34、速筆・遅筆大激論
いやー、このバーに来るのも随分久しぶりな気がしますHAHAHA(舞台裏より:表の仕事がようやく終わり、久しぶりにこのエッセイに着手しています)。カクテルの作り方なんてすっかり忘れている今日この頃ですが、がんばりましょうか!
さてさて、今日もバーは盛況ですね、何より何より。
おや、なんだか悩んでらっしゃるお客様。こんにちは、どうしたんですか?
え? 「創作仲間に『筆が早い奴は文章が荒いから、お前みたいな筆の早い奴はダメだ』って馬鹿にされた」ですって? ああ、いらっしゃいますよね、そういう人。まあ、そんな雑音、気にしなくていいと思うんですけどね。
そんなお客様には、ハイ。キッス・イン・ザ・ダークです。
これを飲みながら、わたしの考えを聞いてくださいませ。
実はわたし、結構な速筆です。このエッセイだってそうで、一ブロックあたり構想五秒執筆一時間の代物です。文章を書いていくときにそんなに悩むことってありません。
と、そういう速筆な作者っていうのは、いわれなき批判にさらされがちな対象であります。曰く、「速筆な奴は文章を練っていないから面白い小説にならない」とか。わたしもよくそんなことを言われましたよHAHAHA。
まあ、そんなご意見は放っておけばいいだけのことなんですが、今回はそのご意見に反論しておきましょう。
そもそも、筆が速い/遅いのと文章力には何の関係もありません。
たとえば、このミステリーがすごい!大賞作「チームバチスタの栄光」などで知られる海堂尊さんは本業(医者)の傍ら推理小説を書いていらっしゃいますが、この方はたまった有給を二週間ほどまとめて取って、その間に長編を一本書き終えてしまうそうです。つまり14日で20万文字以上書いているということですね。一日で割ると……。おやおや、とんでもないことになっちゃいますね。でも、この方のことを「ヘタクソ!」と指弾する人は全然見ません。お判りでしょうか。筆が速かろうが遅かろうが、文章力が高い人は高いんです。
でも、こういうことを書くと、こう返してくる方がいらっしゃるのではないでしょうか。「それは海堂先生が特殊な例であって、アマチュアの小説家がそれを気取るのは間違いだ」と。
そんなことはない、というのがわたしの意見です。
周りを見渡してください。あなたの周りには色んな人がいますよね。そんな皆さんと会話してみてください。そうすると、早口の人もいればのんびりとした喋り方の人もいますね。また、論理的にしゃべることができる人もいる反面、冗長なことをだらだら喋っている人もいます。それは個性ってやつです。
小説と言葉というのは(書き言葉と話し言葉という差異はあるにせよ)結局はあなたの精神のありようを形にしてアウトプットする行為です。その速度や論理性の強弱というのは本人の個性が多分に影響します。なので、恐ろしく筆が速い小説家、なんていうのは十分あり得ることですし、逆だってあり得ることだと思っています。そして、どっちがいい悪いではなくて、それは個性に帰する性質のものなのではないでしょうかねえ。
ただ、筆が速い、っていうのは、プロになった時にすごく有利に働く個性だと思っています。
プロになればもちろんある程度の執筆力(分量的な意味で)が求められます。たとえば、一日に一万文字書かないと締め切りに間に合わない! という場合、一時間に二千文字を書くことのできる作者なら五時間で書けるのに対し、一時間に五百文字しか書けなかったら二十時間かかってしまう計算です。筆が速ければ速いほど、自分の時間を確保できるという寸法です。
あら、いいことばっかりじゃない? 速筆って。
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さて、ここからは恨み節全開の主張になります。
速筆はダメだ、と言っている方々(モノカキの方)に限って、遅筆な気がするのはわたしだけでしょうか。
いえいえ、あくまで印象論です。
でも、速筆のわたしからすると、速筆っていいことづくめなんですよ。早く小説が仕上がるということは推敲に早く移ることができるということでもあります。なので、「文章が荒れている」なんていう批判もかわすことができます。また、小説を書くという行為は、どうしても大量のインプットを必要とするので、本や映画などを見る時間も欲しいところです。以上のことを考えると、やっぱり速筆のほうが有利じゃねえか、という気がしてなりません。
思うに、やっかみなんじゃないかなあ、と。
筆者は正直、遅筆の方の気持ちはよくわかりません。ただ、遅筆の作者さんがうんうんと悩んでいる横で、さも簡単なことであるかのようにして小説を量産している作者が駆け抜けていたとしたら、たしかにムカつくんじゃないかなとは思います。
でも、他人のスタイルを非難する暇があったら新しい小説書けよ、と思ってしまうのは多分わたしの人間ができていないからでしょう。
いろいろと毒を吐いちゃってる気もしますけど、結局は速筆だろうが遅筆だろうが、お客さん(読者)を満足させることができればそれでいいわけです。筆が速い/遅いなんていう議論は、所詮は『書く小説が面白い上で』という前提条件が付いています。筆が速かろうが遅かろうが、面白い小説が勝つ。そういうことです。
というわけです、お客様。
あれ、お客様、なんか憂鬱な顔をしておられますね、どうしました!?
え? 「お前の言葉にむしろ凹んだ」ですって!?
なんかすいません! 今日に限ってとんでもない毒吐きになってしまいました!
(なお、この文章は構想五秒執筆35分でお送りいたしております。毒を吐くとすごく筆のノリがいいですね!)




