始めての町
ホワン、ぴしゃ。
「あ」
「ほらほら、回復魔法の反対の手がおろそかになってるぞ」
今日からは片手に水の玉を持ったまま、反対の手で回復魔法だって。
しかしすぐに失敗して、水の玉が弾け飛ぶ。
「師匠は回復しすぎて、私より長生きしそうですね」
さんざん私に回復させられてる師匠は、きっと擦り傷一つない。
ピシっとデコピンされたので、自分に回復魔法をかけた。
それにしても濡れた手に、秋風は冷たく感じる。
ホワン、ぴしゃ。
「あ」
「光魔法は適性があるから、扱いやすいはずなんだけどな」
『ほらほら風邪ひくぞ』と私の手を拭きながら、ガインさんが首をかしげて師匠と話す。
「うーむ。扱いやすさが違うから、逆に大変なのかもしれんな」
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「おーい。そろそろ街につくぞ。ハートはマリーの護衛につけ。お前らは少し観光して後から来い。シドさん達は買い出し、俺は冒険者ギルドで素材の売却など行う。ギルド長と話もあるから先に行く。各自終わったら冒険者ギルドに集合な」
荷馬車の後ろに座ってる私を、ハートさんが抱き上げる。
毛布で包んで貰って暖かい。
見た目は護衛というより休日のパパさんだ。
抱っこされたまま検問の列に並ぶと、旅人や冒険者っぽい人が殆どだった。
行商人の方が多いのかと思ったけど、山の麓の町だしそんなものなのかな。
でもこの旅で最初に訪れた記念すべき町だ。
今までもいくつかの村や町があったけれど、全部迂回してきた。
私のような小さな女の子は誘拐されやすいので、下手に目をつけられたら面倒だから、知り合いのいる治安の安定した町までは、どこにも立ち寄らないって言っていた。
ガインさんがそう言うのなら、そうなのだろう。
でもわくわくしちゃう。
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「ステータスはフルで出しちゃだめだよ」
「はい」
「ステータス “フル” オープン」は加護まで表示されちゃうけど「ステータスオープン」なら出ない。
犯罪履歴とかは出ちゃうらしい。
気を付けなければ。
「後ろの方はステータスか、この町の冒険者カードを用意して待っていてくださーい」
門番の人が列に向かって叫んでいる。
大変な仕事だ。
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ガイン 男 28歳 火適性
Lv.288
S級冒険者「黒龍」所属
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シド 男 42歳 水適性
Lv.462
S級冒険者「黒龍」所属
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ハート 男 18歳 風適性
Lv.136
S級冒険者「黒龍」所属
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フェルネット 男 15歳 闇適性
Lv.95
S級冒険者「黒龍」所属
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マリー 女 5歳 光適性
Lv.28
S級冒険者「黒龍」所属
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「これは! S級冒険者の黒龍様ですか。この町にはどのような用件で?」
「物資の仕入れと冒険者ギルドでの素材の売却だ。こいつらは俺の仲間で、あれはあいつの娘だ。一泊したら町を出る」
どうせ犯罪履歴しか見ないと言ってたけれど、本当にその通りで、光適性はあっさりスルーされた。
あー、ドキドキする。
止めてた息を一気に吐いた。
一番混んでる時間帯を選んだガインさんは流石だね。
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