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42、センスを磨こう!

 いやあ、この店に来るのも随分久しぶりですねえ(註:最近中の人が色々と忙しく、このエッセイを全く書いていなかった次第……)。おや、あなたがわたしの不在の間にマスターをやってくれていた方ですか。いやあ、本当にありがとうございます。え、礼には及ばない? ここはあなたの店だ……、ですって? あなた、すごく人が出来てますねえ!

 よし、今日からバトンタッチ。またマスター業に邁進しましょう!

 とはいっても、お客さんが全然いないじゃないですか。これは一体……。

 あ、おい、代理の君、これはどういうことだね! え? とんでもない素人で、バーデンの真似事をしてみたはいいけどあまりのまずさにお客さんが逃げていった、って?

 おいおい! 前言撤回! 困るんですよそういうの! でも、カクテルってどんなに不味く作ったって飲めないほどじゃあないはずですが……。ってか、大抵カクテルバーっていうのは一杯ひっかけたお客様ばっかりなので、味なんて分かろうはずも……。

 うげ、何これ、死ぬほどまずい。

 え、これがモスコミュール? まずっ。まず君、センスを磨いてください!

 え。センスって何? ですと?

 ああ、そうですねえ。結構軽々しく使っている言葉ですけど、センス、って難しい言葉ですよね。

 よし、今日はこの話だ!


 センスを磨こう! 小説なんていう難儀な趣味を持っていると、こういうスローガンと出会うことは一度や二度ではありません。そうじゃなくても、「お前、センスないんじゃない?」とかいう形でよく口に上る言葉ではありますね。

 でも、センスってなんだ、って話ですよ。

 たとえば運動だったら運動神経がそれにあたるんでしょうし、お勉強だったら物事を素早く理解する力がその正体でしょう。でも、小説を書く上でのセンスってこれいかに? それに、小説のセンスってどう磨くんだ?

 実は、答えの片鱗はこれまでの中で語られ続けています。結局、小説のセンスを磨くためには、山ほど小説を読んで山ほど書くしかありません。でもそれは、「文章を紡ぐ」という、あくまで技術的な部分での話です。きっと皆さんが「センス」と呼ぶのは、小説の内容だったりなんとない人間描写だったりするのでしょう。

 では、そういうセンスを磨くにはどうしたらいいのか。

 筆者は、「すべての物事を楽しむ」ことだと思っています。

 以前、ツイッターでこんな内容のツイートを見ました。

「街で『監視カメラが見守る平和な町』っていうスローガンを見たんだけど、なんかディストピアっぽくて好き」

 そう、この感覚です。

 これ、相当高度な心の動きです。

 「監視カメラが見守る平和な町」という言葉に触れて、「なんか滅茶苦茶な監視社会だ」というところまでは行きつく人は多いでしょうが、そこから先、「ディストピアっぽくて好き」という言葉はそうそう出ません。この言葉の裏には、これまでSF小説家や映画人たちが作り上げた監視社会の雛型たる「ディストピア」が念頭にある上に、ディストピアものの持つ独特の雰囲気が現実に侵食してくる感じを指して「好き」と云っているのですね。

 こういう感覚を支えているのは、「すべてのものを笑い飛ばそう」とする姿勢です。実は、小説における内容のセンスっていうのは、こういう姿勢に裏打ちされているものである場合が猛烈に多いのです。

 人間、よく分からないものとか理解の及ばないものをなんとなく遠ざけてしまいがちな生き物です。でも、よくよく見てみればそれはそれで面白いものであるということに気づくこともありましょう。そういう、「あれもこれも本当は面白いものなんだよ」という視点。これが小説におけるセンスの正体だと思っています。

 ちなみに、逆に、「すべてのものを疑う/嫌う」というのもセンスの正体なりえます。

 みんなが素晴らしいと認めているような価値に疑問を差し挟み、ときには「嫌いだ」とか「不快だ」と言い放つ。これもまた、小説に独特の視点を生むセンスなりえます。

 いずれにしても、「極端であること」というのが、実は小説における「センス」の正体だったりします。

 小説というのは、現実の社会の出来事をある意味でデフォルメする作業でもあります。なので、現実よりも物事が極端であり、読者さんもまた極端を望んでいます。

 また、読者さんは「こういう物事の見方をするの!?」という驚きを求めて小説を読んでいます。普通の感覚では「ふーん」で終わってしまうのですね。なので、他の人よりもシャープでヘンテコな視点を求められています。

 なお、天然でこういう視点を持っている人はいますが、そういう人はえてして「変人」とか「思い込みが激しい」とか「狷介」などと後ろ指を指される人々であります。こういう人々は、世間の皆さんとはちょっと違う視点を持つがゆえに周りからそういう評価を受けるわけです。つまり、裏を返せば、この社会でそういう扱いを受けている人たちというのは、小説を書くセンスを持っているというわけです。


 というわけです……。

 ってあれ、いつのまにか小説の話になってる!

 え、バーデンの才能? そんなもの簡単ですよ。カクテルレシピの分量を守るという慎重さ、それに寡黙さです。

 お前には両方ともないじゃないかって?

 うるさい! わたしだって自分で言っていてそう思いましたよ、ちくしょう!

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