依頼完了
「いやぁ、積み荷の商品が高額なので、盗られなくて良かったよ」
「外壁も柵も無い小さな村では、盗賊に待ち伏せされる事がよくあるんですよ」
姉さんが依頼者の商人さんに、昨日の件を報告していた。
「本当に依頼して良かったよ」
「最後まで安心してください!」
姉さんはそう言うと、隣に並んだテッドさんの背中をドンと叩き、前へと突き出す。
「ま、任せてください」
ぼんやりしていたテッドさんは、慌てて背筋を伸ばして愛想笑い。
はははは。すっかり姉さんのペースだな。
旅の準備が終わると、また荷馬車を走らせ一日が始まった。
ふぅ。やっと息が抜ける。
でも移動中の荷馬車の上は暇で寝そう……。ダメだ……ウトウトする。
休憩で馬車が止まると、テッドさんは私に駆け寄った。
「大丈夫ですよ。実はさっきウトウトしちゃってて。もうすっきりです」
「いや、今だけでも寝てくれ。心配で私が死にそうなんだ」
このままだと本当にテッドさんが死にそうだ。仕方なく目を瞑る。
気が付くとテッドさんと一緒に最後尾の荷馬車に乗っていた。
「あ。私、寝ちゃってました。すみません」
「寝るように言ったのは私だよ」
いや、だからと言って本気で寝る私もどうなのかな。
「次はテッドさんが寝てくださいよ」
「マリーはもう少し仮眠して。聖女が過労なんて私が叱られる」
真面目だなぁ。
これじゃ、テッドさんが倒れかねない。
「そう言う事なら結界を張るので、ふたりでちょっと休んじゃいましょうよ」
先頭車両は誰も乗っていないのかな?
まぁ、2台目に姉さんがいるからいいかな。
そのまま荷馬車に結界を張り、ふたりでいつの間にか寝落ちした。
「ふぁあー」
大きく伸びをしながら荷馬車から降りると、テッドさんも『うーん』と体を伸ばしている。
そこに姉さんが両手を腰に当てて歩いて来た。
「あんたたち、昼間寝た分働きなさい」
てへ。バレてた。
姉さん達と昼と夜で交代しようという事で、夜の見張りを引き受ける事に。
「だったら堂々と寝れば良かったですよね」
「本当だね。でもどうせ結界を張るんでしょ? 毛布を持って来たから寝ていいよ。私もその方が安心だ」
テッドさんは私を毛布で包み、隣で自分も毛布に包まった。
まだ本格的な冬ではないけれど、毛布一枚じゃ流石に寒い。
私達の周りにも空調結界をこっそり張る。
「魔力反応があれば起こします。テッドさんも寝て大丈夫ですよ」
「ありがとう」
結局朝まで襲撃もなく、早朝に交代でお風呂に入って朝食を取った。
「結界があるから安心して寝ちゃったよ」
きっとテッドさんは心身共に疲れきっている。
普段なら絶対に寝落ちしたりしないはず。大丈夫かな。
カタカタと荷馬車に揺られまったりする。
「こういう旅は良いね。荷馬車の旅は懐かしい?」
「はい、あの頃を思い出して懐かしいですね。テッドさんはどんな幼少期を?」
なんとなく口に出た。でもそう言えば、何も知らないな。
「んー、好奇心が強かったかな。そういえば森で魔獣を捕まえて、解体して回ったよ。祖父から『解体の代わりに』って魔獣図鑑を貰ったな。両親は教育者で、星を見れば星の名前、空を見れば雲の話。そんな平凡な家庭だった」
「……素敵なご両親ですね」
子供が魔獣を殺すのはこの世界では普通だけれど、解体か……。
ま、生まれつき情緒とか感覚が他と違っても、悪人に育つ訳じゃないしな。
魔獣にやたら詳しい訳は解明した。
「私は祖父が大好きでね。祖父は会いに行くと、どんなに忙しくても喜んでくれるんだ。でも仕事中は駄目だって両親に怒られて。ふふふ」
「へー。意外にやんちゃだったのですね」
この人は十分愛されて育ったんだな。
きちんと育てて貰ったから、人とは多少違うけどこんなに優しい人なのか。
だから善であろうと必死なのかもね。
「それに、正しく剣を扱えるようにとガインさんを紹介してくれたのも祖父なんだよ」
「いいお爺様ですね」
「うん。あの頃は捻くれていて敵ばかり作っていたからね。ガインさんには感謝している。それより、ねぇ。マリーは?」
「私? 私は教会育ちで親はS級冒険者の黒龍ですよ。ふふふ。平凡とは無縁です」
「ははは。そうだったね。マリーはガインさんの子だったね……」
テッドさんは急に黙ると遠くの景色を見つめていた。
昔を思い出しているのかな?
私もガインさんには人として、色々と教わったなぁ。
悪い事をすると、何が悪いのかをきちんと説明してくれた。
そして正しい道を示してくれる……。
いつの間にかふたりで、遠くの景色を眺めていた。
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無事に積み荷を町に届け、冒険者ギルドへ依頼達成報告に向かった。
「初日の襲撃が無ければ楽勝な仕事だったわね」
「そうですね。魔獣もウサギしか出ませんでしたし」
姉さんとギルドの受付付近で話していると、受付のお兄さんに手招きされる。
なんだろうと二人で向かうと、依頼書をペラリとカウンターに置かれた。
「お前達、王都に帰るんだろ? 帰りも荷物番の依頼を受けないか?」
置かれた依頼書を指でトントンしながら、お兄さんは依頼内容を説明してくれる。
まぁ、王都に帰るだけだし、姉さんの判断に任せることにした。
ギルド案件なら違法荷物の心配も無いし。
帰りに受けた依頼の見張りは、昼は姉さん達で夜は私達。
荷馬車にカタカタと揺られ、半分寝たまま遠くを眺める。
たまに追いかけてくる魔獣を狙い、荷馬車の上からテッドさんが水鉄砲でコントロールの練習をしていた。
平和だなぁ。
帰りは一度も襲撃されず、何事もなく王都に着いた。
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