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エリート×オタクの恋はいろいろ大変です!  作者: 香住なな
第二部 恋人編
29/93

私達ズッ友だよね①

≪おはようございます

今朝はちょっとあったかいですね

ダウンのコートとどっちにしようか悩んで、結局ウールのコートにしました

ダウンはあったかいけど、着膨れして太って見えちゃうから、ためらっちゃいます

ほんとに寒かったら、着ちゃいますけどね

吹田(すいた)さんはいつも薄着ですけど、コートぐらい着てますか?

スリーピーススーツって、あったかいらしいですけど、風邪ひかないように気をつけてくださいね≫



≪こんにちは

十二時に、私と吹田さんがつきあうことになったと、ケイコ先生から発表されました

私に直接問い合わせがこないように、なれそめをまとめたチャットルームが作られて、そこにみんなからメッセージが大量に届いてました

十二時四十分時点で百件超えてて、びっくりです

だいたいはお祝いの言葉ですけど、知らない人がほとんどでした


なれそめは、私が全部話したカウンセラーさんの監修で、イイ感じのコイバナにまとめられてました

自分の話とは思えなかったけど、だからって自分でまとめるのもなんか恥ずかしいので、そのままにしてあります

話すのは平気な内容でも、文字で読むと恥ずかしくなるの、不思議です≫



≪こんばんは

昼のメッセージでは文字数が足りなくて書けなかったけど、なれそめの内容は執行部(私達の組織の運営者)から事前に確認されて、オッケー出してます

私が人質になったことは、カウンセラーさんの指導で、カットされました

くり返し話したり質問されて、当時のことを何度も思いだすと、心の傷になる可能性があるからだそうです

ケイコ先生が直々に『あまり騒ぎ立てずに見守ってあげてほしい』と発信してくださったおかげで、庁内の友達からも特に問い合わせとかはなかったです

でもお昼を一緒に食べてる人達からは、もっと詳しい話を聞きたいって言われてて、土曜か日曜にカラオケランチをする予定です

警察関係者だから、詳しい話をしてもいいんですよね?

もしダメなことがあるなら、事前に教えてください≫



「……あれ」

 今日三回目のメッセージをぽちぽち入力してた手を止める。

 えーっと。

 数えてみると、やっぱり三百文字超えてた。

 うーん、短くまとめるのって難しいなあ。

 朝と昼は、ひかえめにしたけど。

 入力画面だと文字数がわからないから、面倒だな。

 文字数カウントできるような、テキストアプリを使ったほうがいいかな。

 使えそうなアプリを探してると、シロさんからメッセージがきた。

≪こんばんは

遅い時間に突然すみません、今から電話してもいいでしょうか≫

「ん?」

 思わず時計を見ると、九時半をすぎたところだった。

 遅いってほどじゃないけど、なんだろ。

 今朝送ったメッセージには、普通に返事きてたけど。

 考えながらも返信する。

≪だいじょぶですよー≫

≪ありがとうございます≫

 ちょっと間を置いてから、着信画面になる。



「はいミケです。こんばんはー」

〔シロです。こんばんは。

 突然すみません〕

「だいじょぶですよー。どうしたんですか?」

〔……実は、ミケさんと吹田さんがおつきあいすることになったことを、宝塚さんに話したんです。

 ミケさんの了承を得ずに、勝手に話してしまって、すみません〕

「あーいえ、それは別に、かまいませんよ。

 特に秘密にしたかったわけじゃないですし」

 カレシなんだし、吹田さんとも私とも知りあいなんだし、当然話すだろうと思ってたから、別にかまわない。

〔ありがとうございます。

 それで、……あの、宝塚さんが、ミケさんと話したいとおっしゃってるんです〕

「え」

〔今、宝塚さんの家にいて、その、隣にいらっしゃるんですが、替わっても、いいでしょうか〕

 遠慮っていうよりとまどいがちの声で言われて、私もとまどう。

 なんでわざわざ宝塚さんが?

