私達ズッ友だよね オマケ
⑤と⑥の間の吹田と宝塚の電話+⑦の後のメッセージです
「何の用だ」
〔俺のことで、おまえがミケちゃんにウザ絡みしたって聞いたから、チョクで話したほうが早いと思ってさ〕
「……俗な言葉を使うな」
〔プライベートだからいいだろ。
で、頼みがあるんだけど〕
「……なんだ」
〔もう一度俺と友達になってくれ〕
「…………美景の入れ知恵か」
〔当たり。
十年前、ひどいこと言ってごめん。
それでも俺を止めてくれてありがとう。感謝してる。
大学生の頃からずっと、今も変わらず俺はおまえを友達だと思ってるけど、おまえは違うって、ミケちゃんから聞いた。
だから、もう一度俺と友達になってくれ〕
「……美景は、友達になりたいと思ったらそう言うのだと言っていたが、そのやり方は男でも一般的なことなのか」
〔幼稚園児ぐらいまでなら、男女問わず一般的だと思うよ〕
「…………」
〔それ以上の年齢だと、女の子はともかく、男は気恥ずかしさが先に立って言えなくなるほうが多いかな。
だから俺も言えなかったけど、そのせいでおまえが拗らせちゃったみたいだから、今はちゃんと言うよ。
俺と友達になって、前みたいになかよくしてくれ〕
「……何度も言わなくても、聞こえている」
〔十年前の言葉は、ブチキレて正気失ってただけで本心じゃないって、おまえはわかってくれてると思ってたけど、違ったみたいだから。
おまえがちゃんと答えてくれるまで、何度でも言うよ〕
「……わかって、いた。
それでも俺は、…………美景のように、気軽には言えないんだ」
〔昨日シロからおまえの昔話を聞いて、思ったんだけどさ。
おまえがハニトラを警戒してるのと、結婚しないと決めたのは、好意を持ってた使用人の女性に誘い出されて、裏切られたからか?
それと、たぶん最初の男友達だった側近を自分のせいで死なせてしまったから、友達を作るのが恐くなったのか?〕
「……………………おまえのプロファイリング能力は、便利だが、時々腹が立つ」
〔誉め言葉だと受け取っておく。
ミケちゃんは、友達って言葉を気軽に使ってるようで、実はしっかり受けとめてるよ。
懇親会の翌日、シロのことを聞いたら、『シロさんが言いたくないなら、私からも言えません。友情優先なんで』って、きっぱり断られた。
昨日友達になったばかりなのに、そう言えるなんてすごいなって、感心した。
シロの初めての女友達がミケちゃんで、よかったよ〕
「……美景が友達を大切にしているのは、知っている。
俺と真白がモメた場合は、まずは真白の味方につくと宣言された。
恋人はいつまでかわからないが、友達は一生友達だから、だそうだ」
〔……それ、言われたのいつだ?〕
「一昨日の夜だ。
つきあい初日だからこそはっきり言っておく、と」
〔なるほど。
そのルールが男友達にも適用されるなら、おまえがそのうちフラれても、俺は一生ミケちゃんとなかよしでいられるわけだ。
そりゃ、俺が友達になったって聞いたら、気になって当然か〕
「…………」
〔それに怒るような男じゃあ、ミケちゃんとはつきあっていけないぞ〕
「……怒ってはいない」
〔だったらいいだろ。
俺は、おまえとは友達、だと思ってたから、ミケちゃんとも友達になって、二人を応援したかったんだ。
だから、いいかげん観念して、答えてくれよ〕
「…………俺も、十年前のあの時のことは、おまえに感謝している」
〔何が?〕
「おまえの本気の殺気を受けとめたことだ。
どれだけ体術の訓練を重ねても、本当に自分を殺す気の相手とは戦ったことがなかったから、体験できてよかった。
自分より強い者から、自分より弱い者を守る難しさが、よくわかった。
あれ以来、以前より殺気を感知できるようになったし、悪意のある視線にも気づけるようになった。
おまえのおかげだ」
〔殺しかけて感謝されるのもおかしい気がするけど、役に立ったなら、よかったよ。
だったら、時々体術の訓練つきあうからさ、友達になってくれよ〕
「…………」
〔なあ、吹田〕
「うるさい。
…………………………………………友達なら、察しろ」
〔……そうだな、すぐ言えるようならそこまで拗らせてないよな。
ごめんごめん……くくっ〕
「……笑うな」
〔ごめんって。
じゃあ、早速だけど、友達として言っとくことがある〕
「……なんだ」
〔大学時代の夜遊びのことは、ミケちゃんには秘密にしとくから、安心してくれ。
俺も、シロには知られたくないしな〕
「……そういう記憶は、さっさと消去しろ」
〔残念ながら、俺の記憶処理は書込オンリーで、上書きも消去もできないんだ。
で、次は忠告だ。
ミケちゃんが絡んだら、いつもの自分じゃいられなくなることをもっと自覚しろ。
甘やかすのはともかく、行動に口出ししたり、気になったことをしつこく追及したりなんて、普段のおまえなら絶対しないだろ。
ミケちゃんは『すごい心配性なんだ』とか『珍獣だから気になるんだ』とか、斜め上の解釈で好意的に受けとめてるが、傍から見たら、束縛モラハラ系カレシ一歩手前だぞ〕
「……そこまでのことはしていない」
〔そうか?
