表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第四章 聖女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/163

聖女は強い

「自己嫌悪?」


 マリーの何を嫌悪する事が?


「実はその……。聖女の仕事は感謝されるだけの、楽な仕事だと思っておりまして……。だから教会で聖女が神格化され神の様に崇められる事を、ちょっと馬鹿にしていたって言うか……」


 マリーは顔を上げ、非常に言い(にく)そうにそう言った。

 別に教会の外では、その認識の者も珍しくはない。マリーは教会育ちだが……。


「でもそれは聖女の仕事を実際に知らなかったから」


 マリーは悪くないと私は必死に否定する。

 なのにマリーはゆっくりと首を振った。


「教会にいる時にそれを知る機会はいくらでもありました。なのにその話題を避け、教会の教義にも耳を塞いで過ごしたのです」


 確かにマリーはあそこで育った割に、教会の教えをよく知らない。

 教皇の孫の私と比べるのは、少々問題あるが。


 マリーは毛布をギュッと握りしめ、思いつめるように下を向く。


「実際に現場を見て、綺麗事ばかりじゃないと知りました」

「それは私もだよ」


 マリーは私を見てふんわりと微笑む。


「先輩聖女様は何十年もこのような現場と対峙(たいじ)して来たのだと思ったら、自分はなんて甘かったのだと。聖女なんて回復薬の代わり程度に考えていた自分に、心底嫌気(いやけ)がさしています」


「そんなことない」


 私は必死に首を振った。


 そんなふうに思わないで欲しい。

 なのにこの思いをどう伝えたらいいのか分からなかった。


「私、最低ですよね」


 やめてくれ。

 マリーにそんな顔は似合わない。


 現場に入るのが早すぎて、みんな混乱の渦中にいただけなんだ。


「ふふふ。実はこんな最低な自分を知られたくなくて隠していたのですよ」

「もっと早く吐き出して欲しかったくらいだ」


 マリーは「ありがとうござます」とクスッと笑う。


「失望されるかとドキドキだったのです。でも、バレバレでしたね」

「次からは相談に乗るよ」


 マリーは自分に潔癖すぎる。


 それにしても私は、なんて的外(まとはず)れな心配を。

 あの子供の言葉程度じゃ、マリーに傷すら付けられない。


 それがなんとも(ほこ)らしい。

 マリーの心は強い、本当に力強い。



 昔お爺様の執務室で、翻訳された聖典を見せてもらった事がある。

 そこにはこう書いてあった。


『適性は自らが示す。神が作った女神達は、適性に合わせて眷属(けんぞく)を送る』


 教会の解釈では『適性は自らが示す』という言葉を『適性は遺伝や生まれで決まる』と解釈している。それは、親と同じ適性が現れる事が殆どだからだ。


 でもお爺様の見解は違っていた。


『人の資質から必要性に合わせ、適性が決まるのではないか』と。


 要するに人格の土台が形成される3歳までの育ちや性格。

 それにより、本人に必要とされる適性が現れるのでは。


 まだ、解明されていないけれど、私もお爺様の考えが正しく思えて来た。


 私が知る限り、マリー以外に聖女は務まらない。

 きっとマリー自身の人格の根底が、光の適性を選択したのではないか。


 歴代の聖女になった女性は全て、その仕事をまっとうする心の強さと美しさがあった。

 それでは答えにならないのか。



 -----


「あいつは困れば頼ってくる。そもそも俺が警護しているんだ。傷なんて付けさせない」


 ハートさんは呆れた顔で私を見る。

 おっしゃる通りでしたけどね。


「ハートは嬢ちゃんの事を一番分かっているからな」

「本人が吐き出してすっきりしたって言ってんだ。みんなテッドを誉めてやれよ。よくやったぞテッド」


 マリーから報告を聞いたガインさんは、やけに上機嫌に私の頭をゴリゴリ撫でた。


「テッドは良い護衛になりそうだね」


 フェルネットさんの言葉がとても嬉しかった。

 私は人を守りたい。


「なぁお前ら、家族会議は家でやれよ」

「元はと言えば、ギルドからの派遣要請なのに、現場の整理が出来ていなかったギルドのせいだろ」


 ははは。勝手にギルド長室に押しかけて、ガインさんは強気だな。

『男だけで出かけるぞ』と言って着いた先がギルド長室っていうのも、どうかとは思うけど。


 たまにはマリーをお爺さんと二人にして、甘えさせてあげたかったんだろう。

 ガインさんはそういう気が利くタイプだからな。


「夏が過ぎると災害が増えるから、来年も聖女稼業も忙しくなりそうだな」

「現地の冒険者にも協力を頼んでくれよ」

「二度と同じ目には合わせねーから心配すんなって」


 ギルド長も少しだけ罪悪感があるようで、なんだかんだで部屋から追い出さずにいてくれる。


 この人たちはお互いに文句を言い合うのに、とても仲がいい。

 その一員としてここに居られることが誇らしいな。



 「ちょっと待ってくれ」


 帰りに()()ギルド長が、恥ずかしそうに小さな花束を差し出した。

 

「その……。お詫びにこれをマリーに渡してくれ」

「え?」


 ガインさんが唖然(あぜん)として受け取ると、一瞬、間を開けて笑い出す。


「「「「わははははは!」」」」


 全員で大笑いをしたよ。だってギルド長が花束だって。

 久しぶりにお腹が痛くなるまで大笑いをした。



『心配するな。マリーはそんなに(やわ)じゃない』


 あの日の夜、ハートさんは私をしっかり見つめてそう言った。

 今なら私も、はっきりとそう言える。


読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!

誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
b8gg8nd6c8mu9iezk3y89oa1eknm_l3q_1cu_1xg_1p76v.jpg

3hjqeiwmi49q1knt97qv1nx9a63r_14wu_1jk_qs_6sxn.jpg
― 新着の感想 ―
…………え?それ割と深刻な問題では?気質で決まるなら光適性がないこの国って……他の国はどうなんだろ?割といるのかな、光適性……
[一言] 光の適正はその人の気質の現れでしたか。 聖女のガチャ率0.001%くらいなのでは……親がクズなパターンも割りとよくありそうですね。
[気になる点] 「敵性」ってなんだろう?ととても深読みしていたら次に「適性」って出てきたので、これ誤変換ですよね? でも深読みも楽しかったですw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