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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第四章 聖女編

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風魔法

 今日は森に戻って野営をする事に。

 明日は崖の下か……。


 いつもの様に夕食を取り、お茶をしながらまったりと……。

 ん? あれ?


「そういえば、崖の下にどうやって降りるのですか?」

「あ」


 テッドさんが固まった。


 珍しい。テッドさんがノープランとは。

 私も人任せにしてないで、ちゃんと考えなきゃだよね。


「風魔法って飛べるのですか?」

「聞いたことが無いけれど……。シドさんの事だから、もしかして?」


 テッドさんが疲れた顔で肩を落とす。


 あああ。だよね。多分飛べって事だよね。

 分かるー、その気持ち。


「ははは。とりあえず、明日、崖を見て考えようよ」

「あはは。そうですね。今日はもう寝ましょうか」


 乾いた笑いで現実逃避し、明日の自分に丸投げをした。



-------


 翌朝私は高さを知る為に、崖の上から恐る恐る下を見る。

 もちろんテッドさんの補助付きで。


 どんなに目を凝らしても、樹海しか見えない。

 風が強くてそれどころじゃないけれど。


「……お、思ったよりも、非常に、高いのですね。おほほほ」

「しかも、斜めになっているから、落ちたら崖に当たるよね」


 突然、下からの強風に煽られ体が浮いた。


「ひぃ」


 もう駄目。もう無理。


 私は思わず高速でテッドさんをタップ。

 テッドさんは苦笑いで、動けなくなった私を安全な場所まで引き()って運ぶ。


 いやー、怖かったー。

 リアル崖だよ。火サスだよ。罪を告白し放題だよ。


 その場で私はへたり込んだ。


「平気?」

「ははは。もちろんです」


 最大のやせ我慢で笑って見せる。


「飛びます?」

「どうする? 別の方法を考えてみる?」


 微妙な顔で質問すると、テッドさんが難しい顔をして考え込んだ。


「別の方法……」


 発想が貧困な私には、代案が何一つ浮かばない。


「例えばさ、土魔法でこの崖に階段を作るとか?」

「頑張れば行けそうですけど……。この強風が厄介ですね」


 ポンと手を打ったテッドさんは「確かに」と言って腕を組む。


「やっぱり飛びます?」

「でも、怖いでしょ?」


「ははは」


 バレてた。

 最近やけに鋭いな。


 とりあえず愛想笑いでごまかした。


 嫌ではないのですよ。

 でも途中で気絶したら危険だし、適当なことは言えないし。


「そうだマリー! 私が背負うから、マリーは目を(つむ)っていたらどう?」


 確かに目を(つむ)っていたら怖くないかも知れない。


「私の目が見えなくて大丈夫なのですか?」

「私が指示を出すから大丈夫。試してみようよ」


 テッドさんは私と背中合わせになり、ロープでぐるぐる巻きにした。

 背負っていない気もするけれど、細かいことを気にしたら負けだ。


「これなら私の両手もフリーだし、安全だろ?」

「はひ……」


 ぐるじいよ……。


 早速、風魔法を(あやつ)って練習してみる。

 ハートさんがよく果物を浮かせてた、あの感じを……。


「おおお?」

「浮いてる! 浮いてる! マリー凄いよ!」


 コツを(つか)むまで、練習あるのみ!

 先に練習してからロープで巻けば良かった気もするけれど、今更だね。


 散々ふたりでふわふわ浮いて、今度は目を(つむ)って指示に従う練習も。



「マリー。着いたよ。お疲れ様」

「え?」


 目を開けると崖の下の森にいた。


「嘘。凄い」


 呆然(ぼうぜん)としていると、テッドさんがロープを(ぼど)いてくれる。


 私は首が痛くなるほど上を見上げた。


 あんな高い所から降りて来たのか。

 全然分からなかった。感覚が馬鹿なのかな。


 日の出と共に崖に来たのに、既にお日様は真上にいる。

 太陽が眩しいな。春なのに日差しが強い。


「少し休憩したら索敵してみてくれる?」

「はい」


 お昼に私作(わたしさく)『姉さん直伝(じきでん)お弁当』をふたりで食べた。


「美味しいね」

「ええ、練習しましたからね!」


 姉さんありがとう。なんとか合格点が貰えたみたい。

 今度は師匠に食べて貰おう。


 食事が終わるとテッドさんが水魔法を打ち上げる。

 空に大きな虹が架かった。


「魔獣を刺激してみたよ。索敵頼むね」

「なるほど。はい」


 ……。


「大きな魔獣がヒットしませんね。A級ですよね?」

「マリー。あれだ。キラービーだ」


 遠くの空を見ていたテッドさんの指差(ゆびさ)す方から、黒い煙が向かって来る。


「マリー! 急いで結界を!」

「はい!」


 10センチ大の蜂の群れだ。


「刺されたら麻痺するから気を付けて。4、5か所で動けなくなる」

「はい!」


 刺されなくても囲まれて死ぬ! と思ったら、結界にバチバチ当たるだけ。

 ……。



読んでいただきありがとうございました。

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誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1.更新ありがとうございます。  マリーさんの理解の飲み込みの速さに惚れ惚れします。  同時に向上心と探究心を糧に成長して、周囲からの理解と人望を集めるマリーさんとは対照的に誰かから奪った…
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