聖女のいる街へ
父さんは朝早くから村人達の手伝いに出かけて行った。
「リリー、約束だからね」
「分かったってば。行ってらっしゃい」
母さんも今から集会所に手伝いに行くらしい。
でも私だけは邪魔になるから外出禁止なんだって。
ちぇっ。私も手伝うって言ったのに。
「こんなもんかな」
昼食を作るように言われたから、適当にパンに野菜を挟んでおく。
誰もいない静かなキッチンで、パンパンと手を叩いてパン屑を払った。
「はぁ。さてと。暇だし、キリカに会いに行こうっと」
家を出ると村人達があちこちで忙しそうに作業をしている。
「フン。邪魔しなければいいんでしょ」
それを横目にプラプラと集会所を目指した。
「ほらほら、婆さん。危ないから焦るなよ」
「仕方がないだろ。楽しみなんだから」
門の近くでキリカがおじさん達と一緒に年寄り達を荷馬車に乗せている。
みんな綺麗に着飾って……。
徴税人が来るからかな。
「キリカ。帰りも頼んだぞ!」「よろしくな!」
「ああ」
声を掛けようか迷っていたら、キリカは荷馬車の手綱を引いて出て行った。
ケルンさんが手を振りながら私に気付いてニコリと笑う。
急いで駆け寄って聞いてみた。
「ケルンさん。キリカはどこに行くの?」
「聞いてないのか? 聖女様に会いに行く婆ちゃん達を、町まで連れて行って貰ったんだ」
「ああ、うちの母ちゃんも一緒に乗せて貰ったよ」
「うちもだ」
マリーに?
そっか、今日だったんだ。
今日は村人総出で朝から薬草の束を数えたり回復薬を積んだり大忙しなのに。
父さんだって朝から……。ああ。だからキリカがひとりで……。
ふーん。
それで外出禁止ね。
「何それ。私も行きたいな」
私は首を傾げて思いっきり微笑んだ。
「リリーの足なら歩いて2時間くらいだ。この道をまっすぐ行けば着くよ」
「ああ、すぐだ。魔獣も出ないからひとりで行けるよ」
「農地を通るから安全だ」
おじさん達はニコニコしながら行き方を教えてくれる。
「でも、私の足で歩いて行けるかな?」
ちょっと困った顔をして、チラリおじさん達の顔を見た。
「徴税人が来なけりゃ幾らでも連れて行ってやるんだが……」
「確かコリン爺さんが奥の畑まで行くから、乗せて貰えるように言ってやるよ」
フン。
その気になればこんなに簡単。
「わぁ。ありがとう」
土を積んだ荷馬車で途中まで送って貰い、残りは自分で歩いてみたけれど思ったより遠くない。
これなら帰りは歩けるかも。
外壁門には長蛇の列が出来ている。
荷馬車などの団体専用の列じゃなく、私は個人の列の方に並ばされた。
「『ステータスオープン』をしていて下さーい」
兵士も沢山いるし、馬に乗った聖騎士も初めて見る。
流れ作業のようにステータスを確認していく門番さんに、肩を押されてあっという間に門をくぐった。
町に入ると信じられないくらいの人がいる。お祭りみたいに賑やかだ。
建物も道も大きくて綺麗。初めて見るお店や露店も通る人もみんな華やかだ。
私もこんな大きな町で綺麗な格好をして暮らしたいな。
視線を下げて自分の手元を見ると、泥だらけで急に恥ずかしくなった。
周りを見てもそんな人はひとりもいない。
「「わははは」」
中央広場の水飲み場で、子供達に笑われながら顔と手を洗って綺麗にする。
少しはマシになったかな?
道を行き交う人達は村の人と全然違う。
ルディが言ってたのってこういう事なのかな。
とりあえずキリカを探さなきゃ。
「おい! リリー!」
「わっ! キリカ!」
教会に向かって歩いていたら、いきなりキリカに肩を叩かれて驚いた。
「良かったー。ホッとして座り込みたいよ」
よく見ると、キリカもいつもより綺麗な格好をしていてカッコいい。
嬉しくて抱き付こうとしたら拒まれた。
何それ。
キリカのくせに。
「どうして付いて来たんだよ!」
「だって……。ひとりでマリーと会うなんて……」
なんで怒ってるの?
私に黙って行くなんて。怒りたいのは私の方なのに。
予想外にキリカはすっごく怒ってる。
こんなに怒るキリカを初めて見た。
キリカのくせに。
「違うよ。年寄り達を送って来ただけだ。6の鐘で帰る事になってる」
なんだ。マリーに会うわけじゃないんだ。
「じゃあキリカはそれまで暇になるの?」
「絶対にダメだ。おじさんとの約束だろ?」
キリカがしかめっ面で首を振る。
キリカのくせに。
「キリカが黙っていればバレないよ。一目見たら帰るから。ね? 血の繋がった姉妹なんだよ?」
私が上目使いでお願いすると、やっとキリカが破顔した。
「はぁー。ほんとに見るだけだぞ? 約束だぞ」
やった。キリカは私の頼みは断れないもんね。
私は気が急いて「早く早く」とキリカの手を引き人混みの中を小走りする。
教会の豪華な門を見上げながら、初めて敷地に足を踏み入れた。
広場の奥の厳かな大きな建物は別世界の入り口みたい。
入ってすぐの大きな広場には白神官達が行き交って、白い制服の聖騎士達が話をしている。
聖女に会いに来た人々は、みんなどこかに白い布を巻いていた。
建物も白を基調としていて、どこを見ても聖女の白。
「はい。これ」
キリカが白くて綺麗なリボンを私の前に差し出した。
いつの間にかキリカも腕に白い布を巻いている。
「……ありがとう」
ビックリして受け取ると、キリカは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
ふふふ。やっぱりキリカ。こうなる事は分ってたんだ。
私は嬉しくなって蝶々結びで首にリボンを巻いて見せた。
これで少しは汚い服が誤魔化せるかな?
人の流れに押されて歩いていると、灰色の制服を着たフェルネットが白神官達と話しているのが遠くに見えた。
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