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エリート×オタクの恋はいろいろ大変です!  作者: 香住なな
第二部 恋人編
34/93

私達ズッ友だよね⑥

 九時五十五分になって、宝塚さんからメッセージが届いた。

≪もう一度吹田(すいた)と友達になったよ

ミケちゃんのおかげだよ。ありがとう

俺が話したことは、全部吹田に話してかまわないよ≫

≪よかったです。ありがとうございます≫

 うまくいってよかった。

 うーん、じゃあ、普通に話せるかな。

 一昨日はスマホを手に持っててびっくりしちゃったから、今日は机に置いて、電話がかかってくるのを待つ。

 今日も十時になってすぐ、着信画面になった。

 スマホを取りあげながら、通話ボタンを押して耳に当てる。

「はいミケです。

 こんばんはー、お疲れ様です」

〔……ああ。

 今からしばらく話して大丈夫か〕

 こういう確認て、めんどくさいと思う人もいるみたいだけど、私は嬉しいな。

 私を気遣ってくれてるってことだから。



「だいじょぶですよー。

 昨日は寝ぼけてて、すみませんでした」

〔いや、確認もせず遅い時間にかけたのは俺だ。

 すまなかった〕

 静かな声に、ちょっとほっとする。

「いーえー。

 えっと、宝塚さんと友達になった理由とかを聞きたかったんでしたっけ。

 さっき宝塚さんからメッセージもらって、吹田さんと友達になったよって聞きましたけど。

 それでも気になりますか?」

〔……ああ。 

 俺が知っている宝塚は、なんでもできるのに何にも執着せず、飄々と生きていた。

 真白(ましろ)とつきあうようになって少し変わったようだが、それでも、わざわざおまえと友達になってまで応援したいというのは、奇妙に感じる。

 だから、できれば詳しく話してほしい〕

 そうなんだ。

 私は若い頃の宝塚さんを知らないから、違和感ないのかな。



「わかりました。

 昨日は、眠かったのと、話していいのか宝塚さんに確認してなかったから迷っただけで、言いたくないわけじゃないんで。

 ただ、私は吹田さん達ほど記憶力良くないんで、話した内容を全部おぼえてるわけじゃないんですよ。

 特に昨日は、シロさんに聞いた話のインパクトが強すぎて、その前に宝塚さんと話したことは、ぶっちゃけちょっと曖昧です。

 なので、そんなに気になるなら、宝塚さんに直接聞いてもらったほうが確実ですよ。

 宝塚さんなら、録音データと同じぐらい正確に、会話を再現してくれるでしょうし。

 友達なんだから、気軽に聞けるでしょう?」

〔……友達だからといって、すべて話せるわけでもない。

 おまえがおぼえていることだけでかまわないから、教えてくれ〕

「んー……?」

 ゆうべは尋問口調だったけど、今日はずいぶん静かっていうか、丁寧っていうか。

 うーん?



〔……なんだ〕

「吹田さん、今日調子悪いですか?

 なんか、声が元気ないですよ。

 疲れてるなら、明日か、金曜のごはんデートの時に話しましょうか?

 そういえば、電話の日に都合悪い時はどうするか、決めてなかったですね。

 私も、その、体調悪い時期もありますし。

 そういう時は、十時までにメッセージで伝えるって感じでどうですか?」

〔電話の都合が悪い際の連絡方法は、それでかまわない。

 ……俺は、体調が悪いわけではない。

 さっき宝塚と電話で話して、色々と考えることがあっただけだ。

 気にしないでくれ〕

「いや、めっちゃ気になりますよ。

 吹田さんだって、私がどんよりした声出してたら、気になるでしょ?

 ゆうべだって、私が足の小指ぶつけて痛くてしゃべれずにいたら、すっごい追及してきたじゃないですか」

〔…………そうだな〕

「あれ、でも、『気にするな』って、例の『言えない』って言ったら追及するなマナーなんですかね。

 わかりにくいんで、そういう時は、『気にしないで』じゃなくて、『聞くな』って言ってください。

 私もそう言いますから」

〔……わざわざ、言う必要があるのか〕

 吹田さんは、とまどうような声で言う。



「ありますよ。

 私は、吹田さんが普段接してる人達ほど賢くないんです。

 吹田さんの一番身近な女性のシロさんと無意識に比べて、それぐらいできると思ってるかもしれませんけど、言わなくてもわかるとか、察するとか、無理ですから。

 シロさんは、吹田さんのサポートができるぐらい優秀で、そのうえ二十年以上一緒にいて、なんでも知ってる仲なんですよ。

 ぽっと出の私と比べるのは、シロさんに失礼です」

〔……おまえではなく、真白に失礼なのか〕

「そうですよ。

 吹田さんが沼だとしたら、シロさんは最古参、むしろ沼の主なんですから。

 新参が古参に敬意をはらうのは、当然のことです」

〔…………〕

 しばらくの沈黙の後、押さえた笑い声が聞こえた。

 うん?