「えっと、はい、かまいませんけど」

〔ありがとうございます。

 では、替わります〕

 シロさんがほっとしたように言って、しばらく静かになる。



〔こんばんは、御所(ごせ)ちゃん。

 無理言っちゃってごめんねー〕

 わー、宝塚さんのイケボ、電話で聞くとよけいイイなあ。

 シロさんが一緒なせいか、いつもより声が甘く感じるね。

「こんばんはー。

 びっくりはしましたけど、かまいませんよー。

 話ってなんですか?」

〔その前に、もう一度説明しておくね。

 俺は今自分の家にいて、隣にシロがいて、スピーカーにしてしゃべってる。

 俺が話すことも、シロが話すことも、御所ちゃんの声も、二人で聞いてる。

 だから、どっちかに秘密にしたいことは、今は言わないで、後で個別に話してほしい。 

 いいかな〕

「わかりました」

 うーん、こんな念押しされて話すことって、なんなんだろ。



〔ありがとー。

 じゃあ、本題なんだけど。

 御所ちゃんに、お詫びと、お礼と、お願いが二つあるんだ〕

「え、なんか多いですね」

 なんのことだか、全然わかんない。

〔ごめんねー。

 まずお詫びなんだけど。

 実はね、去年の秋頃、俺とシロはつきあってはいたけど、あんまりうまくいってなかったんだ。

 シロは、御所ちゃんと同じく恋愛経験ゼロなうえに、誰かと個人的なつきあいをすることも初めてだったから、電話したりメッセージをやりとりすることさえ、とまどってた。

 俺はそれを理解できてなくて、最初のアプローチで失敗しちゃったから、少しずつ慣れてくれるように、近すぎず遠すぎずの距離で接するようにしてたけど、内心もどかしくて、いらついてた。

 あの懇親会の時も、少しでも顔を見て話をしたかったのに、遠くから俺を見てたシロは、目が合ったとたん悲しそうなカオになって、離れていった。

 人目があるからだとわかってても、まるで俺から逃げたように思えて、悲しかった。

 その直後に、御所ちゃんがシロが泣いてたと言ってたから、つい過剰に反応しちゃったんだ。

 あの時は、ほんとごめんね〕

「あー、いえ、それは、私の言い方も悪かったんですし、もういいですよ」

 そっか、ラブラブだったからじゃなくて、うまくいってなかったから、よけいにシロさんを泣かせたらしい私が許せなくて、怒ってたんだ。



〔ありがと。

 次にお礼なんだけど。

 懇親会の夜、御所ちゃんと別れた後で、シロと話をしたら、自分に自信がなかったから不安になってたけど、御所ちゃんが応援してくれたおかげで少しだけ前向きになれたって、教えてくれた。

 さらにその翌朝、俺が謝った後の御所ちゃんの言葉で、自分の間違いに気づいた。

 御所ちゃん、なんて言ってくれたか、おぼえてる?〕

「え? えーっと。

 シロさんとなかよくしてね、の後ですか?」

 他に何か話したっけ。

〔うん。

 御所ちゃんはこう言ったんだよ。

『ついでだから言っときますけど、あのサプリの件は、宝塚さんが悪いですよ。

 シロさんが宝塚さんの体調を心配して気遣ってくれたのに、今まで大丈夫だったから平気とかで断るなんて、ありえないです。

 それと、シロさんは自分に自信がない系ヒロインみたいなんで、もっとわかりやすくデロッデロに甘やかして、溺愛してあげなきゃダメです。

 そんなんじゃスパダリになれませんよ』って〕

「……あー、そういえば、そんなこと言いましたね」

 記憶力いい人って、すごいなあ。

 言った私が忘れかけてたのに、一字一句おぼえてるんだね。



〔うん。

 スパダリって言葉、聞いたことはあったけど詳しくは知らなかったから、調べたんだ。

 元の意味はともかく、御所ちゃんが言いたかったのは、恋人だけを一途に愛して尽くす男性ってことだよね〕

「まあ、そうですね」

 吹田さんもだけど、宝塚さんも、気になったことはきっちり調べるんだ。

 元はBL用語だってわかったうえで、意味を汲みとれるって、すごいね。

〔おかげで、俺の接し方が悪くてシロを不安にさせちゃってたんだと気づいた。

 それからは、スパダリめざして努力した。

 言葉でも態度でも好きだって伝えて、時間を作って会いにいって、シロのためにできることをなんでもした。

 そしたら、シロは俺の気持ちを信じて、受け入れてくれた。

 今こうやって隣にシロがいてくれるのは、御所ちゃんのおかげなんだ。

 本当に、ありがとう〕

 つまり、宝塚さんがスパダリなのは、元からじゃなくて、私の言葉がきっかけってこと?

