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71.憑依ミテーション

「え、カップルって君達なの?」


若い方の実行委員が困惑している。

そりゃそうだ。この場にいる三人で誰と誰がカップルかって言ったら、

どう見たって水橋と透。俺はお情けで連れて来た友達か何か。

水橋と俺じゃ、何もかも釣り合いが取れてねぇんだ。


「何か問題でも?」

「いや、まぁ、僕としては女の子の方が重要だから、

 男の方はそんなに気にしてはいないんだけど……」

「意外なものだな……てっきり、そこにいる彼が恋人かと思ったのだが」


呆気にとられている内に、話が進む。

何だこれ。何が起きているんだ。俺はどうすればいいんだ?


「雫、お前何言って……」

「神楽坂君には、穂積さんがいる。

 もうそろそろ戻ってくるから、穂積さんと参加すればいい」

「いや、だけどお前ら……」

「れーくんと私が出るから、何? Wデートなんだから、こういうこともある」


水橋の様子が、さっきからおかしい。

れーくんって……俺の事だよな。俺の下の名前の頭文字は『れ』だ。

けど、水橋が俺の名前を呼ぶ時は、『藤田君』のはず。

こんな呼び方、まるで本物のカップルみたいじゃねぇか。


「話合せて」


そっと耳打ち。

何を考えてるか分からないが、求められたのはこの流れの維持。

そういうことだったら、合わせるけど……


「おい待てよ! 大体、怜二は普通の服だろが!

 参加資格すら満たしてねーだろ!」

「普通の服でも、参加したら浴衣か甚平をレンタルしてもらえるって、

 パンフレットに書いてあった」

「あぁ。幅広く参加者を集めたかったからな」

「だから、れーくんも参加できる」

「そういえば、そうだったな。そういうことなら」


疑問の一つが解消された。

勿論、一番の疑問であるこの状況については未だ分からんが。


「書き終わりました。更衣室はどこですか?

 れーくんの着替えもそうですけど、私もちょっと整えたいんで」

「ステージ裏にあるから、自由に使っていいよ」

「分かりました。それじゃ行こ、れーくん」

「あ、あぁ……」


腕を組まれ、されるがままに会場へ。

その数秒後、後ろから微かに穂積の声が聞こえた。




「……ふう。何とかなった」


一息ついているところ悪いが、俺にとっては何ともなってない。

どちらかというと、むしろ悪化した。


「どういうつもりだ?」

「ごめんね、あのまま断りきれる気がしなくて……

 実行委員の人も困ってるみたいだったし……」

「だからって、何も参加する必要ないだろが。

 大体、さっきの何だよ?」

「……憑依、させてみたんだ。なるべくボクと似てる子。

 普段は冷たいんだけど、彼氏にベタ惚れしてるっていうクーデレな子」


料理研究会の盗難事件以来の、水橋の憑依術。

クールなキャラなら水橋には合うが……後半部分、看過できん。


「もっとまともなのはなかったのか?」

「この子しか浮かばなくて……それに、出るなら藤田君とがいい。

 神楽坂君と一緒に出たら、穂積さんに悪いし……純粋に……」


後に続くのは「神楽坂君とは出たくない」か。

二択だったら、相対的に俺の方がマシ、ということか。


「ステージ上にいる時はずっと憑依させるから、フォローお願い。

 あと、彼氏っぽく振舞ってくれないかな? マンガと近い方が、やりやすいから」

「分かった」

「ありがとう。それじゃ、彼氏の子の特徴なんだけど、ボクのことは『雫』って呼んで。

 あと、彼女の方はものすごくベタベタするし、すごく直球なことも言うけど、

 なるべく驚かないで、いつものことっていう感じであしらうようにして……」


……難易度高いな。

事を流すのは得意だが、水橋が相手じゃドキドキを抑えるので精一杯。

後戻りできない所まで来てしまった以上、やるしかないが……




レンタル品の黒い甚平を着て、出番を待つ。

まずは参加者が全員出てから、それぞれに軽いインタビューをするとのこと。

事前に宣言された分、初めての時のように驚くことはないとしても、

憑依状態の水橋をどうすればいいかなんて、見当もつかない。


「じゃ、そろそろ憑依させるから……後は宜しくね」

「分かった」


キャラクターを憑依させている時の水橋は、自分の意識を極限まで薄めている。

その場その場に呼応するような言動をするから、普段とは全く違うと考えるべき。

どんなマンガのどんなキャラかが分かってればいいんだけど、どっちも分からない。

となれば、出たとこ勝負しかない。

……上等だ。きっちり捌いてやるよ。


「エントリーナンバー8(エイト)! 美女と野獣カップルは実在した!

 こんな男が何でこんな浴衣美人を捕まえた!? 藤田怜二・水橋雫ペアー!」


腕を抱かれたまま、直前に出たカップルの隣へ。

具体的にどんなキャラかは分からないが、事前に教えてもらった特徴の通りに、

軽く仏頂面をして、「面倒くせぇ……」という雰囲気を出す。

……あと、紹介文考えた奴。後でステージ裏に来い。

その気持ち分からなくは無いが。


「エントリーナンバー10(テン)! これぞ美男美女カップル!

 今大会の優勝候補筆頭はこの二人か! 神楽坂透・穂積鞠ペアー!」


結局、透は穂積と参加することを選んだらしい。

この二人からしたら、今の俺と水橋はどう見えてるんだろうか。


「ご覧頂きました10組が、今回の浴衣コンテスト参加者です!

 果たして、初代グランプリの栄光を手にするカップルは誰なのでしょうか!

 それでは、まずはそれぞれにインタビューと参りましょう!」


さて、最初の山場だ。

事前に設定は決めておいたけど、どこまで聞かれるのか……




「ありがとうございました。続いて参りましょう。

 こんばんは!」

「こんばんは」

「……こんばんは」


声を合わせず、だるそうな感じに。

この場合、先にマイクが向けられるのは俺。


「あれ、彼氏さんはお疲れですか?」

「それなりに。出るつもりなかったけど、こいつがうるさいから」

「れーくんと私の愛を確かめることができるんだから、

 出ない手はない」

「人前でその呼び方はやめろって言っただろ」

「ヒュー! お熱いことで!」


既に心拍数がヤバイことになってるんだが。

なるべく手短に済ませたい。


「どれ位前からお付き合いを?」

「3ヶ月前」

「告白されたのはどちらから?」

「私。5回目の告白で」

「えっ、彼女さんの猛アタックだったんですか?

 何でこんな微みょ……普通の相手を好きになったんですか?」


おい聞こえたぞ。そして言い直しても大して変わってないぞ。

確かに、俺に水橋を惚れさせる要素なんて存在しないのは事実だが。


「優しいところ、直向きなところ、頭がいいところ、一生懸命なところ、

 強いところ、真面目なところ、強引なところ……」

「もういいから黙れ」

「まだあと23個ある」

「これはこれは、ベタ惚れじゃないですか!

 幸せ者ですね、このこの!」

「………………」


水橋の扱いも難しいけど、何よりこの司会者がうぜぇ。

お祭りだから盛り上げたいのは分かるが、面倒事をこれ以上増やすな。

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