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28、「指摘し合って伸びる」という大ウソ

 さて、今日も出来たぞ新しいカクテル、名付けて『丸屋スペシャル』! いやあ、この限りなく透明に近いカラー、そしてこの芳醇な香り、これぞまさにカクテル! しかし安心したまえ、しっかりレシピは取ってあるぞい。

 ふっふっふ、なんだかわたし、小説家なんかより、バーテンダーの方が才能あるんじゃないですか。

 あいや、ちょっと待て。これこそが小説家になることを諦めちゃう人のパターンだぞ! ――変な話ですが、小説以外に取り柄がある人っていうのは、小説にしがみつかなくても人生を開けちゃう人なので、よっぽど強い気持ちがないと途中で夢を諦めちゃうんだ、って言ってましたよ。え、誰が? ですって? ああ、知り合いのライターさんです。

 おや、そこに居らっしゃるのは長年創作サイトにいて勉強しているスギウチさんではないですか。なんだかやけに沈み込んでますねえ。

 え? 最近仲間から褒められてばっかりだ、もっと切磋琢磨したいのに、って?

 なんだか嫌味な話ですねえ。

 はいはい、判りました。そんなあなたには、ちょっと厳しい現実と、この丸屋スペシャルを差し上げましょう。


 切磋琢磨。日本人の大好きな言葉ベストテンには入ってそうな言葉ですね。

 いや、かく言うわたしも大好きな言葉です。むしろ人生とはこの切磋琢磨によって彩られるものだと信じて憚りません。やっぱり、人間ってえのは一人で頑張るものではありません。ライバルがいて、そのライバルと火花を散らし合って高みを目指す。いやあ青春ですねえ。

 でもですね、この切磋琢磨、っていう言葉が厄介ですよね。

 例えば、ライバルと競い合っているのは柔道だったらどうでしょう。きっとあなたは新しい技を研究したり、あるいはひたすら組み手をして勝とうとすることでしょう。陸上だったら、相手のタイムを見てその記録を越えようとするでしょう。テニスだったら? え、とてもテニスとは思えない必殺技を練る? 本気で打つと腕が折れるショットを研究する? ああはいそうですか。

 まあとにかくですね、スポーツなんかでの切磋琢磨の場合、相手が記録やすぐに目に見える実力を持っていて、それを越えることが切磋琢磨の中身になるんです。

 しかし、翻って小説の場合は?

 まず、小説家の実力っていうものは、明確に数値化できるものでもありませんし、対人スポーツのように白黒勝ち負けがはっきりするわけではありません。そもそも、小説の世界にあっては、「どっちが上手い」「どっちが下手」という基準があいまいなのですね。

 そして、さらに小説の最終目的は、他の小説家さんを打ち負かすことでないことも押さえておかなくてはなりません。小説の最終目的。お客さん(読者)の顧客満足ですよね。となりますと、そもそも他作者と切磋琢磨する、ということがだいぶバカバカしい話だということになっちゃいます。

 でもですね、こういうことを書くと、きっとこういう反論をしたくなる人がいると思うんですよ。「小説家同士で意見交換をすることで高みを目指せるじゃないか。これが切磋琢磨だろ」と。

 ええ、それは否定しません。実際、わたしもよく仲間とこの手の意見交換をやっています。それに周りを見れば、お互いの作品を書いて感想の応酬をしている作者さんもけっこういます。

 もちろん、こういう活動のすべてを否定するわけじゃありませんし有益でしょう。でも、注意しなくてはならないのは、この応酬だけでは腕を磨くことは出来ないということです。

 どういうことか。

 もちろんわたしもWEBの片隅で活動している作者なのでWEBの雰囲気を知っています。なので言えることですが、他の作者さんが指摘してくれるところというのは、きわめて断片的な個所にとどまります。

 たとえば、「てにをは」の使い方。たとえば、誤字脱字。たとえば、構文の使い方。そういったところです。しかし、作品に漂う雰囲気の良しあし、とか、作品に通底するモチーフ、とか、この作品のテーマ、といったようなところはきわめてツッコミしにくい個所です。なぜなら、わたしがツッコみにくいと指摘したものたちというのは、きわめて曖昧模糊としていて正解のないものだからです。なので、こういったところは自分で自分の正解を見つけるしかないところです。

 他作者と切磋し合っていて、それがすべてだと思っていると、小説において一番大事なはずのものたちが小説から抜け落ちてしまうのです。

 そして、です。そもそもですね、小説っていうものの最終目的は、他の作者さん(プロアマ問わず)が誰一人として持ち得ない「あなただけの世界」を提示するところにあるのです。つまるところ、小説について一番大事なところは常に自分で考えなくてはなりません。小説を書くという作業は、どんなに取り繕っても所詮は孤独な作業なのです。


 というわけです。

 褒められているっていうのは、案外誤字脱字がないとか、構文が綺麗だとか、そういうレベルじゃないんですか。

 きっと、そんなあなたはそろそろ小説の中身について真剣に考えるとよろしいかなと思いますよ。

 え? 「丸屋スペシャルとやらがとんでもなくまずかった」ですって?

 あいや、本当ですか。それは申し訳ない。

 「お前の舌は大丈夫か、そんな舌でバーテンダーなんて出来るのか?」ですって?

 おお、かなり核心を突かれましたね。

 よし、続きは次回だ!


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