〔おまえの感性は、面白いな〕

 ようやく聞こえた声は、さっきまでの弱さがなかった。

「なんか、元気になりました?」

〔そうだな。

 色々考えていたことが、ばからしくなった。

 やはり、おまえは俺にとって得難(えがた)い存在だ〕

 ん?

 なんか聞きおぼえがあるような。

 ……………………あ、あれだ、ハニトラ疑惑の時に言われたやつ。

「前もそれ言ってましたけど、褒めてます?」

〔もちろんだ〕

 ほんとかなあ。

「よくわかんないですけど、元気になったならよかったです」

〔ああ。

 おまえのおかげだ

 ありがとう〕

 わー、優しい声でお礼言われちゃった。

「どういたしましてー。

 じゃあ、昨日のこと話しましょうか。

 あ、でも、二十分じゃ終わらないかもしれませんけど、いいですか?」

〔ああ。

 俺から頼んだことだから、かまわない〕

「わかりました」

 うなずいて、マグカップからお茶を一口飲む。



「えーっと、ゆうべシロさんから電話かかってきて、今宝塚さんちにいて、宝塚さんが私に話したいことがあるので替わっていいですかって、言われたんです。

 いいですよーって言って、宝塚さんに替わったら、お詫びと、お礼と、お願いが二つあるって言われました。

 お詫びは、去年の懇親会の時、シロさんとうまくいってなかったから、私にやつあたりしちゃった感じになって、ごめんねってことでした。

 お礼は、その翌日に私がアドバイスしたことで、シロさんとうまくいくようになったから、ありがとうってことでした。

 お願いの一つめは、今自分達がラブラブな恩返しがしたいから、シロさんだけじゃなく自分とも友達になってほしいってことでした。

 友達のカレシとしてじゃなくて、友達として直接関わりたいんそうです。

 だから友達になってって言われたんで、友達になりました。

 お願いの二つめは、吹田さんとモメてぐちりたくなったら、シロさんじゃなく自分に先に連絡してほしいってことでした。

 シロさんに泣きつくと、吹田さんと私の板挟みになってかわいそうだからっていうのと、自分がシロさんに相手してもらえる時間が減っちゃうから、だそうです。

 私もそりゃそうだよねって思ったんで、そうするって約束しました」

 指折り数えながら、一つずつ伝えていく。

 細かいとこは忘れちゃったけど、だいたいこんな感じだったよね。



「今までの内容で、気になることありました?」

 黙って聞いてた吹田さんは、ゆっくり言う。

〔俺とモメた時に泣きつける相手は、宝塚以外にいないのか〕

「うーん、ぐちを言いたいだけなら、ボンさん、カウンセラーの人とか、喜んで聞いてくれると思います。

 でも、吹田さんがどういう考えでそういうこと言ったのか、その考えは男の人としては一般的なのかそうじゃないのかとかを、客観的な立場で、私にわかるように説明してくれそうな人って、宝塚さんぐらいなんですよ」

〔……俺に直接聞けばいいだろう〕

「いや、吹田さんに聞けないから、他の人に聞こうとしてるんですよ」

 ……ん?

「吹田さんが気になるのって、そこなんです?」

〔……どういう意味だ〕

「宝塚さんにってとこよりも、他の誰かに聞くってとこが、気になってたんですか?」

 宝塚さんにこだわってるのかと思ったけど、ほんとはそっちなのかな。

 だとしたら、話が嚙み合わないはずだよね。



〔…………そうだな。

 聞きたいなら、俺に聞けばいい〕

「でも、電話は二日に一回で、しかも二十分だけじゃないですか。

 ゆうべみたいに話がズレたまま終わったら、次に電話できる二日後まで我慢できそうにないんで、即座に泣きつける相手がいるのは助かるなって、思ったんです。

 ただまあ、実際にモメてみないと、ほんとにぐちりたくなるかわからないから、もしかしたら全然連絡しないかもしれませんけど」

 全部仮定の話だから、その時にならないとわかんないよね。

〔そもそも、俺とモメる前提で話を進めるな〕

 ちょっと不機嫌そうに言われて、思わず笑う。

「確かに、そうですね。

 でも、たぶん宝塚さんも、吹田さんと同じで、悪いほうの事態を想定して、対策をいろいろ考えてるんじゃないですか?

