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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第四章 聖女編

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復興作業

「なんでもっと早く来てくれなかったんだよ! この人殺しー!」


 私の背中に向かって子供が叫ぶ。

 声からして10歳くらいだろうか。


 バタバタと足音を立て走って来た子供に、テッドさんが反応したんだ。

 殺気が無いから気が付かなかった。


「テッド。剣を抜いて周りを警戒しろ。神官、援護を呼んで来い」


 ハートさんは私の横で剣を抜き、テッドさんにも指示をする。

 私を案内していた女性の神官さんは、そっと離れて出て行った。


「放せよー! 何が聖女だぁー! かあちゃんを返せぇー!」


 辺りには悲壮感が漂っている。

 近くにいた女性白神官が組み伏せても、子供は泣いて叫んだままだった。


「母子二人だって」「今朝亡くなったみたいよ」「うちも間に合わなかったんだ」


 数人の大人は同じ気持ちなのだろう。

 小さな声でヒソヒソと、子供に同情する声が耳に入る。


 このままここに私がいたら、騒ぎが大きくなりそうだ。

 おそらくふたりも分かってる。


「出るぞ。刺激をするな。ゆっくり行くぞ」


 ハートさんが小声で指示を出す。

 じりじりと警戒しながら動き出すと、いきなり歩みを止められた。


「落ち着け! テッド!」


 緊張感が包む中、ハートさんの低い声が飛ぶ。


 パン! パン! カラン。ゴロゴロゴロ。

 え? 何?


 足元に、幾つかの石が転がり落ちる。


 はぁー。嘘でしょ。周りの大人が石を投げたんだ。

 ハートさんの風魔法で跳ね返されたのね。


 こうなると、テッドさんを抑える方が厳しいな。ものすごい殺気だ。


「かあちゃーん! うわーん」


 もうヒソヒソ話す者はいない。

 静まり返ったお御堂に、子供の泣き声だけが響いていた。



「聖女様に何をしているのですか! 無礼者! 拘束しろ!」



 さっきの女性神官が外の神官達を連れ、戻って来てくれた。

 辺りが急に騒がしくなり、男性神官達が続々と押し寄せる。


 聖騎士を連れてくるべきだった。これは私の判断ミスだ。

 ここは異世界だったのに。被災地の混乱を甘く見過ぎた。


 そんな中、ハートさんは一度も私に後ろを見せず、そのまま外へと連れ出した。


「背中はテッドが守ってる」

「はい」


 信じてる。だから私は顔色を変えない。姿勢を正し、前だけを見て歩く。

 動じるな。私にはふたりが付いている。


 彼には同情するけれど、構ってなどいられない。

 彼と同じ悲しみを作らない為に、出来る事をやるだけなんだ。


 ガインさんが最速で、私をここへ連れて来た。

 誰にも遅かったなんて言わせない。


 私は魔力の回復薬を一気に飲んだ。



「おお。聖女様。痕も残らずこんなに綺麗に。ありがとうございます。ありがとうございます」


 瓦礫(がれき)の下で焼け(ただ)れて見つかったおじいさんが、涙を流して私の手を取る。


「聖女様。この方が最後です。すべての治療が終わりました」

「ずっと付き合わせちゃいましたね。どうもありがとう」


 疲れ切った笑顔の彼女に、私はニッコリ微笑んだ。


 ふと見上げると、遠くの空が白んでる。

 そうか、夜が明けたんだ。


 終わった。

 ははは。終わったんだ。


 白黒の神官達が自然と集まり、私を囲んで喜び合う。

 私はみんなに向かって疲労回復魔法を盛大に放った。


「「「ありがとうございます! 聖女様!」」」

「皆さんもお疲れ様です。ちゃんと休んでくださいね」



 それでも心は凪いだまま。



----


「お体に障ります」「もう、おやめください」「お休みになって下さい」


 白神官さん達が止める中、疲労回復魔法を放って回り、中央広場に歩いて向かう。


 大きな紙に何かを書いてたガインさんが、騒ぎに驚き顔を上げた。

 何故かフェルネットさんが足元で転がっている。


 こちらも徹夜で行方不明者の捜索をしていたみたい。

 ボロボロの神官さん達が撤収の為、辺りを綺麗に片付けていた。


 視界の先で住民達が道の整備していたので、歩きながら土魔法で平らにする。

 荷運びが出来るようになったと叫ばれた。


 ガインさんが目を丸くし、私に向かって歩いて来る。


 私は構わず足を止め、水魔法で(くすぶ)る残り火を一気に消した。

 ずぶ濡れになったおじさんに、ありがとうと笑われた。


 多くの人が驚いて私を見ているが、もうそんなのどうでもいい。

 隣に来たガインさんも、後ろにいるハートさんも私を止めないし。


 徹夜明けでハイになった私は、手あたり次第に魔法を放った。

 あっという間に魔力が切れて、ハートさんに倒れ込んだ。


「限界です」


 ハートさんが頷き、馬車の中へと運んでくれる。

 馬車の扉が閉まると同時に、ハートさんが私を強く抱きしめた。


「もういい。よく頑張った」


 ははは。もう無理だ。


 緊張の糸が切れ、抑えていた気持ちがいっぺんに(あふ)れ出す。

 ハートさんの腕の中で、声を出して沢山泣いた。


 ガインさんは依頼達成の手続きをして戻って来ると、少し驚いて(あき)れて笑う。


「フフッ。よくやった」と軽く頭をポンポンしてくれた。

「うぅ。ガインさーん。私、言いつけ通り、頑張りましたぁー」


 ガインさんの顔を見て、ホッとしたらまた涙が流れ出る。


 解放感や達成感や安心感がぐちゃぐちゃで、自分でもなんで泣いているのか分からなくなってきた。


 子供みたいで恥ずかしいな。

 私ったら、なんにも変わってないし。



 私の聖女デビューは散々だった。


 この後は書類の山が残ってる。

 魔獣被害報告書の書き方を知ってて良かったよ。



 あやすようにポンポンされて、疲れてすぐに寝落ちした。


読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!

誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
幼子はわかる、悲しみでぐちゃぐちゃになるだろうさ でも大人は状況考えろカス、まだ治療待ってる人いるのわかるだろ
つらいことがあった時 自分を責める人と、自分以外の人を責める人がいるよね。 どちらも現実逃避だし、八つ当たりなんだけどさ。 他責思考の人ってじいちゃんになってもずっと他責思考だよね。 周りが悪い。…
[一言] やるせない 大人がとめないのは余裕が無いのもあるんでしょうけど、同じ気持ちの方もいるんでしょう
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