盗賊の襲撃
「やだ、付き合ってないわよ。勝手に追いかけていただけだし」
「そうだったのですか? よく一緒にいたからてっきり……」
あの当時、二人だけで真剣に話している所を何度も見かけた。
プライベートな事だし、干渉しないようにしていたけれど。
「時々、女の子の育て方を聞かれたの。それに、あんたの件もあったし」
「私の件?」
姉さんは私の髪を優しく触り「この事は絶対に秘密よ」と微笑みながら頭をなでる。
「ハートとは無理でも、私ひとりであんたを引き取り育てようと思ったの。教会から出してやりたくて」
「え? 姉さんが私を?」
どういう事?
「そうよ。私だけじゃないわよ。みんなでマリーを教会から出そうって何度もハートに詰め寄ったのよ。それがまさか聖女の護衛だったなんてね」
ハートさんもみんなも、そんな事一言も……。
冷たい冷たいってハートさんが言われてたのって、まさかそういう意味だったの?
「今まで私、何も知らずに……」
「いいの。いいの。子供はそんなこと気にしなくて。誤解も解けたんだし」
姉さんは私の肩を強めにバンバン叩く。
「でもそのせいでハートさんが……」
「何言ってんの。家族なんでしょ? それにあの頃のハートにはあんたが必要だったと思う」
ハートさんにとっての家族はもっと特別なのに。
「ほら、そんな暗い顔をしない。ハートが望んだことよ」
姉さんは私を引き寄せぎゅーっと抱きしめると「一緒に暮らしたいと思った事は嘘じゃないの」と寂しそうに笑った。
「姉さん……」
「でも今は、私だけを愛してくれる、素敵なダーリンがいるんだから!」
姉さんは勢いよく私を放すと、急に明るい顔になり『えへへん』と胸を張る。
「素敵! 姉さんを射止めたダーリンは幸せですね」
姉さんも幸せそう。
姉さんは優しいし美人だし色っぽいし、そして料理上手。
そりゃ愛されるに決まってる。
「うふふ。いいでしょう……って、そうじゃなくて。私は、ハートが随分と必死になって石を探してたから、何かあったのかと気になってたのよ」
「石? 落雷石みたいな?」
あ! 後方に魔力反応? 前にもいる。
「姉さん! 建物の後方に三人、前方から二人来ています。私は後方に回るので、前の二人をお願いします!」
そう言い残すと私は、足音を忍ばせて後方に回る。
小屋の板を剥がして侵入を試みている、黒いマントを着た男が三人いた。
「ぐわっ」「ぎゃぁ」「うわぁ」
そっと利き腕と足を水鉄砲で打ち抜き無力化する。
意外にチョロいな。
痛みで転がっているし、このまま放置しても大丈夫そうだな。
先に姉さんの援護に行こう。
表に回ると姉さんが、制御不能な火魔法を暴走させている。
何故かあんなに高い小屋の屋根にも火が燃え移っていた。
あーあー。姉さんったら魔法まで荒っぽいんだから。
積み荷が燃えたら大変だ。
慌てて消火し、姉さんと格闘している男の腕と足に水鉄砲を放った。
「ぐあ」
もう一人はどこ……。
結界に集中し魔力の揺らぎを探す。
「あ! まずい!」
見つけた時にはテッドさんが男を殴って気絶させている所だった。
テッドさんが人を殺していない! 凄い!
はぁ、間に合わないかと思った。
「魔力反応が二人だったから……」
焦りました。とは、言えなかったけれど。
「ははは。私がマリーの警護を外れる訳ないじゃないか」
やけに陽気なテッドさんは、殺さず捕らえた事が嬉しそうだ。
心境の変化でもあったのだろうか。
「寝てくださいよ」
「努力するよ」
「小屋の後ろの三人を捕縛して連れてくるよ」
そう言ってテッドさんは裏に向かう。
私が気絶した男の手を縛っていると、姉さんが小屋の側面までやって来た。
「マリー、大丈夫?」
「はい。姉さんの方は大丈夫ですか?」
姉さんは私の無事を確認するとホッとした顔をする。
ほんと、優しいんだから。
「私は平気。こっちは一人捕縛したけど……」
「テッドさんが裏から三人連れてきます」
姉さんは私が縛った男の手を引っ張り上げて、容赦なくひっぱたくと正面まで歩かせた。
顔に似合わず男前だ。
「テッド! 来てくれたのね! 助かったわ。それよりあんた何者?!」
私は消火した屋根を指さしジェスチャーで伝えると、テッドさんが何とか察してくれる。
「あ、ああ。たまたま音に気が付いて。小屋に火が? 消火した? この盗賊も? 私が」
ははは。なんて苦しい言い訳。
通じて良かったけど。ごめんテッドさん。
テッドさんは盗賊五人を役場の人と一緒に、役場の簡易牢まで連れて行った。
交代の時間になり、ギースさんとベナンさんが起きてくる。
「タリー姉さん。これ、まじっすか?」
「俺達だけの時じゃなくて助かったな」
二人はこの後が不安だと姉さんに泣きつき、怒られていた。
「夜襲ってもっと夜中に来るものだと思っていました」
「相手も人だからね」
そうだよね。
向こうも真夜中とか早朝とか面倒だよね。
宿屋に戻ってお風呂に入ってベッドにダイブ。
姉さんは『お風呂は朝にする』と言って先に寝ていた。
「おはようございます」
私は寝てないテッドさんが朝食を取れるよう、明け方に起きて交代に行く。
「まだ早いよ?」
「朝食を食べて来てください。倒れられたら困ります」
テッドさんが目を丸くし「ありがとう」と笑って走って行った。
大丈夫なのかな。
早朝に強盗が来ませんように。と祈りながら、座ってみんなが起きて来るのを待つ。
すると姉さんがサンドイッチを持って来てくれた。
「あら、テッドに持ってきたのに」
「ふふふ。今頃は目を覚ます為に、水でも浴びているのかも」
姉さんは私にサンドイッチを渡しながら豪快に笑う。
「わはは。テッドならやりそうだね。それにしてもテッドって何者よ? あそこまで正確に魔法が使えるなんてS級レベルじゃないの」
「そうなのですか? まぁ、師匠がシドさんですからね」
「ああ、なるほどね。シドさんか。それで納得だわ」
姉さんは「流石シドさんの弟子だわ」と感心している。
私達はサンドイッチを食べながら、みんなが来るのを待った。
ぱくぱく。もぐもぐ。
やっぱり姉さんが作るとなんでも美味しいな。今度教えて貰おう。
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