表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/47

38、「そろそろ生え変わり時期じゃない?」

 うーむ、最近、髪の毛が薄くなってきちゃったんだよなあ……(と手鏡を見ながら)。

 って、あ、お客様、どうもこんにちは、いらっしゃったんですか! もう、いるならいるって言ってくださればいいのに。開店からずっと居られましたね、失礼いたしました。

 ええ、そうなんですよ。ここのところ、色々と追いつめられる機会が増えましてね。髪の毛が抜けちゃって抜けちゃって。まあ、もともと薄毛ですしね、この際どうでもいいんですけど。――いやウソです。ですので、そのバリカンをしまってください。え、なになに、いっそのことスキンヘッドにしちまえ、ですって? 断固御免です。

 おおっと、お客様が入ってきたぞ! はいいらっしゃいませー。

 おやお客さん、あなたは小説ハウツー本評論家のフジイさんではありませんか。……ああ、この方、小説家志望なんですけどね、あまりに小説ハウツー本を読みすぎて、日本で唯一の「小説ハウツー本評論家」って名乗ってる方なんです。その筋では有名な方ですよ。でも、元気ないですねえ、どうしたんですか?

 え、「小説ハウツー本を基に小説を書いているが、いまだに賞を取れない」ですって?

 うーむ。ハイ分かりました。では、ちょいとわたしの考えをお聞きください。

 では、いつものお約束。はい、ハイピリーニャです。これ、「田舎者」って意味があるんですけど、他意はないです。じゃあどういう意味なんだ、って? その辺はスルーしてくださいよ、もう。


 小説のハウツー本っていうのは、本当に佃煮にするほど出回っております。

 プロの小説家さんからですらそれこそ山のように出ておりますし、このネットの海を探せばそれこそ山のように小説ハウツーものは出回っています。かく言うこのエッセイだって、そんな供給過多気味な小説ハウツーものの末席を汚す駄作なわけですね、はい。

 でも、これからわたしが述べることは、他のハウツー本では絶対に語られないことです。いやあ、お客さんは運がいい! 無料で誰も言わないことが聞けるんですから。

 よろしいですか。

 では……。

「小説ハウツーエッセイの内容は、いつか捨ててください!」

 ふう、すっきりした。

 いえね、小説家志望の方の中には勉強好きでハウツーエッセイを読みまくっている人って結構いらっしゃるんですよ。それこそ、「○○って方はこんなことを書いていた」とか、「××さんはこう書いていた」とか、文豪さんの格言を引いている人とか。

 まあ、それはそれでいいんですけどね。

 でもねー。そういう人は、頭の隅にいつも置いておいてほしいんですよ。小説ハウツー本っていうのは教科書ではなくて、あくまで作者の書いたエッセイなんだってことを。

 そもそもですね、小説を書くという営みに正解なんてありません。なんでかと言えば、「小説」というメディアが課せられている「目的」からして、実は作者によってばらばらだからです。ある人は「読者様を教化したい」と考え、ある人は「読者様の暇つぶしになればいい」という気持ちで書いていることでしょう。ある人は「テーマを見せたい」と願い、またある人は「雰囲気を届けたい」と思っているかもしれません。と、このように、小説というものが課せられている使命すらも、実はその作者次第なところがあります。極端な話、「金儲けをするのが目的」と割り切った上で出版社様から賞をもらって小説として体をなしていないものを百万部売るのだって一小説家としてアリな行動です(別に実在する誰かへのあてつけじゃないよ、念の為)。

 なので、小説の書き方なんていうものは、星の数ほどあると考えたほうがいいのです。

 もちろん、小説のハウツーの中には、いろんな方がその有用性を認めて「ほぼ定理」になっているようなハウツーネタもありますよ。でもですね、小説の面白いところっていうのは、そういう「ほぼ定理」すらも、ある特定の状況下だったり前振り次第ではひっくり返すことができる、って話を以前もさせていただいた記憶があります。

 結局ですね、筆者が言いたいのは、教条主義・粉本主義に陥らないでくださいね、というところなのです。

 小説という文芸が日本に根付いて早百年。日本国内だけでも相当の広がりと拡散、拡散した先での深化があったのは文芸史を紐解いていただければお判りになることかと思いますが、それでもまだ小説の世界にはまだ我々の見ぬフロンティアがあります。た、たぶん。……まあとにかくですね、そのフロンティアを探すためには、ハウツー本にいつまでもしがみついていてはいけないのですよ。ハウツー本を後生大事にしてしまうと、フロンティアを見つけることなど叶わず、永遠に既存の枠の中でうろうろする作者になってしまいます。

 守破離、って言葉、あるでしょう? いつか、フォーマットからは脱却しなくちゃならない。ハウツー本っていうのは、いつか捨てなくてはならないものなのですよ。


 お判りでしょうかフジイさん。守破離の精神ですよ。え、断捨離じゃないですよ、守破離。まあ、ハウツー本の内容を墨守しているうちはまだまだひよっこ、もう20作も書いてきた人はそろそろ雛の頃の毛を抜いちゃって、大人の毛に生え変わる時期なんじゃないかなー、とか。

 あれ、ってか、なんでフジイさん、手にバリカンを持っているんですか。

 え、「お前の毛も生え変わりを促進させるためにバリカンじゃい」ですって。

 ちょっと待ってくださいお客さん。髪の毛は長い友達っていうでしょう! そういうのはやめましょう。あ、ちょっとフジイさん、いい加減にしないと怒りますよ。あ、ちょっと。マジで? え、ええええええ! 待て、待ってください、警察呼びますよこんちくしょう!

 あ、あ、あ、あああああああ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