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エリート×オタクの恋はいろいろ大変です!  作者: 香住なな
第二部 恋人編
35/93

私達ズッ友だよね⑦

〔片思いは、一方的な思い込み、あるいは妄想と紙一重だ。

 今まで俺に告白してきた者は、つきあうメリットやデートの回数などの現実を突きつけると、ほとんどが妄想から覚めて諦めた。

 だが、おまえは諦めずに自分の希望を伝えたうえで、俺が妥協できるラインを探ってきた。

 そのうえで、趣味優先の生活をしていると堂々と主張し、俺を最優先にできないから自分もそうでなくてかまわないと言った。

 俺の周囲には、真白(ましろ)を筆頭に自分の全てを俺に捧げようとする者が多かったから、おまえの主張は新鮮だった〕

「あー……なるほど」

 おぼっちゃま育ちで、尽くされるのに慣れてたから、そうじゃない私が新鮮だったんだ。

 てことは、やっぱり。

「珍獣だから、興味持ってくれたんですねえ」



〔……宝塚から、おまえが妙な誤解をしていると聞いたが、俺はおまえをペット扱いしたおぼえはないぞ〕

「そうですか?

 デートの回数制限つけられたのは、たまに珍獣をかまって気晴らししたいだけだから、会うのは月に一、二回で充分ってことなのかなって、思ってたんですけど」

〔違う。

 仕事が忙しくて、日常的に相手をしてやる余裕はないと、言っただろう〕

「えー、でも、吹田(すいた)さんとずっと一緒に働いてるシロさんは、最低でも週一回は宝塚さんとごはんデートして、月二回はおうちデートしてるそうですよ。

 だったら、吹田さんも同じぐらいの余裕はあるんじゃないんですか?」

〔情報が氾濫している今の世の中では、常に最新の正しい情報を知っていなければならない。

 必要な情報を調べ、事実かどうか見極め、取捨選択し、更新していくには、いくら時間があっても足りない。

 真白が俺より自由になる時間が多いのは、俺が調べた中から必要な情報だけを選んで伝えているからだ。

 ……このことは、真白には言うなよ〕

「……あー、わかりました。

 シロさんには内緒にしときます」

 月曜の朝に車の中で聞いたシロさんの苦労話の中に、吹田さんから休み前に送られてくる『おぼえておくべき情報』の学習が大変っていうのがあった。

 まるで宿題みたいで大変だなって、その時は思ったけど。

 宿題を作る側の吹田さんは、何倍もの情報をチェックしたうえで選り分けてるんだから、そりゃ自由時間に差が出るよね。

 それをシロさんに教えちゃったら、自分で調べますって言いそうだから、内緒っていうのもわかる。

 でも。



「だったら、なんで私とつきあってくれる気になったんですか?

 恋愛対象として見たことないって、いったんは断ったぐらいなのに。

 私は、好きだからつきあってほしいと思ったので、好きじゃないのにつきあえるっていうのがわかんないんです。

 あ、そうだ、それも、ゆうべ宝塚さんに聞いてみたんですよ。

 そしたら、吹田さんの考えはよくわかんないけど、つきあってもいいって思うぐらいには、私のことを特別扱いしてたと思うよって、言われました。

 つきあう前から一緒に買い物したり、名前で呼んだりするなんて、大学時代の吹田さんなら絶対しなかったって、シロさんと同じぐらいの特別扱いだよって。

 シロさんと同じぐらいって、つまり身内扱いってことですよね。

 だから、恋人じゃなくてペット扱いなのかなって、思ったんです」



〔……俺とおまえでは、恋愛の順序が違うようだ〕

 ん?

「考え方じゃなくて、順序ですか?」

〔ああ。

 俺の場合は、相手から告白され、交際を申し込まれて、提示されたメリットが妥当な内容であれば承諾する。

 いわば、つきあってから好きになるから、おまえとは逆だ〕

 あれ、そういうの、どっかで聞いたなあ。

 …………あ、ゆうべ宝塚さんが言ってたやつ。

『とりあえずつきあってみる』が当たりだったんだ。

 ということは。

「『自分から友達を作ったことはない』って前に言ってましたけど、もしかしてカノジョも、自分から告白したことないんですか?」

〔ああ〕

「ぅわー……」

 そういえば、スペックだけ並べたら、セレブでエリートで出世頭で、超優良物件なんだった。

 いやでも、玉の輿狙いっぽい人なら、断りそうだよね。

 今までのカノジョって、どんな人だったんだろ。

 気になる。



「今までのカノジョって、どういうメリットがあった人なんですか?

