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26、深みのある小説とは

 ふむ、今日は寒いですねえ。おかげでお客様の足がないですねえ。

 え、お前のせいなんじゃないかですって? いくら天の声だからって、言っていいことと悪いことがあるんですよ。いや、確かにわたしの歯に衣着せない物言いが客足を遠のかせているという面もありますが……。っていうか、わたし、はたから見る以上に性格が悪いのですよ、キッシッシ。

 おやおや、今日も独り言が順調ですなあ。

 おっと、お客様ですね、いらっしゃいませー。あ、はいはい、ラストキッスですね。あ、ときにお客様、ベースのラムは何を使います? ラストキッスってラムの種類によって味わいが深く変わっちゃうんで。ああ、ライトラム系のバカルディですね、了解しました。

 で、今日はどうしたんですか、なんだかやけに浮かない顔してますが。

 ふむ、「深みのある小説の書き方が分からない」と。

 いやあ、難問ですねえ。では、ご説明しましょう。まあ、ぶっちゃけた話、深みのある小説を作るためには、ある意味でラストキッスとは真逆のことをすればいいだけのことです。


 囲碁とか将棋の概念に、「厚み」というものがあります。

 これ、かなり抽象的で言う人によって概念が違う言葉らしいので、門外漢であるわたしが物知り顔で使うのはまずいかなと思うのですが、この言葉と、小説界隈における「深み」っていうのがすごく似ているような気がしたので紹介させて頂きます。

 この「厚み」というのは、元は碁の言葉らしいです。

 碁っていうのは(あんまりわたしも詳しくないので細かいツッコミは止めてくださいね)石で囲んだ領地の多寡を競うゲームなわけですが、そこに至るまでに、石で陣形を構築します。その際に、相手の手を出しづらくするために、石同士、お互いがお互いを守るような仕組みを作ります。これ、将棋なんかだと分かりやすいですよね。たとえば、この香車を飛車で取ってしまうと、その飛車が桂馬で取られてしまうので手が出せない、みたいな。碁でもこういうことが起こっているらしいんですね。で、そうやって作られた石の配置が強固にお互いを結びつけて手を出しづらくさせている状態を「厚い」と称するようです。(ちなみに将棋の世界で「厚い」というと、王将の周りに駒が集まっている様を表すこともあるのでご注意ください。)

 つまり、碁における厚みとは、(乱暴に解釈するなら)「石一つがいくつもの役割を負って置かれている状態が陣形全体で連鎖している」と言えましょう。

 思うに、小説における「深み」というのも、これに似ているんじゃないかなと。

 小説における石はトピックスや伏線。そして、陣形を小説そのものだとします。そして、それぞれの言葉をさっきの言葉に代入していきましょう。

「トピックスや伏線一つがいくつもの役割を負って置かれている状態が小説全体で連鎖している」

 ね? なんとなくそれっぽいでしょ?

 たとえば、あるキャラがある台詞を喋っているとするじゃないですか。それがAという場面でも作用して、Bという場面でも別の意味で作用する、というのがありますが、あれも「深み」を作り上げる要素の一つなのかな、と思うのです。

 あと、小説全体に漂っている世界観が、やがて主人公たちの選択に影響を与えたり、はたまたその同じ世界観が敵方にまで深い影響を与えたり……というのも「深み」の要素の一つになるでしょう。

 はたまた、表面的に小説を追っても面白いのに、実はその底流にもう一つモチーフがあって、最終場面でその二者が混じり合って独特の読後感を演出する……、これも「深み」の一要素です。

 もしかするとお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、以前話に出た「メタフィクション」というのも、フィクションとノンフィクションという二つの世界を暗示、あるいは明示することによって小説全体に「厚み」を持たせようという試みです。

 しかしですね、これら一つ一つが思い付きでポンポン出ているだけでは「深み」は出ません。これらのトピックスや伏線たちが他のトピックスと強固に結びつきあって一個の大きな構造体となることこそが、「深み」と呼ばれるものの全体像です。

 で、ここで注意して頂きたいのが「ああ、これ、プロット的な面でのお話なんだな」という誤解です。

 この「深み」というのはキャラクター造形や心理表現、情景描写にまでかかってくるきわめて広範な概念なのです。要は、小説内において存在するモノすべてが「深み」を構成する要素なのです。

 将棋の言葉に、「遊び」というものがあります。「厚み」から外れてしまった駒のことを指すんですが、きっと、「深み」のある小説を作るためには、きっと小説の中にある「遊び」をなんとか「厚み」の側に加えてやるという作業が必要なんじゃないかなー、と今は考えています。


 というわけですお客様。

 え、「お前の話はつまらん!」ですって?

 ええと、つまらないのはごもっともです、はい。

 「ってか、お前の話そのものが遊びばっかりで全然厚みがねえじゃねえか」ですって?

 ええ分かってますよ、だから筆者は底辺なんですよ! ちくせう!


ちなみに最近では、「遊び」もそれはそれでいいものだ、という結論に至りつつあります(中の人談)。

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