風魔法
今日は森に戻って野営をする事に。
明日は崖の下か……。
いつもの様に夕食を取り、お茶をしながらまったりと……。
ん? あれ?
「そういえば、崖の下にどうやって降りるのですか?」
「あ」
テッドさんが固まった。
珍しい。テッドさんがノープランとは。
私も人任せにしてないで、ちゃんと考えなきゃだよね。
「風魔法って飛べるのですか?」
「聞いたことが無いけれど……。シドさんの事だから、もしかして?」
テッドさんが疲れた顔で肩を落とす。
あああ。だよね。多分飛べって事だよね。
分かるー、その気持ち。
「ははは。とりあえず、明日、崖を見て考えようよ」
「あはは。そうですね。今日はもう寝ましょうか」
乾いた笑いで現実逃避し、明日の自分に丸投げをした。
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翌朝私は高さを知る為に、崖の上から恐る恐る下を見る。
もちろんテッドさんの補助付きで。
どんなに目を凝らしても、樹海しか見えない。
風が強くてそれどころじゃないけれど。
「……お、思ったよりも、非常に、高いのですね。おほほほ」
「しかも、斜めになっているから、落ちたら崖に当たるよね」
突然、下からの強風に煽られ体が浮いた。
「ひぃ」
もう駄目。もう無理。
私は思わず高速でテッドさんをタップ。
テッドさんは苦笑いで、動けなくなった私を安全な場所まで引き摺って運ぶ。
いやー、怖かったー。
リアル崖だよ。火サスだよ。罪を告白し放題だよ。
その場で私はへたり込んだ。
「平気?」
「ははは。もちろんです」
最大のやせ我慢で笑って見せる。
「飛びます?」
「どうする? 別の方法を考えてみる?」
微妙な顔で質問すると、テッドさんが難しい顔をして考え込んだ。
「別の方法……」
発想が貧困な私には、代案が何一つ浮かばない。
「例えばさ、土魔法でこの崖に階段を作るとか?」
「頑張れば行けそうですけど……。この強風が厄介ですね」
ポンと手を打ったテッドさんは「確かに」と言って腕を組む。
「やっぱり飛びます?」
「でも、怖いでしょ?」
「ははは」
バレてた。
最近やけに鋭いな。
とりあえず愛想笑いでごまかした。
嫌ではないのですよ。
でも途中で気絶したら危険だし、適当なことは言えないし。
「そうだマリー! 私が背負うから、マリーは目を瞑っていたらどう?」
確かに目を瞑っていたら怖くないかも知れない。
「私の目が見えなくて大丈夫なのですか?」
「私が指示を出すから大丈夫。試してみようよ」
テッドさんは私と背中合わせになり、ロープでぐるぐる巻きにした。
背負っていない気もするけれど、細かいことを気にしたら負けだ。
「これなら私の両手もフリーだし、安全だろ?」
「はひ……」
ぐるじいよ……。
早速、風魔法を操って練習してみる。
ハートさんがよく果物を浮かせてた、あの感じを……。
「おおお?」
「浮いてる! 浮いてる! マリー凄いよ!」
コツを掴むまで、練習あるのみ!
先に練習してからロープで巻けば良かった気もするけれど、今更だね。
散々ふたりでふわふわ浮いて、今度は目を瞑って指示に従う練習も。
「マリー。着いたよ。お疲れ様」
「え?」
目を開けると崖の下の森にいた。
「嘘。凄い」
呆然としていると、テッドさんがロープを解いてくれる。
私は首が痛くなるほど上を見上げた。
あんな高い所から降りて来たのか。
全然分からなかった。感覚が馬鹿なのかな。
日の出と共に崖に来たのに、既にお日様は真上にいる。
太陽が眩しいな。春なのに日差しが強い。
「少し休憩したら索敵してみてくれる?」
「はい」
お昼に私作『姉さん直伝お弁当』をふたりで食べた。
「美味しいね」
「ええ、練習しましたからね!」
姉さんありがとう。なんとか合格点が貰えたみたい。
今度は師匠に食べて貰おう。
食事が終わるとテッドさんが水魔法を打ち上げる。
空に大きな虹が架かった。
「魔獣を刺激してみたよ。索敵頼むね」
「なるほど。はい」
……。
「大きな魔獣がヒットしませんね。A級ですよね?」
「マリー。あれだ。キラービーだ」
遠くの空を見ていたテッドさんの指差す方から、黒い煙が向かって来る。
「マリー! 急いで結界を!」
「はい!」
10センチ大の蜂の群れだ。
「刺されたら麻痺するから気を付けて。4、5か所で動けなくなる」
「はい!」
刺されなくても囲まれて死ぬ! と思ったら、結界にバチバチ当たるだけ。
……。
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