 もしかして、その人達ともデートは月一、二回とかだったんですか?」

 今までがそうだったから、私も同じように言われたのかな。

〔……………………〕

 長い沈黙の後、ため息が聞こえた。

〔さっき、はっきり言ってくれと言われたから、言うぞ。

 過去の交際相手の話は、したくない〕

「ええー、わかりました」

 残念だけど、しかたない。

 うん、やっぱりはっきり言ってもらえたほうが、楽だね。

「あ、でも、個人情報じゃなくて、デートの回数とか、どういうデートしてたかとかは教えてほしいです。

 今後の参考にしたいので。

 そういうのも、ダメですか?」

〔……おまえとの場合ほど明確に回数や時間の規定はしていなかったが、結果的には同じようなものだったな〕

「なるほど」

 つまり、めったに会えなくてもかまわないって言った人が、オッケーしてもらえたのかな。

「じゃあ、ごはんデートか、おうちデートがメインだったんですか?」

〔…………ああ〕

 微妙な間があったってことは、このへんが答えてくれるギリギリラインみたいだね。

「わかりました、ありがとうございます」

 うーん、しばらくは、ごはんデートでこまめに会う感じでいってみようかな。

 考えながら、お茶を一口飲む。

 時計を見ると、十時半をすぎてた。

 ……あれ。



「えーっと、どこまで話しましたっけ?」

 脱線したら、わかんなくなっちゃった。

〔……宝塚に男の考え方を聞いた、あたりだな〕

「あーそうそう、そのへんでしたね。

 ありがとうございます。

 その後はー、あ、シロさんが吹田さんの元婚約者だって聞いて、びっくりしました。

 で、吹田さんの婚約者兼側近になる話を教えてもらいました」

〔何を話したかは、真白から聞いている。

 ……質問していいか〕

「はい、なんですか?」

〔なぜ俺に婚約者がいると思ったんだ〕

「時代劇とかのフィクションだと、おぼっちゃまの婚約者ネタは定番だからです」

〔……そんな理由なのか〕

「そうですよ?

 実際いたじゃないですか」

 時代劇って、意外と事実に基づいてるんだね。 

〔…………そうだな〕



「他にも質問ありますか?」

〔……真白の話を聞いてどう思ったのか、教えてくれ〕

「えーっと。

『若様』とか『母上』って呼び方、ほんとに時代劇みたいだなーとか。

 お金持ちって大変なんだなーとか。

 宝塚さんのプロファイリング能力ってすごいなーとか。

 だからあんなにハニトラ警戒してたんだーとか」

 順に語っていって、思いだす。

「そうだ。

 吹田さん、もっとシロさんを褒めてあげてください」

〔……どういう意味だ〕

「シロさんは、自分は死んだいとこの人の代わりでしかないし、自分のことを吹田さんにもいとこの人にも及ばない凡人だと思ってるから、自分に自信がないみたいなんです。

 宝塚さんが、今まで吹田さんに付いてこれたってだけで、充分がんばってるよって、励ましてましたけど。

 吹田さんからも褒めてあげたら、もうちょっと自信持てると思うんです」

〔……考えておく〕

「お願いしますー。

 えーっと、シロさんの話を聞いて思ったこと、それぐらいですね」

〔……そうか。

 質問は以上だ。

 続きを頼む〕

「はーい。

 えーっと、その後はー……」

 なんだったっけ?



「…………あ、そうそう、私のおかげで、吹田さんがいい方向に変わってるみたいだから、これからも振り回して癒してあげてほしいって、二人に言われたんで、がんばりますって答えました」