ゆうべの電話だって、ミケちゃんが眠たがってるのに気づかずに、しつこく問いただしたんだろ?
普段のおまえなら、一言話せばわかったはずだ〕
「…………」
〔電話だったから、っていうのもあるだろうけどな。
ミケちゃんは感情が顔に出るから、観察しながら話すことに慣れてると、逆に顔が見れない電話だとやりにくい。
昨日も今日も、ミケちゃんと話しながら思考をトレースして反応を予想してみたけど、当たったのはせいぜい半分だった。
顔見ながら話してる時は八割ぐらいだから、やっぱり電話では難しいな〕
「……おまえでも、その程度なのか」
〔ああ。
さっき十年前の家族の事故のことを話してたら、鋭いツッこみもらったよ。
おまえとの仲の解決方法も、ミケちゃんらしいポジティブさで笑えた。
突然思考が飛躍するから、完璧なトレースはできそうにないな。
だけど、ミケちゃんがそういうコだからこそ、おまえは惹かれたんだろ。
ミケちゃんの良さをつぶすようなことは、あんまり言うなよ〕
「…………わかっている」
〔じゃあ、アドバイスだ。
メッセージは文字数制限なしにして、電話は毎日にすることを勧めるよ〕
「なぜだ」
〔ミケちゃんは、文章を短くまとめるのは苦手みたいだから。
文字数制限におさまるように簡単な内容にされると、おまえは詳細を知りたくなっちゃうんだろ。
それで結局電話かけて追及してしまうなら、最初から毎日にしとけばいいんだよ。
文字数制限なしにして先に詳しく伝えてもらえたら、気になったことだけ電話で聞けばいい。
ただし、気になったからって追及しすぎるなよ。
つきあってるからって、秘密を持っちゃいけないわけじゃないんだからな。
おまえだって、ミケちゃんに隠してることや言えないこと、いくらでもあるだろ〕
「…………」
〔それと、もうひとつアドバイスだ。
ミケちゃんに告白された時に、『おまえを気に入ってはいるが、恋愛対象として見たことはない』って言ったの、早めに訂正しといたほうがいい。
でないと、好きじゃなくても恋人扱いできる不誠実な男だと思われるか、恋人扱いじゃなくてペット扱いだと勘違いされたままになるぞ〕
「…………なぜそうなる」
〔ミケちゃんには、おまえにとっての恋愛が、セックスだけの割り切ったつきあいって意味だなんて、想像もつかないんだよ。
だから、好きじゃなくても恋人扱いできる理由を考えて、おまえが不誠実なのかペット扱いなのかと思ったんだろうな〕
「…………」
〔それと、ミケちゃんにとって恋人扱いは、特別優しくしてもらえる、ぐらいの曖昧なイメージで、性的なことが含まれてないから、ペット扱いと似たようなものだと思ってるみたいだな。
抱きしめて撫でて優しい声で話しかけるってとこだけなら、確かに似たようなものだから、混同するのもしかたないかもしれないけど、そこまでピュアなのもすごいよな。
性的なことがメインのおまえとは真逆だもんな〕
「……うるさい」
〔念の為に言っとくと、おまえと同様に考える奴は、男には比較的多いけど、一般的ってほどでもないからな。
女性にはそういう考え方は嫌がられることが多いし、まして経験ゼロのミケちゃんじゃあ、理解できないと思う。
誤解されたままで手を出したら、『好きじゃなくてもそういうことできるんだ』と軽蔑されるぞ〕
「…………」
〔まあ、おまえの恋愛観は、俺が夜遊びを教えたことも影響してるみたいだから、フォローはするよ。
大学時代に、告白されたのを断るのに討 論を利用してたって話をしておいたから、それにかこつけてごまかせばいい。
だけど、ミケちゃんがどこまで本気か確かめるためだとしても、なんでデートの回数制限までつけたんだ?〕
「…………今から話すことは、美景には言わないと約束しろ」
〔……わかった、約束するよ。
なんだ?〕
「おまえから見て、美景は本当に俺を好きだと思うか」
〔そう見えるけど、おまえは違うと思ってるのか?〕
「恋心があるとしても、そのうちの何割かは、俺への依存心だろう。
荒事に無縁な女性が、凶器を突きつけられ恐怖にさらされたのだから、心に傷を負うのは当然のことだ。
