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【書籍化12/1発売 コミカライズ決定】3度目の人生は、忘れ去られていた王女様でした(旧:3度目の転生は、忘れ去られていた王女様でした)  作者:


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26/63

真っ黒です


「では食事にいたしましょうか」

「はいっ!」


身支度を整えてリタさんと隣室に移動すると、そこには昨夜なかったローテーブル、ソファー、窓側に二人用の猫脚のダイニングテーブルと椅子が増えていた。

しかもそれらは全て可愛らしいデザインのアンティーク調の家具。

どう考えてもこの部屋の主には似合わない。


「こちらへどうぞ。何がお好きか分からず色々な物を作らせました」


昼食はダイニングテーブルの方に用意されていて、リタさんに促され椅子に座り、目の前にある料理に目を輝かせた。


「美味しそう」


本日の昼食は何と、お子様ランチのような見た目をしている。

ワンプレートに、とろふわオムレツ、トマトのパスタ、ブロッコリーにミニトマト、一口サイズのキッシュ、カップに入ったプリンが盛り付けられ、別皿には色々な種類のミニパンが数個ずつ。飲み物はグラスにオレンジやリンゴが飾られたオレンジジュース。


初めて体験するお子様仕様のプレートに感動するも、自身の今着ている真っ白な服と小花が刺繍された白いテーブルクロスを見て、どちらも汚さずに食べなければと気合を入れフォークを手に取った。


「そろそろ侍女を呼んでもよろしいでしょうか?」

「あ、はい」


夢中で食事をしていたからか残すはデザートだけになり、プリンをスプーンですくい口に入れ、美味しさに身震いしていたらリタさんから声が掛かった。

そういえば侍女は他にもいるとリタさんが言っていたことを思い出し、二口くらいしかないプリンを食べきる。


「入ってきなさい」


予め開かれていた扉から入って来たのは二人の侍女。

どちらもベテランといった感じで、仕事の出来そうな人達である。


「リスティア様に自己紹介を」

「統括宮で王族付きの侍女をしております。ジーナ・アマートと申します」

「同じく、統括宮で王族付きの侍女をしております。イルダ・ザーニと申します」


声が柔らかくおっとりしていそうな可愛らしい女性がジーナさんで、凛とした雰囲気を持つ背の高い美人な女性がイルダさん。

挨拶をしてくれた二人にコクリと頷き、あれ?と二人の横に立つリタさんを見る。


「あのアマートって、確かリタさんも同じ家名だったような」

「ええ、そうですよ。ジーナは私の娘で、イルダは私の妹の娘です」


どちらもリタさんの親類だったとは思わず口を開け驚くと、リタさんがふふっと笑う。

しかもジーナさんの夫は国王直属常備軍の騎士様で、イルダさんの夫は外務省に勤めていると言うのだから凄い……。


「リスティア様の侍女には私が信頼できる者をと、この二人を選ばせていただきました。ローガットからは身内贔屓ではと言われましたが、そもそもリスティア様に害をなさず、忠実な者でなくてはなりません。それでしたら私かこの二人以外にはおりませんので」

「ローガットさんは国王陛下の執事ですよね?あとで怒られませんか?」

「ふふ、大丈夫ですよ。あれは私の夫ですから」

「……夫」


もう何か驚かなくなってきた。

よく分からないけれど、たった一月しか滞在しない私の為に、とんでもない人達が集まってしまった気がする。


「リタさん達は私の侍女になっても大丈夫なんですか……?」


国王と血の繋がりがあるとはいえ、今の私は王族籍に入っていない平民の子供。

イシュラ王が周囲にどのように説明しているのか知らないけど、いきなり現れた国王の娘という存在を不審に思わない者はいない。

私がいなくなったあともこの人達は王宮で働き続けるのだから、王妃様に睨まれることは避けるべきだ。


「どうしてそのように思われたのですか?」

「王妃様を怒らせることになるかもしれません」

「それがご心配だったのですね」

「……」

「リスティア様。この王宮で働く者達は皆、国王陛下ただ一人にお仕えしている者達です。それは王妃様や王子殿下方も例外ではなく、皆が国王陛下の意向に従わなくてはなりません。私達がリスティア様の侍女となったのは、国王陛下から命を受けてのこと。それなのに王妃様からお叱りを受ける謂れはございませんよね」