〔……『振り回して』は、宝塚だな〕 

「当たりです。

 で、十一時すぎたんで、終わりにして、吹田さんにメッセージ送ったんです」

 うーん、やっぱり記憶が曖昧なとこ多いなあ。

 私にしては、これでもおぼえてたほうだけど。

 一字一句おぼえてられる宝塚さんの記憶容量って、絶対テラじゃなくてペタだよね。

〔そうか。ありがとう〕

「どういたしましてー。

 がんばって思いだしましたけど、たぶんけっこう抜けてるんで、最初に言ったように、どうしても気になるなら、宝塚さんに直接聞いてもらったほうが確実ですよ。

 そのほうが、私も楽ですし」

〔……客観的な内容だけでなく、おまえの主観も知りたかったんだが、おまえにとって負担だったなら、すまなかった〕

「んー、負担ってわけじゃないんですけど。

 さっきも言いましたけど、私は吹田さん達ほど賢くないし、察しも良くないし、記憶力も良くないんです。

 すごくびっくりすることがあったり、短時間でいろいろあると、細かい記憶が飛びがちだし。

 一度言われただけで全部おぼえられるわけじゃないので、『前にも言っただろう』って呆れずに、もう一回言ってもらえると助かります」

 できない言い訳ってわけじゃないけど、あまりにも基本スペックが違いすぎて、努力でなんとかできる差じゃないんだよね。  



「いっそ、宝塚さんと電話する時は、全部録音しときましょうか。

 それを吹田さんに聞いてもらいながら、私がどう思ってたかの解説入れれば、抜けがなくてすみますね」

 あーでも、録音データを聞きながら、通話できたっけ?

〔……そこまで束縛する気はない。

 今回は、宝塚の行動に違和感があったから、気になっただけだ。

 すまなかった〕

 まじめな声での謝罪に、思わず笑う。

「吹田さん、昨日は宝塚さんのこと『友達じゃない』って言ってましたけど。

 呼び方がそうじゃなくても、気持ちのうえでは友達だと思ってたから、気になったんじゃないんですか?」 

〔……あいつが何かやらかしたら、真白が悲しむから、気になっただけだ〕

 素直じゃないなあ。

 吹田さんって、ツンデレなのかも。



 話題を変えるように、小さく咳払いしてから、吹田さんが言う。

〔先日決めたルールを変更したい〕

「ん? どれですか?」

〔メッセージの文字数制限を廃止する。

 何かあった時は、忘れる前にメッセージで教えてくれ。

 そうすれば、おまえも後から思い返しやすいだろう〕

「あー、そうですね、助かります。

 でも私、短くまとめるの苦手なんで、すごく長くなっちゃうかもしれませんけど、かまいませんか?」

〔かまわない。

 要点だけで意味がわからないより、長くても詳細がわかるほうがマシだ〕

 ん?

 ……ああ、ゆうべのメッセージのことかな。

 まあ、眠すぎて短くなったせいもあるけど、吹田さんからしたら意味不明だったよね。

〔内容に疑問があれば質問するから、できる限り回答してくれ。

 俺の質問への返信は、一日の回数には含まないものとする〕

「わかりましたー」

 ほんと、細かいとこまできっちりしてるなあ。

 エリートってすごい。

 いや、そうじゃなきゃエリートになれないのかな。

 でもこれで、文字数気にせずいろいろ伝えられるね。



〔それと、金曜の夜の食事についてだが〕

「はい」

〔おまえが希望した店に、俺の名前で十八時から予約を入れてあるが、十七時から会議の予定が入ったから、少し遅れる可能性がある。

 退庁した時点で連絡するが、待たせることになったらすまない〕

「いいですよー。

 写真いっぱい撮ってますから」

 気が済むまで撮りまくろう!

〔……撮る前に、店の者に撮影可能か確認しろよ〕

「わかってます。

 あ、お店の名前教えてもらえませんか。

 話はいろいろ聞いてるんですけど、具体的な店名や場所は知らないんです」

〔わかった。

 後で店のURLをメッセージで送る〕

「ありがとうございます、お願いします」

〔ああ。

 俺からの話は、以上だ。

 おまえから、何かあるか〕

「えーっと、特にはないです」

〔そうか。

 だったら、今日の話でおまえにおぼえておいてもらいたいことを、後で店のURLと一緒にメッセージで送っておく〕

 ん?

 あー、私の記憶力対策なのかな。

 対応が素早いなあ。



〔ありがとうございます、助かります。

 あ、次の電話は金曜の夜ですけど、ごはんデートと重なりますよね。

 こういう場合、どうしますか?

 一日ずらしますか?

