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【書籍化12/1発売 コミカライズ決定】3度目の人生は、忘れ去られていた王女様でした(旧:3度目の転生は、忘れ去られていた王女様でした)  作者:


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【書籍化記念SS】私の黒歴史

これはまだ、この世界が一度目の人生と同じだと気付く前のこと。

またどこか知らない世界で三度目の人生を送ると思っていた私の、黒歴史である。



漫画や小説世界における『モブ』とは、物語の主軸に関わらない脇役や背景キャラのことだろう。

例えば街の通行人、どこぞの貴族の使用人、もしくは名もない村人など。主人公、ヒロインやヒーロー、当て馬や悪役など、何かしらの役割を持つ者達の引き立て役にもならない存在。

でも稀に、そんな『モブ』が実は主人公であったという奇跡が起こることもある。

隠されていた能力が発覚し、勇者または救世主となって国を救う村人という王道や、自身で気付かずに怪我人を治し、聖女と称えられる貧しい家の娘など。

でもそんなものは一部の『選ばれしモブ』にだけ起こることで、『ただのモブ』は至極平凡な人生を歩んでいく。

けれど、その平凡な人生を生きていくにも、ある程度のお金や貯蓄が必要になる。

贅沢などせずに質素に暮らしていても、食材に日用雑貨、家や家具などの修繕にお金はかかり、貯蓄など微々たるものしか出来ない。


でも、私は三度の人生を与えられた『もしかしたら選ばれしモブ』かもしれない。


だったら一攫千金を狙うしかなく、頭上に手を掲げて大きく息を吸い込み――。


「ステータス、オープン!」


と声を張り上げた……が、期待していた半透明な画面は現れず、分かっていたと頷く。

S級冒険者となってお金を沢山稼ぐ計画は水の泡となった。

でもここで諦めるにはまだ早く、では……と次に移る。


「すー、はー……」


ゆっくりと息を吸って吐き出し、お腹とか指先に意識を向ける。

初めて魔法を使うときはそういった描写があるので、魔力があればきっと、こう、ほわっと温かくなる筈で……。


「微かに、温かく?」


なるわけもなく、ぐーっと鳴ったお腹と冷たい指先に眉を顰める。

森の中で隠居する大魔法使いとなってポーションなどで荒稼ぎする道も閉ざされたので、次だ。


「精霊とか妖精とか、そういったものが見えて話が出来る可能性も」


新鮮な木の実や果物、万能の草などがある場所を教えてもらい、それを売ることが出来れば。

目をガッと見開き、きょろきょろと森の中を見回すが、声が聞こえたり光っていたりと特別な何かはなく、ただの森。


「妖精さん。精霊さん。いませんか?」


そっと呼びかけるも反応はなく、そよそよと生温い風が頬を撫でるだけ。


「……うん、次」


あとは何があっただろうか……と、地面に座って「んー」と唸っていれば、ガサッ!と茂みが揺れ歓喜する。


「妖精さん!?」

「……は?」

「何だ、エドか」


私の煩悩……ではなく切なる呼びかけに応えて妖精さんが出てきてくれたのかと思えば、ただのエドだった。


「何だって、何だよ。お前が森に入って戻って来ないって、ばーちゃん達が心配してたから様子を見にきてやったんだぞ」

「あれ、そんなに時間が経ってた?」

「もうすぐ暗くなるぞ。んで、ここで何をしてたんだ?」


何もない森の中で一人で何を?と不思議そうな顔をするエドにふっと口角を上げ、「内緒だよ?」と口止めをする。


「私の秘めたる才能を探ろうと、こうして人気がなく自然を感じられる場所で」

「よし、帰るか」

「え」

「腹が空いておかしなことを言っているんだな。ほら、帰るぞ」

「え、お腹は、空いているけど、そうじゃなくて」

「俺も腹が減るとおかしなことを口走るからなあ」

「だから、違うんだってば。平凡だけど幸せな人生を過ごすには、まず先立つものが必要で、だからその必要なものを得る為にこうして」

「何の勧誘に騙されたんだ……?ほら、焼き菓子でも食って落ち着け」


半分に割った焼き菓子を口に放り込まれ、もぐもぐと口を動かし飲み込む。


「美味しい」

「だろ?お袋が今朝焼いたやつ。もうひとついるか?」

「うん」


焼き菓子に意識を乗っ取られていた私は、エドの「才能ねぇ……」という呟きにハッとした。


「そう、才能だよ」

「他より秀でているものだろ?それなら、身体能力は高いほうだし、読み、書き、計算も出来る。剣も扱えるけど」

「誰が?」

「俺が」


田舎の平民にしては能力が高いぞと驚いていると、エドが「それにこの容姿だろ」と自身の顔を指差してニッと笑う。

確かに『モブ』にしておくには勿体ない容姿ではある。


「ステータス、オープン!って言ってみて」

「え?」

「だから、ステータス……ほら、続けて!」

「ス、ステータス」

「オープン!」

「……オープン」

「どう?」

「何が?」

「違ったか」

「え、だから何が?」


もしやエドこそが勇者なのでは?と思ったけれど、どうやら違うらしい。


「エドが勇者でも、私には何の恩恵もないしね」

「恩恵?」

「うん。効率よくお金を稼ぐ方法について考えていたんだけど」

「……お前、本当に四歳か?」

「四歳だよ」


何やらぶつぶつと言っているエドを放置し、暗くなる前に我が家に帰ることにした。

この世界に勇者や救世主など必要なく、魔法や妖精、精霊などは夢物語らしい。


「だったらこのままモブとして平凡に生きていけるはず」


そう安心していたのに――。

あろうことか因縁ある相手が暮らす国の『モブ』だったと知るのは、この数ヵ月後であった。




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