ガイン王都へ帰還
「今日からここがあなた達の住む家だ。彼の家はこの奥。後で案内するよ」
「おお。これは広い」「意外に綺麗ね」
この村の村長が、俺達を4LDKの2階建ての家に案内してくれる。
キリカの家も所帯を持った時の為にと、同じ大きさの家を用意してくれたらしい。
既に家具や生活用品も用意され、このまますぐに暮らせそうだ。
「農地も貰えると聞いていたが?」
俺がそう聞くと村長は大きく頷き案内をしてくれる。
後について歩いて行くと、想像よりはるかに広い土地を指差した。
「ここ全部ですか?」
「そうだ。そこの彼の土地は同じ広さで向こう側だ。ちょうど土地持ちの爺さんが引退をしてな。領主様が買い取ってくれたんだ」
村長は更に向こうの土地を差す。
これは随分と好待遇だな。
ここの領主は口が堅いと評判の、エヴァスの父親だと聞いてはいたが……。
「実験的な栽培方法だから、村の者達と情報を共有してくれ。これからよろしくな」
「何から何までありがとう。こちらこそよろしく」
村長はマリーの父親と固く握手をしていた。
うん。
これなら上手くやっていけそうだな。
「世話になった」「ありがとうございます」「寂しくなるよ」「またね。ハート」
なんとか山の麓の村までマリーの家族達を送り届け、教皇様からの依頼は完了した。
教会の計らいで家と農地と仕事が用意されている。
後はあの家族次第だ。
俺達は後の事は村長に任せ、馬を譲って貰い村を後にした。
いやー、きつかった。
俺以上にハートの方がきつかったと思うが。
リリーの教育を任せたばっかりに、かなり神経が削られたはずだ。
フェルネットがゆっくり歩く馬の上で「うーーん」と大きく伸びをする。
「今回は思ったより大変だったね。ハートさん」
「ああ。でもリリーは読み書きも覚えたし、癇癪を起こすことも随分減った。教皇様からの依頼は達成だ」
満足そうに頷くハートに向かって、フェルネットが親指を立てた。
ハートがあれだけ苦労して、我慢と努力のきっかけを作ってやったんだ。
維持してくれるといいんだが。
「ふたりとも、ご苦労だったな」
リリーは性格に難ありだが、キリカがいれば問題ないだろう。
あの娘、男を見る目だけはあって良かった。
両親も問題はあるが悪人ではない。子育てが絶望的に向かないだけだ。
まぁ、キリカとは上手くやっているようだし、何とかなるか。
「さて、マリーとテッドは、ランクを何処まで上げたかな」
「Dは絶対だね」「Eだったら合宿だ」
気持ちを切り替え笑って見せると、ふたりの固さがやっと取れる。
「帰るぞ! 最短ルートで山越えだ!」
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「「「ただいま」」」
「あ! おかえりなさい!!」
「おかえりなさい!」「無事か?」「疲れたろ、早く座れ」
すっかり季節は春になっちまった。
マリーとテッドが荷物を預かり「疲れたでしょう」と椅子に案内してくれた。
あっという間にお茶が出され、マリーが俺達に疲労回復魔法をかける。
「ああ、すまないな」「ありがとう」「わるいな」
なんだか夢を見ているみたいで、笑いが込み上げてきた。
やっと帰って来れたんだ。
「あー。いい香りのお茶だね」
「ハートさんの好きな香りですよ」
そう言いながらマリーが微笑み、そっとお茶菓子を差し出してくれる。
洗練された動きにこの仕草。
フェルネットもハートも俺も、そんなマリーを指先まで凝視してしまう。
なんだか違和感が凄いな。
同じ顔の筈なのに、確実に何かが違うんだ。
姿勢も仕草も、肌や髪も表情も何もかも。
目の前のマリーは、纏う空気すらリリーとは違う。
誰かに『お前たちは育て方を間違えていなかった』と、そう強く言って欲しい。
そんな気分だ。
「どうしたのですか? みんなで黙り込んで」
マリーが首を傾げ「ふふふ」と笑う。
ああ、本当に良い子に育って良かった。
「あ、いや。はは」「疲れたなって、ね? はは」「ああ、ホッとしただけだ」
俺達はしどろもどろになり、疲れた笑いで誤魔化した。
これじゃまるで挙動不審だな。
「そうだ! お前達ランクは?」
威厳、威厳と姿勢を正すと、マリーとテッドが二人で胸を張る。
なんだなんだ?
まさかこの短期間に本当にCランクか?
嬉しくなって顔がほころぶ。
「じゃーん。Bランクになりましたー」
「これがギルドカードです」
え?
「「「Bランク!!!?」」」
俺達は一斉にシドさんを見た。
「ああ、S級の魔獣を倒したんだ。2ランクアップした」
「えへへ、そうなのですよ」「はい」
シドさんがうんうんと機嫌よく頷き、爺さんは「すごいだろ」と孫自慢。
マリーとテッドは『パチパチパチ』と小さく拍手しながら喜んでいる。
ははは。ここはちっとも変わらないな。
「おいおい。私は何もしておらんぞ。はっはっはっ」
感慨深く見ていると、シドさんが怪しく笑いだす。
これは何かやったな。
テッドが苦笑いをしている。ははは。確定だ。
二人のギルドカードを確認し「予想以上だ」と力いっぱい頭を撫でて、思い切り褒めてやった。
それにしてもS級魔獣をたった二人で討伐とはな。
もうしばらく二人だけで組ませるかな。
ふと見ると、マリーのギルドカードに一角ウサギの角がぶら下がっている。
そうか、あれがあいつの初魔獣か。随分と可愛いサイズだな。
夕食は久しぶりの爺さんの手料理でお腹いっぱいに。
マリーが嬉しそうに、テッドに習った食後のお茶だと渡してくれた。
『師匠から、まだ合格点が貰えないのです』と笑っていたが、とても美味しかった。
「迷いが消えてなくなった」
なんとなく窓の外を眺めていると、ハートがグラス渡してくれる。
「そうか。良かったな」
これで、第三部 冒険者編は終了です。
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