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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第四章 聖女編

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師匠のお膳立て

 今日もまた、冒険者ギルドの掲示板を見上げ、テッドさんとふたりで頭を(ひね)る。


「うーん」


 最近はBランクの依頼を長期も含め、色々こなしてはいるけれど……。

 ここまでが順調すぎたので、手ごたえがないと言うか。


 要するにランクが上がる気がしない。


「ランクを上げる為には、やっぱりS級魔獣の討伐ですかね?」

「それなら2段階アップでSランクだね」


 それだ!


「マリー。悪い顔をしているよ」


 テッドさんに顔を(のぞ)かれる。


「えへへ。でも、あの蛇レベルは二度と嫌ですね」

「あれは本当に大変だったからね」


 流石に攻略法が分からないS級は無理だ。

 分かっていてもアレだもん。


「A級魔獣が妥当ですかね」

「私もそう思うよ。流石に命はかけられない」


 A級か……。


「A級って言えば、シルバーウルフですよね」

「あれは群れでいるからね。A級の単体ならもっと強い」


 なるほど。

 ガインさん達を基準で見るから、感覚がマヒして全然分からない。


「よっ。お前さん達」


 何処に行こうかと話していると、ポンと肩を叩かれた。


「師匠!」

「シドさん!」


 振り返ると、師匠が何やらさっきの私よりも悪い顔をしている。

 嫌な予感だ。


「もう予定は決まったのか?」

「いえ、まだですが、方向性は見えているというか……」


 私は慎重に返事をした。

 ここは(ぼか)して逃げ道を作っておこう。


「ほう? 方向性とは?」

「A級魔獣を狙おうかと」


 テッドさん! 馬鹿正直に答えたら危険ですって!

 師匠がニヤッと笑った。


 あーあ。


「なるほどな。それなら東の森を抜けた崖の下に行くといい。お前さん達向けの魔獣がわんさかいるぞ」


 わんさか……。

 嫌な予感しかしない。


「あの師匠? それってどういう……」

「心配しなさんな。ほれ、これも持って行け」


 師匠に依頼書を押し付けられ、冒険者ギルドから追い出された。



「……あやしいよね」

「はい。あやしいです」


 私は歩きながら手元の依頼書を広げて見る。


「Fランクの護衛?」

 


 カタカタカタカタ。


 テッドさんが東に向かう荷馬車の手綱を握り、森の中をゆっくりと走る。

 もちろん師匠がお膳立てしてくれた依頼だ。


 絶対に何かあるな。

 ここまで至れり尽くせりとは。恐ろしい。


 とりあえず面倒なので結界を張る。

 師匠の課題はおそらく魔法を使う事が前提だ。


「冒険者さん、この森ってB級のレッドアイタイガーがいるんですよね?」

「目撃情報があったみたいですが、討伐隊が先週向かったらしいですよ」


 へぇ。討伐隊がすでに……。

 という事は師匠の言っていた魔獣ではないのか。


「良かった。帰りも通るから恐ろしくて。今回は安く受けてくれて助かりました」


 依頼人の商人さんが人のよさそうな顔でクシャっと微笑む。

 笑顔がとても優しそうな人だ。


「いやぁ、森を抜けた所までですみません」

「そんな事はありません。怖いのは森の中なので。取られる積み荷も無いですし」


 師匠もこんなおあつらえ向けの依頼をよく見つけたよね。

 乗せてくれるならタダでも良かったのに。


 ドーン。


 あれ? 結界に大きな衝撃が。


「テッドさん。結界に何かがぶつかりました。ちょっと見てきます。荷馬車の退避を」

「分かった」


 手綱を握るテッドさんに荷馬車を預け、私は急いで後方へ走る。


 すると虎の魔獣が先ほどの衝撃で、頭を強く打ちふらついていた。

 横に回って師匠の真似をし、首に手を当て水魔法を放つ。


「えっ」


 あっさりと、一発で首が落ちた。

 連続で放った水の(やいば)(くう)を切り、辺りの木々をなぎ倒す。


「あ! やっちゃった……」


 辺りを見回しても何もいない。群れで行動しない系なのかな。

 急いで戻って荷馬車に向かって手を振った。


「テッドさーん。もう安全でーす」

「早かったねー」


 私は空間魔法からさっきの魔獣を取り出した。


「これです」


 テッドさんが難しい顔をする。


「……レッドアイタイガーだ」

「え? じゃあ、討伐隊は……」


 テッドさんが困った顔で首を振った。

 いや、まだ息があるかもしれない。


「索敵します」


 どこだ、どこだ……目を(つむ)って周囲を探る。

 生きてさえいれば……。


「君達。これ買い取りたいんだけど、いい?」

「ええ、どうぞ」


 テッドさんが商人さんと二人で解体を始めた。


 いた! 八人いる。

 普通に歩いてるし、怪我はなさそう。


「いました! 後方に八人。元気そうです。こちらに向かってます」

「そう、良かった」


 テッドさんは顔を上げると嬉しそうに(うなず)いた。

 解体作業が楽しそう。あ、趣味だったっけ。


 それにしても、名前がレッドアイなのに目はゴミなんだって。

 あのやわらかい皮が靴や高級バッグになるらしい。


 しばらくすると討伐隊の人達が来たので、解体中の魔獣を指差(ゆびさ)し説明をする。

 とてもびっくりされたけど、お礼を言って帰って行った。


 全員の無事が確認出来て、ホッと胸を撫で下ろす。

 良かったー。討伐ボランティアさん達も大変だよね。



「では依頼達成の署名を……」


「いやぁ、素材を全部譲って貰えるなんて。ありがとうございます」

「いえいえ。こちらも荷馬車に乗せて頂き助かりました」


「お気をつけて」


 大きく手を振り、商人さんが見えなくなるまで見送った。


読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!

誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
んー?護衛はついでというか足代わりかな?これから本番かなぁ
一瞬、タイガーの胃袋から8人出てきたのかと
[良い点] 1.更新ありがとうございます。 久々の討伐回がきましたね。魔獣もリアルの野生動物をシメて解体するのと同様に一思いで仕留めるって地味だけど、苦しまずに素材のえぐみや臭いを最小限に抑えるために…
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