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25、テーマなんてなくてもいい

 なんか前回、かなり恐ろしいことをさらっと言ってしまった気がしてます……。そもそも、この場所自体がある意味説教部屋みたいなものなのに、そこで説教するなっていうのもなんだか自家中毒気味というかなんというか。ええ分かってます。こういう時にはキメ台詞、「人間ってェのは矛盾してるもんなんだよお嬢さん」。き、決まった。

 とまあ、一人遊びに浸っているのも何なので、早速お客様を捕まえるとしますか。

 ああお客様ー。そうですよー。二人席に一人で座ってらっしゃるそこのあなたです。あれ、お客様、もしかして、モノカキさんではあられませんね。どうして分かった、って? そりゃそうですよ。モノカキさんっていうのは独特のオーラをまとうものです。知ってます? モノカキオーラを鍛えまくると、オーラを竜の形にして相手を穿ったり、鎖型に具現化して相手の心臓に鋲を打ち込んだり出来るんですよ。何の話だって? ああいえなんでもありません。

 え、なんですって、さっきの会話を聞いていた、で、疑問がある、ですって?

 ふむふむ、「さっきの話、なんだかテーマの話のように見えたけど?」ですって?

 おお、勘がいいですねえお客様。なんだか嬉しくなっちゃったのでハイこれ、イエローパロットです。ちなみに、アブサンは別のものに変えていますので健康上の心配はありません。これはわたしからのおごりです。


 テーマ。

 この言葉ほど小説界隈で雑に使われているものはありません。きっと、よく聞く言葉であるために、なんとなく意味を把握している、という場合が多いのではないかなーと思うのですが如何。

 こういう話はあれこれと理屈を並べるよりも、実際に例を出した方が分かりやすいです。

 では設問です。

 『平家物語』のテーマはなんでしょう。

 夏目漱石の『こころ』のテーマはなんでしょう。

 はい、これ、中学から高校くらいの国語の授業を真面目に受けていた人ならすぐに思い出せるはずですが、きっとそんな人はいないと思いますので答えを言っちゃいますね(と、高校国語の資料集を見ながら)。一般に平家物語のテーマは【無常観】、こころのテーマは【近代という時代の閉塞感】だとされています。

 どうですか。テーマって、存外に漠然としてますよね。例えば、「人間とは~しなくちゃならない!」みたいな言葉はテーマになりにくいんですね。

 思うに、テーマっていうのは、重石なんです。

 物語を考える際、作者は登場人物たちに設問を出して選択を迫る場面がかならずあります。YES、NO。その他の結論。はたまた結論の先延ばし。実は、ここで物語はいくつかの分岐の可能性を孕んでいます。その際、選択肢を間違えると、お話としての首尾を欠いてしまう場合があるんです。そこで登場するのが「テーマ」というわけです。

 AとB、どちらがいいだろうか、そう悩んだ時に、「この小説は『笑い』がテーマなんだ!」という場合と、「あくまでシリアスに……」という場合とではその選択肢が変わりますよね。作者がテーマを意識するといい、と言われるのは、こういう選択する場面において間違ったルートを取らせないための措置なのです。

 つまり、裏を返せば、テーマなんてなくても小説は作ることが出来ます。

 例えば、あなたの思考回路をそのまま主人公に移植したような小説の場合だと、あなたのモノの考え方が小説の中に色濃く反映されます。なので、あなたが壊滅的に支離滅裂な人でない限り筋の通った思考回路やあなたの世界観が反映された小説が出来上がります。

 また、プロットを練りに練った場合も同様です。特に、ショッキングな展開が続くプロットが命の小説、推理小説などでは、特にテーマがなくとも面白い小説は面白いのです。なぜなら、推理小説の第一義的な面白さは作品の持つ批評性とか人間への透徹した視線とは少し離れたところにあるからです。

 そして、すごい人になってくると、テーマなんか練っていなくとも、読者さんの側が勝手にテーマを見つけ出してくれるなんてこともあります。

 これは色んなケースがあります。たとえば人間描写に優れていて、忠実に人間を描き出しているうちにテーマ性が浮かび上がってしまう場合。普段から作者さんが考えていることが無意識にお話の中に紛れ込んで来て、それがテーマとして浮かび上がってきた場合。はたまた、本当に偶然の産物としか言いようがないような場合すら。

 テーマっていうのは読者の側からは「繰り返し登場するモチーフや話のベクトル」のことを指すので、作者さんの言語センスなんかによっても、読者様が勝手にテーマを見つけてくれる場合も多いんです。

 今でも語り草ですが、第一次「新世紀エヴァンゲリオン」ブームの際のいわゆる「エヴァ論争」なんていうのも、読者の側による「この作品の意味するところとは何か?」というテーマ探しの様相を呈していました。たぶん、(作り手側から見れば)視聴率の関係による打ち切りに遭ったがために、意味深なところで終わっただけでしょうに。

 とにかく。

 テーマなんてなくとも小説は作れます。実はテーマなんてものは相対的なものです。「小説とはテーマを読者に伝えるものなんだ」とお思いの方は、少しテーマから離れて小説に向き合うと新しい発見があるのではないでしょうか。


 というわけなんですよー。なので、テーマっていうのはそんなに血眼になって考えるようなものでもないんですよねー。

 というより、テーマっていうのは、作り手が実際の生活の中で組み上げたパーソナリティに深く根ざしています。たまにパーソナリティに無関係に小説を書ける人もいますが、そういう人はかなり珍しい一群に入ります。普段、それなりに何かを考えて生きている人なら、きっとテーマなんて深く考えなくても上手くキマるんですよ。


追記

ちなみにわたしは「テーマはなくても小説は創れる」と言っているだけで、「テーマを練るなんてナンセンス!」とは言っておりませんのでご注意。

テーマがなくとも創作物を作ることのできる人は存在しますし、逆にテーマがなければ小説を書けない、という人もいます。ただ、テーマっていうのも相対的なもので、必須のものではないんだよ、というのがわたしの今現在の結論です。

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