきながらも、まっすぐ見返すと、吹田さんは苦笑する。

「わかった。

 こっちは、俺が支払っていいんだな」

「あ、はい、お願いします」

 よかった、納得してくれたみたい。

 おそろいのテディベアを渡して、残りが入ったカゴを自分で持った。

 レジに一緒に並んで、カードで支払いする。

 けっこうな金額になっちゃったけど、これぐらいの散財できる程度の貯金はある。

 最近新しい推しにハマってないから、オタグッズにつぎこんでないし。

 


「お待たせしました」

「ああ」

 私のほうが数が多くて時間がかかっちゃったから、端のほうで待っててくれた吹田さんに近寄ると、すっと袋を取られた。

 こういうとこ、紳士的だよね。

「ここでの用事は、終わりでいいか」

「あー、はい」

「なら、出るぞ」

「はい」

 並んで歩いて駐車場に行くと、また吹田さんが助手席のドアを開けてくれる。

「ありがとうございます」

 私が乗りこんでシートベルトを締めてる間に、吹田さんも乗ってきた。

 お土産の袋を後部座席に置いて、シートベルトを締める。

「出すぞ」

「はい」



 走りだしてしばらくして、吹田さんが言う。

「おまえは、自分が欲しいものを誰かに買ってもらうのは、抵抗があるのか」

「え、うーん、物によりますね。

 さっきみたいに、誰かにあげたい物を買ってもらったら、私からのプレゼントじゃなくなるじゃないですか。

 だから、自分で払いたかったんです」

「なら、おまえ自身が使う物なら、かまわないのか」

「ん~~、それも物によるかもしれません。

 さっき買ってもらったテディベアは、デートの記念だから、いいかなって思いましたけど。

 たとえば推しのグッズなら、やっぱり自分で買いたいので。

 オタクにとって、課金は愛情表現の一種なんです」

「……なるほどな」

 吹田さんは、なぜか納得したカオでうなずく。

 なんだろ。

 ん?

 あれ、何かがひっかかるような……。



「なんだ」

「ちょっと待ってください、何か思いだしそうなので」

 えーと、なんだっけ。

 課金、じゃないな、欲しい物……プレゼント……?   

「あ!」

 あれだ、ごはんデートの話をして、ボンさんに言われたやつ!

「……なんだ」

「あー、えっとですね、ボンさん、カウンセラーの人に、先月のごはんデートの話をしたんです。

 そしたら、吹田さんは私に何かプレゼントしたかったけど、私がアクセサリーは付けてないし苦手って言ったから、言えなかったんじゃないかって。

 今の流れって、そういう感じでした?」

 あの時はわからなかったけど、今の、そうじゃなかった?



「……そうだな。

 おまえの言葉を借りると、俺はおまえに課金したいんだ」

 からかうように言われて、思わず苦笑する。

「それは、すみません。

 でも、今のところほしいものはないので、デートの費用を出してもらえるだけで充分です」

 あ、そうだ。

 急いでスマホのカレンダーを開いて、曜日を確認する。

「カウンセラーの人に、誕生日のプレセントが楽しみねって、言われたんですけど。

 私、プレゼントより、その日にデートしてもらえるほうが嬉しいです。

 私の誕生日の九月九日って、今年は土曜日なんですけど、仕事じゃなかったらデートしてもらえますか?」

 ちらっと私を見た吹田さんは、優しいカオでうなずいた。

「わかった。

 その日は、おまえのために空けておく。

 仕事が入った場合でも、食事ぐらいはできるように調整する」

「ありがとうございます!」

 やったー!

 うっかり忘れてたけど、思いだせてよかった。

 これで、高すぎて使えないプレゼントにおびえなくてすむ。

 誕生日デートの約束までしてもらえたし。

 ボンさんに感謝だね。


-----------------


 吹田さんが予約してたイタリアンレストランで、ランチを食べる。

 やっぱり個室だったけど、メニューはけっこう庶民的だったから、気軽に食べられた。

 二時前にレストランを出て、高速に乗る。

「吹田さん、イタリアンも食べるんですね」

「実家では和食ばかりだったから、東京に出てきてからは、外食では和食以外を食べるほうが多いな」

「そうなんですか。

 ちなみに、何系が一番好きですか?

 私は、ファミレスとかのなんちゃって洋食が一番好きです。

 本格的なのより、日本人好みの味になってるので、食べやすいです」

「……食べ慣れているという意味では、やはり和食が一番口に合う」

「なるほど」

 またのんびりおしゃべりして、サービスエリアでちょっと休憩。

 後一時間ぐらいかな。

 最初は八時間も一緒にいられるなんてすごいと思ったけど、あっという間だったなあ。

 いろんなこと質問して、答えてもらったけど、多すぎておぼえていられないかも。

 それに、おなかいっぱいで、車の揺れを感じてると、眠くなってきちゃうし。

 メモしながらのほうがよかったかな。

 どうしよっかなあ……。



美景(みひろ)

 ……ん……?

