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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第三章 冒険者編

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ガイン王都へ帰還

「今日からここがあなた達の住む家だ。彼の家はこの奥。後で案内するよ」

「おお。これは広い」「意外に綺麗ね」


 この村の村長が、俺達を4LDKの2階建ての家に案内してくれる。

 キリカの家も所帯を持った時の為にと、同じ大きさの家を用意してくれたらしい。


 既に家具や生活用品も用意され、このまますぐに暮らせそうだ。


「農地も貰えると聞いていたが?」


 俺がそう聞くと村長は大きく頷き案内をしてくれる。

 後について歩いて行くと、想像よりはるかに広い土地を指差した。


「ここ全部ですか?」

「そうだ。そこの彼の土地は同じ広さで向こう側だ。ちょうど土地持ちの爺さんが引退をしてな。領主様が買い取ってくれたんだ」


 村長は更に向こうの土地を差す。


 これは随分と好待遇だな。

 ここの領主は口が堅いと評判の、エヴァスの父親だと聞いてはいたが……。


「実験的な栽培方法だから、村の者達と情報を共有してくれ。これからよろしくな」

「何から何までありがとう。こちらこそよろしく」


 村長はマリーの父親と固く握手をしていた。


 うん。

 これなら上手くやっていけそうだな。


「世話になった」「ありがとうございます」「寂しくなるよ」「またね。ハート」


 なんとか山の(ふもと)の村までマリーの家族達を送り届け、教皇様からの依頼は完了した。


 教会の計らいで家と農地と仕事が用意されている。

 後はあの家族次第だ。


 俺達は後の事は村長に任せ、馬を譲って貰い村を後にした。



 いやー、きつかった。

 俺以上にハートの方がきつかったと思うが。

 リリーの教育を任せたばっかりに、かなり神経が削られたはずだ。


 フェルネットがゆっくり歩く馬の上で「うーーん」と大きく伸びをする。


「今回は思ったより大変だったね。ハートさん」

「ああ。でもリリーは読み書きも覚えたし、癇癪を起こすことも随分減った。教皇様からの依頼は達成だ」


 満足そうに頷くハートに向かって、フェルネットが親指を立てた。


 ハートがあれだけ苦労して、我慢と努力のきっかけを作ってやったんだ。

 維持してくれるといいんだが。


「ふたりとも、ご苦労だったな」


 リリーは性格に難ありだが、キリカがいれば問題ないだろう。

 あの娘、男を見る目だけはあって良かった。


 両親も問題はあるが悪人ではない。子育てが絶望的に向かないだけだ。

 まぁ、キリカとは上手くやっているようだし、何とかなるか。


「さて、マリーとテッドは、ランクを何処まで上げたかな」

「Dは絶対だね」「Eだったら合宿だ」


 気持ちを切り替え笑って見せると、ふたりの固さがやっと取れる。


「帰るぞ! 最短ルートで山越えだ!」



 ------


「「「ただいま」」」


「あ! おかえりなさい!!」


「おかえりなさい!」「無事か?」「疲れたろ、早く座れ」


 すっかり季節は春になっちまった。


 マリーとテッドが荷物を預かり「疲れたでしょう」と椅子に案内してくれた。

 あっという間にお茶が出され、マリーが俺達に疲労回復魔法をかける。


「ああ、すまないな」「ありがとう」「わるいな」


 なんだか夢を見ているみたいで、笑いが込み上げてきた。

 やっと帰って来れたんだ。


「あー。いい香りのお茶だね」

「ハートさんの好きな香りですよ」


 そう言いながらマリーが微笑み、そっとお茶菓子を差し出してくれる。

 洗練された動きにこの仕草。


 フェルネットもハートも俺も、そんなマリーを指先まで凝視してしまう。


 なんだか違和感が凄いな。

 同じ顔の筈なのに、確実に何かが違うんだ。


 姿勢も仕草も、肌や髪も表情も何もかも。

 目の前のマリーは、(まと)う空気すらリリーとは違う。


 誰かに『お前たちは育て方を間違えていなかった』と、そう強く言って欲しい。

 そんな気分だ。


「どうしたのですか? みんなで黙り込んで」


 マリーが首を(かし)げ「ふふふ」と笑う。

 ああ、本当に良い子に育って良かった。


「あ、いや。はは」「疲れたなって、ね? はは」「ああ、ホッとしただけだ」


 俺達はしどろもどろになり、疲れた笑いで誤魔化した。

 これじゃまるで挙動不審だな。


「そうだ! お前達ランクは?」


 威厳(いげん)威厳(いげん)と姿勢を正すと、マリーとテッドが二人で胸を張る。


 なんだなんだ?

 まさかこの短期間に本当にCランクか?


 嬉しくなって顔がほころぶ。


「じゃーん。Bランクになりましたー」

「これがギルドカードです」


 え?


「「「Bランク!!!?」」」


 俺達は一斉にシドさんを見た。


「ああ、S級の魔獣を倒したんだ。2ランクアップした」

「えへへ、そうなのですよ」「はい」


 シドさんがうんうんと機嫌よく頷き、爺さんは「すごいだろ」と孫自慢。

 マリーとテッドは『パチパチパチ』と小さく拍手しながら喜んでいる。


 ははは。ここはちっとも変わらないな。



「おいおい。私は何もしておらんぞ。はっはっはっ」


 感慨深く見ていると、シドさんが(あや)しく笑いだす。


 これは何かやったな。

 テッドが苦笑いをしている。ははは。確定だ。


 二人のギルドカードを確認し「予想以上だ」と力いっぱい頭を撫でて、思い切り褒めてやった。


 それにしてもS級魔獣をたった二人で討伐とはな。

 もうしばらく二人だけで組ませるかな。


 ふと見ると、マリーのギルドカードに一角ウサギの(つの)がぶら下がっている。

 そうか、あれがあいつの初魔獣か。随分と可愛いサイズだな。


 夕食は久しぶりの爺さんの手料理でお腹いっぱいに。

 マリーが嬉しそうに、テッドに習った食後のお茶だと渡してくれた。


『師匠から、まだ合格点が貰えないのです』と笑っていたが、とても美味しかった。



「迷いが消えてなくなった」


 なんとなく窓の外を眺めていると、ハートがグラス渡してくれる。

 

「そうか。良かったな」



これで、第三部 冒険者編は終了です。

読んでいただきありがとうございました。


ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!

誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 改心……はしてないですよねー 三人ともが多少の罪悪感はあれど過ぎた事だと開き直ってるような? リリーの次なるやらかしは確定として、自分の罪を自覚できるようなざまぁをしてもらいたいですな。
[一言] 聖女に相応しい家族ではありませんでしたな。
[良い点] 第三部の完結お疲れさまでした。 [気になる点] 『癇癪の癖も無くなった』 癇癪は本人の『性質』であって『癖』では無いです。 『癇癪を起こすことも随分減った』もしくは『癇癪を起こすこともほ…
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