 私がシロさんに泣きついて、自分がかまってもらえる時間が減るって、宝塚さんにとっては深刻な問題みたいですし。

 ……あれ?」

 もしかして。



〔……なんだ〕

「えっとですね。

 さっき、私と友達になりたいっていうの、昔の宝塚さんを知ってるとおかしく感じるって、言ってたじゃないですか」

〔ああ〕

「それって、今の宝塚さんが、スパダリだからじゃないかなと思って」

〔……『スパダリ』という言葉について、説明してくれ〕

 あれ、吹田さん知らなかったんだ。

「スパダリは、スーパーダーリンって言葉の略語です。

 いくつか意味があるんですけど、私が言ったのは、ハイスペでモテモテなのに、恋人だけを一途に愛して尽くす男性、みたいな感じです。

 私がお礼言われたアドバイスって、それだったんですよ。

 もっとがんばってシロさんに尽くさないと、スパダリになれませんよ、みたいに言ったんです。

 そしたら、宝塚さんは、シロさんに言葉でも態度でも好きって伝えて、しょっちゅう会いにいって、できることなんでもして、溺愛しまくったんだそうです。

 そのおかげで、今シロさんとうまくいってるから、恩返しがしたいんですって。

 でも、ぶっちゃけ、私を応援したいっていうシロさんの願いをかなえてあげたいっていうほうが、本音だと思います」

 昨日話してる時は気づかなかったけど、今日になって思い返してみたら、たぶんそっちがメインだと思うんだよね。

 スパダリとしてはそれで正しいから、文句はないんだけど。



「大学生の頃の宝塚さんは、女の子に告白されても断りまくってて、何かに執着せず流されて生きてる感じだったんですよね?

 だから、シロさんを溺愛して尽くしまくってる今の宝塚さんが、おかしく見えるんじゃないでしょうか」

〔……確かにな。

 真白を溺愛しているから、真白と仲がいいおまえにも優しくするというのは、納得できる〕

「ですよね。

 それと、宝塚さんはずっと吹田さんを友達だと思ってたって言ってたので、友達のカノジョに気を遣ってくれた、っていうのもあると思いますよ」

〔…………〕

 微妙な沈黙は、照れ隠しかな。



「そろそろ続きにいきます?

 納得できたなら、もういいですか?」

〔……いや、一通り聞かせてくれ〕

「わかりました。

 えーっと、宝塚さんが友達になってほしいって言った時に、友達になるメリットとして吹田さんの昔話ができるとか、男の人の考え方とかを説明できるって、言ってたんです。

 だから、友達とか恋人になる時にアピールとかプレゼンが必要なの、一般的なんですかって聞いてみたら、一般的じゃないけど心当たりがあるって言われました。

 大学生時代に、雑談でも討 論(ディスカッション)の練習にしてて、その延長で女の子の告白を断るのも討論を使ってて、吹田さんも同じようにしてたって。

 その頃と同じ対応を、私に告白された時にもしたんじゃないかって、言われました。

 そうなんですか?」

〔……同じ対応というわけではないが、おまえがどこまで本気なのか確かめたかった〕

「えー、吊り橋効果とかじゃないって、言ったじゃないですか」

 ちゃんと説明したのに、信じてくれてなかったんだ。



〔恋愛経験ゼロなら、その気持ちが本当に恋なのか、助けた俺への感謝の気持ちを勘違いしているだけなのか、区別がつかないだろう。

 そもそも、知り合いから俺を好きなのではないかと言われて悩んでいたのなら、その知り合いの言葉に思考を誘導されていた可能性がある〕

「それは、そうなんですけど……」

 暗示にかけられそうって、思ったのは確かなんだけど。

 あれ、助けてもらって優しくされて好きになるって、私、チョロインだった?

 いや、でも、吹田さんだから、のはず。

 助けてくれたのが宝塚さんだったら、好きにならなかったと思うし。

 まあ、シロさんのカレシっていう前提があるから、助けてくれたかどうかは関係なしに、恋愛対象としては見なかっただろうけど。

「んー、でも、最終的には本気だって信じてくれたから、つきあってくれたんですよね?」

〔……そうだ〕

「ちなみに、私がプレゼンした内容、三つのうちどれが一番効果あったんですか?

 私としては、三番目の『シロさんとなかよくできます』かなって思ってるんですけど」

〔……プレゼンの内容より、その後の電話やデートの回数交渉のほうが効果があったな〕

「ええー?」

 なんで?

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