 それともデートの時間に電話の時間をプラスしてくれますか?」

〔おまえは、どちらがいい〕

「うーん、一日ずらして土曜の夜にしてもらえると、嬉しいです」

〔わかった。

 土曜の夜に電話する〕

「ありがとうございますー」

 ルールにはうるさいけど、柔軟に対応してくれるのは、嬉しいね。

「じゃあ、今日はここまでですかね。

 ありがとうございました。

 おやすみなさい」

〔おやすみ〕

 『おやすみ』がちょっと優しい声なの、やっぱり好き。



 くすくす笑いながら、スマホを充電ケーブルにつなぐ。

 時計を見ると、十一時近かった。

 うーん、寝るには早いかな。

 でも今から何か始めると、寝るの遅くなっちゃうからなあ。

 いっか、寝ちゃおう。

 下に降りて、寝る用意をして戻ってくると、吹田さんからメッセージがきてた。

≪今日話したことで、おまえにおぼえておいてもらいたいことは、五点だ


一点目

おまえの交友関係に口出しはしないから、報告は必要ない

ただし、初対面なのに馴れ馴れしい態度の者や、身元の怪しい奴には気をつけろ

身の危険を感じるようなことがあれば、すぐ連絡しろ


二点目

俺が真白より自由時間が少ないのは、情報の精査に時間を取られているからだが、真白にはそのことを言うな


三点目

メッセージの文字数制限を廃止する

俺から質問した場合の返信は、一日の制限回数には含まない

電話の都合が悪い際は、二十二時までにメッセージで連絡する

この場合も、一日の制限回数には含まないものとする


四点目

俺とモメた時に宝塚に泣きつくのは許容するが、俺に聞きたいことがあるのなら、まず俺に聞け

ただし、答えたくないことは回答を拒否する場合がある


五点目

俺はおまえをペットだとは思ってはいない

告白された時点では恋愛対象として見ていなかったが、つきあうと決めたからには、恋人として扱う


以上だ≫



「…………」

 まとめ、助かるけど。

 一時間近く話したことの中から、要点整理できるの、すごいけど。

 ボンさん監修のなれそめエピの時と同じく、文字で読むと恥ずかしくなるの、なんでだろ。

「~~~っ」

 急に耐えられなくなって、スマホを握ったままベッドでごろごろする。

 はあっとため息ついて、だらんと寝転がった。

「恋人、なんだ」

 ぽつんとつぶやくと、また恥ずかしくなって、足をジタバタさせる。

 ああっ、なんか無理っ、どっかで発散させたいっ。

 しばらく考えてから、宝塚さんへのメッセージ画面を開いた。



≪遅い時間にすみません

吹田さんと電話で一時間ぐらい話しました

宝塚さんと友達になったのが気になったのは、大学生時代の宝塚さんならしないような、おかしな行動に見えたから、らしいです

それと、そもそも吹田さんとモメる前提の話だったのが、気に入らなかったみたいです

今の宝塚さんは、シロさんを溺愛してるスパダリだからって説明したら、納得してくれたみたいです


どうして私とつきあってくれる気になったのか、聞いてみました

宝塚さんが言ってた、『とりあえずつきあってみる』が、まさかの正解でした

私は好きだからつきあってほしいけど、好きじゃないのにつきあえるのがわからないって言ったら、俺とおまえでは順序が逆だって言われました

吹田さんは、今までずっと女の子から告白されてつきあうパターンだったから、つきあってから好きになるんだそうです

告白された時点では恋愛対象として見てなかったけど、つきあうと決めたからには、恋人として扱うって言われました

めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど、なんででしょう

抱きあってナデナデしてもらいながら話した時は、嬉しいだけで、恥ずかしくはなかったのに

不思議です


まとまりなくてごめんなさい

なんか恥ずかしすぎて、聞いてもらいたかったんです≫



 送信ボタンを押して、ほっと息をつく。

 うん、ちょっとおちついたかな。

 もてあます感情は、アウトプットすると、ちょっとマシになるね。

 でも、ほんとになんでこんなに恥ずかしいんだろ。

 これは、宝塚さんよりシロさんに聞いてみたほうがいいのかな。

 ぼんやり考えてると、スマホがぴこんと鳴って着信を知らせる。



≪吹田が納得してくれたようで、よかったよ

『とりあえずつきあってみる』が正解だったのは意外だけど、順序が逆だったんだね

急に恥ずかしくなったのは、吹田と恋人になったって実感できたからかもしれないね≫

 実感、かあ。

 確かに、月曜の時は、告白して交渉してオッケーしてもらえて、テンションがおかしくなってた気がする。

 昨日は、シロさんから聞いた昔話のインパクトが強すぎて、いろいろ吹っ飛んだし。

 今日もいろいろあったけど、やっと実感できたってことかな。

 うん、そうかも。

≪確かに、実感できたからかもしれません

ちょっとおちつきました

ありがとうございます~

おやすみなさい≫

≪役に立ててよかったよ おやすみ≫



明日からは、誤解されないぐらい丁寧に、でも話題が散らかりすぎないメッセージを送るよう、がんばろう。

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