「そろそろ起きろ。

 後五分でおまえの家に着く」

 えー……。

「…………えっ!?」

 あわてて窓の外を見ると、高速をおりて一般道に入ってた。

 え、いつの間に?

「……私、寝てました?」

「ああ」

 あっさりうなずかれて、思わずうなだれる。

「すみません……」

 サービスエリアを出て、しばらく走ったあたりまではおぼえてる。

 そのあたりで、眠気に負けちゃったんだ。

「かまわない。

 あれだけはしゃげば、疲れるのは当然だ」

「でも、運転してる吹田さんのほうが疲れてるのに……」

 せめて気晴らしに、おしゃべりの相手をしたかったのに。

 それよりもっと単純に、せっかく一緒にいられるんだから、いっぱいおしゃべりしたかった。

「無理に起きていても、まともに話はできないだろう。

 寝たほうがマシだ」

「……はい」

 それもそうだね。    

 これからは、気をつけよう。



 外を見てみると、ほんとにもう私の家の近くだった。

「吹田さん」

「なんだ」

「今日、私はすごく楽しかったですけど、吹田さんはどうでした?」

 楽しんでくれてたと思うけど、どうだろ。

 ドキドキしながら見つめると、吹田さんはくすっと笑う。

「俺も、楽しかった」

「よかったです」

 私だけが楽しんだんじゃ、意味ないもんね。

「次のデートも、一緒に楽しめるところを探しておきますね」

「……ああ」

 話してる間に、私の家に着いた。

 駐車場を見ると車がなかったから、お母さんはまだ帰ってないみたい。

 シートベルトをはずしてる間に、後部座席の荷物を吹田さんが取って、私の足下に置いてくれる。

 おそろいのテディベアも、片方渡してくれた。

「ありがとうございます」

「ああ」

 袋を持とうとして、ふとひらめく。



 デート自体は楽しかったけど、あんまりイチャイチャできなかった。

 車はある意味密室だけど、外からまる見えだから、抱きついたりするのは、なんか恥ずかしかったし。

 でも、もう少し、何かしてほしいな。



「吹田さん」

「なんだ」

「キスしてもらえませんか?」

 吹田さんは、びっくりしたように軽く目を見開く。

「あ、唇じゃなくていいです、吹田さんがしてもいいって思えるとこで、かまいませんから」

 ぱたぱた手を振りながら、急いで言葉をつけたす。

 いきなり唇にキスは、私の心臓が持ちそうにないし、他の場所で充分。

「……………………」

 じいっと私を見てた吹田さんは、ゆっくり手を伸ばした。

 私の肩にかかってた髪の一房を、そっと握る。

 体を寄せて、握った髪にそっと唇を押しあてる。

 そのまま私を見つめて、甘く微笑んだ。



「~~~っ!」

 かあっと顔が熱くなって、思わずびたっとドアに背中をくっつけるようにして体を離した。

 なに今のなに今のなに今の……!

 え、吹田さんてそんなキャラだった!?

 まじめキャラだったはずなのに!

「な、んで……!?」 

 ひっくり返った声で叫ぶと、吹田さんは喉を鳴らすようにくつくつ笑う。

「してくれと言ったのは、おまえだろう」

「そ、れは、そうですけど、でも、そんな、タラシこんでほしいわけじゃないんですっ!」

 確かに、私が、お願いしたんだけど。

 嬉しいんだけど。

 でも、こんな、二次元でもめったに見ないようなこと、実際されたら、どーしたらいいの!?

 私が知らないだけで、リアルのカップルって、みんなこんなことしてるの!?

 あわあわしてる私を見て、吹田さんは優しい声で言う。

「そうおびえるな。

 おまえが初心者だということはわかっている。

 おまえに合わせて、ゆっくり少しずつ教えてやる」

 からかってるわけじゃない口調に、また顔が熱くなる。

 やっぱりタラシだ……。



「十六時をすぎた。

 降りろ」

「え、あ」

 あわてて車の時計を見ると、四時一分だった。

 うーん、きっちりしてるなあ。

 でも、今はちょっと、一緒にいるのが恥ずかしいから、ちょうどよかった。

「……はい。

 ありがとうございました。

 気をつけて帰ってくださいね」

「ああ」

 私が袋を抱えて降りると、吹田さんは軽く手を上げてから、車を出す。

 車が見えなくなるまで、門の前で見送った。

「…………」

 指先で、髪を一房からめとる。

 髪にキスした吹田さんの笑顔を思いだして、全身熱くなった。

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