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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第四章 聖女編

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聖女巡礼

 ガインさんはドアを開けると顔だけ出して、みんなの顔を確かめる。


「良かった。みんな揃っているな?」


 そう言いながら、強張(こわば)った表情でリビングに入って来た。


「実は聖女巡礼の依頼が入った。出発は5日後だ」


「聖女巡礼?」


 私は思わず声が出る。そういえば何時(いつ)だったかそんな話を聞いた事があったな。

 ガインさんは私を見ると、分かりやすいようにゆっくりと話してくれる。


「ああ。要は金が無くて回復薬が買えない人や事情があって飲めない人。そんな人達を癒す旅だ。王都でも、かなり前だが引退前の聖女様が癒していたな」


「場所はどこですか?」


 フェルネットさんがそう聞くと、ガインさんは少し顔を曇らせた。

 それを見た師匠が片眉を上げる。


「前に寄った事がある。山を越えた先にあるあの町だ」


 それを聞いたハートさんとフェルネットさんの顔に少し緊張が走った。

 しかし反応はそれだけで、誰も何も言わなかった。


 村を出て初めて立ち寄ったあの町かな? 

 冬服を買って貰った、あの。


 ガインさんは彼らを尻目に私を見ると、ニコリと笑って話しを続ける。


「近隣の村や町からも人が押し寄せパニックが予想される。今回は第二聖騎士を警備用に連れて行く。手配は済んでいるから安心しろ」


 ガインさんが私を安心させるよう口角を無理やり上げて笑った。

 でも、この表情は知っている。何かある時の顔だ。


「はい」


 私が何かに気付いている事は分っているはずだ。

 それでも、敢えて言わないのであれば、詮索するのはやめておこう。


 きっと防犯上、隠しておきたい事なんだ。

 それが何かは分からないけれど、これはガインさんが判断した事。


「通常ルートを馬で行くから、何もなければ山越えに1か月の予定だ」

「え? 本当にそんなに早く越えられるのですか?」


 私が驚いて周りを見ると、みんなが笑って頷いた。


「馬鹿言え。俺たちだけなら2週間だ」

「えぇ……。半年もかかったのに……」


 当時の記憶が邪魔をして、距離感も時間の感覚もめちゃくちゃだ。


「あの時は、特別に時間をかけたんだ」


 項垂れる私の頭をポンポン叩き、ガインさんはとても優しく微笑んだ。


「あの時とはルートも違うし追っ手もいたし、それにマリーはよく熱を出したからね」


 フェルネットさんが懐かしそうに私を見る。


 確かに私が熱を出す度に5日くらい留まったりした。天気によっては2週間以上も足止めされた事も。魔獣に遭遇しないようルートの安全確認もしてくれていた。



「ガイン」


 シドさんがガインさんを外に連れだした。

 

 それを黙って見つめていると、おじいさまがそばに来て「大丈夫だ」と強く手を握ってくれる。


 やっぱり何かがおかしいな。



 ------


 朝早くから教会の豪華な正門前広場で、聖騎士さんやら白神官さん達がバタバタと旅の準備をしている。


 山越えは馬車ではなくて馬で行くらしい。

 なのでハートさんの馬に同乗させて貰う事になった。


「乗馬の訓練をしておけば良かったです。足手まといになりたくないのに」


 馬に乗せて貰ってふたりになると、ついハートさんに愚痴ってしまう。

 聖女の服で横乗りだから、そもそも無理なのかも知れないけれど。


「警護の意味でもこの方が良いんだ」

「でもひとりで乗れるようになりたいです」


 するとハートさんが「分かったよ」とクスッと笑う。

 教える気がないな、これは。


「いたいた。嬢ちゃん」


 師匠がこちらに向かって歩いて来た。


「あ、師匠。見送りに来てくれたのですか?」

「まぁな。それより風魔法をちょっとな」


「風魔法?」


 師匠が馬の首を優しく撫でながらにっこり頷く。

 私は眉を(ひそ)めて師匠を見た。あやしい。


「こいつに負担がかからぬよう、風魔法で少し浮いてみろ」

「う、浮く?」


 なるほど。これを見越して崖に行かせたのですか。

 流石、師匠。上手く乗せられたような気もするけれど、まあいいや。


 私は風魔法を少しずつ少しずつ、ハートさんと共に身に(まと)う。

 師匠が真剣な目で馬を確認し、私に抑えろと抑えろと合図をする。


 じわじわと時間をかけて上下にふわふわ。その度に抑えろと手で合図。

 やっと師匠が手を止めて、数ミリ浮かせた状態をキープするよう合図した。


「いいぞ。そのまま維持出来るか?」

「はい。加減が分かればこっちのものです」

 

 私が親指を立てて師匠に言うと、師匠はハートさんを見上げて勝ち誇ったように笑う。


「だから言ったろ」


 ハートさんは「降参です」と苦笑いをした。



 みんなの準備が整って、聖騎士さんに囲まれ出発する。

 同行する人数はそれほど多くないようで、第二聖騎士12名だけだった。


 現地にも白神官さんがいるし、山越えに大人数では時間もかかって負担らしい。


「辛くないか?」

「それが……。馬車より楽でびっくりしています」


 ハートさんが「フフっ」と声を出して笑う。


「マリーは勘が良くて驚かされる」

「ふふん。師匠の一番弟子ですからね」


「俺は半年以上かかったんだけどな。最初は何度も馬から落ちた」

「ハートさんが?」


 師匠は私を信用しすぎ。

 いや、後ろにハートさんがいたからか。


「ああ。即席で出来るマリーは凄いな」

「安定するまで支えてくれたハートさんのおかげですよ」


 ハートさんに手放しで褒められると落ち着かないな。

 鬼畜なハートさんの方が良いなと、少し思った私を心の中で慌てて否定する。


 危ない危ない。何かに目覚めたら恐ろしいわ。

 どうか、優しいハートさんでいてくれますように。


読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1.更新ありがとうございます。  乗馬の練習は大事ですが、誰かに馬の手綱を任せて二人乗りは言語道断なのは当然ですが安全性も考慮してズボン(できればブーツとヘルメット)は喉から手が出る位に欲…
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