テッドの相談
それから5日が経つ頃には、流石にふたりで頭を悩ませ始める。
「いつ帰ろうか?」
「このままいたら、人としてダメになりそうですよね」
「私もそう思う」
テッドさんが真剣な顔で頷いた。
何も考えずに長く過ごしたから、頭がぼーっとする。
話し合った結果、明日の早朝に帰る事にした。
「ねぇ、マリー。ちょっといい?」
「どうしました?」
「夏が終わると組み始めて2年になるよね?」
「ええ。そういえばそうですね」
テッドさんは読んでいた本を置き、思いつめた顔で私の近くの椅子に座る。
お茶を入れようと席を立ち、ポットにお湯を入れた。
「私はマリーの警護の指揮を執りたい。それには何が足りないと思う?」
「特に……、足りない物など無いと思いますが……」
私は首を傾げ思案する。
「ハートさんと比べても?」
「それなら問題は私の方ですよ。私がテッドさんの動きに合わせないから」
「え? ハートさんには合わせるの?」
テッドさんはお茶を差し出した私の腕を、急に掴んで顔を上げる。
私がその手に目をやると「ごめん」と呟きそっと放した。
「ええ。その為に毎日反省会をしてました」
私が懐かしくなり微笑むと、テッドさんの顔がふっと緩む。
テッドさんはお茶を手に取り一息つくと、少し体の力を抜いた。
「具体的に聞かせてくれる?」
「基本は『自分の身は自分で守れ』『味方の死角に入るな』『味方の攻撃範囲に入るな』の3つです。ハートさんは私がこれを守る事を前提に戦います。戦闘の邪魔をしたら叱られます」
「なるほど……」
テッドさんは何かを考える様に虚空を見つめる。
私は自分のお茶を置いて席に着くと、テーブルの前で両手を組んだ。
「ですから。テッドさんは、私の動きに合わせるので、比べるのは違うと思います」
私が『タイプが違う』と伝えると、テッドさんは首を横に振る。
「ハートさんと同じじゃダメかな?」
「私達は共闘しているので、同じには無理ですよ」
私がそう言うと、テッドさんは椅子から立ち上がり、ポカンとしながらゆっくりと座る。
「……そうか、共闘か。ひとりで空回っていた謎が解けた気分だ」
「空回っていたようには見えませんでしたけどね。うふふ」
私が笑うとテッドさんもつられて笑顔になった。
ポーカーフェイス過ぎて、ちっとも気が付かなかったよ。
「ずっとハートさんになろうとしてた。シドさんには『マリーを上手く使う戦い方を考えろ』って言われてたのに。馬鹿だったな」
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「なんだこれは」
私達は驚くギルド長を横目に肩をすぼめる。
山になったキラービーを見て、ギルド長の顎が落ちたままだ。
「ぷっ。苦労したのです」
「くくっ。シルバーウルフの毛皮と牙も査定お願いします」
あまりにも予想通りのリアクションで、私達は必死に笑いを堪えた。
ギルド長はため息を吐きながら頭を振って、ギルド職員に手招きをする。
「はー。しばらく見ないと思ったら。山籠もりか? お前達は修行僧か」
「ぷくく。違いますよ」
呼ばれたギルド職員も山になったキラービーに驚きながら歩いて来た。
「これ全部な。手分けして査定しておけ。応援も呼んで来い」
「うっす」
査定担当のお兄さんは仲間を呼びに走っていく。
ギルド長が振り返り、私達を見てもう一度ため息を吐いた。
「はー。これだけのキラービー、どこにいたんだ?」
「東の森を抜けた先の崖の下です」
「崖の下? 行くだけで5日はかかるだろ? まさか迂回せずに降りたのか?」
私達が答えようと口を開きかけた途端、両手を左右に振って止められる。
「いい。いい。もう、お前らの事でいちいち驚いていたら身が持たん。Aランク昇格だ」
ギルド長が投げやりにそう言うと、面倒そうにギルドの方へ歩いて行った。
じっと背中を見送って、ふたりで顔を見合わせる。
「昇格?」「ですよね?」
そうなるかもな、そうだといいな……的な期待はあったけど。
Aランク昇格だってー。やったー!
「早く帰って報告したいね」
「お祝いのお酒やおつまみも買って帰りましょうよ」
「ガインさん達は喜んでくれるかな?」
「うふふ。もちろんです。きっと頭をゴリゴリ撫でられます」
読んでいただきありがとうございました。
※長かったので分割しました。お騒がせしてすみません!
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