「でも」

「ご心配なく。この王宮で私が何年暮らしてきたとお思いですか?人脈やずる賢さなら負けませんよ。勿論この子達も」


リタさんの言葉にジーナさんとイルダさんが力強く頷けば、リタさんは尚も言葉を続ける。


「それにこの統括宮に出入り出来る者は限られているので、リスティア様が私達では嫌だと仰られても交代が代わりの者がいるかどうか……」

「嫌ではないです!」


そんなわけはないと慌てて首をぶんぶんと左右に振り、またもやあれ?と首を傾げた。


「誰でも出入り出来るわけではないんですか?」

「はい。王宮内で働いていたとしても、制限されております」

「国王陛下が居る場所だから?」

「それもありますが……そうですね、先ずはこの統括宮の説明からいたしましょうか」


椅子からソファーに移動し、ジーナさんが淹れてくれた温かい紅茶を飲みながら、今私がいる統括宮内の説明が始まった。


王宮内が三つの区画に分かれているように、統括宮内も二つの区画に分かれている。

一つ目は、国王陛下の執務室、私室、書斎、謁見室、次期王候補の執務室、私室といった国王陛下が主に活動する区画。

二つ目は、大広間、広間、会議室、客室、王族用ダイニングルームといったものから、食堂、侍従、侍女室、服飾室、洋裁室、洗濯室といった幅広い区画。


この二つは扉ではなく通路を挟んで明確に分けられているが、どちらも統括宮という括りなので、人の立ち入りはリオルガと一緒に通ったあの大きな扉から制限されているらしい。


「王子宮や後宮の侍従や侍女達であっても、統括宮にはそう簡単に入ることは出来ません」

「王子付きや王妃様付きの侍女であってもですか?」

「はい。事前に許可が必要になります」


統括宮に入る扉の前で王妃様付きの侍女達が待っていたのを思い出し、だからあのとき扉から入って追い掛けて来なかったのかと納得する。


「許可がなくても何か例外があれば侍女は入れるのですか?」

「例外ですか?」

「晩餐に向かうときに、王妃様付きの侍女達が扉の前で待ち構えていたんです。私と一緒にいたリオルガに交代するよう言っていたので」

「それは規律違反ですので、処罰対象となります。あとで後宮の侍女頭とお話しておきますね」


そう言って微笑んだリタさんの目は、獲物を狙う肉食獣のようになっていた。

思いがけず告げ口のようになってしまったけど、規律違反だというなら甘んじて罰を受けてもらおう。


「それなら王子殿下と王妃様はお一人で統括宮内を歩くのですか?」

「いいえ。統括宮の侍女達がお側に付くことになっております。それと王位継承権を持つ王子、王女殿下方は、出入りを制限されておりません」

「王妃様は?」

「昨夜のような晩餐、公式行事、公務がありますので、二つ目の区画まではお入りになることが出来ます」


イシュラ王が言っていた、統括宮は王妃様であっても手が出せないというのは、権限がないこともさることながら、この中では監視を付けられ行動が制限されるからということなのだろう。


「以前はここまで厳しくはなかったのですよ」

「厳しくなった理由があるということですよね?」

「そうです。先程リスティア様は国王陛下が居られる場所だからかとお尋ねになりましたが、直接的な原因は統括宮で後宮の侍女が起こした騒ぎです」

「侍女が……?」

「ジュリア様が統括宮で過ごされていたときはまだ、王妃様は勿論、侍従や侍女の制限もされておりません。その為、ジュリア様のお部屋に後宮の侍女数名が入り込み、刃物を振り回しジュリア様に襲い掛かるという騒ぎが起こってしまいました。その侍女達はその場にいた騎士が取り押さえましたが自害され首謀者は分からないまま、その件は箝口令が敷かれました」

「母は無事だったんですか?」

「傷一つありませんでしたよ。ですがジュリア様は激しく動揺されて、暫くはお部屋から出られませんでしたが」

「後宮の侍女ということは、首謀者は王妃様ですか?」

「どうでしょう……陛下がお調べになっていましたが、それでも首謀者は不明なままでしたから。後日陛下は、ジュリア様が怪我をして床に伏しているといった噂を流させ、その一月後には怪我がもとでお亡くなりになったことにし秘密裏に葬儀まで行わせました。ですから王妃様は、ジュリア様がお亡くなりなったと信じておられたかと」


そんな重い経緯があったとは思わなかった。

だってイシュラ王は母から「捨てられた」と軽い感じで言っていたし……!

国王の子を身籠った側室がそう簡単に離縁出来るわけがなく、そんな母を王妃様や侯爵家が見逃す筈もない。だから噂を流し葬儀まで行ったと……完璧な隠蔽工作である。

でももしかしたら侯爵家が首謀者で、王妃様は関与していなかったという可能性だってある。だって証拠はなく、イシュラ王の憶測なのだろうし。


「王妃様ではなく侯爵家か、侍女が勝手にしたことだった可能性は」

「それはないかと。王妃様が陛下に、ジュリア様は本当にお亡くなりになったのかとお尋ねになったことがあるのですが、そのときにとても嬉しそうに笑っておられました」

「笑って……」


聖母という仮面を常に付けている、あの王妃様が笑った?

ゾクッと背筋が凍り、それは間違いなく黒であると脳内で警報が鳴る。

噂を信じたのか、それとも母がいなくなって単純に喜んだのか、そのどちらだとしても相当深く恨んでいたに違いない。


王妃様を刺激しないよう静かに、大人しく、そう自身を戒めていたのに。


「ではそろそろジュリア様のお使いになっていたお部屋へご案内いたします」

「はい!」


そんなことはあっさりとどこかへ零れ落ち、絶対に王妃様の地雷である部屋へ突撃することに。


待っていました!と飛びあがり、ドキドキと鳴る心臓を押さえながら、イシュラ王の私室を出た。



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