 えー、びっくり。

 でもまあ、結果オーライってやつだよね。



「どういたしましてー。

 シロさんが幸せなら、私も嬉しいですよ」

〔……すみません、私も話していいですか〕

 ずっと黙ってたシロさんが、小さな声で言う。

〔いいよ、はい〕

〔ありがとうございます。

 ……あの、ミケさん〕

「はい、なんですか?」

〔……私も、今更ですが、ミケさんにお礼を言わせてください。

 あの頃私は、宝塚さんとつきあうことを了承したものの、信じきれずにいて、いつも不安でした。

 懇親会の夜、宝塚さんがミケさんと楽しそうにボウリングをしているのを見て、やはり私ではダメなのだと思いました。

 私なんかより、あんなふうに笑いあえる相手のほうがふさわしいのだと思って、……別れたほうがいいと、考えていたんです〕

「えっ」

〔その時に、ミケさんが来て、話しかけられました。

 そして、宝塚さんと同じようなことを言って、『宝塚さんを信じてあげてください』と、言ってくれました。

 第三者の立場のミケさんがそう言ってくれたおかげで、宝塚さんの言葉を信じてみようと、思えました。

 その後、宝塚さんがさっきおっしゃっていたように、言葉でも態度でも私を好きだと伝えてくれて、本当に私でいいんだと、信じられるようになりました。

 全部、ミケさんのおかげなんです。

 ありがとうございます〕

「そうなんですねー、びっくりです。

 でも、よかったです」

 まさか、その場の勢いで言ったことが、二人ともに影響与えてたなんて。

 変な方向にいかなくてよかった。



〔それで、ミケさんが吹田さんとおつきあいなさるなら、微力ながら応援できればと思ったんです。

 ですが、私はそういうことに疎いので、どうすればいいかわからなくて、宝塚さんに相談したんです〕

〔続きは、俺が話すよ。

 かわってくれる?〕

〔あ、はい。お願いします〕

〔ありがと。

 もしもし、御所ちゃん〕

「はい」

〔さっきシロが言ったように、俺達は御所ちゃんのおかげで今うまくいってるから、御所ちゃんの恋を応援したいと思ってる。

 そのために、俺からお願いしたいことが二つあるんだ〕

「なんですか?」

〔一つめは、俺も御所ちゃんの友達にしてほしい〕

「ん?」

 友達?