PTSDの発症には至っていないようだが、心の均衡を保つために、助けた俺に無意識にすがろうとしているのだろう。
原因は俺の判断ミスだから、心の傷が癒えるまで面倒を見る責任がある。
だが、頻繁に会っていては依存が強まってしまうから、回数制限をつけた。
三ヶ月様子を見て、依存が薄まっているようなら、回数制限は見直すつもりだ。
……だが、俺だけでなく、おまえにも依存しようとしているのかもしれない」
〔俺に? なんで?〕
「美景にとって、恋人は期限付きの関係だが、友達は一生続く関係だ。
なら、恋人の俺より友達のおまえに依存したほうが、安定して支えてもらえる。
おまえが真白の恋人だというのも、安心材料の一つだろう。
電話では思考を読みにくいと言っていたが、それらしい様子はなかったか」
〔なかったと思うけど、俺と友達になったと聞いてミケちゃんに色々追及したのは、それを確認したかったからなのか?〕
「そうだ。
もしそれらしい様子があれば、すぐに教えてくれ」
〔いいけど……。
んー、これはミケちゃんをけなしてるわけじゃなくて、むしろ褒めてるんだけどさ〕
「……なんだ」
〔ミケちゃんは、そんなに繊細じゃないと思うぞ〕
「…………」
〔見た目はかわいらしいけど、中身はけっこう豪胆だよ。
懇親会の時、腰が抜けて動けなくなるほど恐がらせたのに、翌日謝ったらあっさり許してくれて、それまでと変わらない態度で接してくれるぐらい、たくましい。
人質にされて恐かったのは本当だろうけど、もう済んだことだと割り切ってるから、おまえにも俺にも依存はしてないと思う〕
「…………」
〔話がそれるけど、懇親会の時も、止めてくれてありがとう。
さっきミケちゃんに聞いたけど、偶然じゃなくて、俺が殺気出してると気づいて止めにきてくれたんだってな。
さすがに手を出すほどキレてはいなかったけど、もし泣かせてたら、シロとの友達づきあいがうまくいかなかったかもしれないから、止めてくれて助かったよ〕
「……あの店には警察関係者が二百人近くいたのに、俺以外誰も気づいていなかったのは、嘆かわしいことだ」
〔いや、何人かは気づいてたぞ。
戻った時に、ちらちら見られたからな。
女性に勘違いされないように常に距離を取ってるおまえが、肩にかついでとはいえミケちゃんを運んでくれたのは、原因が俺だと他の奴に知らせずに済ませるためだろ〕
「……さっさと片付けたかっただけだ」
〔だとしても、助かったよ。ありがとう〕
「…………」
〔話を戻すぞ。
罪悪感から依存だと疑ってるのかもしれないけど、ミケちゃんは純粋におまえを好きだと思うよ。
おまえだって、ミケちゃんが好きで、大切にしてやりたいと思ってるんだろ。
だったら依存とか気にしないで、普通に優しくしてやれよ。
まずは、この後の電話からだな。
依存に関しての話は約束通り黙っておくけど、おまえとまた友達になったって話は伝えておくから、うまくやれよ。
うまくいかなかったら、友達として相談に乗るから〕
「…………ああ」
〔ん。じゃあな〕
-----------------
≪美景と話をした
ペット扱いと恋愛対象に関する誤解は解いた
今のおまえはスパダリだから、昔のおまえと違うように感じるのだろうと説明された
俺に偉そうに言っていたが、真白が絡んだ時のおまえも充分おかしいぞ
美景に、真白は自分に自信を持てずにいるから、褒めてやってほしいと頼まれた
だが、俺が褒めると張り切って無理しそうだから、おまえに任せる
スパダリとやらをめざすなら、真白に自信を持たせつつ無理はさせないようにコントロールしろ≫
≪ミケちゃんからもメッセージもらったよ
誤解が解けたようでよかった
だけど、『つきあうと決めたからには恋人扱いする』って言われて、急に恥ずかしくなったらしいよ
恋人になったと実感できたからじゃないかなって、言っておいたけど
本当の意味での実感はできてなさそうだから、手を出す時は慎重に、段階を踏んで、誤解されないように気をつけろよ
シロのことは了解。スパダリとして全力を尽くすよ≫