〔今の俺は、御所ちゃんからすると、職場の同僚で、友達のカレシだよね〕

「そうですね」

〔でもそれだと、恋の応援をするには距離があるから、もっと近い距離で、つまり友達として、直接関わっていけるようになりたいんだ〕

「あー、なるほどー……」

 確かに、元から友達じゃないなら、友達のカレシに恋愛相談はしないよね。

〔もちろん、女の子どうしの話は、シロとしてほしい。

 俺が友達になる利点としては、デートの時に男が気にするポイントとか、男の行動原理とか、いろいろ説明できるよ。

 御所ちゃんは男の友達いないってシロから聞いてるから、男の側の意見は貴重なんじゃないかな〕

「あー、まあ、そうですね」

〔それに、シロが話しにくい大学時代の吹田の思い出話とか、吹田の言動の解説とかも、できると思う。

 吹田の優しさは、ちょっとわかりにくいから〕

「それは助かりますけど……」

 うーん、なんだろ、この既視感と違和感。



「えーとですね、これは前にシロさんにも言ったんですけど。

 私、誰かと友達になる時に、価値とか利点とか考えたことないんです。

 だから、そういうアピールされると、かえって引くというか、困りますね」

〔……そうなんだ〕

 宝塚さんの声も、ちょっと困った感じになる。

「はい。

 だから、もっとストレートに言ってくれたほうが、いいです」

 シロさんには前に言ったけど、宝塚さんに話してなかったのかな。

 でも、私から言うのは、なんか違う気がする。

〔…………〕

 電話の向こうで、シロさんが何か言ってる声がかすかに聞こえる。

〔……御所ちゃん〕

「はい」

〔俺も御所ちゃんともっとなかよくなりたいから、友達になってくれないかな〕

 うん、友達になるのは、それぐらいシンプルでいいよね。

「いいですよー。

 じゃあ、私のこと『ミケ』って呼んでくださいね」

 いつも通り言うと、くすっと笑う声がした。

〔ありがと。

 じゃあ、ミケちゃんって呼ぶね。

 職場では、今まで通り名字で呼ぶから〕

「わかりました」



〔で、二つめのお願いなんだけど〕

「はい、なんですか?」

〔吹田とモメて、ぐちりたくなった時は、シロより先に俺に連絡してほしいんだ〕

「……ん?」

 なんかよくわかんないのがきたなあ。

〔シロは、ミケちゃんの味方をしたいけど、吹田を悪く言うこともできなくて、板挟みになっちゃうから〕

「それは、わかります」

〔俺は、いわば中立だから、どっち側にも立てる。

 ぐちりたいだけなら、ミケちゃんの味方として聞けるし、意見がほしいなら、両方の立場になって言える。

 それに、これが俺にとっては一番大事なんだけど〕

 やけに真剣な口調で言われて、思わず姿勢を正す。

「なんですか……?」

〔ミケちゃんがシロに泣きついたら、当然シロはミケちゃんの気が済むまで何時間でも聞いてあげるだろう。

 でもそうすると、俺がシロに相手してもらう時間が減っちゃうんだよね。

 だから、先に俺に連絡してほしいんだ〕

「あー……」

 めちゃくちゃ納得できる理由だった。

 そうだよね、宝塚さんからしたら、自分が一緒にいる時間を確保したいよね。

 あれ、でもそうすると。



「じゃあ、シロさんと二人でいる時とか、私としゃべってる時にシロさんから電話かかってきたら、どうするんですか?」

〔二人でいる時なら、二人で聞くよ。

 一緒にいられるなら、かまわないから。

 ミケちゃんとしゃべってる時にシロから電話あったら、悪いけどいったん切らせてもらって、シロと話した後にまた連絡するよ。

 ミケちゃんの恋を応援したいのは本心だけど、俺の最優先はシロだから〕

 きっぱりとした言葉に、思わずうなずく。

「うん、それが正しいスパダリです」

〔だよね〕

〔あの、その場合は、私が後回しでかまいませんから……〕

 宝塚さんの嬉しそうな声に、シロさんの困ったような声が重なる。

「それはダメですよー。

 宝塚さんは、シロさんを好きだからこそ、私を応援してくれるんですから。

 優先順位を間違えちゃダメです」

〔そうだよ。

 俺の優先順位は、どんなことでもシロが一番だから〕

 う、わー!

 宝塚さんの声、いつもより甘いと思ってたけど、今のは格が違う……!

 乙女ゲーの恋人シチュの声みたいに、甘くてとろけそう。

 短い言葉でも、シロさんへの愛情があふれてるのがわかっちゃう。

 こんな声でくどかれ続けたら、そりゃあシロさんだって信じる気になるよね。

 しばらくして、シロさんが小さな声で『ありがとうございます』って言うのが聞こえた。

 うんうん、なかよしで何より。



〔じゃあ、まずは俺に連絡してくれるってことで、いいかな〕

「いいですよー」

〔ありがと。

 後で俺の連絡先をシロのスマホから送るね。

 深夜でも早朝でもかまわないけど、仕事中だと出れないこともあるから、まずはメッセージを送ってほしい。

 十分以内には必ず電話するし、無理な時も返信するから〕

「わかりました。

 でも、さすがに深夜や早朝に連絡はしませんよ」

〔俺はいわゆるショートスリーパーだから、普段からけっこう夜更かししてるんだ。

 それに、寝ててもスマホが鳴ったら一秒で起きられるし、寝る気になったら十秒で眠れる。

 だから、いつ連絡してくれても大丈夫だよ〕

 宝塚さんて、どこまでハイスペなんだろ。

 ちょっと盛りすぎだよね。

「……あれ、でも、私としゃべってる時にシロさんから連絡きても、わからないんじゃないですか?」

 着信履歴は残るけど、話してる最中にはわからないよね。

〔それは大丈夫。

 ミケちゃんに教えるのはプライベート用のスマホで、シロとは専用のスマホでやりとりしてるから〕

 わざわざ専用のスマホ用意するって、スパダリ極めてるなあ。

「わかりました。

 じゃあ、ほんとに連絡するかどうかは別として、いつでも連絡していいってことは、おぼえときますね」

〔うん。よろしくね〕

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